大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

高松高等裁判所 昭和61年(行コ)2号 判決 1981年1月26日

徳島県板野郡北島町江尻字松の本24番地の3

控訴人

有限会社主婦の北島店

右代表者代表取締役

宮崎幸夫

右訴訟代理人弁護士

藤川健

徳島県鳴門市南浜字東浜39番地の3

被控訴人

鳴門税務署長 井上寿男

右指定代理人

武田正彦

外4名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  当事者の求めた裁判

1  控訴の趣旨

(一)  原判決を取り消す。

(二)  被控訴人が控訴人の昭和54年10月1日から同55年9月30日までの事業年度(以下「本件事業年度」と言う。)の法人税について昭和57年1月18日付でした再更正処分(以下「本件再更正処分」と言う。)を取り消す。

(三)  訴訟費用は第一,二審とも被控訴人の負担とする。

2  控訴の趣旨に対する答弁

主文と同旨。

二  当事者の主張

次のとおり補正・付加するほかは,原判決の事実摘示と同じであるから,これを引用する。

1  原判決事実の補正

(一)  原判決3枚目裏3行目の括弧部分を削り,同5枚目裏5・6行目を「いる。仮に右森本・岸両名に対する退職金の支給が適正でないとしても,右両名の立場の特異性に照し,その退職金の算定につき同種同規模の法人における従業員全体に通じる退職金支給率の平均値による方法を採用したのは不当であり,少なくとも1人当り500万円以上,両名合計1,000万円以上の退職金が算定されるべきである。」に改める。

(二)  同10枚目裏3行目の次に行を改めて次のとおり加える。

「5 控訴人は,森本・岸両名の功労が極めて大である旨主張するが,これを容れて算出したときの右両名に対する退職金適正額合計は322万6,600円となり,本件再更正処分における同合計額368万2,000円よりもむしろ少額で,本件再更正処分が適法であることは動かない。

すなわち,昭和55年9月30日現在における高松国税局管内のスーパーマーケットを営む類似同業法人の功労金支給規定中,従業員の退職時月額給与に退職給与支給率を乗ずる方法で算出した額の30%以内を支給する旨定める最高額支給例に従うと,森本・岸両名の功労金合計額は74万4,600円となり,これを前記3における右両名の退職金適正額合計248万2,000円に加えた322万6,600円が功労金を考慮した右両名の退職金適正額となる。」

2  当審新主張

(一)  控訴人

(1) 控訴人は,かねてイカリ商事有限会社に賃貸し,同会社がスーパーマーケット営業に使用していた建物を所有していたところ,本件再更正処分に基づく法人税(以下「本件法人税」と言う。)の滞納処分として被控訴人により差し押えられた。

(2) 昭和61年1月下旬ころ,控訴人は,イカリ商事有限会社より右建物の改造につき許諾を求められたので,被控訴人に対してその許可を求めた。

(3) これに対し,高松国税局から,森本・岸両名に支給した退職金合計4,500万円(以下「本件退職金」と言う。)に関する所得税として源泉徴収税460万7,500円,加算税46万0,500円,利息311万7,800円,以上合計818万5,800円の納付を条件に許可する旨の回答がなされたので,控訴人は同年同月28日右全額を納付した。

(4) 右のような経緯から見て,昭和61年1月28日控訴人と被控訴人との間で,本件退職金を適正なものとしてその損金計上を承認する旨の合意が成立したものと解すべきである。

(二)  被控訴人

(1) 控訴人主張(1)の事実は認める。同(2)の事実のうち,控訴人が被控訴人に対して建物の改造許可を求めたことは認め,その余は不知。同(3)の事実のうち,控訴人主張の所得税の納付があったことは認め,その余は否認する。同(4)の事実は否認する。

(2) 法人税法132条1項1号は,同族会社の行為又は計算で,これを容認した場合に法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは,税務署長はその行為又は計算にかかわらず,その認めるところにより,法人税額を計算することができる旨定める。その趣旨とするところは,単に課税の計算上,当該行為計算と異なる行為計算を想定して課税標準又は税額を計算することができると言うにすぎず,現実になされた行為計算の法律上の効果には何ら影響を及ぼすものではない。したがって,本件退職金支給額のうち適正と認められる額を超過する額についても,それが支給されたこと自体は否定するものではないから,所得税の源泉徴収等がなされるのは当然のことであり,それをもって控訴人主張の合意が成立したものと解すべきいわれはない。

