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鳥取家庭裁判所 昭和41年(家)68号 審判 1967年10月31日

申立人 藤木茂二(仮名)

被相続人 藤木元一(仮名)

主文

上記被相続人藤木元一所有の系譜、祭具及び墳墓の承継者を

本籍 鳥取県鳥取市今町○丁目○○番地

住所 同市川外大工町○○番地の○

藤木とし子

と指定する。

理由

第一、本件申立の要旨

一、上記被相続人藤木元一は、昭和三九年一〇月一七日死亡し、その妻藤木とし子、その子藤木正夫、同草野与志、

同河合春子および同申立人が相続人となつた。

二、被相続人元一は、生前、その婚姻が三回におよび、

1  その第一回は、大正八年五月八日、吉田文子と婚姻し、その間に上記草野与志、河合春子および申立人の子をもうけ、昭和一三年六月二八日右文子と協議離婚し、

2  第二回は、同年九月一〇日、原安と婚姻し、昭和三五年一〇月一九日、上記藤木正夫(上記藤木とし子との間の子)を養子とし、昭和三六年一月九日、安死亡後、昭和三八年四月六日、正夫を認知して届で、

3  第三回は、昭和三八年一二月三日、上記藤木とし子と婚姻した(正夫は元一の嫡出子たる身分を取得した)。

三、ところで、被相続人の祭祀財産を承継すべきものについては、被相続人の指定がないので、旧来の慣習により、元一の長男である申立人がなるべきところ、藤木とし子は、上記祭祀財産の承継を主張しこれを申立人に引渡さないので、祭祀財産の承継者の指定を求める。

第二、当裁判所の判断

一、本件記録添付の戸籍謄本、登記簿謄本及び調査の結果によれば、本件申立の要旨中一、二項の事実(被相続人の死亡、相続人の存在)、被相続人元一の祭祀財産として系譜(申立人保管中)、仏壇、位牌、木魚、鐘(藤木とし子保管中)、墳墓として墓石二三基および墓地一〇坪(鳥取市服部字津浪道○の○○○番の○所在、被相続人の祖母藤木まつ所有名義)のあること、被相続人は祖先の祭祀を主宰すべき者について、格別、指定をなさなかつたことが認められる。

二、ところで、被相続人が祭祀主宰者の指定をしていないとすれば、慣習によつて祭祀財産の承継者を決定すべきところ、旧法当時においては、家督相続人が承継者となるべきことと定められ、一般にも、約五〇年の長きにわたつてこれが継続したことは否定できないが、これは法律適用の結果であつて、これを現行法のもとでも、なお、慣習として是認することはいささか疑問であつて、現行法施行後にもなお、旧法当時と同様に、長男子において祭祀を主宰する習慣が鳥取地方において存在するかは明らかでない。そうだとすれば、祭祀財産の承継者を決定するに当つては、これが祖先の祭祀を主宰すべきものであることに鑑み、また、一方で現行民法親族編、相続編制定の趣旨に徴し、いたずらに、家制度の復活乃至家父長制度の維持助長となることを避けるべきであつて、被相続人との血縁関係、被相続人の意思、祭祀承継の意思及び能力、職業、生活状況その他一切の事情を斟酌することとなるが、これを本件についてみるに、調査の結果、被審人藤木とし子、同笹原万治、同草野大助の各審問の結果によれば、被相続人元一は最初の妻文子と離婚する前から事実上、二番目の妻原安と同棲生活をしていて、文子との間の子上記与志、春子、特に申立人との間の仲が悪く、申立人自身、勉学や勘務の関係で鳥取県下を離れて生活し、他の子も他家に嫁して、いずれも元一と生活を共にすることはなくなつたこと、元一は、原安との婚姻中である昭和二八年頃から、藤木とし子と同棲(その間に正夫が生れてからは同人を加えて)するようになり、上記与志、春子および申立人に対しては全く期待をよせず、身辺の世話一切をとし子にまかせ、仏壇や位牌を手許において祭祀を主宰し、死亡前頃には自己の死後の祭祀主宰についてもこれをとし子に託していたこと、元一死亡後の昭和三九年一一月頃、元一の遺産について申立人、与志、春子の間で分割協議をなし、その際、祭祀の主宰者を申立人とすることと定め、その旨、とし子にも伝え同月二六日、とし子もやむなくこれに同意したが、その後、申立人において、さきに自己に分割協議された以上の相続分を与えられなければ祭祀の主宰者とならないと申出て、祭祀財産の受領に応じなかつたこと、祭祀の主宰については与志、春子においてはこれを承継する意なく、とし子においてその意のあることが認められる。もつとも申立人審問の結果中、以上認定に反する部分があるが、上記被審人の審問の結果と対比して容易に信じられない。

三、以上認定事実によれば、元一の意思、同人の生前における生活状況、相続人の祭祀承継の意思、職業等の点において藤木とし子をもつて元一の祭祀財産の承継者と指定することが相当であると解せられる。よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 中村捷三)

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