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高松地方裁判所 昭和36年(行)8号 判決 1966年11月17日

松山市湊町三丁目三五番地

原告

日野喜助

右訴訟代理人弁護士

米田正弌

泉田一

南条保

高松市天神前一丁目五番二号

被告

高松国税局長

河村尚平

右指定代理人

高松法務局訟務部長

杉浦栄一

高松法務局訟務部付検事

叶和夫

高松法務局訟務部第二課長

大坪定雄

高松国税局大蔵事務官

奥村富士雄

高松国税局国税訟務官

植松貞一

右訴訟代理人弁護士

熊野一良

右当事者間の昭和三六年(行)第八号所得税更正決定取消請求事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の請求はいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の申立

一、原告は、「被告が、昭和三六年一〇月三日原告に対してなした昭和三三年度分原告の総所得金額金一一、一一六、一七一円、税額金四、七四四、三五〇円とする審査決定および昭和三四年度分原告の総所得金額金一三、〇四三、一二二円、税額金五、八三四、七〇〇円とする審査決定は、いずれもこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めた。

二、被告は、主文同旨の判決を求めた。

第二、請求原因

一、原告は、住居地でホームランという屋号でパチンコ業を営んでいるものであるが

(一)  昭和三四年三月一五日訴外松山税務署長に対し昭和三三年度分の所得を欠損金七、〇〇〇、〇〇〇円と申告し、

(二)  昭和三四年度分についても申告をなすべく準備中突如として高松国税局より係官数名が約二週間調査に来店したため、同年度申告期限である昭和三五年三月一五日までに所得の申告ができなかつた。

二、しかるに訴外松山税務署は、昭和三五年五月一日原告に対し、

(一)  昭和三三年度分の

課税所得額 金一四、一五四、九〇〇円

所得税 金 六、四九二、六九〇円

過少申告加算税 金 三二四、六〇〇円

(二)  昭和三四年度分の

課税所得額 金一六、七五七、一〇〇円

所得税 金 七、九二六、九〇〇円

無申告加算税 金 一、一八八、九〇〇円

なる課税処分をなした。

そこで原告は、同年五月二六日訴外松山税務署長に対し、再調査の申請をなしたところ、同署長は棄却決定をなしたので、原告は同年八月一一日被告に対し審査請求をした。ところが被告は、昭和三六年一〇月三日右再調査の決定には誤りがあるとの理由で更正決定の一部を取消し、左記内容の審査決定をなした。

(一)  昭和三三年度分

総所得金額 金一一、一一六、一七一円

課税総所得金額 金一〇、九七八、一〇〇円

税額 金 四、七四四、三五〇円

過少申告加算税 金 二三七、二〇〇円

(二)  昭和三四年度分

総所得金額 金一三、〇四三、一二二円

課税総所得金額 金一二、九五三、一二二円

税額 金 五、八三四、七〇〇円

無申告加算税 金 八七五、一〇〇円

三、しかしながら原告の所得は、昭和三三年度、三四年度とも欠損であつて、被告の右審査決定は不当であるから、その取消を求めるため本訴に及んだ。

第三、被告の答弁と主張

(答弁)

一、請求原因事実第一項中、原告が昭和三四年度分の所得申告のできなかつた原因が高松国税局係官の調査に基因することおよび右調査が二週間にわたつたことは否認する。その余の事実は認める。

二、同第二項の事実は認める。

三、同第三項は争う。

(主張)

一、原告は、昭和二八年一一月本件パチンコ店を新設して以来、歴年巨額の収益を収めているにかかわらず所得税の申告状況は良好といえず、特に本件係争年度分については、松山税務署管内の他のパチンコ業者はすべて高額な確定申告を提出しているにかかわらず原告ただ一人が昭和三三年度分は金七、〇〇〇、〇〇〇円の欠損申告をなしていた。そこで被告係官らは昭和三五年二月一七日昭和三三年度分所得税調査のため原告宅に赴いたところ、原告は資料を提示することは不利益であるとの理由を固執して帳簿等所得算定に必要な一切の資料の提示を拒否し、さらに係官らが、翌一八日再度原告方に赴き資料の提示を求めたところ、原告はようやくこれを了承し、原告の三男日野博行を通じて売上帳、景品払出帳を提出したが、右帳簿の記載金額は原告の再調査審査申立額よりも過少のものであるばかりでなく、その記載の基となつた一切の資料については破棄したとの理由で提示せず、本件税務調査に全く非協力的であつたので、やむなく右両日をもつて原告宅における調査を断念した。したがつて、原告の昭和三四年度分の無申告については被告係官になんら責任はなく、全く原告の懈怠によるものであり、また、原告の両年度における所得額も、右のような事情のため、原告の取引先等の調査、同業者の実績等を斟酌して原告の所得額を算定せざるを得なかつた。

