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高松高等裁判所 昭和26年(う)60号 判決 1951年4月12日

控訴人 被告人 唐門龜之丞

弁護人 岡井藤志郎

検察官 大前滝三関与

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役一年及罰金二千円に処する。

右罰金を完納することができないときは金百円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

押収のゴム長靴四十二足(証第一号)及同一足(証第二号)は愛媛県庁耕地課に還付する。

訴訟費用は第一、二審共全部被告人の負担とする。

理由

弁護人岡井藤志郎の控訴趣旨は末尾添付の趣意書の通りである。本件記録を精査し弁護人の論旨について検討するに原判決の挙示している証拠によれば判示の事実を十分に認めることができ所論のような採証の法則に反し又は証拠判断を誤つて事実を誤認したと認められる点は見当らないから論旨は採用できない。

職権によつて調査するに、原判決が証拠によつて認定した事実は被告人は高橋某と共謀して(一)昭和二十四年九月二十日頃松山市西立花町外池福三郎方に於て同人に対し高橋某が他より窃取して来た品であることを知りながらゴム長靴七十足位の販売方を依頼し白石某を介し同月二十一日頃松山市御宝町小笠原円次郎に該贓品を販売し以て贓物の牙保を為し、(二)前記の如く売買成立せる贓物を右同月二十一日頃氏名不詳者リンタク車夫二名をして松山市花園町北尾豪規方より右小笠原円次郎方迄運搬せしめ以て贓物の運搬を為したものであると云うのであるが高橋某は窃盗犯人であり従つて同人の窃取に係る贓物を同人自ら他に販売し又は運搬したからと云つて贓物に関する犯罪の成立しないことは明かであるから原判決が高橋某と被告人とが共謀して判示の所為を行つたものとし、之を共同正犯として刑法第六十条を適用したのは誤りである又贓物牙保罪は贓物であるの情を知り乍らその有償処分に関する媒介をすることによつて成立するものであつてその媒介に当り媒介者が媒介の必要上贓物の寄託を受け又は自ら之を運搬することがあつてもこれ等の行為が媒介行為と不可分の関係がある場合には之を包括して観察し単一の牙保罪と見るのが相当である本件に於て原判決認定の(二)の事実は被告人と窃盗犯人高橋某とが外池福三郎に贓物の販売を依頼し白石某を通じて小笠原円次郎に販売して貰い(以上は(一)の事実)その贓物をその当日買主である判示小笠原方へ物件所在の場所である判示北尾方より運搬したと云うのであるからこの贓物の運搬は判示(一)の贓物売買契約の履行の為に行つたものに他ならない、従つてその運搬の所為は判示(一)の牙保の所為に包含せらるべきもので独立して一罪を構成するものとは云えない、然るに原判決が判示(一)(二)の事実を夫々独立した犯罪であつて刑法第四十五条前段の併合罪であるとして刑法第二百五十六条第二項所定の刑に併合加重を施こしたことは法令の適用を誤り且つその誤が判決に影響を及ぼすことが明かであるから刑事訴訟法第三百九十七条第三百九十二条第三百八十条により原判決は破棄を免かれない、しかして本件控訴記録並に原審が適法に取調べた証拠により直ちに判決をすることができるから同法第四百条但書により判決をする。

原判決が適法に確定した判示事実を法律に照すと被告人の判示所為は刑法第二百五十六条第二項罰金等臨時措置法第三条第一号に該当する単一罪であつて被告人には原判決に於て認定した前科があるから懲役刑について刑法第五十六条第五十七条第五十九条に従つて累犯加重を施こした上被告人を懲役一年及罰金二千円に処し、罰金不完納の場合の労役場留置につき同法第十八条、押収物件の被害者還付につき刑事訴訟法第三百四十七条第一項、訴訟費用の負担につき同法第百八十一条第一項を各適用し主文の通り判決する。

尚未決勾留日数の通算について検討すると当初松山簡易裁判所が判決を言渡したのは昭和二十四年十二月六日であり、その翌七日原審弁護人より控訴の申立があつたのであるが右第一審判決は昭和二十五年七月七日控訴判決により破棄せられ事件は原裁判所に差し戻されたのであるから右第一審判決のあつた日より差戻後の原裁判所が判決をした昭和二十五年十一月二十日迄の未決勾留日数計三百五十日は刑事訴訟法第四百九十五条第一項第二項第二号第四項によつて本刑に通算せられ又右差戻後の第一審判決言渡の日より勾留の執行停止決定により釈放せられた昭和二十五年十二月十四日迄の日数二十四日は当裁判所の為す破棄判決によりこれ亦本刑に通算せられることゝなるから右一年の懲役刑は全刑期を通じ未決勾留日数を以て法定通算せられ残存日数は罰金刑に算入せられることゝなる。

(裁判長判事 満田清四郎 判事 石丸友二郎 判事 太田元)

(弁護人の控訴趣意は省略する。)

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