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高松高等裁判所 昭和48年(行コ)3号 判決 1977年9月07日

愛媛県西条市神拝甲五一一番地の一七

控訴人

伊予西条税務署長

森武

右指定代理人

麻田正勝

藤田孝雄

加地淳二

安西光男

徳永孝雄

西原忠信

山下勉

同県東予市大字壬生川一一四番地

被控訴人

壬生川青果株式会社

右代表者代表清算人

安藤竹夫

右訴訟代理人弁護士

白石基

主文

原判決を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人らは、主文同旨の判決を求め、被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

第一被控訴人の主張

一  請求原因

(一)  本件課税処分の経過

被控訴人会社は、昭和三七年四月二七日、解散したものであるが、同年五月三一日、その残余財産が確定した。旧法人税法七条六項の規定によって当該期間を一事業年度とみなし、同法一三条一項一号の規定するところによって計算すると、清算所得金額は金二七七、七四三円の清算損(赤字)となる。そこで、被控訴人は、昭和三八年一月四日、控訴人に対し、納付すべき法人税額を零とする確定申告書(以下本件確定申告書という)。を提出した。

ところが、控訴人は、被控訴人に対し、同年一二月二七日付で被控訴人の会社解散による清算所得金額を金七、二八一、八三五円、納付すべき法人税額を金三、〇八七、二九〇円とする更正処分及び税額を金一、〇八〇、四五〇円とする重加算税賦課決定処分(以下両者を合して本件課税処分という。)をなし、同日付その旨の通知書(以下本件更正通知書という。)をもって、同月三〇日、被控訴人に通知した。そこで、被控訴人は、昭和三九年一月八日、異議申立てをしたところ、控訴人は、同年三月二四日、右異議棄却決定をしたので、被控訴人は、さらに高松国税局長に対し、同年四月二一日、審査請求をした。しかし、同国税局長は、昭和四〇年七月二九日、右審査請求棄却裁決をなし、同年八月七日、被控訴人にその旨通知をした。

(二)  処分の違法

しかしながら、本件課税処分は、次の理由により違法である。

1 理由附記欠の違法

本件課税処分の通知書(本件更正通知書)には、更正の理由が全く記載されていなかった。

ところで、被控訴人は、青色申告書提出承認を取消されたため当該事業年度の青色申告書が結果的に青色申告書以外の申告書とみなされたものであるが、このような場合における更正通知書については、旧法人税法三二条(青色申告に係る更正通知書の特則)が当然適用されるものと解すべきである。けだし、そのように解しなければ、課税庁は、更正に際して青色申告書提出承認を取消すことにより、右特則の適用をほしいままに回避できることとなり、青色申告について特に更正理由の附記を命じた法の精神は没却されてしまうこととなる。さらに、本件においては、青色申告書提出承認取消処分と本件課税処分に対し、同時に異議申立てを経て審査請求がなされ、同時に同一理由で棄却裁決がなされたのであるから、尚更右特則の適用を排除しうる余地はない。

2 実体的違法

被控訴人の会社解散による清算所得は、本件確定申告書記載のとおり金二七七、七四三円の清算損(赤字)であったから、控訴人がなした本件課税処分には、被控訴人の会社解散による清算所得を過大に認定した違法がある。

よって、被控訴人は、控訴人に対し、本件課税処分の取消を求める。

二  控訴人の主張に対する認否ならびに反論

(一)  控訴人主張事実二(二)1は認めるが、同2は争う。

(二)  内容の適法性の主張について

営業譲渡の対価は、金五〇〇万円であり、七五〇万円は愛媛農産の仲買人組合に対する貸付金である。

1 控訴人主張事実三(一)営業譲渡の経緯について

(1) 同1のうち、被控訴人の会社設立日が昭和三〇年三月一日であること、第七期中に土地を購入して市場建物を新築したこと、第六期末までの借入金は第四期末の三〇万円のみであったこと、被控訴人会社の貸借対照表によると各事業年度における利益と売掛金の推移が別表第二記載のとおりであることは認めるが、その余は争う。

しかし、被控訴人は、右土地購入及び建物新築のための資金借入に加えて、回収困難な売掛金の増大によって経営不振に陥り、会社解散の己むなきにいたったわけであって、単なる貸借対照表の数値だけで現実の経営状態を憶測すべきではない。

(2) 同2は争う。

被控訴人の会社解散当時、愛媛県において青果市場条例制定の機運にあたったことは事実であるが、当時市場の新設が事実上困難であったということはなく、むしろそのようなときにこそ、既得権益の確保を狙って新市場開設の画策が活発化するのである。

(3) 同3の(2)、(3)は認める。

2 控訴人主張事実三(二)譲渡対価の合意について

(1) 同1は争う。

(2)イ 同2(1)イ(イ)は認める(ただし周桑農協が五〇〇万円と七五〇万円を同時に検討したが、両者は不可分の関係ではない。)が同(ロ)は争う。

ロ 同2(1)ロ(イ)は争う。

元来、営業上の無形財産が生れるのは、営業の許可制又は特殊技術ないし立地条件などにより、営業の自由性が著しく制約される場合と、過去に形成された一定の取引関係が営業主体の変動に当然随伴することが客観的に十分期待できる場合に限られるところ、本件の場合は、そのいずれにも該当しない。被控訴人の会社解散当時、青果市場の開設は自由であり、市場経営については特殊技術が介在する余地はなく、また壬生川青果市場の所在地に格別有利な立地条件も考えられないから、いずれにしても営業上の無形財産が発生する余地はなかった。

控訴人の見解によると、譲渡された営業権の内容というのは、青果物販売委託者たる一定の生産者、右青果物の買受人たる仲買人、さらに一定の青果物小売又は卸売商人及び消費者と専属的ないし継続的に取引をなすことによって生ずる営業上の利益であるということになるが、右のうち商人及び消費者は、専ら仲買人と取引をなす者であって市場とは何らの関係も有しないから、結局、生産者、仲買人と市場との関係について検討すれば足りるのである。

ところで、譲渡処分の対象となるべき営業権は、一定の取引関係というような無形のものでも差支えないが、少くとも譲渡人が取引の相手方の意思にかかわりなく取引関係を自由に譲受人に受け継がせることが可能な場合でなければ営業権の有償譲渡ということは考えられない。そして、生産者と市場との関係は、いうまでもなく青果物の販売委託者と受託者の関係であるが、それは専ら仲買人の買受行為に依存するもので、仲買人をはなれて生産者だけが単なる立地条件などにより得意先として確保されるということは、市場の性質上あり得ないのであるから、これとの取引関係に客観的な経済価値が伴うようなことは到底考えられない。

ハ 同2(1)ロ(ロ)のうち、aは認めるが、bは争う。

ニ 同2(1)ロ(ハ)のうち、愛媛農産加工有限会社(以下愛媛農産という)が昭和三六年度において丹原青果市場(以下丹原市場という。)を買収したことは認めるが、その余は争う。

ホ 同2(1)ロ(ニ)のうち、丹原市場が個人経営であったことは認めるが、その余は争う。

丹原市場の仲買人は約一〇〇名であり、愛媛農産が右買収にあたり出捐した金一二五万円のうち、営業権の対価は金一〇〇万円であり、残金二五万円は右仲買人に対する助成金である。愛媛農産が丹原市場の買収に際して営業権の対価を支払ったのは、同市場の営業成績が良好であったことに基づくものであって、業績不振のため会社解散した被控訴人市場の買収条件と同一に論じることはできない。

ヘ 同2(1)ロの(ホ)、(ヘ)は争う。

ト 同2(1)ロ(ト)のうち、償却資産及び土地の帳簿価額が控訴人主張のとおりであることは認めるが、その余は争う。

土地の時価が三二〇万円であり、地上建物は老朽木造建物で、借地権を伴わないものとして建物だけを評価すれば殆んど無価値に等しく、ダイハツ三輪車二台は下取価格二台分八万円にすぎず、電話加入権は時価五万円、その他約八、〇〇〇円程度であり、以上が被控訴人所有の有形資産のすべてであるから、五〇〇万円という金額は有形資産だけの評価額よりはるかに高額であり、従って、営業組織体の譲渡代金として適正かつ妥当な額というべきである。

(3)イ 同2(2)ロのうち、壬生川青果仲買人組合(以下本件仲買人組合という。)の結成日(これは昭和三七年四月二七日以前である。)を除き、その余は認める。

ロ 同2(2)ハは争う。

ハ 同2(2)ニは争う。

被控訴人会社においては、仲買人は、その株主であるという一事によってのみ掌握されていたものであって、青果物売買の当事者(相手方)であるという関係以外に、会社設立後なお日の浅い壬生川青果市場としては得意先として客観的価値を生ぜしめるほど確実にこれを掌握していたわけではなく、むしろ被控訴人と仲買人の関係は会社解散によって当然消減するにいたる。当時、青果市場の開設が自由であったため、現に仲買人二一四名は、数ケ所で新市場を開設せんとする動きを示し、あるいは他の市場に走ろうとする仲買人が続出する傾向にあったから、壬生川青果市場とこれら仲買人との間は極めて不安定な関係で、第三者にこれを受け継がせるなどということは先ずできない相談であり、愛媛農産においてこれら取引先を当然承継しうることは到底期待しえなかった。

このような実情であったから、買収施設を利用して青果市場を経営せんとする愛媛農産としても、右仲買人らの動向を拱手傍観するときは仲買人の離散により市場経営が不可能となるおそれがあった。そこで、右仲買人の離散を防止し、あわせて長期間継続してその協力を要請確保するために必要己むを得ない措置として、被控訴人会社とは無関係に、仲買人助成の目的で七五〇万円を出捐することになったのである。

ニ 同2(2)ホは争う。

控訴人主張のように、売掛金の多寡を基準にすると、不誠実な仲買人を利することになるから公平上問題とならず、また一律分配は仲買人の市場に対する協力度合が全然考慮されない結果となるので、各仲買人の持株数を一応協力度合の尺度としてこれを分配することが差当り最も公平であると考えたわけであって、仲買人の協力の度合によっては助成金の交付を拒否し、又は減額することができる建前になっているから、七五〇万円を目して残余財産の分配であるというのは当らない。

ホ (イ) 同2(2)へ(イ)は認める。

(ロ) 同2(2)ヘ(ロ)のうち、被控訴人が申告期限後である昭和三八年一月四日に本件確定申告書を提出したこと、控訴人主張の貸借対照表によると分配可能財産が現金三、三五六、一五六円のみであることは認めるが、その余は争う。

しかし、控訴人主張の不足額一四三、八四四円は、控訴人会社代表者たる安藤竹夫が責任上個人として補填支出したものであって、控訴人主張のように七五〇万円のうちから支出されたものではない。

ヘ 同2(2)ト(イ)のうち、別表第四記載の一一名が昭和三七年五月一六日同表記載のとおり合計金六一四、〇〇〇円の交付を受けたことは認めるが、その余の事実及び同2(2)ト(ロ)は争う。

右別途分配金六一四、〇〇〇円は、被控訴人会社の役員としての一一名に分配したものではなく、本件仲買人組合の役員に対する功労金として分配したものであり、かつ同組合の役員全員に分配されなかったからといって、七五〇万円が被控訴人会社に帰属する残余財産であるとする根拠にはなり得ない。

ト 同2(2)チは知らない。

(4)イ 同2(3)イは認めるが、ロは争う。

ロ 同2(3)ハは争う。

本件仲買人組合は、昭和三七年四月二七日以前から事実上存在しており、また園延房太(同人が初代組合長であったことは認める。)は、同年五月中すでに事実上辞任していたものである。

ハ 同2(3)ニは争う。

ニ 同2(3)ホのうち、本件仲買人組合が昭和三七年五月九日以前から株式会社香川相互銀行壬生川支店に壬生川青果園延房太名義の普通預金口座No.1460(以下園延口座という。)を有していたことは認めるが、その余は争う。

ホ 同2(3)へのうち、「壬生川市場経営に関する契約書」(以下本件契約書乙という。)の作成日及び日付の記載が控訴人主張のとおりであることは認めるが、その余は争う。