二、被告のなした本件審査決定所得額の計算内容は別表一の被告欄記載のとおりである。右のうち原告が争う項目についての計算根拠は次のとおりであり、被告の審査決定にはなんら違法な点はない。ただし、昭和三四年度分については、総所得金額一三、〇五三、一二二円であるから、その限度でなした被告の審査決定には、もとより違法な点はない。

(事業収入金)

(一)  パチンコ事業収入金

1 原告の主張する一日平均収入金は記録等によらない莫然と採用した金額であること、また他店と比較して著しく僅少であることから判断して到底採用し得ない。したがつて被告は、次のように景品の払出総額から収入金を推定した。

2(1) 一般にパチンコ店の景品は、客が持ち帰る景品とパチンコ店が払出後直ちに景品定価の一定割引額により買戻す景品との二種類あるが、後者はいわゆる現金交換分と称し、その景品はパチンコ店と客との間を回転し、その金額は景品払出総額のうち大部分を占めるのが普通であり、原告店における景品払出形態も右の通例のとおりである。

(2) そこで右形態にしたがつて景品払出額を認定し、これを基にパチンコ事業収入金を推定すると次のとおり昭和三三年度分金二〇四、一一五、〇一〇円、昭和三四年度分金二一五、六五四、八六六円となる。すなわち、

(イ) (客が持ち帰つた煙草の景品高)

原告が、パチンコ事業および煙草小売用として専売公社から仕入れた煙草の仕入総額は昭和三三年度分金三二、四二二、三六四円、昭和三四年度分金二二、三六〇、一八九円であるところ、右両年度とも年初、年末の煙草在高は同一であるから右仕入金額から両年度とも小売分金六七一、六〇〇円を控除すると原告がパチンコ事業の景品として払出した煙草の原価を算出でき、その金額は昭和三三年度分金三一、七五〇、七六四円、昭和三四年度分金二一、六八八、五九八円となる。

ところで煙草は定価の八分引で仕入れるから右原価を〇・九二(一から〇・〇八を減じた率)で除して定価の額に換算すると昭和三三年度分金三四、五一一、七〇〇円、昭和三四年度分金二三、五七四、五六三円となる。

(ロ) (客が持ち帰つた煙草以外の景品高)

原告が、本件パチンコの景品として払出した菓子味の素等前記煙草以外の景品総額は、仕入価額にして昭和三三年度分、同三四年度分とも金五、〇〇〇、〇〇〇円であり、右景品の定価に対する平均荒利益〇・一八であることが認められるから右金額を〇・八二(一から〇・一八を減じた率)で除して定価の額に換算すると右両年度とも金六、〇九七、五六〇円、となる。

(ハ) (買戻した景品高)

パチンコ店においては、右(イ)(ロ)の如く客が持ち帰る景品のほか、払出した景品を直ちに買戻すいわゆる現金交換分があることは前記のとおりである。

ところで原告の右買戻しのための支払金額は昭和三三年度分金一二七、七五〇、〇〇〇円、昭和三四年度分金一四六、〇〇〇、〇〇〇円であるところ、原告店での買戻し割合は一二分の一〇であるから、右買戻し金額を一二分の一〇で除して定価の額に換算すると昭和三三年度分金一五三、三〇〇、〇〇〇円、昭和三四年度分金一七五、二〇〇、〇〇〇円となる。

(ニ) そこで右(イ)(ロ)(ハ)で算出した各金額を合算し、定価による払出景品総額を計算すると昭和三三年度分金一九三、九〇九、二六〇円、昭和三四年度分金二〇四、八七二、一二三円となる。

ところで原告店では収入金の九割五分の景品を払出していることが認められるから右景品払出総額を〇・九五で除しパチンコの事業収入金を算出すると昭和三三年度分金二〇四、一一五、〇一〇円、昭和三四年度分金二一五、六五四、八六六円となる。

