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高松高等裁判所 昭和51年(ネ)206号 判決 1977年6月02日

控訴人 安井隆

右訴訟代理人弁護士 中村謙十郎

被控訴人 相原新三郎

外三五名

右被控訴人全員訴訟代理人弁護士 南健夫

同 真木啓明

主文

本件各控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一、双方の申立

(控訴人)

原判決を取り消す。

被控訴人相原新三郎は金三九八、九六四円を

同山内温は金五四七、三五〇円を

同渡部義一は金七七〇、二八四円を

同渡部寅市は金五二五、四八〇円を

同森伊佐雄は金四〇八、五五九円を

同山内滝雄は金一、一二九、七〇五円を

同森九市は金四七一、〇六〇円を

同日野茂男は金八七七、五二〇円を

同菅野覚広は金三七五、三二一円を

同林隆熙は金一七一、五〇〇円を

同森喜市は金二三八、〇〇〇円を

同平岡健雄は金六六五、七三五円を

同菅能継弥は金三三四、四〇二円を

同森文敏は金一八九、〇〇〇円を

同森一近は金五四六、〇〇〇円を

同森一義は金一五三、二四二円を

同日野完一は金二一〇、〇〇〇円を

同森和雄は金三四三、二四八円を

同菅野明は金一九一、二五〇円を

同菅野好春は金一五九、五〇〇円を

同八木操は金四六九、五〇〇円を

同相原虎一は金一九五、〇〇〇円を

同森茂良は金四八〇、八八〇円を

同森十一朗は金四〇五、〇一七円を

同森秀は金四八七、八一八円を

同菅野晋は金一六六、四九〇円を

同山内久男は金二三二、五〇〇円を

同武智悟は金三二三、六五五円を

同山内友親は金四五一、八四九円を

同玉井貞重は金四九二、七六〇円を

同山内清は金三四〇、五九二円を

同渡部タヱ子は金三七七、二六一円を

同山内シマは金一七七、三二〇円を

同森増男は金二九一、九〇〇円を

同渡部清躬は金三二〇、〇〇九円を

各々控訴人に対して支払い且つ右各金額に対し昭和四八年六月二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を併せて支払え。

被控訴人大西勝三は控訴人に対して金三四六、五〇〇円及びこれに対して昭和四九年四月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は第一・二審共被控訴人らの負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言を求める。

(被控訴人ら)

主文同旨。

第二、双方の主張

左に付加訂正するほか原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

(控訴人)

一、原判決七枚目表一〇行目に「被告ら」とあるのを「被告らおよび訴外大西義雄他二七名」と訂正する。

二、本件残代金の支払いについては、当事者間において昭和四八年一二月二五日までその支払いを猶予することに合意が成立していた。

右同日以後の債務不履行は認めるが、それはオイルシヨックのための不可抗力によるものであるから、控訴人に右不履行の責を問わるべき筋合いではない。

(被控訴人ら)

右主張は否認する。

第三、証拠<省略>

理由

一、本件契約の成立とその性格

1.次の事実は、当事者間に争いない。

(一)控訴人と被控訴人らおよび訴外大西義雄他二七名との間において、昭和四八年三月中旬ごろ、本件土地について、控訴人主張の価格算定方法により取り決められた原判決添付別紙売買(予約)一覧表売買価格欄の各代金による売買契約あるいは売買予約の合意が成立したこと。

(二)控訴人は、被控訴人大西勝三に対しては昭和四九年三月下旬に、その余の各被控訴人および前記訴外者らに対しては昭和四八年六月一日に、同表内金欄の各内金を支払ったこと。

(三)本件契約において

(1)買主が契約に違反したときは、売主は、内金を違約金として没収する。

(2)農地について、農地法第五条による転用許可の申請手続の実務は、これを残代金支払期日までに控訴人が行うと定められていたこと。

2.右1の争いない事実、<証拠>を総合すると、次の事実を認めることができる。

(一)控訴人は、従前四、五回ゴルフ場建設に関する事業を手掛けたことのあるこの道の経験者であるか、昭和四七年末ごろに、愛媛県温泉郡重信町内にゴルフ場を建設することをもくろみ、同町初山地区に用地を物色したが、適地がないので、昭和四八年二月ごろ、同町上林地区における本件土地等を目的としてゴルフ場建設を具体化し、同地区民および重信町当局の協力を得ることの確約を得たこと。

(二)  控訴人は、ゴルフ場の建設資金として七、八億円を見込み、その用地として八〇町歩(約八〇ヘクタール)以上を希望していたが、当時愛媛県当局において五ヘクタール以上の土地の開発事業の規制措置を論ずる施策を検討中であることを知り、取り急ぎ、ゴルフ場として最少規模の地積に相当する本件土地の早期買収を図り、山内勝の協力のもとに、昭和四八年三月中旬中に、前記被控訴人らとの間において、個々的に、甲第一号証の一ないし六四の不動産売買契約書の交換により本件契約を締結し、右愛媛県当局の規制措置に対応して有利な条件をつくるため、前記被控訴人らの了解のもとに、契約書の日付を昭和四七年九月五日としてこれを作成したこと。

