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高知地方裁判所 昭和23年(行)78号 判決 1949年1月31日

原告

森沢房五郞

被告

高知県知事

川島万吉

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

請求の趣旨

被告知事が原告の申請に対し昭和二十三年四月一日なした別紙目録記載の土地に関する賃貸借の解除不許可処分を取り消す、被告万吉は原告が原被告間における右賃貸借解除の許可を受けるにつき農地調整法第九条第一項の正当の事由があることを確認する、訴訟費用は被告等の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、その請求の原因として、原告はその所有に係る別紙目録記載の土地を訴外川島岩太郞に賃貸していたが、岩太郞は十年位前に死亡し、被告万吉はその賃借権を相続承継し耕作中、昭和十七年頃原告の承諾を得ることなく勝手に之を同被告の弟で世帶を異にする訴外川島政吉に転貸した、原告はそのことを知り昭和二十一年被告万吉に対し土地の返還を求めたが応じないので、昭和二十二年十月三十日被告知事に対し賃貸借解除の許可を申請した、ところが同被告は昭和二十三年四月一日不許可の処分をなし、原告は同月二十二日その通知を受けた、然るに被告万吉は原告の承諾を得ずして本件土地を転貸したものであるから、農地調整法第九条第一項の信義に反する場合に該当し賃貸借を解除するにつき正当の理由があることは明かであるそれ故土居村農地委員会も被告万吉の転貸を信義に反する行爲と認め解除許可相当の意見を被告知同事に進逹た次第である、要するに被告知事の処分は違法であるからこれが取消を求め、又被告万吉に対しては前記正当の事由があることの確認を求めるため本訴に及んだと陳述し、被告の主張に対し本件土地の買收は認めるが政吉は売渡の登記を経ていないので権利の取得をもつて原告に対抗し得ないと述べ、立証として甲第一、二号証を提出し、証人和〓友作、川竹恒一の訊問を求め乙第一、二号証の成立は認めるも第三号証は不知と述べた。

被告等はいずれも原告の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として、被告知事が原告主張の如き被告万吉を相手方とする申請に付不許可処分をしたことはない。尤も原告が本件土地に付昭和二十二年十月三十日付訴外川島政吉を相手方として賃貸借解約許可申請をしたので被告知事が不許可処分をしたことはあるが、それは違法でも不当でもない。即ち本件土地は被告万吉の父岩太郞が約五十年前より小作していたが、昭和二十四年同人が死亡した後はその相続人被告万吉が賃借権を承継して小作中、昭和十九年三月二男豐市召集のため手不足になつたので同被告は土地を弟である政吉に転貸した、政吉は被告万吉の妻を通じて同年度の小作料を原告に支拂い、爾來その耕作を続けて来たものである。それ故本件土地は自作農創設特別措置法第三条第一項第二号に該当する小作地であるから土居村農地委員会は昭和二十二年十月二日を買收期日とする買收計画を樹て同年八月一日から十日間公告縱覽に供したのに原告は異議、訴願等不服の申立をしなかつたので其の買收計画は同年十月一日高知県農地委員会の承認を受け、確定した。然るに其の後同月三十日原告は政吉の転借は民法第六一二条違反であるから解除すると称し許可申請をしたが被告知事は、本件土地が正当な買收小作地で其の買收計画確定しており、他方原告の申請は川島万吉との賃貸借を解除せずして政吉との転貸借を解除せんとするもの故実質上も手続上も正当でないから之を不許可処分にしたものであつて、其の処分には違法不当の廉は全く存在しないと陳述し、尚被告知事代表者は、前述の如く確定した買收計画に基き被告知事は買收令書を發行したが、原告が受領を故なく拒絶したため昭和二十三年九月六日高知県公報に掲載公告されたから、本件土地の所有権は買收の時期である昭和二十二年十月二日をもつて政府が取得し土地に対する原告の権利は消滅した、それ故原告は賃貸人としての主張ができない筈であるからこれを前提とする原告の請求はその利益がない、尚原告は右買收処分に対し出訴期間内に行政訴訟をも提起していないものである。また政府は既に本件土地を買收当時の耕作者政吉に売り渡して土地の引渡を完了していると陳述し、立証として乙第一乃至三号証を提出し、甲号各証の成立を認めた。

理由

先ず原告の被告知事に対する請求につき、成立に争のない乙第一、二号証によると、別紙目録記載農地は自作農創設特別措置法により買收せられ、買收時期を昭和二十二年十月二日とする買收令書が、原告に交付不能の爲二十三年九月六日高知県公報に登載公告せられたことが明かであるから、原告は右買收時期に本件土地の所有権を喪失したわけである。そして右公告後二箇月の出訴期間内に原告が買收取消の行政訴訟を提起していないことは当裁判所に顕著な事実であるから、右買收処分は最早法律上覆すことのできないものである。原告は本件土地に関する賃貸借解除不許可処分の取消を請求しているが、仮にそれが取消されたとしても買收処分の存する限り、原告が今後土地所有者として賃貸借解除の許可を受けることは全く不可能であるから、原告は本訴の取消訴訟を追行するに付法律上何等の実益を有しないものといはねばならない。従て其の請求は失当である。

しかのみならず、原告が其の所有の本件土地を訴外川島万吉に賃貸し万吉が之を弟政吉に転貸したことは双方争なく、原告は其の転貸に付原告の承諾がないと主張するが、(被告が其の事実を争つていることは弁論の趣旨により明かである。)この点に関する甲第二号証の記載内容並に証人和〓友作の証言は措信できないし、その他に之を認めるに足る何等の証拠がない。却て証人川竹恒一の証言によると、万吉は子息が召集され手不足の爲やむをえず昭和十九年三月に弟政吉に転貸したところ、翌二十年春頃原告の妻が之を知り当時原告の代理人として之を承認していたことが推察されるから、右原告主張は採用し難く、それを前提とする請求は是認し難い。以上いづれにするも原告の被告知事に対する請求は失当である。

次に原告の被告万吉に対する請求は賃貸借解除許可の前提要件たる正当事由の存在の確認を求めるものであるが、仮にその確認判決を得ても、行政庁の許可なき限り解除の効力を生じない、またその判決は行政庁を拘束するものでないから、若し行政庁が不許可にすればそれに対し重ねて行政訴訟を提起しなければならないことになり、徒らに訴訟を累加するに過ぎないから、被告万吉に対する請求は即時確認の利益がないので失当として棄却すべきものと認める。

以上の理由により原告の請求を全部棄却し、訴訟費用に付民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(別紙目録省略)

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