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高知地方裁判所 昭和41年(わ)8号 判決 1968年4月03日

主文

被告人を懲役参年及び罰金壱万円に処する。

右罰金を完納することができないときは金五百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

未決勾留日数中八拾日を右懲役刑に算入する。

昭和二四年二月一八日付起訴にかかる風俗営業取締法違反及び同年五月一三日付起訴にかかる強盗未遂の各公訴事実について被告人は無罪。

理由

(罪となる事実)

被告人は

第一、法定の除外事由がなく且つ公安委員会の許可を受けないで、昭和二四年一月二三日頃から同年二月七日頃迄の間、高知市新京橋一〇番地坂田影勇方において十四年式拳銃一挺を所持し

第二、久保内正郎と共謀の上、同年二月六日午後八時過頃、同市錦川町六四番地和田繁仲方において、同人の妻和田楠伊に対し拳銃を突き付け「小遣銭を貰いに来た」と申し向けて同人を脅迫し、同女の反抗を抑圧して現金約六〇〇円在中の財布一個及び衣類約一六点を強取し

第三、酒税法により認める場合でないのに、昭和二六年一月三日頃、徳島県麻植郡木屋平村大字三ツ木新居倉一方において免許を受けない者が製造した焼酎約一斗四升を所持し

第四、(一) 昭和四〇年一月一〇日頃、高知市一宮一、九四〇番地山崎政利方において、同人が他から窃取してきた賍品であることの情を知りながら、同人から背広上下二着外衣類等二七点(時価合計約一三六、九〇〇円相当)を代金二〇、〇〇〇円で買受け、もって賍物の故買をなし

(二) 同年同月中旬頃、前記場所において、前同人から前同様に背広上下三着、カメラ一台(時価合計約五五、〇〇〇円相当)を代金五、〇〇〇円で買受け、もって賍物の故買をなし

(三) 同年七月上旬頃、前記場所において、前同人から前同様に敷布団一枚、毛布一枚、トランジスターラジオ一台、ジャー一個(時価合計約一三、〇〇〇円相当)を代金五、〇〇〇円で買受け、もって賍物の故買をなし

第五、同年二月上旬頃、同市一宮一九〇四番地中尾千代喜方において同人と共謀の上、前記山崎政利から同人が他から窃取してきた賍品であることの情を知りながら指輪一個(時価二〇、〇〇〇円相当)を代金一、〇〇〇円で買受け、もって賍物の故買をなし

たものである。

(証拠の標目)≪省略≫

(法令の適用)

判示第一の事実につき

銃砲等所持禁止令(昭和二一年勅令第三〇〇号・昭和二五年政令第三三四号による改正前・同勅令附則三項・昭和三三年法律第六号附則九項・昭和四〇年法律第四七号附則五項)二条一条

(懲役刑選択)

判示第二の事実につき

刑法二三六条一項六〇条

判示第三の事実につき

酒税法(昭和一五年法律第三五号・昭和二四年法律第四三号による改正後にして昭和二八年法律第六号による全面改正前・同法律附則一四項)六二条一項三号五三条

(懲役刑選択)

判示第四の(一)乃至(三)の各事実につき

いずれも刑法二五六条二項罰金等臨時措置法三条

判示第五の事実につき

刑法二五六条二項六〇条同措置法三条

以上につき刑法四五条前段四七条一〇条(判示第二の罪の懲役刑につき一四条の制限内で併合加重)判示第四の(一)乃至(三)第五の罪の刑中罰金刑につき四八条二項六六条七一条六八条

労役場留置の点につき

刑法一八条

未決勾留日数の本刑算入につき

刑法二一条

(昭和二四年二月一八日付公訴事実について)