三  証拠関係

原審記録中の書証,証人等各目録及び当審記録中の書証目録各記載のとおりであるから,これらを引用する。

理由

一  当裁判所も,控訴人の被控訴人に対する本訴請求を失当として棄却すべきものと判断する。その理由は,次のとおり補正・付加するほかは,原判決の理由説示と同じであるから,これを引用する。

1  原判決理由の補正

原判決13枚目表末行の「によって設立された」を「らの設立に係る」に,同15枚目裏1行目の「第56,第74,第75号証」を「第56号証,いずれも申述者の署名及びその下部の印影部分については弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められ,その余の部分についてはその方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき同第74,第75号証」に各改め,同16枚目表2行目の「これに」から8行目までを削り,同9行目の「そして」から末行の「によれば」までを「そうすると」に,同17枚目表8行目から末行目までを「しかし,控訴人は退職金支給に関する定めを有せず,森本・岸両名以外に退職金を支給した従業員はいなかったのであるから,右両名につき退職金適正額の算定がなされたことは,とりもなおさず右両名の特殊な地位に対する考慮がなされたことにほかならず,また,右算定につき採られた方法もやむを得ないものと言うほかはない。そして,弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第76号証,その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき同第77号証の1ないし26によって認められる,本件事業年度における高松国税局管内のスーパーマーケットを営む本店法人の功労金支給規定中,退職時の月額基本給与に退職給与支給率を乗ずる方法で算出した額の30%以内を加算する旨定める最高額支給例に従っても,森本・岸両名の適正退職金合計額は322万6,600円で,優に本件再更正処分における適正退職金合計額368万2,000円の範囲内にあり,しかも,それは右両名と異なり長期間被用者につき算定されるのを通例とする最高額であるのにかんがみると,本件再更正処分における退職金適正額の算定結果は右両名についての有利な事情を斟酌して余りあるものであり,これを妥当なものと認めざるをえない。」に同裏1行目の「の算定方法」から3行目の「本件においては」を「は相当であり」に各改める。

2  控訴人の当審新主張に対する判断

(一)  控訴人の所有でイカリ商事有限会社に賃貸していた建物が本件法人税の滞納処分として被控訴人により差し押えられたこと,控訴人が右建物の改造につき被控訴人に許可を求め,その許可が得られたこと,森本・岸両名に支給された本件退職金に関する源泉徴収税等合計818万5,800円が昭和61年1月28日納付されたことは,当事者間に争いがない。

(二)  ところで,本件再更正処分の根拠をなす法人税法132条1項1号に基づく同族会社の行為計算の否認は,当該法人税の関係においてのみ,否認された行為計算に代えて税務署長の適正と認めるところに従い課税を行うというものであって,もとより現実になされた行為計算の私法上の効力を失わせるものではない。したがって,本件退職金につき,それが森本・岸両名に支給されたことにより所得税法上当然に生じている源泉徴収義務は,本件再更正処分による控訴人の行為計算の否認によって何ら消長を来すものではないと解するのが相当である(最高裁判所昭和48年12月14日第二小法廷判決・訟務月報20巻6号146頁参照。)。

(三)  そうすると,被控訴人側から控訴人に対して,本件退職金が森本・岸両名に支給されたものとしてその源泉徴収義務の履行を求め,所得税法所定の税額の納付がなされたとしても,その性質上,先になされた控訴人の行為計算の否認と矛盾した関係に立つものではなく,いわんやその撤回の効果を生じさせるものではないから,他に特段の主張立証のない本件においては,本件退職金を適正なものとしてその損金計上を承認する旨の合意が控訴人・被控訴人間に成立したとの控訴人の主張は,その余の点について判断するまでもなく,これを認めるに由ないものと言うべきである。

二  よって,右と同旨の原判決は相当で,本件控訴は理由がないからこれを棄却し,控訴費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民訴法95条,89条を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高田政彦 裁判官 早井博昭 裁判官 上野利隆)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例