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鳥取家庭裁判所 昭和34年(家)368号 審判 1959年8月04日

申立人 佐藤勇(仮名)

相手方 中野金蔵(仮名)

主文

相手方は特段の事情のない限り当分の間申立人に対する扶養義務を分担するを要しない。

理由

一、申立人の申立の趣旨は、申立人が満二〇年に達する迄毎月金二、〇〇〇円宛の扶養料の支払を求めるというにある。

二、本件扶養申立の経緯

申立人は、佐藤静子を母とし相手方を父としてその間に出生したが、父母は昭和三三年六月二日鳥取地方裁判所昭和三二年(タ)第四号離婚訴訟事件の和解により次の条項で離婚した。乃ち

(1)  原告(母)と被告(父)は離婚する。

(2)  原被告間の未成年の子勇の親権者を原告とする。

(3)  被告は昭和三三年七月一日上記勇を原告に引渡すこと。

(4)  被告は鳥取市○町二○番一四所在の宅地三三坪二合四勺及びその地上所在木造平家建スレート葺居宅一棟建坪一五坪二合五勺がいずれも原告の所有であることを認め、これを昭和三三年八月末日限り造作、井戸設備等の儘で原告に明渡すこと。

(5)  原告は被告に対し金三五〇、〇〇〇円を贈与するものとし、内金一〇〇、〇〇〇円は前項宅地建物明渡の日である昭和三三年八月末日限り、残金二五〇、〇〇〇円は同年九月末日より毎月末日限り各一〇、〇〇〇円宛いずれも被告方へ持参又は送金して支払うこと。

(6)  原告はその余の請求を放棄する。

(7)  訴訟費用は各自の負担とする。

而して、上記和解条項(5)の内金一〇〇、〇〇〇円及び残金二五〇、〇〇〇円中の九〇、〇〇〇円(昭和三四年五月分まで)の支払は完了したが、申立人の母静子は生活の実情により、残金一六〇、〇〇〇円の免除乃至減額(当庁(家イ)第九六号和解条項変更調停事件)を申立て、申立人は扶養請求(当庁(家イ)第九七号事件)を申立て、何れも不成立となつた。

三、離婚後の双方の生活状況

申立人の母は小学校教諭であるが、肩書住所の実父方二階に身を寄せ最初の夫との間にもうけた長女伸代(昭和一六年七月五日生高校三年生)と、相手方との間にもうけた申立人(保育園児)を抱え、俸給賞与等平均手取月収金三二、〇〇〇円及び上記条項(4)の家屋の賃貸料月三、〇〇〇円で生活すると共に上記条項(5)の月額一〇、〇〇〇円の支払をしている。

申立人の父である相手方は、鳥取砂丘にある肩書住所に二七坪を借地し、約二〇〇、〇〇〇円の借金で木造トタン葺二階建店舗兼居宅一棟(延三一坪)と木造トタン葺平屋建物置一棟(約六坪)を建築して、土産物店兼飲食店を営み、最初の妻との間にもうけた長女則子(昭和一四年一二月六日生、理髪店の弟子)二男晋(一五才定時制高校一年生)三男晃(一一才小学校六年生)を養育し妻まき(二三才)を迎えているが、上記営業による利益は月約一五、〇〇〇円であり、上記和解条項(5)に基き入手している月一〇、〇〇〇円は上記建築の負債の弁済に充てている。

四、叙上の経緯及び生活状況に諸般の事情を綜合参酌すると、相手方は特段の事情のない限り申立人に対する扶養義務を分担するを要しないものとするのが相当である。

尤も、申立人の母は、(イ)その弟哲哉(二二才鳥取大学学芸学部四年生)が近く妻帯するため実家の二階を明渡し、賃貸中の家屋の明渡をうけて之に居住する必要に迫られており、従つて家賃収入月三、〇〇〇円が消滅する。(ロ)長女伸代が武蔵野芸術大学に進学準備中で特別指導の教育費が嵩み、更に入学の暁には教育費が急増する。(ハ)申立人は相手方から扶養料を何等受けていないがその成長に伴つて教育費が増大すること必至である等と主張するが、之等を以て、未だ相手方に扶養義務を分担させることを必要とする程の特段の事情とは為し難い。

よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 深谷真也)

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