(一)  右起訴にかかる公訴事実は「被告人は公安委員会の許可を受けずして昭和二三年一二月一九日長岡郡国府村に於て三尺角の碁盤の設備を設け其上に一定の碁石を配石し置き之に対し一石乃至三石を以って客より先手にて打込みをなさしめ三四又は四四の正解を得れば賞品として煙草を与え、三回を限度として正解出来ない場合は研究料として一回につき一〇〇円を支払わしめる方法にて客に射幸心をそそる慮のある通称詰聯珠と称する遊技をさせる営業をなしたものである」というのであり、右事実は風俗営業取締法(昭和二三年勅令第三〇〇号但し昭和二五年政令第三三四号による改正前)二条七条に該当するとする。そして被告人の当公廷における供述、同人の司法警察職員(昭和二三年一二月二〇日付)並に検察官(昭和二四年二月二日付)に対する各供述調書、吉川益水の司法警察職員は対する供述調書、司警察職員作成の「露店営業設置許可について」と題する書面によると右事実を認めることができ、右所為は一応前記法条の構成要件に該当するものということができる。

(二)  しかし右被告人の当公廷における供述並に検察官に対する供述調書及び司法警察職員作成の右書面を綜合すると、被告人は本件営業を始めるにあたり昭和二三年一〇月二八日当時の被告人の住所地を管轄する山田警察署を通じ詰聯珠営業許可願を提出したところ、同署は右営業が当時の風俗営業取締法にいう風俗営業に該当しないものと解釈し(県下各警察署共通の解釈と推定される)、被告人に対し同法による許可手続は不要であり、ただその営業をするについては当時の道路交通取締法二六条二項による露店営業設置許可の申請手続が必要であるから願書をそのような様式に訂正するよう指示した上、同法による右許可を与えた事実が認められ、右事実からすれば、本件所為の当時、被告人は本件営業をするについては風俗営業取締法による許可を受ける必要がないものと信じ、且つ信ずるにつき相当の理由があったものというべきである。ただ一般に法律の不知乃至は違法性の認識は刑法三八条三項により、またその解釈として、故意を阻却しないものとされ、当裁判所も之を原則として是認すべきものと考えるものであるが、全く例外を認める余地なしと迄は考えない。即ち、本件のように被告人として法及び条例(高知県条例第四〇号風俗営業法施行条例第一条第二条第一七条参照)に従い願書を提出したが、管轄署が許可を必要としないと指示した以上、被告人に更に許可を得るべき方法(行政行為に対する不服の申立等)をとるべきことを期待することはできない。かかる場合結果において無許可営業をなしたからといって刑罰をもってのぞむことは酷であり、結局この場合の違法性の認識の欠除は故意を阻却する特例として是認すべきものと考える。

(昭和二四年五月一三日付起訴の公訴事実について)

右起訴にかかる公訴事実は「被告人は外一名と共謀の上昭和二三年四月四日午後一一時頃、高知市薊野小松隆盛方で同人等に対し拳銃を擬し日本刀を突付け金を出せと申し向けて之を脅迫し金品を強取しようとしたが家人がその隙を見て近隣に急を報ずる物音に恐れ其の侭逃走してその目的を遂げなかったものである」というものである。しかし右事実は本件公判廷に現われた各証拠による証明されるにいたらなかった。即ち、

(一)  被告人の昭和二四年二月二五日付、同年三月三日付、同年三月八日付、同年三月九日付各司法警察職員に対する各供述調書及び同年五月七日付検察事務官に対する供述調書には被告人が本件犯行を自白している内容の記載があり、≪証拠省略≫によれば、同人らが本件強盗未遂の被害を受けた事実が認められ、同証人らは拳銃を擬した者が被告人に似ていると証言し遂には同一人であると断言している。しかし、被告人は本件各公判期日において本件強盗未遂の公訴事実(以下本件という)を終始否認している。

