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高松高等裁判所 昭和32年(く)11号 決定 1958年3月14日

少年 C(昭和一六・一二・五生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は記録中の親権者B名義の抗告の理由と題する書面に記載の通りであるからここにこれを引用する。

論旨は本件犯行につきCは自身主犯なる如く供述して居るけれども、Cはかかる犯行を自ら率先して行うものとは考えられず本人の自白は真実でないと思われる。Cは未だ単独では事件は犯さぬと思う。親権者一家は二十有余年の信用ある店舗を売却して高松市に移転する計画であるので、本人を新しい環境に置けば必ず親の手もとで更生させ得ると信ずるというのである。

よつて記録を精査するに、少年が昭和三十二年十月十九日無断家出して坂出市に赴く間D、E子、F、G等と同行していたのではあるが、同月二十二日坂出市で午前四時四十五分頃同駅発下り列車に乗車する際、D、E子、Gの三名は少年等と別れて別行動を採ることになり観音寺駅迄の切符を買い、少年とFとの両名は今治に赴くことにしてその乗車切符を求め前記三名と別れて別個の客車に乗車していたのである、その車中に於て少年が、大阪へ就職試験を受けに行つての帰途にあつた○○○高等学校三年生の本件四人の被害者等を認めるや「あの少年をやるわあ」とそれ等学生から金員を巻き上げることをFに告げてその同意を得た後、少年が一人でその四人の学生のもとに赴き同学生等に順次財布を出せと要求し、学生の一人Hには「出さぬと承知せんぞ」と申し向け、Hが小分けして出そうと内ポケット内で手をもじもじしていると「何をしよんぞ、もじもじすることはない、早く全部を出してしまえ」と申し向けたり、次にKが財布がないと断つたところ、「本当に財布を持つとらんか嘘を言うとこらえんぞ」と言つたり、ジャックナイフを取り出し「このジャックナイフはだてに持つているのではないぞ」と脅し、「調べるぞ」と言つて持物を調べ、上服の内ポケットから財布を見付け「これは何ぞ」とつめ寄る等の所作に出で、結局四人の学生から順次それぞれ金員を喝取し、Hが金員の一部を返して貰いたいと頼んだが「一旦取つたもの返せるか、返すわけにはいかん」「相棒も返すなと言うので返すわけにはいかんから、すりにでもすられたと言え」と言つてFと共に立ち去つたのであつて、本件犯行にはDやGが無関係であるのみならず、犯行は先ず少年が思い付いてFに協議し、而もその実行行為は終始少年が独自の考えで実行し、Fは当初恐喝の相談に預つたのと、中途でHに喝取金の一部を返還してやるかどうかにつき相談を受けただけのことであることが認められるのである。親としてわが子が悪友にあやつられて居るのであつて主犯者ではないと思うのは無理からぬこととは思われるが、原審の認定には誤がない。相手の学生が四人も居るのに四人の中に入つて行つて恐喝をすること自体少年の度胸は既に相当高度の悪性に進んで居ることを示しているし、而も兇器を携行してかかる犯行を犯すに至つては最早在宅保護の方法をもつてしては少年の改過遷善を期待し難く、一定期間国家の施設に収容して適正なる教育を施す必要が痛感せられるのである。わが子を思うが故に家庭を高松市に転じ少年を新たな環境に置いて更生を計るという両親の熱意は深く敬服に価するものではあるか、叙上の本件犯行の動機態様その他少年の従来の素行等に徴するときは少年を中等少年院に収容すべきものとする原審決定を変更すべきものとは思料されず、原決定には決定に影響を及ぼす法令の違反、重大なる事実の誤認又は処分の著しい不当はない。

よつて本件抗告は理由がないから少年法第三十三条第一項により主文の通り決定する。

(裁判長判事 玉置寛太夫 判事 渡辺進 判事 合田得太郎)

別紙一(法定代理人父の抗告理由)