(ホ) 一台当りの収入金を比較すれば、別表四のとおりとなり、被告の認定した前記収入金は過大ではない。

(二)  煙草小売業による収入金

1 原告は、住所地においてパチンコ事業のほか煙草小売業を経営している。すなわち、右小売業の名義人は、原告の五女浅海和嘉となつているが、その事業の実態をみると、原告は右小売業について、(1)自己の資金により仕入金等諸経費の支払をなし、(2)売上金を取得し、(3)自己の使用人を従事させているのであつて、名義人である浅海和嘉は本件煙草小売業に関与していない。したがつて所得税法第三条の二の実質課税の原則により右煙草小売業の所得は原告の所得として加算することになる。

2 ところで専売公社からの煙草仕入額のうち、小売分は昭和三三年、昭和三四年の両年度とも金六七一、六〇〇円であり、年初年末の煙草在庫高は同一であるから両年度とも右同額の原価により小売がなされたところ、煙草は定価の八分引で仕入れるから右各額を〇・八二(一から〇・〇八を減じた率)で除して定価額(売上収入金)に換算すると両年度とも金七三〇、〇〇〇円となる。

(三)  よつて、原告の事業収入金すなわち右(一)、(二)で算出したパチンコ事業収入金と煙草小売業収入金を合算すると、昭和三三年度分金二〇四、八四五、〇一〇円、昭和三四年度分金二一六、三八四、八六六円となる。

(仕入金)

(一)(1)  専売公社より仕入れた煙草の仕入額

昭和三三年度分 金三二、四二二、三六四円

昭和三四年度分 金二二、三六〇、一九八円

(2)  菓子、石けん等煙草以外の景品仕入額

両年度分とも 金 五、〇〇〇、〇〇〇円

右金額は、原告の陳述した額であるが、同業者の額と比較して妥当な額と認めた。

なお、原告主張の仕入先およびその額のうち、(A)(B)(C)は認め、さらに仕入先およびその額としてたとえば合名会社中川商店より昭和三三年度分金六〇四、二七八円、昭和三四年度分金七八〇、九五八円がある。

(3)  景品の自店買戻しのために要した金額

原告が一日に買戻しのために要した平均金額は昭和三三年度が金三五〇、〇〇〇円、昭和三四年度が金四〇〇、〇〇〇円であり、営業日数は両年度とも三六五日であること認められるから、右金額に右日数を乗じて年間における買戻し金額を計算すると、昭和三三年度分は金一二七、七五〇、〇〇〇円、昭和三四年度分は金一四六、〇〇〇、〇〇〇円となる。

(二)  そこで右(1)(2)(3)の金額を合算して仕入金を算出すると、

昭和三三年度分 金一六五、一七二、三六四円

昭和三四年度分 金一七三、三六〇、一九八円

となる。

(支払手数料)

(一)  原告の主張する組合を通じない支払額は記録等に基づかない根拠のない金額であり、かつ、他の同業者に比較すると非常に過大な額であるから、右主張額は採用し得なかつた。そこで被告は、誠実な青色申告のパチンコ店である松山市の訴外共栄パチンコ店(「共栄会館」「共栄ビル」「共栄クラブ」の総称。以下単に「訴外共栄パチンコ店」という。ただし「共栄ビル」は昭和三三年一二月一七日に開業したため、昭和三四年度分のみについて斟酌した。)の一台当りの実績を基礎にし、それに原告店舗の年間平均台数に乗ずる算定方法によつて原告の支払手数料を算出した。

(二)  右訴外共栄パチンコ店によると昭和三三年度は、パチンコ機械の年間平均台数は別表二記載のとおり四五七台で、支払手数料は金二、七五五、九六五円であるから、一台当りの支払手数料は金六、〇三〇円五六銭となるところ、原告店の同年度のパチンコ機械年間平均台数は別表二記載のとおり六七四台であるから、同年度支払手数料は金四、〇六四、五九八円となる。

(三)  また訴外共栄パチンコ店の昭和三四年度のパチンコ機械の年間平均台数は別表二記載のとおり八七三台で支払手数料は金三、〇八一、〇七八円であるから、一台当りの支払手数料は金三、五二九円三〇銭となるところ、原告店の同年度のパチンコ機械の年間平均台数は別表二記載のとおり七三六台であるから、同年度支払手数料は金二、五九七、五六五円となる。

(雇人費)