そこで、右各証拠を詳細に検討すると各証拠相互の間に、亦他の証拠との間に矛盾が存し、帰一するところがない。

(二)  先ず被告人の前記各調書をみるに、昭和二四年二月二五日付の司法警察職員に対する供述調書(以下日付のみで記載する)では「期日は、はっきり記憶しておりませんが昨年の八月初頃と思います……秀が棒電池をつけ……障子を秀があけて入りその時日本刀を抜いておりました。そこで秀が(声を出すな金を出せ)というと先方は(税金に払って金はない)といっておりました。私は拳銃を正面に銃口を先方の方に向けて(そんなことはなかろうあったら出せ出せ)と拳銃を振りました」とあるが、同年三月三日付調書では「昨年四月四日に強盗に入った……前回は八月の初頃と申立てましたが訂正願います」となり、同年三月八日付調書では「……前に秀と二人でやったと申しましたが、その時通称高松の新という男も一緒に行った……その時秀は日本刀、新は拳銃を持って入りました。私はその時戸を外した箇所よりのぞいておりました」とあるが、同年三月九日調書では「……それで昨日申上げた事は全部嘘ですから訂正願います」となり、更に同年五月七日付検察事務官に対する供述調書では「……秀に脅かされて新公と三人で行った事は間違いありません。その時は高知署で調べられた時の第五回供述調書(右同年三月八日調書のこと)に述べた通りであります」となっており、その内容は二転し更に三転し、その供述のどれを、またどの部分を信用すべきか困惑せざるを得ない。

(三)  次に被害者であった前記小松隆盛、茂子両証人の証言について検討するに、隆盛証人の第六回公判調書の供述記載では「一人は背のひくい男でありましたが、その人は鼻から下にマスクの様なビロビロをつけ、拳銃を持っておりました……懐中電灯は背の低い男が持っておりました……拳銃を持った男が(金を出せ、静にせよ)といったと思います……その男は丸顔で眉が黒く眼はひっこんでするどく小柄な男でした……髪は丸刈りであったと思います。この人(被告人を指す)が拳銃を持って入ってきた人です。眼のあたりがこの人そっくりです。まちがいありません」と断言し、茂子証人の証言及び両証人の第一一回公判期日における各供述も大要同一である。しかし右各供述は事件後一七年乃至一九年後のものであり、しかも本件は午後一一時三〇分頃におこり、最初は懐中電灯に照らされたもとに、また後は六〇燭の電灯のもと、ほんの数語を交わす短時間内の見分であり、更に犯人は鼻から下はマスク様のものでおおわれていたものである。更にまた、隆盛証人の証言によると前記第六回公判期日における供述をなす前日頃、同証人は警察署で同人の昭和二四年二月二八日付、同年四月五日付各供述調書(弁護人不同意のもの)と思われる調書を見せられ、且つ透視鏡を通して被告人を見てから右公判期日にのぞんでいる事実が認められ、同期日の供述がはたして真の記憶に基づくものであるかどうか疑を払拭することができない。

(四)  次に他の証拠との関係を考えるに、右各証人の右供述記載又は右供述によると犯人は「頭が丸刈りであった」とあるが、本件当時被告人が丸刈りであったことを認めるに足る証拠はなく、かえって押収に係る写真二葉(昭和二四年押第三六号の一四・一五)によると、昭和八年頃及び昭和二六年一月二八日当時被告人は長髪であったものと認められるから、その間も長髪であったと推定されるし、証人藤沢繁春≪中略≫、同坂田景勇の各証言中にも、本件当時頃被告人は長髪であった旨の供述があり、この点からも前記隆盛、茂子両証人の供述記載及び供述中、犯人は被告人であるとする部分はにわかに措信することができない。

(五)  右に述べたように前掲各証拠をもってしては本件公訴事実を認定するに足らず、他に之を証明すべき証拠は全く存しない。もっとも、被告人は判示罪となる事実第二記載のように、本件から十個月後にあたる昭和二四年二月六日に拳銃を用いて強盗を敢行したものであり、当公廷における弁解(第四、第五各公判期日における被告人の供述記載及び第七回、第一二回各公判期日における各供述)もその内容において一貫せず、本件に何らかの形(共謀共同正犯又は幇助犯)で関与したのではないかと疑がわしめるものがないではないが、結局疑の域を超えるものではなく、到底訴因変更を命じるに足る確信を抱かしめるものではない。

以上の次第で右二個の公訴事実についてはいずれも犯罪の証明がないものとして刑事訴訟法三三六条により無罪の言渡しをする。

よって主文の通り判決する。

(裁判官 浅野達男)

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