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高松高等裁判所 昭和46年(ラ)6号 決定 1971年5月31日

抗告人

外田玉一

外二名

代理人

木原鉄之助

主文

本件各抗告をいずれも棄却する。

抗告費用は抗告人等の負担とする。

理由

抗告人等は、いずれも「松山地方裁判所が、同裁判所昭和四四年(ケ)第八五号不動産競売事件につき、昭和四六年二月九日なした競落許可決定を取消す。本件競落はこれを許さない。」との趣旨の裁判を求め、その理由として、抗告人外田玉一は別紙一の通り、同北川英樹、同北川佐恵子は別紙二の通り各主張した外、抗告人等三名は、さらに別紙三、四の通り主張した。よつて、以下順次右抗告理由について判断する。《中略》

六抗告人等三名主張の別紙三の第一の抗告理由について

記録によれば、昭和四四年度における本件競落許可決定添付目録記載の五号物件の宅地の課税標準額は、金三八万八、〇〇〇円、固定資産税額は金二、〇七〇円、同目録記載の六号、七号物件の宅地の課税標準額は計金四五万四、二〇〇円、固定資産税額は計金二、四三〇円であつたのに、昭和四六年一月二七日の本件競落期日の公告には、前記目録記載の五号物件の宅地の課税標準額を金五九万一、七〇〇円、固定資産税額を金三、三七〇円とし、同六号物件の宅地の課税標準額を金三八万八、〇〇〇円、固定資産税額を金二、〇七〇円とし、さらに、同七号物件の宅地の課税標準額を金四五万四、二〇〇円、固定資産税額を金二、四三〇円として公告をしたこと、したがつて結局、五号物件の宅地については課税標準額を金二〇万三、七〇〇円、固定資産税額を金一、三〇〇円、又同六号、同七号物件の宅地については課税標準額を合計金三八万八、〇〇〇円、固定資産税額を金二、〇七〇円それぞれ多く誤つて公告をしたことが認められる。

しかしながら、民訴法第六五八条第二号が競売期日の公告に租税その他の公課の金額を掲げることとしているのは、競買申出人をして公告掲記の租税等の公課を斟酌して競買価額を決定させる等右価額決定の参考の資にしようとするものであるから、右公告に租税その他公課の金額に誤記がある場合であつても、その誤記が些細なものであつて、競買申出人をして右価額を決定するについての判断を誤らしめる虞のない場合には、その誤記ある公告をもつて民訴法第六五八条第二号の公課の表示を欠く不適法な公告とはいい得ないものと解すべきである。これを本件についてみるに、前述の如き公告中に固定資産税額として記載した金額と真正な固定資産税額の金額との差額は、未だ競買申出人をして競売物件の価額を算定するについての判断を誤らしめる程大であるとは解し難いから、右公課等の誤記をもつて本件競売期日の公告が違法であるとはいい難い。よつて、この点に関する右抗告人等の主張は理由がない。

七同別紙三の第二の抗告理由について

本件競売記録によれば、原裁判所は本件競売事件について昭和四五年八月八日、競売期日を同年九月一〇日午前一〇時競落期日を同年同月一六日午前一〇時と定めて公告をしたが、その際本件競落許可決定添付目録記載の三号物件の物について、その最低競売価額を金三一〇万三、八〇〇円と定めたこと、ところがその後右競売期日を開くことなく、同年九月九日職権をもつて右競売期日及び競落期日を取消し、改めて同年一二月一〇日、競売期日を昭和四六年一月二七日午前一〇時、競落期日を同年二月二日午前一〇時と定めて公告をしたが、その際右三号物件の建物の最低競売価額を金三一〇万三、〇〇〇円と定め、前回の公告より金八〇〇円減額して右公告をしたことが認められる。

