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高松高等裁判所 昭和26年(ネ)160号 判決 1952年4月30日

控訴人(被申請人) 学校法人新田学園

被控訴人(申請人) 小崎胤幸

主文

原判決を取消す。

被控訴人の本件仮処分申請を却下する。

訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は主文と同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、

控訴代理人において

一、被控訴人の主張する労働組合なるものは労働組合法第二条にいわゆる組合員の経済的地位の向上を図ることを目的として組織された自主性ある団体ではないから法の保護を受くべきものでなく従つて不当労働行為の成立する余地はない。

一、被控訴人は本件解雇を承認しているからその無効を主張し得ない。

一、その後学制改革により専門学校の廃止によつて松山語専は昭和二十六年三月三十一日限り廃校となり、又松山短大の別科である附属夜学校は受講者の激減によつて収支償わずこれ亦同年二月末限り廃止された。故に右両校が廃止されて後までも解雇無効の故をもつて引続き給料の支払を命じたことは失当である。廃校と共に教授又は講師たるの身分を喪うは当然である、又短大講師たる身分も語専教授の身分あつての講師で兼務たるに過ぎない以上いつまでもその身分を保障すべき筋合のものではない、しかのみならず被控訴人は松山短大講師に復職する意思はない。

と述べ、

被控訴代理人において控訴人の右主張事実はすべて争う、本件労働組合は労働組合法第二条に該当する組合である、仮に自主的な団体でなくても抽象的にみて自主性ある場合において通常行われる組合活動もしくは自主性のある組合を結成しようとして行われた行為であれば、これを理由とする解雇は不当労働行為として無効である。又松山語専が廃止されたとしても控訴人新田学園と被控訴人との間における雇傭関係には何等影響はない。被控訴人は本件仮処分に関する本案訴訟は提起していない。

と述べた外いずれも原判決事実摘示と同一であるからここにこれを引用する。(疏明省略)

理由

控訴人は学校法人であつて新田中学校、新田高等学校、松山語学専門学校(以下単に語専と略称する)、松山外国語短期大学(以下単に短大と略称する)を経営していること、被控訴人が昭和二十五年右松山語専教授兼松山短大及び、同附属夜学校講師として雇われ、毎月一日に金五千八百十円、同十五日金五千五十円、同二十五日金千二百九十三円(いずれも源泉所得税を控除した残額)の給料の支払を受けておつたこと、その後被控訴人は控訴人から右教授及び講師の職を解雇する旨の通告を受け昭和二十五年八月十五日以降右給料の支払を受けていないことは当事者間に争がない。原審証人沼田実の証言によれば被控訴人は昭和二十年八月三十一日新田中学校の教諭嘱託として雇われ、新田高等学校発足と同時に同高校教諭となつたが、昭和二十四年三月三十一日依願退職し、同年五月三十一日松山語専教授兼松山短大同附属夜学校の講師として雇われたことは認められるけれども、被控訴人主張の如く松山語専の教授を免ぜられたのは昭和二十五年七月末頃であり松山短大及び同附属夜学校講師を免ぜられたのは同年八月十九日であることについてはその疏明十分でなく、むしろ却つて原審証人島袋茂彦(第一、二回)の証言、同証人及び原審証人杉武夫の各証言によりその成立を認め得る乙第二号証によれば控訴人主張の如く控訴人は被控訴人に対し昭和二十五年六月二十一日辞職を勧告し次いで同月三十日松山語専教授を同年七月三日松山短大及び同附属夜学校講師をそれぞれ免ずる旨通告したことが疏明せられる。

原審証人白鷹昇平の証言によつて成立を認める甲第二号証原審並びに当審証人白鷹昇平原審証人杉武夫同鈴木義夫同香坂順一の各証言を綜合すれば被控訴人は新田中学校教諭嘱託在職中の昭和二十二年五月頃鈴木義夫を組合長とし同校職員三十七、八名と労働組合を結成したがその後語専教授兼短大講師に転職した後昭和二十五年四月頃奥田教授が理事長の名で解職せられんとするや職員の身分保証の必要上同校有志と共に同校職員を以て組織する労働組合の結成に協力し、組合結成の暁はこれに加入しようとの意思を有していたこと、同組合はその後被控訴人解雇後たる同年八月十一日に至り結成されたこと、控訴人学園の理事長たる新田仲太郎は右の如き組合結成について悪意を持つていたことが一応疏明せられる(尤も被控訴人が松山語専教授同短大講師在職中自ら率先して右労働組合の結成を主唱して該組合を結成したとの被控訴人の主張事実はその疏明が十分でない)。

しかしながら控訴人は本件解雇が被控訴人の組合活動を理由とするもので全く別個の理由によるものであると主張するので控訴人のあげている本件解雇の事由の存否について順次検討する。

(イ)  財政上、人員整理の必要があつたかどうかの点

成立に争ない乙第三号証原審証人泉通雄の証言によりその成立を認めうべき乙第四号証の一、二原審証人島袋茂彦(第一、二回)の証言によつて成立を認める乙第五、六号証同第七号証の三同第十三号証の一、二に原審証人杉武夫の証言(一部)原審証人島袋茂彦(第一、二回)同泉通雄の各証言を綜合すれば松山語専及び松山短大の経営は当初の計画に副う入学者数を得られなかつた等の事由によつて財政上困難な事態に追い込まれたことが疏明でき右に反する原審証人杉武夫同香坂順一の証言部分は措信しない。尤も原審証人島袋茂彦(第二回)の証言により成立を認める乙第七号証の三並びに原審証人香坂順一の証言によれば控訴人は被控訴人解雇後小花鈑三を短大英語科の講師として迎えたことが認められるけれども原審証人島袋茂彦(第二回)の証言によつて成立を認めうべき乙第七号証の三によれば小花講師は短大教授田窪敏郎(英語学を担任していた)の後任者であることが認められる。それ故右のような経営面における行詰りからも解雇の必要があつたことが首肯できる。