一、今回の事件に於て総てCが主犯となつて居り又本人も自分の意志に依り自分一人で事件を起したと自認いたして居りますが何時の事件の場合でも幾人かの共犯者が居り共犯者は総べて一歩背後にあつて表面に出て居らなく一番年少であり不良経歴犯罪知識等の浅いCが犯罪を計画したり幾人かの共犯者を連行して自分が矢面に立ち事件を起す等考えられなく共犯者がCの意志に従う程の魅力等もあるとは思われませんので親権者は本人の自白が欺偽であると考えられてならないのです。

その裏付となるべく確実なる証人も出て参りましたので早速本人に面会いたし其の事実を確認いたしましたのでCの発言を左に述べます。

1 僕は何れにしても当時働いて居た事であり事件を起す事等考えたり出かけたりする必要は何んにもなかつたのだ。

2 D君が金に困つて居たので僕がしてやらなければ仕方がなかつたのだ(新居浜の件、尚D君の家庭は困窮して居た)

3 劇場に於て計画後本人の友人L君に君も一緒に行かないかと誘つたところLは僕はお母さんが心配するから行かないC君行くのかと聞かれた時僕もどうしようかと思つて(仕事があり親が心配するから)居るんだと言つて大変考え込んで迷つて居りましたと言う事をL君が証言して居ります。

右の事実に基き親権者は本人が当時働いても居り常時小遣等も不自由して居らないことであり計画後行動を共にする事を大変迷つて居た事であるので参加しなければならない様な大きな理由が何かあつたものと思われます。

今迄一度も一人で犯罪を起した事実もなくまだまだ単独では事件を起さないと思いますので親権者は一家の生活の源泉である二十有余年の信用ある店舗並に不動産を売却する様いたしましたので新しい土地に(予定地高松市)転居して本人の性格に合つた家業を選定して今迄の一切の過去をたちきり総て新しい環境に置けば必ず親の手元で更正するものと固く信じます又本人としても自分の為に総べてを犠性にして迄知らない他国に転居して尽して呉れると分れば親に対する今迄の考え方が変り(少年院にて面会の折涙等如何な事があつても見せた事等ない本人今回涙を流して居りました)家庭に不満を以つて居たことも自然に解消し同時に家庭に親しみを持つ様になれば最も更正出来やすい状態に入れるものと固く信じて居ります。

右の理由を以て再審判を申請いたします故何卒事情を御聴取御調査の上寛大なる御処分を賜わらば幸甚に存じます。

別紙 (原審の保護処分決定)

○主文及び理由

主文

少年を中等少年院に送致する。

押収にかかるジャックナイフ一丁(証第二号)は没取する。

理由

(非行事実)

少年はFと共謀の上昭和三二年一〇月二二日午前五時二〇分頃高松駅発下り宇和島方面行の列車が上高瀬駅から観音寺方面に進行中の車内において、H、M、K、Nに対しジャックナイフを示し「おい財布を出せ、出さぬと承知せんぞ」と申し向け、若しその要求に応じないときは如何なる危害を加えるかもしれない態度を示し脅迫してこれを畏怖させ、因つてHより現金二五〇〇円位、Mより現金五六〇円位、Kより現金四〇〇円位、Nより現金一〇〇円位を夫々喝取したものである。

(法令の適用)

判示所為は刑法第二四九条第一項、第六〇条に該当する。

主文の適条につき少年法第二四条第一項第三号、第二四条の二第一項第二号、第二項を適用する。

(処分理由)

少年は昭和三二年九月三日恐喝保護事件により保護観察決定を受けた後間もなく本件非行に及んだものである。

非行の原因は不良交友関係にあり、少年自身もジヤツックナイフを所携する等、非行に対する本質的反省に乏しいところがある。(少年は本件非行のほか約五件の窃盗事件がある旨申述している)。その性質は性情面に欠くるところがあり、被影響、不安定な傾向があり家庭内の欲求不満が外部に対する不良交友及び非行となつて現れる如くであつて、現在の状態では非行が軌道化しているので、このままでは再犯の虞れが多い。

よつて少年に対してはこの際社会的適応性を得るよう少年院による矯正教育の必要があると思料されることによる。

(昭和三二年一一月一九日 松山家庭裁判所西条支部 裁判官 清水嘉明)

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