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鹿児島地方裁判所 昭和44年(行ウ)2号 判決 1970年2月23日

原告 椎原武法

被告 鹿児島刑務所長

訴訟代理人 上野国夫 外七名

主文

一  原告の訴はいずれも、これを却下する。

一  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の申立

(1)  原告

一、(イ) 主たる請求

被告が原告に対し昭和四三年七月一六日及び同年八月一四日になした軽屏禁処分、昭和四四年一月三〇日になした訓戒並びに同月三一日になした厳正独居処分はいずれも無効であることを確認する。

(ロ) 予備的請求

右各行政処分は、いずれもこれを取消す。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

(2)  被告

一、本案前

主文同旨の判決。

二、本案につき

原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。

第二原告の主たる請求および予備的請求の原因

(一)  原告は鹿児島刑務所に受刑者として服役中の者であるが、(1) 被告は原告に対し昭和四三年七月一六日、原告が同年六月頃ナイフを隠匿所持していたとして、一〇日間の、(2) 同年八月一四日、原告が同月九日同じく受刑者として服役中の久野光次との闇に密書の授受を行つたとして七日間の、軽屏禁にそれぞれ処し、更に、(3) 昭和四四年一月三〇日、原告が同年一月一八日頃不法物品の作成したとして訓戒処分に、(4) 同月三一日、右不法物品の作成に関連して刑務所職員に暴言をはいたとして厳止独居拘禁の処分(監獄法施行規則第四七条に基づく。)にし、右処分はそれぞれ直ちに執行された。

しかし被告の原告に対する右処分は何らの根拠のないものであるから、無効であるが、仮りにそうでないとしても違法行為として取消さるべきである。即ち

(イ)  ((1) の処分について)原告は他の収容受刑者と共に鹿児島刑務所第一雑居舎一四房で寝起している者であるが、昭和四三年六月上旬頃、同房の床板の枠桟とコンクリート壁との隙間に規則に反するナイフを見付けた。原告はこのことを被告に届出はしなかつたもののその数日後毎日の舎房検査の際被告側職員に引き揚げてもらおうと考え、朝出業の際そのナイフを床板の上に取り出して置いた。しかし還房してみるとそのナイフは舎房検査で引き揚げられずにそのままであつた。更にまた翌日同じことを繰り返したが徒労に帰したので、原告はその所在を知らせるべく、そのナイフの置いてある場所に鉛筆で丸印を付けておいた。その後右ナイフは発見出来なくなつたが、同年七月三日頃、被告職員が同房から発見した。原告は同房の一人として取調べを受けた際、右のような事情を述べたが、結局ナイフを隠匿所持したとして右(1) のような処分を受けた。しかし、右に述べた如く、右ナイフは原告自身の物でもなかつた。もつとも原告は、数日間に亘つて右ナイフを取扱いはしたがそれは右に述べた如く被告側職員に引揚げてもらうためのものであり原告が隠匿所持したというものでもないのであるから、被告の原告に対する右処分は理由がない。

(ロ)  ((2) の処分について)原告は被告の右(1) の処分につき不服だつたのでこれに対し監獄法に基づく情願請求をなすべくその宛先等につき、同じく収容受刑者の久野光次に対し、尋ねていた処同年八月九日運動のため屋外運動場に出て整列した際、同人がその旨を記載した塵紙を折りたたんで原告に渡した。そのことが被告側職員にみつかり、結局原告は右久野との間に密書の授受を行つたとして前記(2) のような処分を受けた。しかし原告は右久野から右塵紙を受取つた際、単なる塵紙と思つて受取つたものであり、被告がいうように密書の授受には当らないものである。

