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鹿児島地方裁判所 昭和41年(行ウ)3号 判決 1967年10月12日

原告 北元石油合名会社訴訟承継人 北元石油株式会社

被告 鹿児島税務署長

訴訟代理人 斉藤健 外三名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、原告訴訟代理人は、「北元石油合名会社の昭和三八年一一月一日から昭和三九年一〇月三一日までの事業年度分につき、被告が昭和四〇年六月三〇日付法人税額等の更正および加算税の賦課決定をもつて、申告にかかる法人税額を更正し、過少申告加算税を賦課した処分を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、次のとおり述べた。

一、北元石油合名会社(以下「北元合名会社」と略称する。)は、石油その他の油類および各種塗料等の販売を業とする法人であつたが、昭和四一年八月三一日鹿児島シエル石油株式会社に吸収合併され、同株式会社は同日商号を北元石油株式会社(原告)に変更した。

二、これより、さき、被告は、北元合名会社の昭和三八年一一月一日から昭和三九年一〇月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)分の法人税について、昭和四〇年六月三〇日付で、左記のとおり、青色申告書による確定申告にかかる税額を更正し、かつ、過少申告加算税を賦課する決定(以下「本件更正処分」という。)をし、同年七月三日その旨北元合名会社に通知した。

(摘要)         (申告金額)    (更正金額)

所得金額        七万二、七二三円 九一〇万一、九六一円

所得に対する税額    一万七、四四八円 三二四万四、六九九円

留保所得金額      なし        六〇万八、六〇〇円

留保所得に対する税額  なし         六万〇、八六〇円

法人税額        一万七、四四〇円 三三〇万五、五五〇円

差引法人税額      一万七、四四〇円 三三〇万五、五五〇円

既に納付の確定した税額            一万七、四四〇円

納付すべき税額     一万七、四四〇円 三二八万八、一一〇円

過少申告加算税               一六万四、四〇〇円

三、北元合名会社は、本件更正処分を不服として昭和四〇年七月二七日熊本国税局長に審査の請求をしたところ、同局長は昭和四一年二月七日右請求を棄却する旨の裁決をし、その通知書は同月一〇日北元合名会社に到達した。

四、被告が本件更正処分をした理由は、北元合名会社備えつけの帳簿書類を調査した結果、申告にかかる所得金額等に計算の誤りがあつたので、次のとおり申告所得金額等に加算および減算して更正した、というにある。

(加算金額)

1 雑収入もれ          一九万二、五八〇円

2 退職金否認          三五万四、八〇〇円

3 受取利息            九万五、九六九円

4 固定資産売却益        二〇万〇、〇〇〇円

5 減価償却超過          一万八、八一七円

6 前払保険料           三万七、五〇五円

7 罰金加算もれ          一万〇、〇〇〇円

8 旅費否認(社長欧州旅費外) 一一四万〇、六七〇円

9 特別勘定繰入過大      七一三万三、四〇〇円

法人税額の還付金等二表減算過大    一万三、六四〇円

交際費の損金不算入もれ          四、六四〇円

(減算金額)

1 雑費             一六万八、九〇〇円

2 寄付金の損金不算入過大       三、八八三円

五、しかし、右加算金額中8「旅費否認」のうち社長欧州出張旅費一〇九万四、六七〇円は、北元合名会社の代表社員(以下本項五においては「社長」という。)であつた北元厳が、昭和三九年一〇月三日東京を出発し同月二七日帰国した日本経営者団体連盟(以下「日経連」と略称する。)主催の欧州視察団に参加してなした出張(以下「本件欧州旅行」という。)に要した費用であつて、右費用は以下述べるとおり北元合名会社の業務遂行上必要な費用であるから損金である。

(一)  本件欧州旅行の目的ないし必要性

(1) 北元合名会社は、鹿児島県下の石油業界では最も古く明治三八年から一貫してシエル石油の代理店として営業を続け、戦前は上海に支店を設けていたほどであり、戦後はその経営規模も一段と拡大したので、役員および従業員ともども再び企業の海外進出の希望に燃え、外国における石油スタンド経営の実態を直接見て学ぶ必要が生じていた。

