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高知地方裁判所 昭和57年(モ)296号 判決 1984年5月18日

申立人

有限会社佐藤木材

右代表者

佐藤良夫

右訴訟代理人

山原和生

被申立人

右代表者法務大臣

住栄作

右指定代理人

西口元

外八名

主文

一  申立人の本件申立を棄却する。

二  訴訟費用は申立人の負担とする。

事実《省略》

理由

一申立の理由1及び2の各事実は、当事者間に争いがない。

二<証拠>によれば、申立の理由3の事実を一応認めることができ、右認定に反する疎明はない。

三そこで、申立の理由4(金銭的補償可能)の主張について判断する。

被申立人の主張する被保全権利が本件土地及び本件立木の所有権であること、本件立木は天然木であること、本件仮処分の本案訴訟の訴訟物の価額が金二億三四六八万七八一三円と算出されていること、はいずれも当事者間に争いがない。

しかしながら、右の事実から直ちに金銭的補償が可能であると断定することはできないところ、他に金銭的補償が可能であることについて、特段の主張・立証はない。

かえつて、<証拠>によれば、被申立人の主張1の(一)ないし(三)の各事実を一応認めることができ、右認定を左右するに足りる疎明はない。

そして、右認定事実によれば、被申立人の本件仮処分申請の目的は、本件土地及び本件立木という特定物の確保にあることは明らかであり、したがつて、金銭的補償によつてその目的を達し得るということはできないものといわなければならない。

なお、申立人は、前示被申立人の主張1の(一)ないし(三)の事実は、公共の福祉を害する危険性を抽象的に指摘する事実の域を出ず、未だ具体的危険の発生を指摘するものではないから、金銭的補償が可能であると主張するので、この点につき付言するに、民事訴訟法七五九条にいう特別事情の一としての金銭的補償の可能性は、債権者の仮処分申請の目的が、もつぱら金銭的価値の確保にある場合や、仮処分の目的物が明らかに金銭に代替し得る場合のように、債権者をして当該仮処分の目的物の保全に固執させなくとも金銭的補償によつて十分その目的を達し得ると認められる場合に例外的に特別事情として債務者に右仮処分を免れさせる途を講じたものであるから、かかる見地より考えれば、本件仮処分が取消されることによつて、前認定のように公共の福祉が害される危険性がある以上、それが申立人の主張するように具体的危険にまでなつているか否かまで吟味するまでもなく、右仮処分を取消すべき特別事情としての、金銭的補償が可能である、とは到底いえないことが明らかであるというべきである。

よつて、申立の理由4の主張は採用できない。

四次に、申立の理由5(異常損害)の主張について判断する。

1  <証拠>によれば、申立人は、その主張のとおり、本件立木に関し、手附金六〇〇〇万円、伐採前途金一〇〇〇万円、合計金七〇〇〇万円を支出し、右支出に見合う経済的利益が得られなかつたため、申立人の個人資産を売却してやりくりをしたことが一応認められ、右認定に反する疎明はない。

2  しかしながら、<証拠>によれば、申立人代表者は、申立人が本件立木を買受けるに際し、本件土地、本件立木について被申立人が訴訟を提起していることの説明を受け、これを承知していたこと、昭和五五年八月三日申立人代表者が現地に赴いた際、現地には本件土地及び本件立木が国有林及び保安林であることを示す立札や境界標等が設置されていたこと、申立人代表者は、売主の野中重孝と一緒に高知営林局本山営林署に赴いた際、同営林署の係官から本件土地及び本件立木が国有林である旨の説明を受けたこと、したがつて、申立人代表者としては、将来被申立人から本件仮処分申請がなされるであろうことを当然予測できたはずであること、それにもかかわらず、申立人代表者は、本件立木を金四億五〇〇〇万円で買受けても、将来これは金一〇億円ないし一一億円という価格で売ることができる物件であるとの品定めと見込みをたて、あえてこれを買受ける挙に出たものであること、右買受当時の心境を、申立人代表者は当法廷において、「私は山師ですから一生に一度の勝負をしたわけです。」と供述していること、の各事実が一応認められ、右認定に反する申立人代表者の供述部分は、前掲各証拠に照らして措信できず、他に右認定を左右するに足りる疎明はない。

3  右2に認定した事実によれば、前示1に認定した事実を考慮しても、なお、本件仮処分を取消すべき特別事情としての異常損害がある、とは到底いえない。

よつて、申立の理由5の主張も採用できない。

五以上のとおりであるから、申立人の本件申立は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(増山宏)

仮処分決定<省略>

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