(ハ)  ((3) (4) の処分について)原告は収容受刑者として鹿児島刑務所の木工場に於てロクロ機と角ノミ機の作業に従事していたものであるが、昭和四四年一月一八日、ロクロ機で削る品目ごとに名札を掲げて置こうと考え、以前屑箱の中から拾つてきていた木札四枚の表面にその品名を書き込むべくペーパーを掛けていた。右は被告の許可は受けていなかつたものの、作業上の便宜のため原告の創意に基づくものであつた。その際同じく収容受刑者増野茂が原告の所へやつてきて「お前何をつくつているのか。」「おやじ(被告側職員、岡崎看守のこと)が、何を作つているのかみてこい、と言つたぞ。」と言つたことから同人との間に口論となつた。そこへ右看守がやつてきたので、原告は「私は今これを摩いていたのですがあなたは私が何をしとるか見て来い、と増野に言われたのですか。」と尋ねたことから、右看守との間に更に口論となつた。原告は右名札を作成しようとしたことが不法物品を作成したとして同月三〇日訓戒処分になり、更に看守と口論したことが看守に暴言を吐いたとして同月三一日厳止独居処分に付された。しかし原告の右名札作成は何ら不法物品の作成などと言われるものでなく、更にこのことが原因となり看守と口論するようになつたのも、偶々自分の立場を釈明しようとした迄のことであり、暴言などいわれるものではない。

(ニ)  以上のとおり被告処分は何ら根拠のないもので当然無効であるが、仮にそうでないとしても取消しうべき違法行為である。よつて原告は被告に対し主たる請求として、前記各行政処分の無効確認を求め、予備的にその取消を求める。

第三被告の主張

(一)  本案前の抗弁

(イ)  本件各無効確認の訴えは不適法である。

即ち、原告の主張する処分はいずれも執行が終了しており、且つこれに続く処分により原告に損害を与えるおそれはなく、また、原告は過去の処分について、その無効の確認を求めることについて何ら法律上の利益を有するものではない。

(ロ)  本件訴のうち、昭和四三年七月一六日、並びに同年八月一四日の軽解禁処分について

(a) 処分取消しの訴えは、処分があつたことを知つた日から一ケ月以内に提起しなければならないが、右処分は前記日時に原告に告知して即時執行したものである。従つて、右日時から三ケ月以上経過して提起された右処分に対する取消の訴えはいずれも不適法である。

(b) 更に処分取消の訴えは取消を求めるにつき法律上の利益を有する者でなければならないが、右二個の処分は既にその執行を終つており、現段階においてこれが取消しを求めるには何らの法律上の利益を有しないものである。

(ハ)  昭和四四年一月三〇日の訓戒処分について

訓戒はこれを受けた者の権利ないし法律上の地位に影響を及ぼすような行政処分ではないから抗告訴訟の対象にはならないものである。

(二)  本案につき請求原因に対する認否原告の請求原因(一)の事実中、原告が鹿児島刑務所に受刑者として服役中の者なること、原告主張の(1) (2) (3) (4) の処分を被告がなし、直ちに執行した事実は認める。同(イ)の事実中、原告が自分が寝起している第一雑居舎一四房内から規則違反のナイフをみつけ、これを被告に届出ないまま数日間に亘りこれを扱つた事実は認め、その余の事実は不知、同(ロ)の事実中、原告が、その主張する日時場所において久野光次から文面の記載ある塵紙を受取つたこと、そのことが被告側職員にみつかつた事実は認める。その余の事実は不知。同(ハ)の事実中、原告が鹿児島刑務所木工場に於てロクロ機と角ノミ機の作業に従事中、昭和四四年一月一八日頃、被告の許可なくして原告がその主張するような物を作成したこと、そのことから増野茂、更には被告側職員、岡崎看守との間に口論となつた事実は認める、その余の事実は否認する。

第四被告の本案前の抗弁に対する原告の主張

(イ)  被告が主張するように本件各処分はその執行を終了しているものであるが、しかし原告は本件各処分を受けたことにより行刑累進処遇令によるところの所得点数に影響を受け進級が停滞し、更には厳正独居拘禁中は作業の種類も異なり、作業上の償与金にも影響を及ぼすなど、法律上の不利益を被つているのであるから、原告は本件各行政処分の無効確認、あるいは取消しにつき訴の利益を有するものである。