(2) 北元合名会社では、その頃、給油所と本社社屋とを併合した建物の新築工事を企図していたが、右工事着手前に外国の石油スタンド経営の実態調査をして新しい感覚を導入するとともに、右工事の設計につきシエル石油ロンドン本社(以下単に「ロンドン本社」という。)の助言を得る必要があつた。

(3) 当時の石油業界においては、不当な販売競争の激化によつて市況が悪化し、赤字経営の挙句給油所を売りに出す業者が続出している実情であつたので業界の不況を乗り切るためにも、また貿易自由化に伴なう体質改善のためにも、外国の石油スタンド経営の実情を直接見学する必要があつた。

(4) ところで、前記日経連主催による欧州視察団の欧州内における旅行は一切バスを使用し、かつ、バスの給油はシエルの石油スタンドで行なうことに限定されたため、欧州各地の石油スタンド経営の見学に好都合であること、また右視察団には鹿児島市内から北元合名会社の有力な得意先が多数参加することがわかつたので、この機会を利用してロンドン本社にこれら得意先を招待し、もつて認識を深めさせて将来の固定客としての基盤を築くのに絶好の機会であること、の各事情があつたうえに、北元合名会社独自にでも欧州出張を企図していたところへ、右日経連主催欧州視察団に参加し、これに便乗して出張の目的を果すことにより経費を節減できるという利点があつた。

(5) そこで、北元合名会社では、昭和三九年八月一三日臨時社員総会を開き、全員一致で社長の右視察団参加による欧州出張を可決したので、社長北元厳は右決議に基づいて出張することになり、まずシエル石油東京本社に三日間滞在し、同社職員とロンドン本社での協議事項について打合わせたうえ、右視察団に参加して欧州へ旅立つた。

(二)  旅行中の北元厳の活動 社長北元は、欧州各地において、石油スタンドの写真撮影による資料収集に努め、かつ、ロンドン本社社屋内においてアジア担当係員サイキ・トムソン氏と協議し、同氏から前記新築工事に関し、殊に社屋及び給油所新築工事の設計につき図面変更の指示を受けたりした。

(三)  本件欧州旅行の成果 (イ)前記撮影収集にかかる外国の石油スタンド写真集の映写会をシエル石油株式会社後援のもとに実施したところ、北元合名会社の全従業員が、それら外国の石油スタンドの経営態度に大いに啓発され、その結果従業員の給油の際の応接態度等が見違えるほど改善されて得意先の好評を得、そのため営業成績が一段と伸びるに至つた。(ロ)前記トムソン氏の指示により、欠陥を知られないままであつた従来の日本の洗車場の設置方法の根本的改善と給油に来た運転手に明るい感じを与える工夫とをはかつた工事計画をたてなおし、社長出張前に作つていた設計を変更してそのとおり実施し、これによつて利用客に好評を博している。(ハ)そのほか、右出張によつて広く海外に視野をひろめた社長北元が、帰国早々以来しばしば会社の幹部会を司会し、かつ、自ら現場を巡視し、視察出張によつて得た見聞知識を活用して従業員を指揮するに至つたため、会社の業績が一段と上昇してきた。

(四)  本件欧州旅行の旅費は、北元合名会社の海外出張旅費規程に則つて北元厳に支給された。

(五)  被告主張事実中本件事業年度の所得額および前記四の8計上の旅費否認の加算額のうち社長欧州出張旅費一〇九万四、六七〇円の部分は争う。その他の加算減算部分は被告主張のとおり申告額との相違があつたことは認める。しかし本件更正処分には本件事業年度における北元合名会社の損金である右旅費を否認して所得額を算定した違法があるから、その取消を求める。

第二、被告指定代理人は、主文と同旨の判決を求め、請求原因に対する答弁として、「請求原因一記載の事実中北元合名会社が石油その他の油類および各種塗料等の販売を業とする会社であつたことならびに請求原因二ないし四記載の各事実は認める。請求原因五記載の事実のうち、社長欧州出張旅費一〇九万四、六七〇円が北元合名会社の代表社員であつた北元厳の本件欧州旅行に要した費用であることは認めるが、その他の主張事実は争う。」と述べ、被告の主張事実として、次のとおり述べた。