へ 同2(3)トのうち、七五〇万円の貸付金が無利息であること、返済期及び返済方法が貸付日の一年後から一〇回に分割して毎年七五万円宛を返済することになっているが、右返済金と相殺するという方法で本件仲買人組合に同期間同額の助成金を交付することになっていることは認めるが、その余は争う。

ト 同2(3)チは争う。

本件仲買人組合結成の目的は、同組合の責任において、愛媛農産市場に対し預託保証金(仲買権利金)の一括納付をさせることによって、市場と各仲買人との煩雑な個別的関係の発生を回避し、市場の売掛金回収の確保を図ったものであるから、それ自体合理的かつ経済的な存在理由があるので、本件七五〇万円の助成金も便宜上本件仲買人組合に一括交付して処理させたものであって、決して偽装手段ではない。

(5) 同3は争う。

3 控訴人主張事実三(三)実質所有者に対する課税について

同主張事実は争う。

4 控訴人主張事実三(四)租税回避行為について

同主張事実は争う。

5 営業譲渡の対価以外の勘定科目について

控訴人主張事実三の(五)ないし(一一)は認めるが、(一二)は争う。

6 課税評準及び税額の算出過程について

控訴人主張事実四(二)のうち、被控訴人が本件営業譲渡契約の代金の一部を隠ぺいしたことは争う。

7 控訴人の予備的主張(実質所得者に対する課税)について

控訴人主張事実六(一)は争う。

第二控訴人の主張

一  被控訴人主張請求原因事実一(一)(本件課税処分の経過)は認める。

二  本件課税処分の適法性(一)(手続的違法の主張について)

(一)  本件更正通知書に更正の理由が附記されていなかったことは認める。

(二)  しかしながら、本件更正通知書には、次の理由により、更正の理由を附記する必要がなかった。

1 控訴人は、被控訴人会社の昭和三七年四月二八日から同年五月三一日までの事業年度(以下本件係争年度という。)についての青色申告書提出承認を昭和三八年一二月二七日付で本件係争年度の開始の日に遡って取消す旨の処分(以下本件承認取消処分という。)をなし、同日付その旨の通知書(以下本件取消通知書という。)をもって、同月三〇日、被控訴人に通知をした。(本件更正通知書と本件取消通知書は同時に被控訴人に到達した。)。そこで、被控訴人は、これを不服として、昭和三九年一月八日異議申立てをしたところ、控訴人が異議棄却決定をしたので、被控訴人は、さらにこれを不服として同年四月二一日、高松国税局長に対し、審査請求をした。しかし、同国税局長は、昭和四〇年七月二九日、審査請求棄却裁決をした。

2 ところで、旧法人税法二五条八項によれば、右承認取消の効果は取消事由の発生した事業年度の開始の日に遡って生じ、以後その提出した青色申告書は青色申告書以外の申告書とみなされる。従って、控訴人が被控訴人会社の清算所得の確定申告についてなした更正処分は、青色申告に係らない法人税の課税標準について更正したものとなり、旧法人税法三二条を適用しうる余地はない。

3 そして、国税通則法(昭和四二年法律一四号による改正前のもの-以下同じ。)二八条二項には、更正通知書に記載すべき事項が列記されており、本件更正通知書には、いずれも右法定記載事項が明記されていたのである。

よって、本件更正通知書には理由附記欠の瑕疵があるということはできないから、本件課税処分には被控訴人主張のような取消事由たる手続的違法は存しない。

三  本件課税処分の適法性(二)(実体的違法の主張について)

以下に詳述する営業譲渡の対価一、二五〇万円と、後記(四)ないし(一一)を加算減算したものが控訴人主張の被控訴人の清算所得である。

(一)  営業譲渡の経緯

1 被控訴人は、その各確定申告書添付の貸借対照表によると、別表第二記載のように、昭和三〇年三月一日の会社設立以来順調に営業成績をあげ、殊に第七期においては土地を買受けて市場建物を新築しており、他方外部負債たる借入金は、第四期末における僅か金三〇万円を除き第六期末まで存しなかったのである。そして、経営規模の拡大に伴って仲買人に対する売掛金が増加(債権回収状況の悪化)しているけれども、この売掛金の金額を前記貸借対照表に示されている資産と負債のバランスから常識的に判断しても、いわゆる身売りをしなければならない程多額なものであったとはいえない。被控訴人会社は、全体的にみれば均衡のとれた財政状態を維持し、健全な経営を続けていたものである。

2 愛媛県青果市場条例は、昭和三七年一〇月二五日に制定公布されたが、これより先、同県下の業者間では青果物流通機構の合理化(既存青果市場の育成強化と乱立防止)のために適正な青果市場条例制定の要望が強かった。そこで、同県は、昭和三六年五月頃から、右条例の制定について研究をはじめるとともに、青果物業者に対する指導・監督の一環として県下各地区の商人市場、農協市場等を統合させるべく行政指導を行っていたので、同県下では市場の新設は事実上困難な状況にあった。かかる情勢下にあって、愛媛農産は、昭和三六年度に先ず丹原市場を買収したのであるが、さらに周桑郡内における青果物流通機構のすべてを掌握し市場経営による利益の独占を図るために被控訴人会社を買収したわけである。

3(1) 営業譲渡においては、後記のような機能的財産の移転を目的とする当事者間の合意(債権契約)の成立を必要とし、株式会社及び有限会社にあっては、株主総会又は社員総会の特別決議を必要とする(商法二四五条一項一号、有限会社法四〇条一項一号)。この場合、かかる決議を条件とし、予め営業譲渡契約を締結することは差支えないと解されている。

(2) ところで、本件においては、昭和三七年三月末頃、被控訴人の代表取締役安藤竹夫及び愛媛農産の代表取締役玉井恒栄との間において営業譲渡契約(以下本件営業譲渡契約という。)が締結され、続いて被控訴人会社は、同年四月二七日開催の解散決議を行った株主総会の特別決議をもって右営業譲渡を議決承認したものである。

(3) 周桑農協の昭和三九年度通常総会提出議案書中に、壬生川市場につき「昭和三七年四月一日営業譲渡を受けた。」と記載されている。また、同月一六日開催の理事会議事録には、「壬生川青果市場の買収に関しては先般役員会において一任されたとおり事務当局において決定された」旨の報告がなされている。

譲受人である愛媛農産において、本件営業譲受承認がいつなされたか定かでないが、前記のように周桑農協の役員会において決定されているのは、愛媛農産は、その株主が右農協と訴外戸田武彦のみであって、その運営資金も同農協に仰いでいる、いわゆる子会社であり、その役員も同農協の役員が兼務となっているので、従来から愛媛農産においては何らの決議もせず、周桑農協における決議をもって愛媛農産の社員総会の決議に代えることとされていたことによるものと認められる。

(二)  譲渡対価の合意

1 被控訴人と愛媛農産は、本件営業譲渡契約において、その対価を金一、二五〇万円と合意した。

2 しかし、被控訴人は、昭和三七年四月二七日開催の株主総会の議事録の記載のとおり営業譲渡の対価は金五〇〇万円にすぎず、七五〇万円は、仲買人組合に対する貸付金であると主張する。しかし以下の理由により右金七五〇万円も本件営業譲渡の対価であると認められる。

(1)イ(イ) 愛媛農産は、前記三(一)3(3)記載のとおり、周桑農協のいわゆる子会社であって、被控訴人会社買収に必要な資金もも周桑農協に仰いでおり、同農協は、右買収にあたり、金七五〇万円の出捐を、終始、資産譲受代金五〇〇万円と密接不可分の関係において検討していたものであり、他方、被控訴人会社の内部の大勢も、金七五〇万円の交付を受けられなければ会社解散を承認しない意向であった。

(ロ) そこで、右営業譲渡に対する対価の支払については、譲受人である愛媛農産において、土地、建物等の物的設備の対価を五〇〇万円と、その他のいわゆる営業権といわれる出荷者(生産者)、買受人としての仲買人、市場経営の専門的知識技術を有する従業員(例えばせり人)等を含めた価格を七五〇万円としてその支払方法を振り分け、前者の五〇〇万円については昭和三七年四月四日、後者の七五〇万円については同年五月一二日に支払う旨決定している。

ロ そして、金七五〇万円という金額は、次の理由により本件営業権の対価として妥当なものである。

(イ) 本来、営業譲渡は、営業財産である土地、建物又は権利のみならず、いわゆる事実関係をも包含した組織的一体としての財産の譲渡がなされることを指称し、本件においては、土地、建物等の物的設備のほか、地理的位置、得意先関係、仕入先関係など超過収益力をもたらす営業権を含めた一体としての営業財産の移転をいうのである。

ところで、営業権は、無形固定資産の一種とされ、理論的には純資産価値評価法、株式市価基準法、超過収益還元法等の評価方法が唱えられているが、その客観的価値を判定することは実際上必ずしも容易ではない。しかし、実際の売買にあたっては、当事者の経済力の差異などにより多少影響を受けるとしても、それは利潤を求めてやまない経済人間における取引であるから、特別の事情のない限り、そこには自ら公正な価格が形成される。

(ロ)a 青果市場の経営形態は、市場が出荷者(生産者)から青果物販売の委託を受け、仲買人相手に受託青果物を「せり」にかけ、仲買人との間にその売買契約が成立すると、仲買人から購入代金について現実に支払があると否とにかかわらず、市場は売買代金額からその何%かを手数料として控除したうえ、その残額を出荷者に交付し、地方仲買人は市場から買受けた青果物を商人や消費者に売却するわけであるが、市場に対する購入代金の支払は、買受日から三日以内にしなければならないのである。

b 従って市場を経営することにより、市場は一定範囲の生産者を青果物販売の委託者として掌握するとともに、仲買人を「せり」の相手方として、すなわち受託青果物を販売するという市場の営業目的を遂行するため不可欠の相手方として当該市場に専属せしめることになり、さらに、仲買人を通じて一定範囲の小売商人(卸売商人)とか一般消費者等をもその支配下に置くことができる。かような関係は、市場の存立上不可欠で、市場経営により逐次累積していくものであって、いわゆる営業の事実上の利益として市場自体の経済的価値を著しく増加させ物的設備もそれ自体の経済的価値以上の価置を発揮することになるのであって、これらが渾然一体となったものとして市場を評価することによって、はじめてその経済的価値を正当に把握することができるのである。

そこで、青果市場の買収にあたっては、譲受資産の対価のほかに、営業権の対価も支払われるのが通常の取引慣行となっているのである。

(ハ) 愛媛農産は、昭和三六年六月、丹原市場を買収した後、壬生川青果市場をも買収すると周桑郡内の壬生川・丹原地方のすべての青果物を統制することができ、品目の調達、価格の安定上有利であると考え買収交渉を開始した。その後交渉の際の被控訴人会社の代表者の一人でもある一色喜三郎らから「市場を譲渡するなら仲買人にも色をつけねば別に自分らで市場を作る」というような話も聞かされ、他方、愛媛農産としても多数の仲買人がいる壬生川青果市場にその価値を認めて買収するものであることから、右市場の譲渡価格については互いに種々の交渉、駆引がなされ、その結果、一、二五〇万円と決定されたものであるから、右金額をもって合理性をもった客観的価値に合致する適正妥当な価格であるというべきである。そのうえ、壬生川青果市場の仲買人が全員株主であったから、右七五〇万円は営業権(人的要素としての)を包括的に譲渡したことによる対価であったというべきであり、また、この点に関し、丹原市場と異なるところでもある。

(ニ) なお、丹原市場は、個人経営であって、その仲買人も約四〇名(壬生川市場の二一四名の約一八%)にすぎない小規模の青果市場であった。ところが、愛媛農産は、この丹原市場の買収にあたり、その営業権の対価として金一〇〇万円を出捐しているのである。

そうすると、本件営業譲渡の対価のうち、資産譲渡の対価が後記(ト)のとおりほぼ金五〇〇万円に見合う以上、丹原市場に比し大規模な被控訴人会社買収についての営業権の対価を七五〇万円とみても不当に高額であるとはいえない。

(ホ) また、七五〇万円という金額は、後記(ヘ)の年間予想売上高七、五〇〇万円の一〇%に相当する。売上高が多いということは、それだけ生産者からの販売委託数量が多く、そのうえ、生産者と仲買人を確保し経営が安定していることを示すのである。