(ロ)  被告は、被告の昭和四三年七月一六日並びに同年八月一四日の軽屏禁処分の取消は三ケ月以上の期間を経過してなされたものであるから不適法である旨主張する。

しかし原告は右各処分につき、昭和四三年九月五日、監獄法第七条の情願の申立をなしたところ、同四四年一月二四日情願却下の処分を受けた。

右情願の申立は行政不服審査法にいう審査請求に該当するというべきであるから、右三ケ月の期間は、原告が情願却下の処分を受けた日から起算すべきである。仮りに右情願の申立が同法の審査請求に当らないとしても、原告は、被告のかかる処分に対してはまず情願による審査を経なければ出訴出来ないということを教示されていた。即ち、原告は現在、服役するようになつた刑事被告事件の審理中宮崎刑務所都城拘置支所に勾留されていたがその折、原告の右刑事被告事件の審理に影響を及ぼすべき事件が三件発生した。そこで右事件につき裁判所に出訴しようとした際、同拘置支所長から、かかる場合は監獄法第七条に基づく情願の申立をしない限り裁判所に出訴出来ないものである、と教示された。

従つてかかる場合は行政庁が誤つて審査請求ができる旨を教示した場合に該当するというべきであるから、右三ケ月の期間は原告が情願却下の処分を受けた日、即ち昭和四四年一月二四日から起算すべきである。

理由

まず、被告の本案前の抗弁について判断する。

原告の請求原因(一)の事実中、原告が鹿児島刑務所に受刑者として服役中の者なること、並びに(1) 、(2) 、(3) 、(4) の各処分がなされ、それぞれ直ちに執行された事実は当事者間に争いがなく、更に右処分はいずれもその執行を終了していることもまた争いがない。

(一)  そこで、まず原告の無効確認を求める本件各訴についてみると、これらはすべて過去の処分につきその確認を求めるもので、他に特段の事情がない限りいずれも法律上の利益を有するものとはいい難い。原告はこの点に関する反駁として行刑累進処遇令による進級の停滞ないし作業上の償与金への影響を挙げて本件各処分の執行終了後といえども、本件各訴えにつき原告は法律上の利益を有する旨主張するけれども、

(1)  行刑累進処遇令第二一条によれば、刑務所における受刑者の階級の累進は作業の勉否及び其の成績、操行の良否、責任観念及び意志の強弱等を考査の上決定されることが明らかで、懲罰それ自体により即時または続いて不利益な処遇上の処分がなされる訳ではない。しかも監獄法令およびこの制度の趣旨、目的に照せばその処遇の如何は、法令の範囲内で被告刑務所長の自由裁量に委ねられているというべきであるから、たとえ懲罰を受けたからといつて、そのことのみを捉えて、直ちに累進処遇上不利益を受ける原因となるということを得ない。そればかりでなく、服役者は刑務所長に対し累進処遇上、ある一定の階級につき自己を有利に取扱うよう請求しうる法律上の地位を有するものではないのでこの点の主張は、右いずれの点からみてもとうてい本件各訴につき法律上の利益を認める事由とはなし難い。

(2)  つぎに作業上の償与金についても、監獄法令の各規定の趣旨によると受刑者に対し如何なる作業を課すかは、これまた前と同様刑務所長の自由裁量に属するし、もともと受刑者は刑務所長に対し、有利な償与金を受ける作業につかせることを請求しうる法律上の地位にはないのであるから、偶々懲罰を受けたりして事実上作業上の償与金につき不利益を受ける結果があつたからといつて、これをもつても、また直ちに原告に本件各訴につき法律上の利益を認める事由があるとはなし難い。

(3)  そうして、本件各処分に続く処分により、原告が損害を受ける者に該当することの具体的主張立証はない。

以上のとおりであるから、結局本件各無効確認の訴については原告適格を欠く違法を免かれない。(行政事件訴訟法第三六条)

(二)  そうして前段判示によつても明らかな如く、原告の予備的請求の訴についても、また訴の利益をそれぞれ欠くことが明白で、これらもまた不適法を免かれない。

よつて、原告の本件訴はいずれも不適法として却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 松本敏男 吉野衛 松尾家臣)

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