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高松高等裁判所 平成8年(行ケ)2号 判決 1997年7月28日

原告

古味国守

右訴訟代理人弁護士

田本捷太郎

被告

高知県選挙管理委員会

右代表者委員長

中山晴雄

右指定代理人

藤原充子

外四名

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

平成七年一一月二六日に施行された高知県高岡郡仁淀村長選挙の効力につき、被告が平成八年七月二五日にした裁決を取り消す。

第二  事実関係

一  請求原因

1  原告は、平成七年一一月二六日に施行された高知県高岡郡仁淀村長選挙(以下「本件選挙」という。)に立候補した。本件選挙の結果、原告は一一二九票を、西森豊作は一一一一票をそれぞれ獲得し、原告が一八票差で当選した。

2  大野直孝は、高知県高岡郡仁淀村の選挙人であるところ、平成七年一二月一一日、仁淀村選挙管理委員会(以下「村選管」という。)に対して本件選挙につき異議の申立てを行った。これに対し、村選管は、同月二七日に右申立てを棄却する旨の決定をした。この決定に対し、右の大野直孝外一一名の仁淀村の選挙人は、平成八年一月一六日、被告に審査申立てを行ったところ、被告は、同年七月二五日、村選管の右決定を取り消し、本件選挙を無効とする旨の裁決(以下「本件裁決」という。)を行った。

3  よって、原告は、請求の趣旨のとおりの判決を求める。

二  請求原因に対する認否

全部認める。

三  被告の主張

本件選挙においては、本件裁決に関する別紙裁決書(以下「本件裁決書」という。)記載のとおり、不在者投票二〇八票中一一七票についてその投票の管理執行手続に違法があったといわざるを得ないところ、原告の得票一一二九票と西森豊作の得票一一一一票との差は一八票であるから、不在者投票の管理執行に関する右の違法が本件選挙の結果に異動を及ぼすおそれがあることは明らかである。

したがって、本件選挙は無効である。

四  原告の反論

本件裁決には、次のような法令解釈及び事実認定に関する誤りがあるから、本件裁決は取り消されるべきである。

1  本件裁決は、本件選挙に関する不在者投票の実施に際し、村選管には、選挙人が選挙の当日に投票できないという職業の内容ややむを得ない用務について選挙人から詳細な事情を聴取するなどして審査を尽くすべき義務があるのに、その審査義務を尽くさないまま不在者投票事由があるとして不在者投票を認めた手続的違法があると判断した。しかしながら、後記の2・3のとおり、本件選挙における不在者投票の管理執行手続に違法な点はないから、本件裁決は違法である。

2  不在者投票制度は、一人でも多くの選挙人に選挙権を行使させるため、選挙権行使の要件を緩和する目的で設けられた制度であるから、不在者投票をしようとする選挙人に対し、厳格な取扱いをするのは、不在者投票制度の趣旨を没却し、公職選挙法(以下「法」という。)四九条の規定の解釈を誤ることになる。

なお、仁淀村が高知県高岡郡に在る山村で、不在者投票受付事務担当者がほとんどの選挙人を知っているという実情をも考慮すると、不在者投票事由の存否を確認するために選挙人から詳細な事情の聴取をすること自体プライバシーの侵害となる。かかる審査まで法四九条一項が要求している趣旨とは、到底解されない。

3  仮に、被告主張のとおりの審査義務が肯認されるとしても、(人名略)については、いずれも投票日に不在者投票事由を具体的に説明しており、不在者投票受付事務担当者による不在者投票事由の聴取も十分になされているから、村選管の審査義務は尽くされているというべきである。これらの者に関する被告の認定判断は、誤っている。

第三  当裁判所の判断

一  請求原因の1(本件選挙)及び2(本件裁決)の各事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、被告主張の本件選挙の無効事由について判断する。

1  法は、選挙人が選挙の当日自ら投票所に行き、投票用紙の交付を受け、自ら候補者の氏名を記載して投票するのを原則とし(法四四条ないし四六条)、法四九条の不在者投票は、選挙人の選挙権を全からしめるため、右の原則に対するやむを得ない制度として、法四九条一項各号所定の不在者投票の事由がある場合にのみ許されるものであって、不在者投票をしようとする選挙人は、選挙管理委員会(以下「選管」という。)の委員長に対し、投票用紙及び不在者投票用封筒(以下「不在者投票用紙等」という。)の交付を請求する場合に、選挙の当日自ら投票所に行き投票することができない事由を申し立てる(その申立ての方式は、口頭でもよいが、不在者投票請求書によるのが一般である。)とともに、その申立てが真正であることを誓う旨の宣誓書を併せて提出することを要し、右請求を受けた選管の委員長は、その申立てに係る事由が法四九条一項各号所定の不在者投票事由に該当するか否かを審査し、これに該当するものと認定した場合、右請求に応じなければならない(公職選挙法施行令(以下「令」という。)五二条、五三条一項)。ところで、選挙人に完全な不在者投票請求書や宣誓書(以下「宣誓書等」という。)の提出を期待するのはそもそも無理な要求であるから、不在者投票受付事務担当者は、宣誓書等の記載に不備があり、不在者投票事由の存否を審査し難い場合には、選挙人に対し、口頭の説明を求め、宣誓書等の記載と口頭補足説明に基づいて、不在者投票事由の存否を認定判断すべき義務があるというべきであり、かかる審査義務を尽くさず、不在者投票の請求に応じて不在者投票用紙等を交付するのは、法四九条一項各号及び令五三条一項の規定に違反するものといわざるを得ない。