しかして抗告人等主張のとおり裁判所が一旦最低競売価額を低減して公告をした以上は、これを売却条件として競売期日を開き競売を実施しない限り、右最低競売価額を低減できないものというべきである。しかしながら、記録によれば、原裁判所が昭和四五年一二月一〇日なした本件競売期日等の公告において、競売物件の最低競売価額を減額したのは本件競落許可決定添付目録記載の一号ないし八号の物件のうち、前記三号の物件のみであつて、その余の物件については全く減額しておらず、又右三号物件の減額の程度も金三一〇万三、八〇〇円から右金額に比し極めて僅少の金八〇〇円を減額したもので、それ以前に民訴法第六七〇条の定めにより低減した額(ちなみに昭和四五年八月八日なした公告に際し、前回の公告より低額した額は金五三万七、八〇〇円である)に比すれば著しく僅少であることが認められる。そして右認定によれば原裁判所が右三号物件についてその最低競売価額を金八〇〇円減額したのは、民訴法第六七〇条に準拠してその最低競売価額を低額したものとは認められない。

つぎに裁判所は民訴法第六七〇条による外同第六六二条の二により、必要があると認めるときは職権をもつて最低競売価額やその他の売却条件を変更できると解すべきであるが、右法条による売却条件の変更は公益上の必要があるときに限るものと解すべきところ、本件では記録上最低競売価額を減額する公益上の必要を認め得る資料がないから、前記減額は右同条によるものではなく、むしろ公告の際の過誤に出たものと認めるのが相当であるが、仮りにそうではなくて、原裁判所が本件抗告に対する意見書のなかで述べているが如く、右減額は民訴法第六六二条の二によつたものとすれば、右減額をするについての公益上の必要を認める資料がないので、右減額は違法のそしりをまぬがれないといわなければならない。しかし、以上いずれにしても、最低競売価額についての前記認定の程度の公告の誤記ないし減額は、その金額が物件の価額金三一〇万円余に比し甚だ少額であるからその瑕疵は極めて軽微であり、かつ、本件競落許可決定を取消して再競売を実施した場合には少なくとも金八〇〇円以上の費用と相当の時間とを要するから、債務者等の実質的な利益保護の観点からいつて、右の点を理由に本件競落許可決定を違法として取消すのは相当でないと解すべきである。よつてこの点に関する右抗告人等の主張は採用できない。《以下省略》

(合田得太郎 谷本益繁 後藤勇)

別紙一、二、四《省略》

別紙 三

抗告の理由

第一 本件競売期日の公告には公課金遺脱の違法がある。

一 原競落許可決定の目的物件たる不動産競売手続開始決定の別紙表示の不動産一号記載の建物を以下本件一号建物、二号記載の宅地を以下本件二号宅地、三号記載の建物を以下本件三号建物、四号記載の宅地を以下本件四号宅地、五号記載の宅地を以下本件五号宅地、六号記載の宅地を以下本件六号宅地、七号記載の宅地を以下本件七号宅地、八号記載の宅地を以下本件八号宅地という。本件一号建物、本件二号宅地、本件五号ないし八号宅地は抗告人外田玉一の所有、本件三号建物は抗告人北川佐恵子の所有、本件四号宅地は抗告人北川英樹の所有である。

二 昭和四四年九月三〇日、相手方株式会社東邦相互銀行は本件一号の建物、二号宅地、三号建物、四号ないし八号宅地の任意競売を松山地方裁判所に申立て、同裁判所は同庁昭和四四年(ケ)第八五号事件として同日、前記宅地建物についての不動産競売手続開始決定をなした。

三 次いで、本件三号建物及び四号宅地を共同担保とし第一順位の各根抵当権を有した株式会社愛媛相互銀行は右抵当権実行のため昭和四四年一一月七日、本件三号建物及び四号宅地の競売を松山地方裁判所に申立て、同裁判所はこれに基き同庁昭和四四年(ケ)第九九号事件として本件競売事件の記録に添付された。