(一)  原告が、松山税務署長に対し、昭和三三年度分として報告した源泉徴収の給与支払額は金六、三七八、八一一円であり、右報告以外で臨時に雇入れた者に対する給与支払総額は金一、〇五〇、〇〇〇円であり、したがつて昭和三三年度の人件費は合計金七、四二八、八一一円となる。

(二)  昭和三四年度分については源泉徴収の給与支払総額は金七、五八〇、五五二円であり、臨時に雇入れた者に対する給与支払総額は金一、〇五〇、〇〇〇円であり、その合計は金八、六三〇、五五二円となる。

(消耗品費)

(一)  モーター油等の消耗品費は、支払手数料と同様前記訴共栄外パチンコ店のパチンコ機械一台当りの実績によりその額を算定した。

(二)  すなわち、訴外共栄パチンコ店によると、昭和三三年度はパチンコ機械の年間平均台数は四五七台で消耗品費は金六二三、七七七円であるから一台当りの消耗品費は金一、三六四円九五銭となるところ、原告店の同年度のパチンコ機械の年間平均台数は六七四台であるから、同年度消耗品費は金九一九、九七六円となる。

(三)  また、訴外共栄パチンコ店の昭和三四年度のパチンコ機械の年間平均台数は八七三台で消耗品費金七三七、三二七円であるから、一台当りの消耗品費は金八四四円五九銭となるところ、原告店の同年度のパチンコ機械の年間平均台数は七三六台であるから、同年度消耗品費は金六二一、六一八円となる。

(減価償却費)

減価償却費は別表三記載のとおり昭和三三年度分金二、五二七、二五七円、昭和三四年度分金二、六八〇、七〇七円である。右別表のうち(B)欄の九〇%、(C)欄の耐用年数、(D)欄の償却率の採用根拠は次のとおりである。

1  (B)欄の九〇%―所得税法施行規則第一二条の一三第一項第一号および第四項

2  (C)欄の耐用年数―所得税法施行規則第一〇条第三項および固定資産の耐用年数等に関する省令第一条

3  (D)欄の償却率―固定資産の耐用年数に関する省令第五条

なお、原告は償却率の方法について届出をしなかつたので、所得税法施行規則第一二条の一五により定額法を採用した。

(借入金利息)

原告は、再調査、再審査請求当時よりパチンコ事業経費として借入金利息の存することを主張するが、被告の調査に当つては、単に親類縁者からの借入金に対する利息金である旨主張するだけで、その貸主、金額、利息、弁済期等の内容および具体的な使途については明らかにしなかったこと、また、パチンコ事業は、その収入はすべて現金収入であつて、事業経営上なんら借入を必要としないものである等より判断して、原告主張の借入金利息は架空のものであると推認されるので、これを認めることができない。

(地代家賃)

原告は、再調査、再審査請求当時は金五、〇〇〇、〇〇〇円本訴では金六、〇〇〇、〇〇〇円の地代家賃の未払いあることを主張するが、次の理由によりこれを認めることはできない。すなわち、原告は、従来、租税の強制徴収を回避するため、事業用の資産はもとより事業に関係のない山林等すべて自己の親族およびその同族会社の名義とし、原告名義の資産は皆無にしているのであつて本件土地、建物もすべて原告が買受けたものを原告の三男訴外日野博行ほかの親族名義にしているにすぎない。したがつて、賃貸借契約はなされてなく、このことは、その所有名義人が、右地代家賃について、所得税の申告をしなかつたことに徴しても明らかである。

(譲渡所得)

(一)  原告は、昭和三〇年頃、氏名不詳者より東京穀物取引所の会員権を代金三、〇〇〇、〇〇〇円で買受け、右取引所の会員となつて喜日野商店を経営していた。

(二)  ところが昭和三三年一二月に右会員権を訴外東京都中央区日本橋蠣殻町一の一大洋物産株式会社に金三、九〇〇、〇〇〇円で売却した。

(三)  よつて、所得税法第九条第一項により右差益金額九〇〇、〇〇〇円から一五〇、〇〇〇円を控除し、これを二で除した三七五、〇〇〇円が譲渡所得となる。

(四)  譲渡所得と穀物取引による事業所得とは別個であるから各独立に所得の計算をすべきである。なお、穀物取引による事業所得に損失はなかつたものである。

(雀球損および外注工賃)