従って、売上高を基準にして七五〇万円という金額を算出したということはとりもなおさず、営業権をある一面から正当に評価したものといえるのであって、市場の独占による利益を加味した営業権の評価として極めて妥当なものである。

(ヘ) 被控訴人会社の受託手数料は、自昭和三六年九月一日至昭和三七年四月二七日事業年度(第八期)において二、三七五、〇一六円であり、手数料の割合が売上金額の六%であったから、買収前の年間売上金額は、次式のとおり約六、〇〇〇万円である。 2,375,016÷0.06=39,583,600円 <省略>

そして、買収後は、周桑郡内において他の市場が事実上存在しないこととなるとともに、経営規模が増大し、生産者との直接取引なども増大することなどから、当初、愛媛農産としては、七、〇〇〇万円前後と予測していたが、その後の交渉の結果、最終的には売上高を七、五〇〇万円と予測し、その一〇分の一にあたる七五〇万円を愛媛農産が出捐する旨約するにいたったものである。

(ト) 被控訴人の会社解散直前の有形資産の時価は、次に述べるとおり合計五〇〇万円以上であった。

a 土地については帳簿価格は金二、八五四、四五〇円であるが、買収当時の価額は金三二〇万円と評価すべきである。(乙第一号証)

b 建物及び設備の帳簿価格は、金二、〇四〇、八七五円である。そして、右建物は、昭和三六年一月、金二、二四五、五八二円で新築されたものであり、営業譲渡まで僅か一年四ケ月しか経過していないので、時価は殆んど低下していなかったと考えられる。そうすると、法定耐用年数により減価償却した残額である前記帳簿価格は、ほぼ時価に等しいといえる。

c 車輛運搬具、什器備品の帳簿価格は金三六五、二四八円である。右資産は、青果市場経営上不可欠のものであり、実際にも営業の用に供されていたものであるから、その価値が零であるということはできない。

(2)イ 尤も、被控訴人会社の昭和三七年四月二七日開催の株主総会の議事録には、被控訴人所有の土地建物その他一切の財産を金五〇〇万円で愛媛農産に譲渡する、仲買人育成のため愛媛農産より年間売上高を七、五〇〇万円と予定し、その一分七五万円の一〇年分七五〇万円を仲買人組合において借受け、これを組合員に貸付ける旨決議されたとの記載がなされている。

ロ ところで、右イにいう仲買人(組合員)は、同時に被控訴人会社の株主である。そして、被控訴人の会社解散当時の株主は、別表第三記載のとおり合計二一四名である。そして、右株主のうちNo.215.72.83.112.131.137.144.152.176.203.210.の一二名は、解散と同時に仲買人を廃業した。

その余の仲買人(株主)二〇二名は、昭和三七年四月二七日、本件仲買人組合を結成した。

ハ 壬生川青果市場の仲買人であった者(被控訴人会社の株主)は、愛媛農産が譲受けた後の市場の仲買人となる権利を有していたから、右市場が譲渡されたことによって失ったものは株主としての地位のみであって、仲買人としての地位は何ら失っていないのであるから、右市場が譲渡されたからといって、仲買人に何らかの対価が支払われる理由はあり得ないことであって、対価が支払われたとすれば、右失った株主としての地位、すなわち会社の残余財産に対する分配として支払われたものというべきである。また、実際に右市場の譲渡契約がなされた時点では本件仲買人組合は結成されていなかったのであるから、同組合が右七五〇万円の貸付を受けることはあり得ない。

ニ 愛媛農産は、資本力、営業規模ともに大きくかつ周桑郡内において生産者の大部分を掌握していたので、壬生川市場の仲買人らが新たに市場を開設しても、かかる愛媛農産に太刀打できないことは明白であって、もし右仲買人らが愛媛農産(壬生川市場)所属の仲買人にならなければ、周桑郡内には他に市場が存在しないから、右仲買人らには、自ら集荷するか、愛媛農産の仲買人と取引するか、又は遠隔地の市場に入るかの方法しか残らないのである。

従って従前に比し多少条件が悪くなっても、愛媛農産の仲買人として残らざるを得ず、右仲買人らが愛媛農産(壬生川青果市場)から離脱するというようなことは考えられない。そして、このことは、本件買収にあたり、当然の前提となっていたものと考えられる。

なお、先の丹原市場買収の際には、まだ近くに規模の大きい被控訴人(壬生川青果市場)があり、丹原市場所属の仲買人が離散することも考えられたので、二五万円の助成金を出さざるを得なかったものと考えられる。

仲買人が客であり、仲買人を助成することが青果市場を健全に運営して行くために必要であることは勿論であるが、仮に助成金を出すとしても、取引実績等市場への協力度合をみたうえで金額を定めて助成するのが通常であり、まだ実現していない取引基準によって事前に助成金額を決定出捐すべきなんらの理由も存しない。

ホ(イ) また、事実、市場の仲買人に対する売掛金を回収し、かつ仲買人を助成する目的で金七五〇万円が出捐されたのであれば、該金員は売掛金の多寡を基準として分配するか、あるいは一律に同額で分配すべきである。

(ロ) また、廃業により、譲渡後の壬生川市場の仲買人になる可能性を有しない者には該金額を分配すべき理由はない。ところが、被控訴人は、昭和三七年四月一日現在すでに廃業していた前記ロの一二名を含む仲買人(株主)らに対し、同年五月一六日、貸付金の分配と称して、合計金六、八二五、二五〇円を持株数に応じて(出資金額の一・九五倍の割合)分配(第二回分配)している。

(ハ) さらに、仲買人の中には生産者(農家)が多数いるが、これらの者は、被控訴人の会社内規により、自家用品に限って「せり」に参加することが許されており、市場での買入れが少いので、これらの者に助成金を出す必要がないのに、被控訴人は、前同様持株数に応じた金額を分配している。

(ニ) たとえば、別表第三No.96は、生産者であるが、大口出資者(一七〇株)であったので、金一六五、七五〇円の高額の分配金を受領し、他方、同表No.89は仲買人であって、多額の取引にもかかわらず僅か金七八、〇〇〇円の分配金しか受領していないのである。

(ホ) 結局、右仲買人らは、被控訴人会社の株主であったからこそ、その残余財産(清算所得)の分配にあずかることができたわけである。

ヘ(イ) 被控訴人は、これより先、昭和三七年五月一二日、第一回分配として、同年四月二七日現在における株主(別表第三記載の二一四名)に対し、歩戻し預り金の未払額金三八七、九三一円、預り金の利子未払金四六、四一七円及びび借入金未払額金一、一六九、九八四円、小計金一、六〇四、三三二円とさらに解散時の払込済資本金三五〇万円との合計金五、一〇四、三三二円を分配している。

(ロ) 他方、申告期限後である昭和三八年一月四日被控訴人が提出した本件確定申告書添付の昭和三七年五月三一日現在(残余財産確定の日)における貸借対照表によると、分配可能財産は現金三、三五六、一五六円となっているから、これを三五〇万円から控除した残額一四三、八四四円については資本金額の払戻しができない筈のものである。しかるに、前記(イ)のように、被控訴人は、資本金額の全額を分配しているのであるから、その財源としては七五〇万円がこれに充てられたものと考えざるを得ず、このことはとりも直さず七五〇万円は、被控訴人会社の残余財産として処理されたことを意味するのである。

ト(イ) 被控訴人は、前記ホとは別に、解散当時の役員等に対し、昭和三七年五月一六日、功労金と称して、本件仲買人組合に対してでなく、被控訴人会社に対する貢献度によって、別表第四(別表第三の「役員賞与」欄)記載のとおり、合計金六一四、〇〇〇円を分配している。

(ロ) このように、七五〇万円が真実本件仲買人組合に属するものであれば、このうちから被控訴人会社の役員らが持株数の割合によらない金員の分配をうけることはできない筈のものであるのに、前記金六一四、〇〇〇円が分配されているということは、金七五〇万円が被控訴人会社において自由に処分しうる残余財産であったことを如実に示している。

チ また、被控訴人会社の法人株主として仲買業を営んでいるもののうち、帳簿組織を有し比較的正確に記帳していると認められる次の三名について調査した結果、この三名は、第一、二回分配金を、出資金の払戻及び残余財産の分配として受領していることが明らかである。

(イ) 株式会社真田商店(No.161)は、被控訴人から、前記ホ(ロ)ヘ(イ)に相当する払戻金として、昭和三七年五月一五日、別表第三の「歩もどし未払金」欄記載の金六一円、同「出資金」欄記載の金一五、〇〇〇円、同「BK第二回支払」欄記載の金二九、二五〇円を受領し、右金一五、〇〇〇円を出資金の払戻残額を雑収入と記帳している。

(ロ) 有限会社金子屋商店(No.81)は、右同様同月一四日、同「出資金」欄記載の金一七、五〇〇円を受領し、これを出資金の払戻として記載している。

(ハ) 周桑農産加工農業協同組合(No.110)は、右同様同月一六日、同「歩もどし未払金」欄記載の金一、〇五五円、同「出資金」欄記載の金一〇、〇〇〇円を受領し、右金一〇、〇〇〇円を出資金の払戻、右金一、〇五五円を雑収入として記帳している。

(3)イ 被控訴人から提出されている七五〇万円に関する契約書(甲第五号証、以下本件契約書甲という。)によれば、本件仲買人組合は、愛媛農産から無利息で金七五〇万円の貸付を受け、昭和三八年五月三一日から毎年一回五月三一日限り一〇年間にわたり金七五万円あて分割返済することとし、他方、愛媛農産は、右貸付金の分割返済を受ける都度同組合に対し各同額の助成金を分割交付することとし、その交付方法は右分割返済金と相殺することにより現実の弁済を免除することが、それぞれ約されている。

ロ しかしながら、右七五〇万円は、後記3(2)チのとおり二〇〇万円を保証金として相殺したのち、同イのとおり五〇万円を昭和三七年五月七日に、同ロのとおり残額五〇〇万円を同月一二日に支払ずみであるにもかかわらず、その後である同月三一日付で本件契約書甲が作成されていることは、同契約書が何らかの意図の下に営業権の対価であるべきものを貸付金と仮装するために作成されたものといえるのである。

ハ さらに、本件仲買人組合は、前記(2)ロのとおり昭和三七年四月二七日に結成され、初代組合長に園延房太が就任したが、同年七月頃同人は組合長を辞任し、第二代組合長に真鍋貞次郎が就任した。ところが、本件契約書甲の記載をみると、同年五月三一日付で組合長真鍋貞次郎名義で契約が締結されたことになっており、右契約書は全く信用できない。

ニ 本件貸付金七五〇万円は、本件契約書甲によれば、本件仲買人組合においては現実にこれを返済すべき義務を負わなかったのであり、その実体は、はじめから愛媛農産が本件仲買人組合に七五〇万円の助成金を交付するということである。そうすると、貸付契約を仮装し、結局、右金七五〇万円は、営業権の対価でありながら、その支払方法ないしその使途について愛媛農産と被控訴人との間に合意がなされたものと解するのが合理的である。右七五〇万円は、昭和三七年五月一六日に分配されているにもかかわらず、その領収書(甲第一五号証の一以下)の日付が同月三一日となっており、一部の領収書では受領者の氏名と印鑑が異っており、受領者の一人である別表第三No.176は当時すでに壬生川町内に居住していなかった等の事実から、これら仲買育成資金借用証は誰かが一括して作成し、貸付行為を仮装したものと考えられる。さらに、同年四月一日現在の株主であって、右助成金の分配を受けた者のうちにはその後一〇年以内に廃業した者が多数おり、廃業者は、以後育成資金の交付を受ける資格を失うこととなるから、その日までに返済金と相殺された残額について返済しなければならない筈のものであるのに、これを返済した者はいない。

ホ 本件仲買人組合は、設立後昭和三七年五月九日以前から園延口座を有していたが、同月一〇日愛媛農産より交付を受けた僅か一〇万円の助成金については現金出納簿に記帳しているのに、遙かに多額な七五〇万円につき、同組合が愛媛農産から貸付金として受領したことを示す会計処理は見受けられない。