2  これを本件についてみるに、証拠(略)を総合すれば、次の事実を認めることができる。

(一) 本件選挙における不在者投票期間は、告示日である平成七年一一月二一日から投票日の前日である同月二五日まで(ただし、仁淀村長者支所(以下「長者支所」という。)に限り、同月二四日まで)とされ、不在者投票の投票記載場所は、仁淀村役場三階の選挙管理委員会事務所、同所一階の玄関ロビー及び長者支所の三か所とされた。本件選挙における不在者投票管理者となったAは、仁淀村役場については、受付事務担当者及び立会人要員として、総務課長B、C、D及びEの四名を選任し、長者支所については、Fを受付事務担当者に、(仮名)を立会人に選任した。

(二) 村選管では、不在者投票事由については、総務課長のBがC、D、E及びFに対して、事前に、高知県選挙管理委員会発行の「高知県知事選挙事務必携」(略)及び自治省選挙部編・財団法人地方財務協会刊行の「不在者投票事務ノート」(略)を配布し、右各冊子をよく読んで、その記載に従って不在者投票事務を行うようにと抽象的に説明したが、投票用紙及び不在者投票用封筒交付請求書並びに宣誓書(以下、単に「宣誓書」という。)への記載のさせ方や、選挙当日投票に支障がある旨の申し出があった場合に当該予定の変更可能性等を指摘するなどして法四九条一項各号該当性を具体的に吟味する方法等についての説明はしなかった。なお、B自身、法四九条一項各号の不在投票事由について具体的に説明を受けたことはなかったし、右各冊子には、同項各号該当事由についての事例は多数記載されているものの、記載自体が不明確である場合についての発問の仕方や、確認の仕方についての説明は掲載されていなかった。

(三) 本件選挙における不在者投票者の数は二〇八人であり、不在者投票総数は二〇八票であった。そのうち、①指定病院等におけるものは、本件裁決書添付の「仁淀村長選挙不在者投票一覧」の別表(以下、単に「別表」という。)1のとおり、二二件であり、②郵便によるものは、別表1のとおり、一件であり、③宣誓書を伴う不在者投票は、別表2ないし7のとおり、計一八五件であった。そして、③の一八五件のうち、仁淀村役場で実施されたものが一一〇件、長者支所で実施されたものが七五件であり、いずれも、不在者投票の申立てが拒否されることなく、不在者投票用紙等が交付され、不在者投票が行われた。

(四)  仁淀村役場及び長者支所の不在者投票受付事務担当者である前記(一)のBら五名は、やむを得ない用務等を理由に不在者投票の申立てをした選挙人の提出した宣誓書の記載が不備であり、その宣誓書によっては不在者投票事由の存否を認定し難いものが多々あったのに、その選挙人に口頭の説明を求めた上で、不在者投票事由の存否を審究する措置を採らないまま、不在者投票用紙等を交付し、不在者投票を行わせた(以上の認定に反して、適切な口頭の説明はなされたようにいう証人(人名略)に照らして、たやすく採用することができない。)。

3 してみると、本件選挙の不在者投票に関する管理執行には前示2の(四)の点で違法であるものといわなければならない。

そこで、その違法となる不在者投票数を検討するに、証拠(略)を総合すれば、本件裁決書八頁目二一行目から二三頁目一〇行目まで記載のとおりの事実(ただし、①一一頁目二五行目の「農」を「農業」に、②一四頁目一五行目の「記載が」を「記載」に、③一五頁目一六行目の「番号48の二名」を「番号48、別表6に係る番号20、同21の四名」に同二六行目の「一七票」を「一九票」に、同二七行目の「四三名」を「四一名」に、一六頁目三行目の「四三票」を「四一票」に改める。)を認めることができる。

以上認定の事実によれば、違法となる不在者投票数は、一一五票あることになる。

三 しかるところ、本件選挙の当選人と落選人との得票差がわずか一八票であったことにかんがみれば、不在者投票の管理執行に関する前示の違法が本件選挙の結果に異動を及ぼすおそれがあるということができる。

四  結論

そうすると、本件選挙は無効であるといわざるを得ないから、これを無効とした本件裁決は相当であって、その取消しを求める原告の請求は理由がない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官渡邊貢 裁判官豊永多門 裁判官奥田正昭)

別紙<省略>

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