一、北元合名会社の本件事業年度における所得金額は、調査の結果申告額に誤りがあつたので、本件更正処分に際して、原告主張どおり加算、減算をした。従つて、その所得額は九一〇万一、九六一円である。

二、本件欧州旅行は、その目的および成果などからみて、役員である北元厳個人の観光のための旅行であつて、北元合名会社の業務上必要な出張旅行ではなかつた。したがつて、右旅行に要した費用は北元厳個人が負担すべきものであるところ、これを北元合名会社が販売費および一般管理費として経理したにせよ、その実質は役員個人の負担すべき費用を会社が支出したものであつて、かくれたる役員賞与と認むべきであり、右支出は、まさしく利益処分であつて損金には該当しない。

三、なお北元合名会社の出資金の総額は六〇〇万円であるところ、その代表社員北元厳はそのうち三三四万円を出資しているから、北元合名会社は旧法人税法第七条の二第一項第一号によるいわゆる同族会社である。したがつて、前記のとおり、元来代表社員である北元厳が支出すべき旅費を北元合名会社が立替支出する行為は、会社の法人税の負担を減少させる結果となるので、旧法人税法第三〇条第一項によつてもこれを否認することができる。以上のとおりであるから、本件更正処分は適法であり、原告の主張は理由がない。

第三、(証拠省略)

理由

一、北元合名会社が石油その他油類および各種塗料等の販売を業とする会社で、本件事業年度の法人税について被告が昭和四〇年六月三〇日付で本件更正処分をなし、同年七月三日通知したこと、北元合名会社が本件更正処分を不服として昭和四〇年七月二七日熊本国税局長に審査の請求をしたところ、同局長が昭和四一年二月七日右請求を棄却する旨の裁決をし、その通知が同月一〇日北元合名会社に到達したこと、および、本件更正処分の根拠として被告の示した理由が請求原因四で原告の主張するとおりであり、うち、加算項目「旅費否認」の金額中一〇九万四、六七〇円の部分を除き、その他の加算および減算の金額が被告主張のとおりであること、の各事実は当事者間に争いがない。

二、従つて、本訴における唯一の争点は、被告が本件欧州旅行の旅費一〇九万四、六七〇円を所得算定上益金の処分として算定したけれども、果してそれが同会社の業務遂行上必要な費用であつて損金として計上すべき性質のものであつたか否かに在る。よつてこの点について判断する。

(一)  いずれも成立に争いのない乙第一ないし第九号証によれば、

(1)  本件欧州旅行につき、北元巖は昭和三九年八月一一日鹿児島県知事に旅券発給の申請をしたが、その渡航目的は観光となつていること

(2)  本件欧州旅行に関する欧州視察団編成要項によれば、旅行目的は、「欧州における主要都市の経営者団体、会社等を訪問し、経営管理の実際を視察調査するとともに、各国経営者との親善を深める。」というにあるけれども、右の目的自体が一般的内容を有するのみならず、予定された旅程表および実施された旅行の経過をみると、昭和三九年一〇月三日航空機で東京を出発してから、順次スイス、イギリス、フランス、ベルギー、オランダ、西ドイツ、オーストリア、イタリアの各国を経廻り、同月二六日スイスのチユーリツヒから帰国の途に就いたが、右各国旅行中視察団は各地の有名な観光地に宿泊しまたはこれを通過し、旅行の全過程に近い大部分が観光に費されていること

もつとも、道路など交通状況、国民所得、消費者物価、労使関係などについて一部調査した事実もうかがわれるが、これらはいずれも政治、経済、文化面の一般的な国民生活の状況に関するものであること

の各事実が認められる。従つて以上の事実からすれば、北元合名会社の業務上、特にかかる観光旅行の形式等をとらざるを得なかつた如き特段の事情のない限り、本件欧州旅行は、やはり慰労その他主として観光のための旅行であつたと推認するのが相当である。

(二)  それで、これを原告の主張事実についてさらに検討すると証人藤井博海の証言によつて真正に成立したものと認められる甲第一、二号証、原告代表者北元巖の供述によつて原本の存在およびその成立の真正を認めうる甲第三号証ならびに証人藤井博海、同東郷重志、同五嶋正信、同岩元正義の各証言および原告代表者尋問の結果によれば、なるほど