ヘ 愛媛農産と本件仲買人組合との間の「壬生川市場経営に関する契約書」(甲第八号証、以下本件契約書乙という。)は、同年四月二七日に作成されているが、日付のみ同月一日とされている。

従って、買収交渉の過程で、助成金とか貸付金とかの名目で、仲買人に金員を交付するかどうかが検討され、結局、その金額が七五〇万円ということに落着したのであるが、その段階においては、まだ仲買人組合なるものが結成されていなかったことを考えると、買収の交渉担当者がほしいままに仲買人組合なる名義を使用して、買収対価の一部を本件仲買人組合に交付するという形式をとったことが窺われる。

ト また、たとえ貸付という行為が形式上行われたとしても、前記イのとおり、本件仲買人組合としては、右貸付契約上の債務の履行として、元利金の返済その他いかなる名目の金員も愛媛農産に対して支払うことを要しないこととなっている。従って、愛媛農産としては、貸付金の返済を受けるという意思を欠いており、貸付という形式をとったとしても、貸付行為としては無効である。

チ 尤も、愛媛農産と仲買人との間に本件仲買人組合なるものを介在させ、しかも貸付行為と助成金の交付という二つの行為(税法学上の多段階行為)を行わざるを得ない合理的理由が存する場合には、各行為は適法かつ有効になされたものといわざるを得ないのであるが、本件においては、そのような特別の理由は全く見出すことができない。従って、前記イのような形式がとられたのは、七五〇万円を買収対価として被控訴人会社が取得し、しかるのちこれを株主たる仲買人に分配するという実体を隠ぺいするためであったといわざるを得ない。

以上のとおり、愛媛農産の本件仲買人組合に対する七五〇万円の貸付は仮装行為として無効であり、右七五〇万円は、本件営業譲渡契約の対価の一部をなすものといわざるを得ない。

3 次に、愛媛農産が支出した営業譲受代金の流れをたどって、金一、二五〇万円の全額が本件営業譲渡契約の代金であることを明らかにする。

(1) 争いのない対価五〇〇万円の動きについて

イ 愛媛農産は、昭和三七年四月四日、周桑農協から金五〇〇万円を借受け、同日これを株式会社愛媛相互銀行丹原支店の安藤竹夫名義の普通預金口座No.2381(以下安藤口座甲という。)に入金(内金三〇〇万円は電信振込、内金二〇〇万円は現金入金)した。なお、右口座は、後記(2)トのとおり被控訴人会社のものである。

ロ そして、同月九日、右口座から金一〇〇万円が現金で出金され、内金九六一、六五三円が同日株式会社香川相互銀行西条支店(もと壬生川支店)の壬生川青果株式会社矢野勇吉(取締役)名義の普通預金口座1383(以下矢野口座という。)に入金された(残金三八、三四七円の使途は不明である。)。

ハ ところで、矢野口座は、被控訴人のものであって、このことは、右口座の普通預金元帳の印鑑欄に「壬生川青果株式会社代表取締役印」の印章が押印されており、また、本件確定申告書添付附属明細書の「預貯金の内訳書」には、昭和三七年三月三一日現在の前記ロの壬生川支店の普通預金として金二三二、〇一七円と記載されていて、これが右矢野口座の普通預金元帳の同日現在の預金残高と一致していることから明らかである。

ニ 次に同年五月七日、安藤口座甲から残りの金四〇〇万円が振替出金され、一亘株式会社愛媛相互銀行丹原支店の自行宛当座預金口座に振替入金されたのち、同支店長振出小切手により、同日、全額矢野口座に入金された。

(2) 本件争点である対価七五〇万円の動きについて

イ 愛媛農産は、昭和三七年五月七日、周桑農協から金五〇万円を借受け、同日、これを矢野口座に現金で入金した。

ロ 次に、愛媛農産は、同月一二日、周桑農協から、五〇〇万円を借受け、同日、これを安藤口座甲に振替入金した。

ハ ところで、同日、右口座に振替入金された金額は、右五〇〇万円を含めて八五〇万円であり、内金三五〇万円は、同月九日、矢野口座から出金され、(株式会社香川相互銀行壬生川支店の別段預金口座、株式会社愛媛相互銀行壬生川支店の本支店勘定口座、右愛媛相互銀行丹原支店の別段預金口座を順次経由)、同月一二日、安藤口座甲に入金されたのである。

ニ ところで、右五五〇万円が真実本件仲買人組合に対する貸付金であるならば、当時すでに同組合は園延口座を有していたのであるから、わざわざ被控訴人会社の預金に利用されている安藤口座甲に入金する必要はなかった筈である。

ホ 次に、昭和三七年五月一四日、矢野口座から金六〇万円が現金で出金され、内金五九万円が同月一五日安藤口座に入金されている(残金一万円の使途は不明である。)

ヘ また、同月一六日、安藤口座甲に金三八、九七三円が現金で入金されている。これは、前記2(2)ロの株主二一四名に対する第二回分配金(総額金六、七八六、二五〇円)の一部(後記ヌの一七九名分)金六、〇七六、四四九円を出金するための不足額金三八、九七三円に充てるために入金されたものと考えられるが、この資金の出所は明らかでない。しかし、その大部分は、前記3(1)ロ(かっこ書部分)の金三八、三四七円が入金されたものと推認される。

ト このように、安藤口座甲の普通預金と矢野口座の普通預金は、銀行間で多数の振替操作が行われているけれども、右操作は全く原因を伴わないものであるし、安藤口座甲には安藤竹夫個人のものと考えられる金銭は入金されておらず、その個人のものと考えられる金銭は後記ルの別口座(安藤口座乙)に入金していることからみて、安藤口座甲の普通預金も被控訴人会社のものであることが明らかである。

チ 次に、七五〇万円から前記イ、ロの合計金五五〇万円を控除した残額金二〇〇万金についても本来ならば、愛媛農産から被控訴人に対し直接支払われるべきものであるが、双方の合意に基づき、現実の支払に代えて、次のとおり決済が行われている。

(イ) 被控訴人が壬生川市場を経営していた当時、売掛金の回収が滞りがちであったところから、愛媛農産は、同市場買収後においては、本件仲買人組合にその支払責任を負わせることを企図し、ここに、愛媛農産と被控訴人は、本件契約書乙をもって、引続き壬生川市場にのこる仲買人に金一万円あての仲買権利金(保証金)を愛媛農産に預託すべき義務を負わせ、被控訴人が仲買人に代って愛媛農産にこれを一括立替預託する旨合意した。

(ロ) そして、愛媛農産は、被控訴人との間に、右(イ)の仲買人数を二〇〇名と予定し、その仲買権利金合計金二〇〇万円に相当する対価の支払を留保してこれを仲買権利金に充て、一方、被控訴人は、各株主に残余財産を分配する際に、仲買権利金預託義務を負担する仲買人から各一万円を控除した残額を分配することとし、結局、現実の支払にあたっては、七五〇万円から右二〇〇万円を控除した五五〇万円を支払う旨合意したものである。

(ハ) そして、被控訴人は、後記リ(ロ)のとおり二〇二名の仲買人から金一万円あて合計金二〇二万円を仲買権利金の名目で徴収している。

リ(イ) そこで、第一回分配金の支払についてであるか、別表第三の「第一回分配」欄記載の各金額を分配することとし、売掛金との相殺、現金による支払等により決済した小数の株主を除き昭和三七年五月一二日、安藤口座甲から金三、〇五二、五二四円が振替出金され、同日、株式会社愛媛相互銀行丹原支店の自行宛当座預金口座に振替入金され、同日から同月一六日にかけて、同支店振出の小切手で合計右同額の支払がなされた。(この内の大部分である組合員、株主として残る者には仲買権利金一万円と組合費五〇〇円を控除している。)なお、各株主に対する支払額(小切手金額)は、別表第三の「BK第一回支払」欄記載の金額である。

(ロ) そして、被控訴人は、右(イ)により第一回分配金額と対当額で相殺しなかった小数の者からは現金で、それぞれ仲買権利金各一万円宛を徴収し右権利金徴収額は(イ)の相殺によるものを併せ、合計二〇二万円である。

ヌ 次に、第二回分配金の支払についてであるが、別表第三の「第二回分配」欄記載の各金額を分配することとし、現金支払、売掛金との相殺により決済した者等を除く一七九名の株主については、昭和三七年五月一六日、安藤口座甲から金六、〇七六、四四九円が振替出金され、同日、前記リ(イ)の自行宛当座預金口座に振替入金され、その頃同支店振出の小切手で、各株主に、合計右同額となるように支払われた。右各株主に対する支払額(小切手金額)は、同「BK第二回支払」欄の金額である。なお、第二回分配金が資本金額三五〇万円の一・九五倍に相当する金六、八二五、〇〇〇円に一致せず、金六、八二五、二五〇円となっているのは、No.104の分配分額が二五〇円超過したためである。

ル 安藤竹夫は、右丹原支店に、別途個人名義の普通預金口座No.1679(以下安藤口座乙という。)を昭和三七年四月四日開設し、同年六月二四日解約したのであるが、その間に、自己個人に対する第一回分配金から仲買権利金と組合費を控除した残額金一六四、七二二円、第二回分配金二一九、三七五円をこれに入金している。

(三)  実質所得者に対する課税

愛媛農産から支払われた七五〇万円は貸付金ではなく本件市場買収の対価であることは前述のとおりであるが、仮に右七五〇万円が貸付金であったとしても、その貸付金が被控訴人会社の清算所得としてその株主に分配されており、また、右七五〇万円が本件仲買人組合を当事者として貸付けられたものとしても、仲買人のすべてが株主であるところから、結局のところ、被控訴人会社の利益に帰せしめられているのである。

すなわち、愛媛農産と本件仲買人組合との間における当該貸付行為は、その後分割返済される都度助成金の名目の金員と相殺ないし債務免除といった法律形式をとっているものの、その実体において、経済的観察からすれば当該七五〇万円の経済的利益は被控訴人に帰属し、被控訴人会社がその経済的利益を享受したものというべきである。従って、このような場合においては、被控訴人が市場を譲渡した結果七五〇万円の所得を得たものとみるべきであり、被控訴人が右金員につき納税義務を負うべきは当然であって(旧法人税法一一条)、以下その理由を詳述する。

1 被控訴人は、右七五〇万円が愛媛農産から本件仲買人組合への貸付金であると主張するけれども、前記三(ニ)2(3)イ、へ記載のとおり右金員を一〇年間にわたり分割返済する都度同額の助成金の交付を受けることとしているので、実質上右七五〇万円は貸付金であるとはいえない。

2 また、被控訴人は、右七五〇万円の分配にあたり、一部の仲買人との間において、その分配交付に代え自己が有していた売掛金債権と対当額で相殺を行っている。

3 そして、右金員を受領した仲買人は、すべて被控訴人会社の株主であって、それぞれ同会社に対する出資金額の一・九五倍の割合によって分配金の交付を受けている。しかも、昭和三七年四月一日現在の株主(仲買人)であって、以後廃業した者についても分配金の返還を求める等の措置は講じられていない。

4 その他前記諸般の事情に照し経済的実質的に観察すれば、右七五〇万円は被控訴人会社に帰属していると認められるので、これを同会社の清算所得としてなされた本件課税処分には何らの違法はない。

(四)  本件貸付行為が租税回避行為であること

およそ、法人とその構成員である個人とは別個の人格であるが、法人格が全くの形骸にすぎない場合、又はそれが法律の適用を回避するために濫用されるが如き場合においては法人格を否認すべきことが要請される場合が生ずるのであり、この場合、会社名義でなされた取引であっても法人格を否認し個人の行為であると認めて、その責任を追求することを得、また個人名義でなされた行為であっても直ちにその行為を会社の行為であると認めうると解され、いわゆる「法人格否認の法理」の適用が肯定されている。

そこで、仮に本件貸付行為が仮装行為でなく、本件仲買人組合を助成するために貸付行為という法形式をとったものであるとしても、次のとおり、このような貸付行為は租税回避行為として旧法人税法一三二条に基づき課税庁においてこれを否認することができ、右行為を通常の取引においてとるであろうところの法形式、すなわち本件営業譲渡契約であると認めることができるわけである。

