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鹿児島地方裁判所 平成8年(わ)288号 判決 1997年7月30日

被告人

氏名

関孝成

年齢

昭和一三年二月二八日生

本籍

福岡市博多区博多駅南三丁目六七番地

住居

同市南区長丘二丁目一八番一-三〇七号

職業

企業コンサルタント

検察官

中尾英明

原山和高

弁護人

森統一(私選、主任)

大脇通孝(私選)

主文

被告人を懲役一年六月に処する。

この裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予する。

理由

(犯罪事実)

被告人は、平成六年八月ころ、知人を介して知り合った天本静夫から、夢工房サンコー有限会社の会長で全国同和連合会会長を自称する濵畑康正、高原博喜らを紹介され、平成七年三月ころ、高原から、同和団体の力を背景にいわゆる脱税請負などの不正行為を行っていた濵畑らのために、脱税などに用いるための内容虚偽の書類を作成するよう依頼を受け、報酬目当てにこれを承諾し、濵畑らの指示に従って内容虚偽の書類を作成していたものであるが、

第一  柏木カズ子、柏木 謙作、濵畑康正、高原博喜、奥薗道明及び舛田英二と共謀の上、柏木カズ子がその所有する土地を売却譲渡したことに関し、右譲渡にかかる同人の所得税を免れることを企て、同人の実際の平成七年分の分離課税における長期譲渡所得金額が六二三二万六一七六円で、これに対する所得税額は一六五三万三八〇〇円であったにもかかわらず、分離長期譲渡所得の計算において、柏木カズ子が右高原に対する六二〇〇万円の保証債務を履行したが、その求償が不能になったかのごとく仮装して所得を秘匿した上、平成八年三月一四日、鹿児島市易居町一番六号所在の所轄鹿児島税務署において、同税務署長に対し、分離課税における長期譲渡所得金額が三二万六一七六円で、これに対する所得税額は零円である旨の虚偽の所得税の確定申告書を提出し、もって不正の行為により、右譲渡にかかる正規の所得税額一六五三万三八〇〇円全額を免れた。

第二  土橋文枝の長男として、同人から、その財産管理・税務申告等を委任されていた分離前の相被告人土橋由幸、同濵畑康正、同高原博喜、同御手洗光一及び同舛田英二らと共謀の上、土橋文枝が、その所有する土地を売却譲渡したことに関し、右譲渡にかかる同人の所得税を免れることを企て、同人の平成七年分の実際の総合課税の所得金額が五六二四万三八九五円で、分離課税による長期譲渡所得金額が二億五七五五万九〇九〇円であったにもかかわらず、分離長期譲渡所得の計算において、土橋文枝が右高原に対する三億九〇〇〇万円の保証債務を履行したが、その求償が不能になったかのごとく仮装して所得を秘匿した上、平成八年三月一五日、広島県廿日市市桜尾二丁目一番二六号所在の所轄廿日市税務署長に対し、総合課税の所得金額が五六二四万三八九五円で、分離課税による長期譲渡所得金額が一億三〇四四万〇九一〇円の損失であり、平成七年分の所得税額が二一七五万九五〇〇円である旨の虚偽の所得税の確定申告書を郵送して提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額九七〇二万七二〇〇円と右申告税額との差額七五二六万七七〇〇円を免れた。

(証拠)

括弧内の番号は検察官請求の証拠等関係カード記載の番号を示す。

判示事実全部について

一  被告人の公判供述

判示第一の事実について

一  被告人の検察官調書謄本(乙一ないし四)

一  柏木カズ子(甲七)、柏木謙作(甲八ないし一〇)、奥薗道明(甲一一ないし一四)、高原博喜(甲一五ないし一九)、舛田英二(甲二〇、二一)、木場英幸(甲二二)、武末昌秀(甲二三)及び鬼丸義生(甲二四)の各検察官調書謄本

一  検証調書謄本(甲三ないし六)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書謄本(甲一)及び脱税額計算書説明資料謄本(甲二)

一  捜査報告書(甲二五)

判示第二の事実について

一  被告人の検察官調書謄本(乙六、七)

一  高原博喜(甲三一ないし三四)、木場英幸(甲三五、三六)、御手洗光一(甲三七ないし四一)、舛田英二(甲四二、四三)、土橋由幸(甲四四ないし四九)、重川忠男(甲五〇)、目良嘉明(甲五一)、塩田和則(甲五二)、坂口清孝(甲五三)、中嶋祐弘(甲五四)、河村治信(甲五五)、石原茂(甲五六)、中間信一(甲五七)及び高山裕三(甲五八)の各検察官調書謄本

一  検証調書謄本(甲二八ないし三〇)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書謄本(甲二六)及び脱税額計算書説明資料謄本(甲二七)

一  電話聴取書(甲五九)

(法令の適用)

罰条

判示第一の行為につき 刑法六〇条、六五条一項、所得税法二三八条一項

判示第二の行為につき 刑法六〇条、六五条一項、所得税法二三八条一項、二四四条一項

刑種の選択 いずれも懲役刑を選択

併合罪の加重 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重)

刑の執行猶予 刑法二五条一項

(量刑の理由)

本件は、被告人が、いわゆる脱税請負グループを組織し全国同和連合会会長を自称する濵畑康正やその配下の者及び納税義務者である柏木カズ子らと共謀し、架空保証債務を計上し、これを履行したが、その求償が不能になった旨の虚偽の所得税確定申告をし、一六〇〇万円余りの所得税を免れ(判示第一の犯行)、さらに、濵畑やその配下の者及び納税義務者土橋文枝の長男で、同人から、その財産管理・税務申告等を委任されていた土橋由幸らと共謀し、右と同様の方法により、七五〇〇万円余りの所得税を免れた(判示第二の犯行)という悪質な組織的犯行である。本件各犯行は、ほ脱額が合計九一八〇万一五〇〇円と高額である上、ほ脱率も極めて高く、さらにその犯行態様も、右虚偽申告の裏付け証拠を作成する目的で、虚偽の金銭消費貸借契約書を作成した上、起訴前の和解の手続を悪用して和解を成立させ、あらかじめ高原に開設させておいた高原名義の銀行口座に納税義務者から金員を振込入金させて、納税義務者が右和解結果に基づいて保証債務を履行したかのごとく仮装するなど巧妙で悪質である。被告人は、報酬目当てに本件各犯行に関与したもので、その利欲的な犯行動機に酌量の余地はなく、また、本件各犯行において、脱税工作の要となる書類である虚偽の金銭消費貸借契約書を作成したのみならず、濱畑らに対して、弁護士に依頼して起訴前の和解の手続を利用するという脱税の手口を提案するなど積極的に加担し、その結果、本件により二〇〇万円の報酬を得ているのであって、以上の諸事情を併せ考えると、被告人の刑事責任は重いというべきである。

しかしながら、被告人は、脱税請負グループの中では相対的に低い地位に留まっている上、同グループに関与した期間は約四か月間と短く、本件発覚前の平成七年七月ころにはすでに濱畑らとの関係を断っていること、被告人には前科前歴はないこと、被告人は、事実を素直に認めて本件を深く反省しており、一〇〇万円を贖罪寄付していることなど被告人のために酌むべき事情も認められるので、これらの事情を総合考慮して、被告人には主文の刑を科した上、今回に限り刑の執行を猶予することとした。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑・懲役一年六月)

(裁判長裁判官 山嵜和信 裁判官 牧真千子 裁判官 中桐圭一)

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