(1)  北元合名会社がその前身時代を通算して明治以来六〇数年の石油販売業歴を有し、昭和一〇年一一月からシエル石油株式会社の特約店として営業を続け、戦前上海に支店を設けていたこと

(2)  北元合名会社において、南林寺給油所が電電公社に買収されたため、昭和三九年六月頃経営合理化の面から給油所と会社社屋とを併合した建物の新築工事を企図していたこと

(3)  当時の石油業界が不況状態にあつたこと

(4)  本件欧州旅行のヨーロツパにおける交通機関が、スイスとイギリスの間およびイギリスとフランスの間を除いて、すべてバスであつたことおよびそれらバスの給油が大部分シエルの石油スタンドでなされたこと

(5)  北元合名会社においては昭和三九年八月一三日臨時社員総会を開いて、代表社員北元巖の本件欧州旅行の実行を全員一致で決議したこと、および北元巖が欧州へ出発する前三日間東京に滞在して、シエル石油株式会社東京本社職員から、ロンドン本社で質問すべき事項を聞いたり、ロンドン本社あての紹介状をもらつたりしたこと

(6)  北元巖が、ロンドン本社のサイキ・トムソンというアジア担当職員と会つて前記(2)の新築計画の参考にするため多数の欧州の石油スタンドを見学したい旨話したところ、トムソンが欧州各国別地図によつて、参考となるべき石油スタンドの所在箇所を示し、さらに参考文献を北元巖に与えたこと、(しかしその文献は紛失したこと)、北元巖が欧州旅行中バスのコースにあつた各地のシエルの石油スタンドを見学ないし写真撮影したり石油スタンド従業員らに石油の価額や一日の売上高を尋ねたりしたこと、および本件欧州旅行に鹿児島市内から三〇数名が参加し、その中に北元合名会社の得意先である五嶋塗料店の専務取締役五嶋正信、カクイわた株式会社の専務取締役岩元正義および久永度量衡株式会社の久永泰が含まれていて、右三名は北元巖とともにロンドン本社を訪問したこと

(7)  本件欧州旅行から帰国したのち、北元巖が会社関係者に旅行の模様を報告し、前記撮影にかかる写真の映写会を実施したこと、および北元合名会社が給油所の階上に会社事務所を併設した建物を建築し、洗車場に屋根を設けたこと

の各事実はこれを認めることができない訳ではない。

(三)  しかしながら、反面において、

(1)  北元合名会社内部において企業の海外進出の希望をいだいていたとしても、その計画の具体性についてはこれを認めるに足りる何らの証拠もなく、

(2)  給油所兼社屋新築工事については、証人東郷重志の証言および原告代表者の供述によつても格別右新築の設計につきシエル石油株式会社東京本社での調査で足らず、さらにロンドン本社の直接の助言が必要であつたことや、ロンドン本社の助言によつて工事設計を変更したという事実も、これを認めるべき証拠はない。

(3)  また、本件欧州旅行に鹿児島市内から参加した三〇数名の中に、前記(二)の(6)で認定した三名以外にさらに北元合名会社の有力な得意先が含まれていることも、多数の顧客をロンドン本社に招待する必要があつたこと、ないしその具体的計画がたてられて実行された如き、主張の諸事実はいずれもこれを認めるに足りる証拠はない。

(四)  従つて以上(二)および(三)の諸点を総合すると、北元巖のロンドン本社訪問および同社職員との会話、ならびに石油スタンドの見学ないし写真撮影は、北元合名会社の業務と無関係ではないとしても、これらは前記認定の観光旅行にいわば付随してなされたものとみるのが相当で、彼此対照すれば前記(二)の各事実をもつてしても、とうてい本件欧州旅行の主たる目的が観光にあつたとする前記認定を動かすに足りない。

三、してみれば、本件欧州旅行に要した費用は、たとい会社の旅費規程に基づいて北元巖に支給されたとしても、法人税法上においては北元合名会社の業務遂行上必要な費用ではないから損金に該当せず、右支給は役員に対するかくれた賞与として利益金の処分に該当するものといわなければならない。したがつて、右旅費の損金算入を否認してなした本件更正処分には何ら取消すべき違法はない。

よつて、原告の本訴請求は理由がないからこれを失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 松本敏男 吉野衛 久保園忍)

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