(ロ)  被控訴人の教授能力等の点につき欠くるところがあつたかどうかの点

当審証人島袋茂彦の証言によつて成立を認める乙第二十号証同第二十一号証の一同第二十四号証同第三十号証原審並びに当審証人島袋茂彦(原審は第一回)同沼田実の証言を綜合すれば被控訴人の教授能力については中学教師としての能力はともかく語専短大のそれとしては不足するものがあつたこと並びに学生間においても教授能力及び人格の点においてもとかく不評を買い排斥せられたことが疏明せられる。尤も原審証人香坂順一の証言中には被控訴人が大学審議会において適格の判定を受けたことが疏明せられるけれどもこれあるの故をもつて右認定を動かすに足らない。

(ハ)  本件解雇が短大教授会の評決に基くものか又は理事長の専断に基くものであるかどうかの点

成立に争ない乙第一号証前掲同第二号証当審証人島袋茂彦(第一回)の証言により成立を認める同第十号証の一、二同第二十一号証の一、二同第二十四号証原審証人島袋茂彦(第一、二回)同香坂順一(一部)同白鷹昇平(後記措信しない部分を除く)を綜合すれば松山短大には学校教育法第五十九条により設置され学長及び専任教授を以て組織する教授会があり同短大学則第四十五条第四十四条により教授会は教授助教授助手講師等の任免学科目の担当その他大学運営上の重要な事項に対する審議権が与えられているが同教授会は学園の財政涸渇の点より人員整理の必要に迫られた結果昭和二十五年六月十二日同月十四日及び同月二十一日の三回に亘り(二十一日の会議は語専短大連合教授会)会議を開いて審議しその結果整理の基準を教授能力不十分と認められる者に置くこととしその候補者として被控訴人が選定され同人を解雇することに決定されたがなお慎重を期し同年七月一日教授の外助教授及び講師を加えた拡大教授会を開き教授助教授講師等十八名参集のうえ被控訴人を教授能力不足の理由で解雇することの可否につき無記名投票を行つた結果賛成十一票反対四票白票二票(学長棄権)にて結局被控訴人を解雇することを議決したことが認められ右に反する原審証人杉武夫、白鷹昇平の証言(一部)は措信しない。

被控訴人は右教授会の決議は各教授等の自由意思に基くものでないと主張するけれども原審証人杉武夫、白鷹昇平当審証人高宮盛逸の各証言中各被控訴人の主張に副う部分はたやすく措信しがたく他にかく断じうる疏明はない。

以上の諸事実を綜合すれば被控訴人が前記の如く組合結成に協力したことに関し控訴人学園の新田理事長においてはこれを心よく思つていなかつたことは推測しうるけれども、他面前認定の如き被控訴人の教授能力の不足と学生の不人気に徴すれば控訴人が学園の財政上の危局を打開するため過剰人員整理の必要に迫られ学則に基く教授会の審議を経て被控訴人をその候補者に選んだのは学園当局としては不当とはいい得ない。而して以上認定の経緯に徴すれば本件解雇が被控訴人の主張するが如くその組合活動を理由として為されたもの、換言すれば被控訴人の組合活動が本件解雇の決定的原因をなしたものとは断じがたく本件解雇は適法であるといわなければならない。

さらに被控訴人は仮りに被控訴人の解雇が不当労働行為を構成しないとしても右解雇(雇傭契約の解除)は権利の濫用であると主張するけれども右解雇が前認定の如き事情に基くものなる以上これを目して権利の濫用であるとはいい得ない。

されば本件解雇が無効であるとの被控訴人の主張は失当であるのみならず当審証人島袋茂彦の証言及び同証言によりその成立を認め得る乙第二十五号証の一乃至五同第二十六号証第二十七号証の各一、二によれば被控訴人は本件松山語専教授兼松山短大講師を解雇されて後間もなく松山市内に松山英語塾と称する私塾を開設して英語の個人教授を始めたこと、右塾の看板には「元高専教授」と表示してあることを認め得べく且つ被控訴人は本件について今なお本案訴訟を提起していないことは被控訴人の自陳するところであるからこれらの事実に徴するときは被控訴人は控訴人学園を解雇された当時から真実同学園に復職する意思を有していなかつたものと認めるを相当とするから被控訴人の語専並びに短大同附属夜学校講師である仮の地位を定める旨の仮処分命令申請は失当である。次に昭和二十五年八月十五日から本案判決確定するまで毎月一日に五千八百十円同十五日に五千五十円同二十五日に千二百九十三円の支払を命ずる旨の仮処分請求については被控訴人は昭和二十五年六月三十日に語専の教授を同年七月三日に短大の講師を免ぜられたこと前認定のとおりであるから前記のように同年八月十五日以降の賃金の支払の仮処分を求める被控訴人の請求も失当たるを免れない。

されば被控訴人の本件仮処分申請はすべて失当であるから控訴人主張の爾余の点に対する判断を省略してこれを却下すべくこれに符合しない原判決は不当であるから民事訴訟法第三百八十六条によりこれを取消し訴訟費用の負担につき同法第九十五条第九十六条第八十九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 前田寛 近藤健蔵 萩原敏一)

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