1 本件貸付行為は、形式的にみれば、相手方は本件仲買人組合であって、被控訴人会社とは法律上別個の人格である。しかし、その実態をみると、同組合の構成員(仲買人)はすべて同会社の株主であり、そのうえ右七五〇万円は、右株主らに対し出資金額の割合に応じて分配され、さらに右株主らはこれを会社解散によって当然受取るべき分配金であるとの認識の下に受領しているのであって、結局、被控訴人会社の残余財産の分配にほかならない。

2 本件貸付行為は、無利息で、しかも一〇回に分割返済する金額を本件仲買人組合に対して交付する同額の助成金で相殺することとしているのであって、愛媛農産においては、本件貸付行為のはじめから返済を受ける意思を有していなかった。そうすると、これは貸付行為として異例な場合に属するから、その成立を必要とする合理的理由がない限り、本件貸付行為は不合理であるというべきところ、本件には何ら右合理的理由を見出すことができない。

3 右七五〇万円が営業権の対価としてではなく、仲買人に対する貸付金であるとし、一〇年間にわたり助成金(分割返済金との相殺を予定)として交付されたものが課税対象であるとすれば、各仲買人が受領した金額に相応すべき所得税額(ただし法人組識で経営している者もいた。)は、各種控除、累進課税等の税制に照して皆無か僅少となる。

4 当時、営業権の耐用年数が一〇年と法定され、その減価償却は定額法によると法定されていた。従って、愛媛農産の会計処理としては、右七五〇万円を営業権と計上し、一〇年間各一〇分の一づつ償却(損金計上)し、あるいは、貸付金と計上し、一〇年間各一〇分の一づつ助成金振替(損金計上)の方法を選んでも、税額の負担は同じになる。

5 一方、仲買人としては、被控訴人会社の清算分配金として受領し、あるいは愛媛農産の貸付金として受領しても、経済的利益は同じになる。

6 本件営業譲渡契約に関する交渉は、被控訴人会社の代表取締役安藤竹夫、同一色喜三郎らがこれにあたったのであるが、これらの者は、別人格たる仲買人組合の被衣の下に、被控訴人会社の法人税を免れる意図をもって、権利主体及び内容を異にする本件貸付契約という法形式を濫用したものである。

(五)  計上洩れ預金利息(加算) 金一一、八七四円

1 今治信用金庫壬生川支店分 金 一、〇八七円

2 株式会社香川相互銀行壬生川支店分 金一〇、七八七円

(六)  出資金売却違算(加算) 金 二、五〇〇円

被控訴人は、本件確定申告にあたって、固定資産売却損として清算開始直前の帳簿価格で、建物及び設備二、〇四〇、八七五円、車輛運搬具二五四、九二一円、什器備品一一〇、三二七円、土地二、八五四、四五〇円及び出資金二、五〇〇円の合計五、二六三、〇七三円から、これらを愛媛農産へ譲渡した対価五〇〇万円を控除した残額二六三、〇七三円を計上しているが、控訴人の調査によれば、右出資金二、五〇〇円は商工会議所に対する出資金であるが、この出資金はすでにその払戻しを受けていることが判明し、愛媛農産に対する譲渡の対価五〇〇万円には含まれていないことが明らかとなったので加算したものである。ただし、帳簿価格どおりの二、五〇〇円の払戻しを受け、何ら清算損益は発生していないので、別表第一減算金額欄6において同金額を控除した。

(七)  有形資産売却損(加算) 金二六三、〇七三円

本件確定申告書添付の昭和三七年四月二七日現在の貸借対照表によると、「建物及設備」、「車輛運搬具」、「什器備品」、「土地」の各資産の帳簿価額の合計額は、金五、二六〇、五七三円であるが、これを愛媛農産に五〇〇万円で譲渡したために生じたものである。

(八)  有形資産帳簿価額(減算) 金五、二六〇、五七三円

右(七)記載の各資産の帳簿価額の合計額である。

(九)  出資金(減算) 金二、五〇〇円

右(六)で説明したとおりである。

(一〇)  清算費用(減算) 金八六、六九五円

(一一)  清算欠損金(減算) 金一四五、八四四円

申告上の残余財産の価額金三、三五四、一五六円が解散時の資本金三五〇万円に満たない不足額である。

(一二)  従って、被控訴人会社の清算所得金額は、別表第一記載のとおり、金七、二八一、八三五円となる。

四  本件課税処分についての課税標準及び税額の算出過程について

(一)  旧法人税法八条によれば、清算所得についての課税標準は、「清算所得の金額」による旨定められ、同法一七条一項三号によると、「その他の法人」(被控訴人会社はこれに該当する。)の税率について、次のように定められている。

1 清算所得金額のうち積立金及び非課税所得から成る部分の金額 百分の二十

2 清算所得金額のうち積立金及び非課税所得から成る部分の金額以外の金額 百分の四十三

右の「清算所得金額のうち積立金から成る部分の金額」とは、すでに法人税を課せられた残りの金額が留保されたものである。

ところで、国税通則法九〇条一項には、課税標準の額に百円未満の端数があるときは、その端数全額を切り捨てる旨規定されている。

そこで、本件課税標準は、百円未満の端数を切り捨てた清算所得の金額、すなわち、別表第一の金七、二八一、八三五円の端数を切り捨てた金七、二八一、八〇〇円となる。

被控訴人の清算所得金額の内訳は、前記1の金額が金一九〇、八八二円、2の金額が金七、〇九〇、九五三円であるが、右端数計算に関する法の趣旨から、右1の金額を金一九〇、八〇〇円と修正し、これを右金七、二八一、八〇〇円から控除した残額金七、〇九一、〇〇〇円を2の金額とし、この各内訳に前記所定の税率を乗じて得た金三八、一六〇円(一九〇、八〇〇円の百分の二十)と金三、〇四九、一三〇円(七、〇九一、〇〇〇円の百分の四十三)の合計額金三、〇八七、二九〇円が法人税額となる。

(二)  なお、被控訴人は、本件営業譲渡契約の代金を前記のとおり分割仮装してその一部を隠ぺいしたところに基づき旧法人税法二二条の四に規定する法定申告期限後である昭和三八年一月四日に本件確定申告書を提出した。

そこで、控訴人は、国税通則法六八条二項により、右(一)の法人税額に百分の三十五の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を賦課することとした。

ところで、国税通則法九〇条三項には、附帯税の額を計算する場合において、その計算の基礎となる税額に千円未満の端数があるときは、その端数金額を切り捨てる旨規定されている。

そこで、前記法人税額金三、〇八七、二九〇円の端数を切り捨てた金三、〇八七、〇〇〇円に百分の三十五を乗じて計算した金額金一、〇八〇、四五〇円が重加算税額となる。

よって、本件課税処分には被控訴人の清算所得を過大に認定した違法はない。

五  結局、控訴人がした本件課税処分は適法であって、被控訴人の本訴請求は失当である。

六  実質所得者に対する課税についての予備的主張

(一)  愛媛農産が出捐した金七五〇万円の金額が被控訴人の営業権の対価と認められないとしても、仲買権利金として留保した内金二〇〇万円を除く残金五五〇万円は前記三(三)のとおり被控訴人に帰属したことが明らかであるから、少くともこの限度において被控訴人の本訴請求は失当である。

(二)  なお、右金額によって計算すると、被控訴人の清算所得金額、法人税額、重加算税額は、別表第五のとおりとなる。

第三証拠関係

次に付加訂正するほか、原判決事実第三摘示のとおりであるから、これを引用する。

原判決二〇枚目裏二行目の「直鍋貞次郎」を「真鍋貞次郎」と、「三宅信宏」を「三宅信広」と改める。

被控訴代理人は、甲第九、一〇号証の各一、二、第一一ないし第一四号証、第一五号証の一ないし一一を提出し、当審証人志賀安吉、同鈴鹿幸徳、同桐野典夫、同一色喜三郎の各証言、当審における被控訴人会社代表者本人尋問の結果を援用し、乙第一〇号証の九、一〇、第二三号証の一、二、第二四、二五号証、第二八号証、第二九号証の一ないし三、第三〇、三一号証、第三二号証の一ないし五、第三三号証の一、二、第三四号証の一ないし三第三五号証、第三六号証の一ないし七、第三七号証の一ないし四、第三八号証の一ないし三、第三九、四〇号証の各一、二、第四一号証の一ないし三、第四二、四三号証の各一ないし四、第四四、四五号証、第五一号証、第五三、五四号証、第五六号証、第五八ないし第六九号証、第七〇ないし第七四号証の各一、二、第七五号証の一ないし三の成立は認めるが、乙第二六、二七号証、第三四号証の四、五、第四六ないし第五〇号証、第五二号証、第五五号証、第五七号証の成立は不知と述べ、控訴代理人は、乙第一〇号証の九、一〇、第二三号証の一、二、第二四、ないし第二八号証、第二九号証の一ないし三、第三〇、三一号証、第三二号証の一ないし五、第三五号証、第三六号証の一ないし七、第三七号証の一ないし四、第三八号証の一ないし三、第三九、四〇号証の各一、二、第四一号証の一ないし三、第四二、四三号証の各一ないし四、第四四ないし第六九号証、第七〇ないし第七四号証の各一、二、第七五号証の一ないし三を提出し、当審証人星加勝(第一、二回)、同砂川瓢、同河野秀男、の各証言を援用し、甲第九、一〇号証の各一、二、第一一ないし第一四号証の成立は認めるが、甲第一五号証の一ないし一一の成立は不知と述べた。

理由

一  本件課税処分の経過について

被控訴人主張請求原因事実(一)は、当事者間に争いがない。

二  理由附記欠缺の違法の主張について

(一)  本件更正通知書に旧法人税法三二条所定の更正の理由が附記されていなかったこと及び控訴人主張事実二(二)1(本件承認取消処分に対する行政不服審査の経緯)は、いずれも、当事者間に争いがない。

(二)  前記一と右(一)の各事実によれば、本件課税処分と本件承認取消処分がともに昭和三八年一二月二七日付でなされ、ともに同日付その旨の通知書(本件更正通知書、本件取消通知書)をもって、同月三〇日、同時に被控訴人に通知されたことが明らかである。

(三)  ところで、青色申告書提出承認取消通知書と法人税額等の更正(及び加算税の賦課決定)通知書とが同時に納税者に到達した場合には、青色申告書堤出承認取消処分が更正処分に先行するものと解するのが相当である。

これを本件についてみると、控訴人は、昭和三七年四月二八日(本件係争年度開始の日)に遡って被控訴人の青色申告書提出承認を取消す旨の処分(本件承認取消処分)をしたので、被控訴人提出の青色申告書(本件確定申告書)は同法二五条八項本文後段の規定により青色申告書以外の申告書とみなされるのである(法人税法-昭和四〇年法律三四号-附則三条参照)。

しかも、被控訴人は、納付すべき法人税額が零である旨の申告書を提出した場合であるから、控訴人は、国税通則法二四条により更正し、同法二八条により被控訴人にその旨の通知をすべきこととなる。

このように、本件確定申告書は、青色申告書以外の申告書とみなされるわけであるから、本件課税処分は、青色申告書に係らない法人税の課税標準について更正したものとなり、青色申告に係る更正通知書の特則を定めた旧法人税法三二条の規定の適用はなく、従って、右更正処分通知書(本件更正通知書)には更正理由の附記を要しないものといわなければならない。

(四)  そして、被控訴人は、控訴人主張事実二(二)3(本件更正通知書に国税通則法二八条二項所定の記載事項が明記されていたこと)を明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。

よって、本件課税処分には、被控訴人主張のような手続的違法は存在せず、被控訴人のこの点に関する違法の主張は理由がない。

三  実体的違法の主張について

(一)  営業譲渡の経緯

1(1)  被控訴人の会社設立日が昭和三〇年三月一日であること、第七期中に土地を買収して市場建物を新築したこと、第六期末までの借入金は第四期末の三〇万円だけであったこと、被控訴人会社の貸借対照表によると、各事業年度における利益と売掛金の推移が別表第二記載のとおりであったことは、いずれも当事者間に争いがない。