四 そして、同庁においては、一、本件一号建物と二号宅地及び本件三号建物ないし八号宅地につき各同一人に限り競買を許す二、競買申出人は各物件(一号と二号、三号ないし八号)につき同時に競買価格を申出て同一人が各物件につき最高価額の申出を為したる場合にその者を以つて最高価競買人とする旨売却条件を定められ、本件競売及び競落期日公告には、右特別売却条件と本件一号建物ないし八号宅地の最低競売価格が個別的に掲示された。かくの如く本件競売は目的物の各個について最低競売価格を定めながら、各個について競売の申出を催告する方法によらず、また、各個の目的物について一括してその最低競売価格を定めこれを競売に附するいわゆる一括競売の方法によつたものでなく、競買申出人は、各物件につき(一号と二号、三号ないし八号)最高価額の申出を為した場合にその者を以つて最高価競買人とする方法によつたものである。

五 ところで、本件競売期日の公告には、公課の額に重大の誤記がある。すなわち、本件五号宅地の課税標準額五九一、七〇〇円、固定資産税三、三七〇円の記載は、本件四号宅地の公課に関する記載である。また、本件六号宅地の課税標準額三八八、〇〇〇円、固定資産税二、〇七〇円の記載は、本件五号宅地の公課に関する記載である。また、本件七号宅地の課税標準額四五四、二〇〇円固定資産税二、四三〇円の記載は、本件六号宅地と本件七号宅地の課税標準額の合計及び固定資産税の合計を記載したものであつて、本件七号宅地の公課に関する記載でない。

六 右のように、本件競売期日の公告には公課金の誤記があつて、競買人をして競売価格の標準を察するに際し誤らしむるおそれがある。殊に本件競売は、前記のように売却条件が定められ、数個の物件のうち一個について最高価額の申出をした場合に他の物件も当然、競買申出をしなければ競落できない関係にあるから、競買人としては競売価格に敏感ならざるを得ず、したがつて、該公告はこの点において妥当といえずこれに基いて競売手続を進行してなした競落許可決定は違法である。

第二 最低競売価額を公告後低減した違法がある。

一 原裁判所は、本件競落許可決定の目的物の一つである本件三号建物の最低競売価格を参百壱拾万参千八百円と定め、競売期日昭和四五年九月一〇日午前一〇時、競落期日昭和四五年九月一六日午前一〇時の本件競売及競落期日公告にこれを記載し昭和四五年八月八日公告した。ところが、原裁判所は同年九月九日職権をもつて右公告の競売期日及び競落期日を取消しこれを掲示した。そして、更めて本件競売の目的物の一部である本件三号建物の最低競売価格を参百壱拾万参千円に低減した上、昭和四六年一月二七日午前一〇時を競売期日と定め公告した。そして、右期日に競売が実施せられ右建物について参百壱拾万参千円の競買申出があり、これに基いて原裁判所は競落許可決定をなした。すなわち、原裁判所は、競売期日を開かないで最低競売価格を低減したのである。

これは、競売法第三十条民事訴訟法第六百六十二条ノ二によつたものであろうが、昭和十六年法律第五七号により定められた右民事訴訟法第六百六十二条ノ二の「裁判所必要アリト認ムルトキハ」とは、公益上の必要ありと認むるときはの意味に解すべきものであることは、立法の沿革に鑑み明らかであるゆえ、競売裁判所は一たん最低競売価額を低減し公告した以上、これを売却条件として競売期日を開き競売を実施しない限り競売法第三十一条にいわゆる「相当ノ競買申込ナキトキ」なる要件に該当せず、したがつて、競売裁判所は、さらにこれを低減することはできないものといわなければならない。したがつて、原裁判所が一たん低減した最低競売価格を売却条件として競売を実施しないのにかかわらずさらにこれを低減したのは違法であつて、右違法なる手続の結果としてなされた競売期日において原裁判所が違法に低減した最低競売価額を申し出た競買人に対し本件三号建物ないし八号宅地の競買人として競落許可決定をなしたのは失当である。(昭和三一年(ラ)第二七二号同年一〇月一三日東京高等裁判所決定)(高民集九・九・五九五)

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