(三)右本件契約において、本件土地の地積は航空写真により割り出した実面積によるものとし、価格は一反歩(約九九〇平方メートル)当り、山林について三五万円、畑について四〇万円、田について四二万円とし、山林の立木については、別途評価基準に則りその補償額を定めることとし、土地の価格を右基準によって別紙売買(予約)一覧表の売買価格欄のとおり算定し、内金としてその一割を早急に支払い、残代金は昭和四八年七月三〇日に支払うことと定め、また、農地については、農地法第五条による転用許可申請の実務を控訴人においてすること、控訴人が違約したときは、前記被控訴人らにおいて内金を没収することができ、前記被控訴人らが違約したときは、控訴人は、前記被控訴人らに対し内金の返還を求めうることはもちろん、そのため生じる一切の損害の賠償金を要求できることなどを特約したこと。

(四)本件土地のうち山林の立木の補償については、本件契約後、一般の評価基準により算定した金額で協定がなされ、昭和四八年六月末までに、控訴人から、前記被控訴人らに対し右金員を支払うことの合意がととのったこと。

3.右2の認定事実によると、本件契約は、売買の予約ではなく売買そのものであり、農地については、農地法第五条による転用許可を効力発生の法定条件としたものであると認めるを相当とする。

二、ゴルフ場建設の不成功とその事由

1.<証拠>を総合すると、次の事実が認められる。

(一)控訴人の本件ゴルフ場建設計画は、スポンサーを見付けて先ず本件土地を転売し、その代金で不足の土地を買い足してこれを転売するという意図の下に、買収資金の準備もなく、また、具体的な転売先のあてもないままにたてられたもので、控訴人は本件契約を締結した後、スポンサーを物色したが、容易に見付けることができず、昭和四八年七月三〇日の残代金支払期日を徒過したこと。

(二)第二次買収分二〇余町歩については、山内勝が本件契約後引き続き控訴人に協力して本件土地に接続する二〇余町歩の土地所有者らと交渉して、同年七月初めごろには契約締結をなしうるよう右土地所有者らの同意を取り付けて、控訴人に対し契約書の交換と手付金の交付をなすよう申し向けたが、控訴人はスポンサーを見付けることができなかったため、これに応じることができなかったこと。

(三)その後、重信町長のあっせんにより、残代金支払期日が同年九月末日まで猶予されたが、控訴人はスポンサーを見付けることができず、その後漸く伊藤忠商事との間に資金提供の話がまとまり、残代金支払期日が同年一二月二五日まで猶予され、右期日までに残代金の半額の支払いが約束されたが、石油ショックによる建設資金の高騰と同商事の国会喚問等の事情から同商事が手を引いたため、右期日に支払いがなされなかったこと。

(四)その後、控訴人の方から本件内金を返還して貰いたい旨申し入れたが、前記被控訴人らの方では本件内金は代金不払いにより没収する旨答える等のことがあり、控訴人は本件土地についてゴルフ場建設に着手するに至らなかったこと。

(五)控訴人は、愛媛県が昭和四八年三月二五日付で施行した指導要綱による規制(五ヘクタール以上の土地開発にかかる用地の取得につき知事の同意を必要とする)を、予め知っていたが、急げばできるとの見通しの下に、本件売買契約を締結したものであり、現に、控訴人の関係した松山市平井所在の松山東ゴルフ場は、本件ゴルフ場計画よりも後の発足であったのに県知事の同意がえられ、その建設が実現していること。

2.以上の事実によれば、本件ゴルフ場建設の不成功は県の規制とは何の関係もなく、控訴人が不用意にその建設を意図して何ら買収資金の調達のあてがないのに本件土地等の買収をもくろみ、計画の実施に着手したところ、見通しを誤って容易にスポンサーを見付けることができず、残代金の支払期日を猶予して貰っているうち、やっとスポンサーを見付けることができたが、そのころには石油ショックが起り建設費の高騰と国会喚問という事情からスポンサーが手を引いたことによるものである。控訴人の当初の見通しどおりスポンサーが早期にえられたならば、残代金の支払いは契約どおりなされ、本件売買は終了していたであろう。また、石油ショックによって建設費が異常に高くなったからといってゴルフ場建設が不可能になった訳ではない。

三、事情変更による解除の主張

事情変更の原則とは、契約締結後その基礎となった事情の当事者の予見しえない変更のために、当初の契約内容に当事者を拘束することが極めて苛酷になった場合に契約の解除または改訂の認められる法理をいうのであるが、右に認定した事情の下では、控訴人が本件契約の履行をなし得なくなったのは主として控訴人の責に帰すべき事由によるものというべきであるから未だ事情変更の原則を適用すべき場合には当らず控訴人の解除の主張は理由がない。

四、よって、本件各請求は理由がないから、これを棄却した原判決は相当であり、本件各控訴は理由がないから棄却することとし、控訴費用の負担について民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 秋山正雄 裁判官 下村幸雄 福家寛)

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