(2)  なお、被控訴人会社の解散直前の年間売上高は、後記(二)3(6)認定のとおり、約六、〇〇〇万円であった。

(3)  成立に争いない乙第三号証、第一〇号証の三、四、第一一号証、第二一号証、第六四ないし第六七号証、第七〇ないし第七四号証の各二、第七五号証の二、三、当審証人星加勝(第一回)の証言により真正に成立したものと認められる乙第二〇号証、同河野秀男の証言により真正に成立したものと認められる乙第五〇号証、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙第五五号証と右各証言、原審証人一色喜三郎、同真鍋貞次郎の各証言及び原審における被控訴人会社代表者本人尋問の結果を総合すれば、次の各事実が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

イ 壬生川青果市場は、昭和二四年に開設され、昭和三〇年法人成立までの間は、一色喜三郎の個人経営であった。そして、その当時より仲買人組合が存在していたが、解散までには組合の規約をもうけるにいたらなかった。

ロ 被控訴人会社の設立当初の資本金は金一〇〇万円であり、第二期末の資本金は金一、〇七二、五〇〇円、第五期末の資本金は金二〇〇万円、第六期末以降の資本金は金三五〇万円であった。

ハ 外部負債たる被控訴人会社の借入金は、前記三〇万円を除き、第七期末金一、五二一、三二六六円、第八期末金一、八二五、九八四円であった。

ニ 被控訴人会社は、右ロの増資と右ハの借入金により、昭和三五年八月二五日(第六期)市場敷地として壬生川町字横町一一三番宅地五七坪及び同所一一四番二宅地二四三坪を買収し、昭和三六年一月(第七期)同所一一四番地二所在家屋番号四四六番六木造トタン葺平家建青果市場建坪二四九坪七合五勺を新築(同年五月二五日所有権保存登記経由)し、同年九月八日(第八期)その敷地たる同所一一四番一宅地一〇〇坪を買収した。

第七期に生じた欠損金も、このためである。

ホ 設立当初の仲買人数は一〇六名であったが、その後逐次増加して、会社解散当時の仲買人数は二一四名に達しており、かつ右仲買人らはすべて被控訴人会社の株主であった。

ヘ 前記(1)の未回収売掛金の内訳をみると、債権総額の約四分の一は会社役員によって占められ、金額的には、零(売掛金無し)の者八八名と千円未満の者三〇名を合せて一一八名ですでに過半数に達し、一〇万円以上の者は僅か三名(別紙第三表No.14「取締役」金三六三、二五六円、No.88「株主」金一四六、五三四円No.52「代表取締役」金一〇九、三六八円-乙第五五号証-)を数えるにすぎない。

(4)  被控訴人は、壬生川市場の土地購入、建物新築のための資金借入に加えて、回収困難な売掛金の増大によって経営不振に陥り、これが原因となって会社解散の已むなきにいたった旨主張し、原審証人真鍋貞次郎、同青野浩、同渡辺茂、同横山金春、同三宅信広、同桐野典夫、同一色喜三郎の各証言、原審における被控訴人会社代表者本人尋問の結果中にはこれに副う供述がみられるけれども、むしろ原審証人園延房太、同柴田堅当審証人桐野典夫の各証言、当審における被控訴人会社代表者本人尋問の結果によれば、当時被控訴人会社内部において本件営業譲渡に反対の意見を表明する有力者が居たことが認められるのであって、被控訴人の会社解散直前の経営状態は、右(1)ないし(3)の各事実に徴して明らかなように、早急に身売り(営業譲渡)しなければならない程窮迫していたものとは到底認めることができない。

2  成立に争いない甲第一号証、乙第七ないし第九号証の各一、二、第一二号証と原審証人玉井恒栄、同玉井実雄、同星加勝、同桐野典夫(一部)、当審証人鈴鹿幸徳、同志賀安吉の各証言及び弁論の全趣旨を総合すれば、控訴人主張事実三(一)2(青果市場条例制定の経緯と丹原市場、壬生川市場の買収)が認められ、原審証人桐野典夫の証言中右認定に反する部分は前掲各証拠と対比して採用することができず、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。

3  控訴人主張事実三(一)3(2)、(3)(本件営業譲渡契約の締結と各会社の承認決議)は、当事者間に争いがない。

右事実によれば、本件営業譲渡契約は、昭和三七年四月二七日に効力が生じたことが明らかである。

そして、成立に争いない乙第一四号証、第五八号証、第六二号証、第六四ないし第六八号証によれば、被控訴人は、愛媛農産に対し、昭和三七年四月一日頃、壬生川市場を事実上引渡してその経営に委ね、その後同月二七日、愛媛農産及びその親会社たる周桑農協との間の中間省略登記の合意に基づき、直接周桑農協に対し市場の土地建物について所有権移転登記をしたことが認められる。

そうすると、被控訴人の愛媛農産に対する本件営業譲渡契約上の対価請求権は、遅くとも昭和三七年四月二七日には確定したものと解するのが相当である。

(二)  譲渡対価の合意

控訴人は、譲渡対価を金一、二五〇万円とする本件営業譲渡契約が成立した旨主張し、被控訴人は、愛媛農産との間に成立したのは譲渡対価を金五〇〇万円とする営業譲渡契約であると抗争するので検討する。

1  対価の決定

前顕甲第一号証、乙第一二号証、第六二号証、成立に争いない甲第二号証、乙第一六、一七号証、第三三号証の一、第六三号証と原審証人玉井恒栄、同玉井実雄、同一色喜三郎、同園延房太、同桐野典夫、同青野浩、同渡辺茂、同横山金春、同三宅信広の各証言、原審及び当審における被控訴人会社代表者本人尋問の各結果を総合すれば、愛媛農産は、昭和三五年八月三日、青果物市場の経営及び農産加工を目的として設立せられ、資本関係は訴外戸田武房と周桑農協が折半出資し、役員関係は右戸田が取締役に就任しているほか、その役員はすべて周桑農協の役員が兼務し、資金関係は大半を周桑農協に仰いでおり、取引関係は周桑農協より原料の提供を受け、周桑農協の組合員の大部分が愛媛農産への出荷者となっており、愛媛農産は、その実態において周桑農協のいわゆる系列子会社と目すべきものであること、従って、愛媛農産が本件営業譲渡契約を締結するにあたっても、終始周桑農協の役員会で事を運び、その際資産譲受代金五〇〇万円のほかに後記のように支払方の要求のあった七五〇万円の出捐を終始密接不可分の関係において検討していたこと、ところで、被控訴人会社の経営状態は前記(一)1認定のとおりであるが、これに対する会社内部における評価が前記のとおり分れていたものの、会社代表者安藤竹夫、一色喜三郎らは、売掛金の増大、人件費の増加、借入金の金利負担増、売上高の伸び悩み等から仲買人に支払うべき売上高の一%の割合による歩戻金の支払もままならず、将来を楽観視し得ないとし、先に丹原市場を買収している愛媛農産に身売りするのが得策であるとして、昭和三六年八月頃、愛媛農産側に対し、被控訴人会社の買収方を申入れたこと、これに対し、愛媛農産側は前記(一)2認定のような状勢の下に、愛媛農産全体としての将来の収益力の増大を予測して被控訴人会社の買収を決定したこと、そして、当初営業譲渡の対価として金五〇〇万円という線が打出されたのであるが、その頃右安藤らより、被控訴人会社の仲買人(全員同会社の株主である。)らが右五〇〇万円以外に金七五〇万円の仲買人助成金の交付がなければ本件営業譲渡契約承認の決議をせず、あるいは壬生川市場を離脱して独自に青果物市場を開設せんとする動きがあるので、是非七五〇万円の支払をして貰いたい旨の要請を受けたこと、そこで愛媛農産側でも後記のように市場経営の重要な支柱である右仲買人らの離散を防止し、かつ仲買人に対する売掛金回収を確保し、市場の円滑な運営発展を計り、買収の所期の目的を達するためには右七五〇万円の出捐が不可欠であると考えるにいたったこと、そこで愛媛農産は、被控訴人会社との間に、前記五〇〇万円の外右七五〇万円を出捐する旨、かつこれを後記認定のように営業譲渡の対価に加える旨合意したこと、他方右七五〇万円については後記認定のように愛媛農産の仲買人組合に対する貸付金の形式を採ること、但し、一〇年間に助成金との相殺により実質上返済の要のないものとしたこと(これらの点は争いがない。-控訴人主張三(二)2(3)イ)、以上の事実を肯認することができる。

2  営業権の意義

営業権とは、資産性の見地から実質的にみれば、当該企業の長年にわたる伝統と社会的信用、立地条件、得意先関係、仕入先関係、経営組織等が有機的に結合された結果その企業を構成する物又は権利とは別個独立に評価を受けることができる無形の財産的価値を有する事実関係をいい、通常他の企業を上廻る所謂超過収益力ともいわれており、これは、既存の企業の活動中に創出されるばかりでなく、他企業を買収することによっても得ることができる。しかし、企業会計上の見地から形式的にみると、のれんの貸借対照表能力は、当時の商法(二八五条の七の規定-昭和三八年四月一日施行-の新設前)においては、資産として計上できないという見解、常に出来るという見解、有償で承継取得した場合に限りその取得価額を附することができるという見解に分れていたが、企業会計原則では、無形固定資産は、有償取得の場合に限りその対価をもって取得原価とされており(企業会計原則-改正前-第三貸借対照表原則四(一)B、五ⅡE)、そして右有償取得は、通常包括的一体としての企業の全部又は一部の譲渡(営業譲渡等)とともになされ、現実に支払われた対価が純資産額を超える場合、その超過額が営業権の価額になると解されている。そして、旧法人税法(九条の八)において減価償却資産として掲げられている営業権(同法施行規則第一〇条の二第一項第八号)の意義・評価についても、商法二八五条の七の規定の趣旨を類推し、企業会計原則の場合と同様に解するのが相当である。

ところで、営業権は、その評価が実際に問題となるのは本件のような営業譲渡により営業の包括的移転が行われた場合であって、その場合に評価の基礎となる収益力は過去の実績に限られるわけではなく、営業譲渡を受ける企業の側における将来の収益力の予測が重視される筈であり特別の事情のない限り、自ら公正な譲渡対価が形成決定されるものと考えられる。

これを本件についてみるに、前記の見地の下に七五〇万円が本件営業権の対価として実質的に相当であることは後記3認定のとおりであるから、本件営業譲渡契約においては公正な営業権の対価が形成決定されていると推認することができる。

3  本件営業権の実質的価値

(1) 青価市場の経営形態

控訴人主張事実三(二)2(1)ロ(ロ) (青果市場の経営形態)は、当事者間に争いがない。

右事実によれば、市場は、その経営によって、一定範囲の出荷者(生産者)を青果物販売の委託者として掌握するとともに、仲買人を「せり」の相手方、すなわち受託青果物の買手として掌握することができる。そして、市場と右出荷者、仲買人との顧客関係は、市場の存立上不可欠であるばかりでなく、長年の市場経営により逐次累積濃厚化していく結果、いわゆる営業の事実上の利益として市場(企業)自体の経済的価値を増加させることになるので、市場は、土地、建物その他の物質的設備にこのような事実関係が伴うことによって経営が可能となり、これらが渾然一体となったものとして評価することにより、はじめてその経済的価値を正当に把握することができることは、見易い道理である。