原告の主張は、経営主体を混同した主張であるからこれを認めることはできない。すなわち、

1  昭和三四年七月二七日付愛媛県知事に対する雀球場開始申告書および松山遊技場組合備付けの入場税台帳によれば、その申告者および納税者は原告の三男訴外日野博行となつている。而して原告一族においては、左記の如くそのパチンコ等事業経営者がすべて風俗営業許可申請娯楽施設利用税に関する申告をなし、同人らの名義により国税および地方税を納付しているものであつて、本件、雀球経営者も右訴外日野博行というべきであるから、その経営に損失があつたとしても、それは右訴外日野博行の損失であつて原告の損失でないといわなければならない。

遊技場名 営業場所 経営者

湊町ホームラン 松山市湊町 原告 日野喜助

一番町ホームラン 松山市大街道 株式会社一番町ホームラン 右代表者 日野喜助

市駅前ホームラン 松山市駅前 日野荘(二男)

三津浜ホームラン 松山市三津浜 日野荘(〃)

国鉄前ホームラン 松山市国鉄前 日野荘(〃)

日の丸遊技場 今治市 日野幸太郎(長男)

スリーホームラン 今治市 山路孝志(娘婿)

ホームラン 今治市 山路孝志(〃)

雀球場 松山市湊町 日野博行(三男)

2  次に外注費も、右雀球場新設に伴う拡張工事であるから原告の損失ではなく、訴外日野博行の損失というべきである。

仮に、原告の事業拡張工事に伴うものであるとしてもこれはすべて資本的支出となるものであつて、昭和三四年度分の必要経費には該当しないものである。

第四、被告の主張に対する原告の答弁

一、被告係官が、原告宅に調査に来た際、原告が精密に記帳していた帳簿を提示しなかつたのは、これを紛失していたためであり、故意に破棄したものではない。

二、原告の本件所得の計算内容は、別表一の原告欄記載のとおりであり、右のうち次の争いある項目以外はすべて認め、争いある項目についての反論は次のとおりであるから被告の審査決定は違法たるを免れない。

(事業収入金)

(一) パチンコ事業収入金

1 昭和三三年度のパチンコ機械の年間平均台数は六八三台であるところ、一台が一日に得る平均収入金が金七三二円であり、年間開店日数は三五〇日であるから、同年度の収入金は金一七四、九八四、六〇〇円となる。

昭和三四年度のパチンコ機械の年間平均台数は七三六台であるところ、一台の一日平均収入金は六七三円であり、年間開店日数は三五〇日であるから同年度の収入金は金一七三、三六四、八〇〇円となる。

2 また、仮りに訴外共栄パチンコ店の収入金と比較してみても、被告の主張する原告店の収入金は過大である。すなわち、仮りに原告店の入場割合が訴外共栄パチンコ店のそれに比してその六八%であるとして、訴外共栄パチンコ店の収入金に右比率を乗じて原告店の年間平均一台当り収入金を算出しても、精々年間一台の収入金は昭和三三年度分金二七四、六二八円、昭和三四年度分金二八八、九三七円となり、これを原告の年間平均台数(昭和三三年度分六七四台、昭和三四年度分七三六台)に乗ずれば総収入金が得られるが、その金額は昭和三三年度分金一八五、一九九、六五一円、昭和三四年度分金二一二、六五七、九五五円となる。

3 仮りに被告主張の算出方法を採用した場合、被告主張の2(1)の事実は認める。同(2)(イ)中原告の専売公社からの煙草仕入総額およびそのうちの小売用分の額が、それぞれ被告主張の金額であること、年初、年末の煙草在高が同一であることならびに煙草の仕入は定価の八分引で仕入れることは認める。同(ロ)中煙草以外の景品の定価に対する平均荒利益が〇・一八であることは認めるが、その余の事実は争う。同(ハ)中、原告店での買戻し割合が一二分の一〇であることは認めるが、その余の事実は争う。同(ニ)中原告店での景品の払出割合が収入金の九割五分であることは認めるが、その余の事実は争う。

(二) 煙草小売業による収入金

1 被告主張の1の事実について。

被告主張の煙草小売業は、その名義人である浅海和嘉が経営しているものであつて原告が経営しているものでない。原告は単に右浅海和嘉の代行をしているにすぎず、したがつて、その利益はすべて右和嘉に与えているものであるから、これを原告の事業所得に算入べきではない。