(2) 丹原市場買収の経過

イ 愛媛農産が昭和三六年度において丹原市場を買収したこと、同市場が個人経営であったことは、当事者間に争いがない。

ロ 前顕乙第一二号証、成立に争いない乙第一三号証の一ないし三、第二三号証の一、二と原審証人玉井恒栄、同玉井実雄、原審及び当審証人桐野典夫、当審証人鈴鹿幸徳、原審及び当審(第一回)証人星加勝の各証言を総合すれば、愛媛農産は、昭和三六年六月一七日、丹原市場を買収したこと、当時同市場の仲買人数は約八四名であって、真田伊太郎を代表者として仲買人組合を組織していたこと、丹原市場の経営者は安倍幸徳(現在鈴木姓)であって、同人は、愛媛農産との間に、丹原市場の営業譲渡契約の締結に際し、その対価につき種々接衝の結果、愛媛農産側は、丹原市場の経営実績が良好であると評価し、かつ将来有望であると予測し、右安倍が前経営者から承継し未済である債務金三〇万円、安部の経営中に発生した貸倒損失金三〇万円、三輪自動車その他の中古資産を時価相当である金一五万円と評価し、右安倍を引続き丹原市場長格で雇傭(その他の職員も全員雇傭)するにつき安倍の希望する月給五万円は愛媛農産側の職員の最高額三万円を二万円超過するので、同人の経営手腕を高く評価して月給は三万円に止めるが二万円の一年分上積み(前渡)という形で給料補償費二五万円、以上合計金一〇〇万円を営業譲渡の対価と合意し、ここに愛媛農産代表者玉井実雄と安倍との間に、同日付で「営業譲渡契約書」(乙第一二号証)を作成し、その第二条において営業権代金一〇〇万円を支払う旨明記し、これが支払を了えたこと、ところが、右仲買人組合より助成金の交付がなければ今後協力しない旨の申入を受けたので、別途同組合に対し助成金二五万円を出捐することに決し、同年一一月一〇日同組合に金二五万円を支払ったこと(現実には、丹原市場買収後、愛媛農産が右仲買人組合との間に、各仲買人が競売参加のために新たに保証金五、〇〇〇円あてを愛媛農産に預託すべき旨の合意が成立し、前記代表者真田伊太郎がこれら預託保証金をとりまとめて預託した際、愛媛農産が前記二五万円をそのまま預託保証金の内入に振替処理した。)そして、愛媛農産では経理上右一二五万円全額を営業権の対価として処理したこと、買収当時における丹原市場の年間売上高は約三、〇〇〇万円、純益約一二〇万円で、ほぼ順調な営業成績をあげていたが、敷地が狭隘なため早急に移転、拡張、身売り等の抜本的解決が迫られていたことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

ハ 右イ、ロを要約すると、愛媛農産は、前記小規模の丹原市場の買収にあたり、経営者個人に営業譲渡の対価として資産譲渡代金約一五万円のほか営業権と目すべきものとして約八五万円を支払っていることが認められる(なお、愛媛農産は、右買収後に前記仲買人組合(法人又は権利能力なき社団にも該当しない。)に対して助成金二五万円を支払っているけれども右助成金は経営者個人の意思とは無関係に各仲買人全員の意思に基づいて要求せられたものであり、かつ右金二五万円は経営者個人には全く帰属せず、愛媛農産に対する債権(預託保証金返還請求権)の形ですべて仲買人に帰属しているものである。)

(3) 被控訴人会社(企業)の伝統・信用等

壬生川市場は、前記(一)1認定のとおり、昭和二四年頃一色喜三郎の個人経営で発足し、昭和三〇年に株式会社(被控訴人)に組織され、本件営業譲渡契約成立まで約一三年間を通じ、ほぼ順調に営業を継続して来たもので比較的長い伝統を有し、また資本金も次第に増加して最終的には金三五〇万円、仲買人(法人成立後全員株主)は解散当時二一四名に達し、小企業に属するとはいえ、先に買収された丹原市場に比べると信用も大きいといわなければならない。従って、丹原市場の買収に際して右(2)のように営業権の対価が支払われている以上、それよりかなり規模の大きい壬生川市場(被控訴人会社)の買収にあたって営業権の対価が支払われても不自然ではない。

(4) 立地条件

前記(一)2認定のとおり、愛媛農産としては、先に丹原市場を買収済であるから、のこる壬生川市場を買収することによって周桑郡内の壬生川・丹原地方一円のすべての青果市場を掌握することができるわけであるから、極めて有利であった。

(5) 顧客関係

愛媛農産としては、本件買収により、壬生川市場に所属する仲買人二一四名のほか、従来の出荷者(生産者)をそのまま引継ぐことができるので、営業譲受後直ちに被控訴人会社経営時代と同様の経営が可能となり、市場新設の場合に比し極めて有利であった。

(6) 営業成績

壬生川市場は、前記(3)のとおり、個人経営で発足し法人成立ののち本件営業譲渡契約成立まで約一三年間を通じ、ほぼ順調な営業を継続して来たもので、その詳細は、前記(一)1認定のとおりである。

そして、成立に争いない乙第一〇号証の一〇、前顕乙第一一号証と原審証人桐野典夫、同真鍋貞次郎の各証言によれば、控訴人主張事実三(二)2(1)ロ(ヘ)(買収前の年間売上高)が認められ、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。

(7) 手数料(債権)、歩戻金(債務)関係

被控訴人会社の収入は、右(6)認定のとおり売上高の六%に相当する受託手数料(出荷者より徴収する。)のみであり、右(6)掲記の各証拠によれば、他面同会社は、仲買人に対し、売上高の一%に相当する歩戻金を支払うべき債務を負っていたことが認められる。

そして、かかる債権・債務関係は、本件営業譲渡契約により、包括的に被控訴人から愛媛農産に承継されているわけである。

(8) 有形資産

イ 控訴人主張事実三(二)2(1)ロ(ト)(解散直前の有形資産の価額)のうち、償却資産及び土地の帳簿価額が控訴人主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。

ロ 成立に争いない乙第一号証、第二五号証、前顕第六四ないし第六七号証、第七五号証の三と当審証人砂川瓢、同星加勝(第一回)の各証言及び原審における被控訴人会社代表者本人尋問の結果によれば、本件営業譲渡契約の譲渡資産中、土地延べ四〇〇坪の昭和三七年五月頃の価額は金三二〇万円であること、同建物は昭和三六年一月金二、二四五、五八二円で新築されたものであって買収まで一年四ケ月しか経過していないので法定耐用年数により減価償却した残額である解散直前の帳簿価額金二、〇四〇、八七五円はほぼ時価に等しいこと、なお車輛運搬具、什器備品等の時価も零ではないと考えられるが、右土地と建物の時価だけを合計しても金五二四万円以上となること、因みに愛媛農産においては、譲受資産の帳簿価格を土地金二〇〇万円、建物金二四〇万円、車輛金五〇万円備品金一〇万円、合計金五〇〇万円と経理記帳していることが認められ、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。

ハ 右イ、ロの事実によれば、譲渡資産の時価が金五〇〇万円を若干上廻っていたことが明らかである。

そうすると、本件営業譲渡の経緯に照らしても争いのない金五〇〇万円は右有形資産譲渡の対価とみるのが相当である。

(9) 営業権の償却

旧法人税法第九条の八第一項、前記法人税法施行規則第二一条第一項第八号、第二一条の二第一項、第二一条の三第一項第一号、固定資産の耐用年数等に関する省令(昭和二六年五月三一日大蔵省令第五〇号)第一条、別表九によれば、営業権の法定償却期間は、その耐用年数である一〇年ということになる。従って、七五〇万円を営業権の対価として一〇年間で償却するものとすれば、毎年の償却額は金七五万円となり、これは丁度前記(6)認定の最終の年間売上予想高七、五〇〇万円の一%に相当する計算となる。

そうすると、愛媛農産としては、前記(7)認定の歩戻金一%のほかに、一〇年間に限りほぼ同額を出捐することとなるが前記(7)認定のとおり六%の手数料収入があるので、その償却に困却するとは考えられない。

(10) 愛媛農産の経理

前顕乙第一三号証の一、二、成立に争いない乙第二四号証と当審証人砂川瓢の証言及び弁論の全趣旨を総合すれば、愛媛農産は、控訴人が本件において営業権の対価であると主張する金七五〇万円を貸付金と経理記帳していたが、控訴人からこれも本件営業譲渡契約の譲受代金の一部であるとして更正処分を受け、異議申立てを経て審査請求をしたところ、右処分が正当であるとして昭和四〇年七月二九日付で審査請求棄却の裁決を受け、右裁決はその頃確定したことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(11) 以上の認定に照らし、壬生川市場における人的関係、立地条件その他の事実関係は無形の財産的価値と評価するに十分であり、右認定の従来の実績、譲渡後の独占的運営の見通し等に照らし、従来のそれを超える収益を期待し得るものと認められるから、かかる事実関係を以て営業権というを妨げない。そして右金七五〇万円が本件営業譲渡の対価として実質的におおむね相当な額であると認められる。

(三)  次に愛媛農産が出捐した金員の流れを検討する。

1  争いのない対価五〇〇万円の動きについて

成立に争いない乙第一〇号証の九、第二九号証の一ないし三、第三〇、三一号証、第三二号証の一ないし五、第四五号証、前顕乙第三三号証の一と弁論の全趣旨によれば、控訴人主張事実三(二)3(1)(争いのない対価五〇〇万円の動き)が認められ、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。

2  係争の対価七五〇万円の動きについて(一)

前顕乙第三三号証の一、成立に争いない乙第三三号証の二、第三四号証の三、第三六号証の一ないし七、第三七号証の一ないし四、第三八号証の一ないし三、第四一、四二号証の各一ないし三、第四三号証の一ないし四と当審証人星加勝(第一、二回)の各証言により真正に成立したものと認められる乙第二六、二七号証と右各証言、当審における被控訴人会社代表者本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、控訴人主張事実三(二)3(2)のイないしト、ルが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

3  係争の対価七五〇万円の動きについて(二)

(1) 原審証人園延房太の証言により真正に成立したものと認められる甲第八号証と原審証人玉井恒栄、同玉井実雄、同真鍋貞次郎、同桐野典夫、同園延房太の各証言及び弁論の全趣旨によれば、愛媛農産側は、本件買収にあたり、壬生川市場では従来から仲買人に対する売掛金の回収が滞り勝ちであり、会社解散直前には前記(一)1(1)のとおり二二七万円余に達していたので七五〇万円の対価の上積みをする以上、将来における売掛金の延滞を阻止するため本件契約書乙をもって、本件仲買人組合との間に、各仲買人(組合員)は、愛媛農産に対し、金一万円あての仲買権利金(保証金)を預託する義務を負担し、預託方法は、同組合が一括して預託する旨合意したこと、そこで、愛媛農産は、その頃、被控訴人との間に、買収後の仲買人数を二〇〇名と予定し、その仲買権利金合計金二〇〇万円に相当する対価の支払を留保してこれを仲買人二〇〇名の保証金に充当し、一方、被控訴人は、各株主(仲買人)に対し、各一万円あてを控除した残額を分配することとし、結局、実際の支払にあたっては、七五〇万円の対価から右留保する二〇〇万円を控除した残額金五五〇万円を支払う旨合意したこと、そして、愛媛農産は、被控訴人に対し、右合意にしたがい、前記5(2)認定のとおり金五五〇万円のみを支払うことによって、七五〇万円の対価全部を決済したことが認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(2) 前顕乙第二〇号証、第五〇号証、第五五号証、成立に争いない乙第三九、四〇号証の各一、二、第五一号証、原審及び当審(第一、二回)証人星加勝の各証言により真正に成立したものと認められる乙第四六ないし第四九号証、当審証人河野秀男の証言により真正に成立したものと認められる乙第五二号証と原審及び当審(第一、二回)証人星加勝、当審証人河野秀男、同一色喜三郎の各証言及び弁論の全趣旨を総合すれば、控訴人主張事実三(二)3(2)のリ、ヌ(第一、二回分配金の交付)が認められ、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(3) 右(2)の事実によれば、被控訴人は、結局(1)で支払を留保された金二〇〇万円を、買収後も引続き仲買人としてのこる株主らの権利金として各人の預託手続を省略し結局七五〇万円全額を分配したのと同一に帰したことが明らかである。

4  結局以上の金員の流れは本件営業譲渡の対価が七五〇万円をふくむ一、二五〇万円であることを窺わせるに充分である。

(四)  被控訴人会社のした右第一回、第二回の分配金の分配交付を検討してもこれが同会社の残余財産の分配とみられるべきことはこの事実からも明らかである。

1(1)  廃業等の事由により、本件買収後壬生川市場の仲買人として残る可能性を有しない者に対しては仲買助成金を交付すべき理由は全くない。

(2)  しかるに、被控訴人会社は、前記(三)3(2)認定のとおり第二回分配として別表第三の「第二回分配」欄記載の各金額を分配したところであって解散とともに廃業したことに争いのない別表第三のNo.2.15.72.83.112.131.144.152.176.203.210.に対しても小切手、又は現金で支払い、又は売掛金との相殺の方法で、分配がなされている。

そうすると、右第二回分配金の支払は被控訴人会社の残余財産の分配とみるべきである。

2(1)  控訴人主張事実三(二)2(2)ヘ(イ)(第一回分配)は、当事者間に争いがない。

(2)  同(ロ)のうち、被控訴人が申告期限後である昭和三八年一月四日に本件確定申告書を提出したこと、控訴人主張の貸借対照表によると分配可能財産が現金三、三五六、一五六円のみであることは当事者間に争いがない。

(3)  右(2)の事実によれば、右金三、三五六、一五六円を資本金額三五〇万円から控除した残額金一四三、八四四円についてはその払戻ができない筈のものであるにもかかわらず、被控訴人会社は、前記(1)のようにこれを現金で分配しているのである。

(4)  その財源について、被控訴人は、同会社代表者たる安藤竹夫が責任上個人として補填支出した旨主張するけれども、当審における被控訴人会社代表者本人尋問の結果によっては未だ事実を認めるに足りず、他にこれを認めうる確証はない。そうすると、右財源には前記七五〇万円が充てられたものと考えざるを得ず、このことは右七五〇万円が被控訴人会社の残余財産として処理されたことを示すものといえる。

3(1)  控訴人主張事実三(二)2(2)ト(イ)(役員賞与の交付)のうち、別表第四記載の一一名が昭和三七年五月一六日同表記載のとおり合計金六一四、〇〇〇円の交付を受けたことは、当事者間に争いがない。

(2)  被控訴人は、右一一名が本件仲買人組合の役員であり、同組合の役員に対する功労金として右金六一四、〇〇〇円が交付された旨主張する。

成立に争いない甲第一二号証によれば、別表第四のNo.A、E、F、H、I、Jが本件仲買人組合結成と同時に理事、No.Bが幹事、No.Dが組合長、No.Gが会計係となったことが認められる。しかし、同号証(その他本件全証拠)によっても、No.O、Kが同組合の役員であったことを認めることができず、さらに同号証によれば、同組合結成と同時にその役員となった者は、右の者以外に理事九名、幹事一名、地区委員九名を数えることができる。

前顕乙第二一号証と原審証人一色喜三郎、同真鍋貞次郎(一部)の各証言、原審における被控訴人会社代表者本人尋問の結果(一部)と弁論の全趣旨によれば、別表第四の※書部分の事実が認められ、右真鍋証言及び右本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信できず、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。

そうすると、前記金六一四、〇〇〇円は、控訴人主張のように被控訴人会社の役員等に対し同会社への貢献に対する功労金として分配交付されたものとみるのが相当である。

(3)  前記七五〇万円が真実本件仲買人組合に属するものであれば、このうちから被控訴人会社の役員等のみが持株数の割合によらない特別の金額の分配を受けることはできない筈のものであるのに、これらの者に限り前記金六一四、〇〇〇円が交付されているということは、前記七五〇万円が被控訴人会社の残余財産であったことを示すものである。

4  原審証人真田伊太郎の証言により真正に成立したものと認められる乙第四号証、成立に争いない乙第一八、一九号証、原審証人金子倉一の証言により真正に成立したものと認められる乙第五号証、原審証人黒光勘三郎の証言により真正に成立したものと認められる乙第六号証と右各証言によれば控訴人主張事実三(二)2(2)チの(イ)、(ロ)、(ハ)(法人株主の記帳)が認められ、他に右認定を左右するに証拠はない。

5  右1ないし4の各事実によれば、被控訴人会社がした第一、二回の分配金の交付が同会社の残余財産の分配であることは明らかである。

(五)  以上総合すると、本件係争の七五〇万円も争いのない五〇〇万円とひとしく本件営業譲渡契約に基づく営業譲渡の対価(資産譲渡代金と営業権代金)であるとみるのが相当であり、本件営業譲渡の対価は、合計金一、二五〇万円と合意されたものと推認するのが相当である。そして、被控訴人会社は、愛媛農産から同金額の支払を受けて実際にこれを取得しているから、これを本件係争年度の清算所得の計算上、「営業譲渡の対価」として加算金額に加えるべきである。

(六)  七五〇万円が本件仲買人組合への貸付金であるとする主張について

1  控訴人主張事実三(二)2(3)イ(本件契約書甲の約旨)は、当事者間に争いがない。

2  原審証人真鍋貞次郎の証言によれば、本件契約書甲が作成されたのは、同書の日付どおり昭和三七年五月三一日であることが認められる。

ところが、実際に七五〇万円が同日に支払われたことを認めるに足りる証拠はなく、愛媛農産からの出捐は、前記(三)2、(三)3(1)認定のとおり同月一二日までに完了しているのである。

そうすると、本件契約書甲の作成日付は、現実の出捐の日と異っているので、その作成動機に疑念が生ずる。

3  右1の事実によれば、同契約書の約旨の実体は、本件仲買人組合には返済義務を負わさないものであり、貸付とはいうものの助成金の交付と変りはなく愛媛農産においてはじめから返済を求める意思を欠いているものである。

4(1)  控訴人主張事実三(二)2(3)ホ(園延口座)のうち、本件仲買人組合が昭和三七年五月九日以前から株式会社香川相互銀行壬生川支店に園延口座を有していたことは、当事者間に争いがない。

(2)  成立に争いない乙第三四号証の三、当審証人星加勝(第二回)の証言により真正に成立したものと認められる同号証の四、五と同証言によれば、本件仲買人組合は、同月九日愛媛農産より交付を受けた僅か一〇万円の助成金については、同組合の現金出納簿、預金明細書に記帳され、園延口座に入金されているけれども、七五〇万円については、右記帳や預金がされていないことが認められ、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。

右事実によれば、七五〇万円が本件仲買人組合の資金としては取扱われなかったことが明らかである。

5  成立に争いない甲第四号証の一、二によれば、壬生川市場仲買人組合世話人なる肩書で安藤竹夫が愛媛農産に対し、昭和三七年五月七日仲買営業資金として貸付金五〇万円の、同月一二日右同様五〇〇万円の各領収証を差入れていることが認められる。

しかし、安藤竹夫(別表第四のNo.A)は、当時本件仲買人組合の組合長でなく、単なる理事にすぎなかったことは前記(四)3(2)認定のとおりであり、かかる安藤(前顕甲第一二号証によれば、会計担当でないことが認められる。)が同組合の世話人としてかかる大金の領収書を差入れるのは不自然である。

6  成立に争いない甲第一一号証によれば、別表第三のNo.39.209.の二名は、被控訴人が貸付金であると主張する別表第三の「第二回分配」欄記載の金額の交付を受けたのちに、仲買人を廃業したことが認められる。

そうすると、廃業者は、以後助成金の交付を受ける資格を失うこととなるから、その日までに、返済金と相殺された貸付金の残額を愛媛農産に返済しなければならない筈であるのに、これを返済したことを認めるに足りる証拠はない。

7  なお、前顕甲第八号証によれば、仲買人が競落代金を月末締切翌月五日までに支払わない場合は、愛媛農産において、本件仲買人組合から預託を受けた全仲買人の一括した預託権利金をもって当該仲買人に対する売掛金回収に充当する。右充当の方法によって完済できないときはその未済残額につき右組合が別途に支払の責に任ずる義務が新しく右組合に課されたことが認められる。

しかし、かような義務の賦課があるからといって、本件七五〇万円が仲買人組合への貸付であるとみるべき理由とはならない。

8  なお被控訴人会社の解散決議のあった株主総会の議事録にも七五〇万円が貸付金である旨の記載があること(控訴人主張事実三(二)2(2)イ)は被控訴人の明らかに争わないところである。しかしこれまた以上に判断したような取扱と同様、被控訴人においてかかる形式を採ったものに過ぎないものというべきである。

前顕乙第一四号証、成立に争いない乙第一五号証と原審証人真鍋貞次郎、同園延房太の各証言によれば、本件仲買人組合は、昭和三七年四月二七日株主総会に引続く総会で結成され、初代組合長に園延房太が就任し、組合規約も作られていわゆる権利能力なき社団の実体を備えたこと、同年七月頃の役員会で右園延が辞任し、第二代組合長に真鍋貞次郎が就任したことが認められ、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。(なお、甲第五号証(本件契約書甲)には同年五月三一日当時すでに右真鍋が組合長であったかのような記載がみられるけれども、右各証言によれば、事実上真鍋がその職務を代行していた関係上、真鍋が組合長名義で同契約書に署名したことが認められる。)従って本件営業譲渡契約の成立日である同年三月末頃には、未だ右組合は存在していなかったものである。以下の事実もこの間の事情を示すものである。

しかも、右契約は、前記(一)3のとおり被控訴人会社代表取締役安藤竹夫が締結したものであって、園延房太は当時被控訴人会社の監査役(原審証人園延房太の証言によって認められる。)にすぎなかったので全く右契約に関与すべき立場になく、かつ実際にも同会社あるいはのちに結成される本件仲買人組合のために関与したことを認めるに足りる証拠はない。

9  右1ないし8の各事実、前記(二)ないし(五)の各事実に徴すると、被控訴人主張の七五〇万円の貸付は仮装行為というべきであって上記判断したものの外原審証人玉井恒栄、同玉井実雄、同真鍋貞次郎、同園延房太、同柴田堅、同青野浩、同渡辺茂、同三宅信広、原審及び当審証人一色喜三郎、同桐野典夫、の各証言、原審及び当審における被控訴人会社代表者本人尋問の各結果中係争の七五〇万円が助成金ないし貸付金であるとの被控訴人の主張に副う部分は措信できない。又同様に甲第六号証の一ないし五、第一五号証の一ないし一一の各記載も到底これを採用し得ない。

(七)  尤も前記丹原市場買収に際して、前記のとおり、別に仲買人に対する助成金が交付されているのに、以上の認定に従えば、本件では助成金の交付がなされていないこととなる。しかし本件では仲買人は同時に株主であったので、営業権の対価として結局仲買人の利益に帰する多額の金員の支払がなされた以上、更に別に助成金の支払がなかったとしても異とするには当らない。

(八)  控訴人主張事実三の(五)ないし(一一)は、当事者間に争いがない。

そうすると、結局被控訴人の清算所得金額は、別表第一記載のとおり金七、二八一、八三五円となる。

従って、本件課税処分には被控訴人の所得を過大に認定した違法はないというべきである。

四  本件課税処分についての課税標準及び税額の算出過程について

(一)  清算所得金額が控訴人主張のとおりであることは、前記三認定のとおりであり、これに成立に争いのない乙第六九号証を併せ考えると、その税額の算出は控訴人主張事実四のとおりであるから被控訴人の本件係争年度の法人税額は、控訴人主張のとおり金三、〇八七、二九〇円となる。

(二)  次に、被控訴人は、控訴人主張事実四(二)のうち本件営業譲渡契約の代金の一部を本件仲買人組合に対する貸付金であると仮装して隠ぺいした事実を除き、その余を明らかに争わないからこれを自白したものとみなす。

(三)  そして、前記認定のとおり、被控訴人は、本件営業譲渡契約の対価の一部七五〇万円につきこれを本件仲買人組合に対する貸付金であると仮装隠ぺいしたものというべきである。

(四)  右(二)、(三)の事実を併せ考えると、被控訴人の無申告重加算税額は、控訴人主張のとおり、金一、〇八〇、四五〇円となる。

五  結論

以上の次第であって、本件課税処分には何ら違法な点はなく、被控訴人の本訴請求は、その余の判断をするまでもなく、失当であるから棄却を免れない。

よって、右と結論を異にする原判決を取消し、被控訴人の本訴請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 合田得太郎 裁判官 古市清 裁判官辰己和男は転任につき署名捺印することができない。裁判長裁判官 合田得太郎)

別表第一

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別表第二

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別表第三

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別表第四

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※ 砂田寿江は、被控訴人会社の役員でも、本件仲買人組合の役員でもないが、昭和32年6月に死亡した同人の夫砂田進が発起人として被控訴人会社の設立に尽力し、その設立後も専務取締役として会社の発展に寄与するところ極めて大きかつたところから右進に対する功労金として右寿江に対し金五万円が分配されたものである。。

別表第五

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