2 同上2の事実は認める。

(三) の事実は争う。

(仕入金)

(一) 原告主張の(一)(1)の事実は認める。同上(2)の事実は争う。すなわち、原告の主張する仕入先およびその額は次のとおりである。

(A) 訴外明治商事株式会社より

昭和三三年度分 金一、八三六、〇〇〇円

昭和三四年度分 金一、四一八、三一一円

(B) 訴外森永商事株式会社より

昭和三三年度分 金二、一八五、七三二円

昭和三四年度分 金 一五八、九四九円

(C) 訴外株式会社松屋商店より

昭和三三年度分 金 二七一、八九九円

昭和三四年度分 金 六六三、一四七円

(D) その他の店からも仕入れているが仕入先の迷惑になるので店名および金額を明らかにすることはできない。同上(3)の事実中景品の自店買戻しのために要した金額は明示することはできない。

(二) 右(1)(2)(3)の金額を合算した仕入金は、

昭和三三年度分 金一四〇、六八八、〇〇〇円

昭和三四年度分 金一三八、六七八、〇〇〇円

である。

(支払手数料)

支払手数料は、パチンコ業を円滑に営むため、暴力団に対し、支払いを余議なくされているいわゆる安全運営費であるが、松山遊技場組合を通じて支払つたものが、昭和三三年度分金三、〇一七、三二〇円、昭和三四年度分金二、二六七、〇六〇円であり、右以外に、暴力団に直接支払つたものが昭和三三年度分金二、〇三二、六八〇円、昭和三四年度分金二、七三二、九四〇円あるので、右金額を合計すると昭和三三年度分金五、〇五〇、〇〇〇円、昭和三四年度分金五、〇〇〇、〇〇〇円となる。

(雇人費)

(一) 昭和三三年度分

常時雇人費 金一七、〇〇八、六六三円

モナコ臨時雇 金 三、三七二、〇〇〇円

食費補給費 金 二、八六八、九一二円

合計 金二三、二四九、五七五円

となる。

右のうち常時雇人費は、平均雇人数一三二・八二人、一カ月の支払額九、一四七円、支払月数一四ケ月として計算し、モナコ臨時雇人費は、モナコパチンコ店が火災となつたため、その従業員六三名を原告が六ケ月間臨時に雇入れたものに支払つた金額である。食費補給費は、一日一二〇円の食費中、原告が半額六〇円を負担したものである。

(二) 昭和三四年度分

雇人費 金一八、二八一、一四三円

食費補給費 金 三、一〇七、一六〇円

合計 金二一、三八八、三〇三円

となる。

右のうち雇人費は、平均雇人数一四三・八五人、一ケ月の支払額九、一四七円、支払月数一四ケ月として計算し、食費補給費は昭和三三年度と同様、食費一二〇円のうち原告がその半額を負担したものである。

(消耗品費)

モーター油、石けん等の消耗品費は、実際に原告主張どおりの額を必要とした。

(減価償却費)

(一) パチンコ機械そのものは或いは二年間使用が可能であるかも知れないが、営業上或いは防犯上からは半年に一回ぐらいの取替が必要であり、事実そうしているのである。また、計器器具機械等も半年毎に、冷暖房は一年毎に取替を要するから被告の計算には納得できない。

(二) 減価償却費について計算すると次のとおりである。

(イ) パチンコ機械入替金六、〇〇〇、〇〇〇円(六〇〇台を年二回入替、一台金五、〇〇〇円宛)および右運賃金四〇〇、〇〇〇円

(ロ) 冷暖房器取替 金 一、〇〇〇、〇〇〇円

(ハ) 冷房モーター取替 金 五〇、〇〇〇円

(ニ) 冷房パイプダクト取替 金 三〇〇、〇〇〇円

(ホ) 井戸サラエ 金 二〇、〇〇〇円

(ヘ) 暖房設備パイプ工事 金 二、〇〇〇、〇〇〇円

(ト) ボイラー 金 三〇〇、〇〇〇円

(チ) ネオン 金 三〇〇、〇〇〇円

合計 金一〇、三七〇、〇〇〇円

したがつて、原告主張金額の昭和三三年度分金六、五〇〇、〇〇〇円、昭和三四年度分金七、五〇〇、〇〇〇円は内輪に見積つてもなお過少である。

(借入金利息)

原告は、パチンコ営業のため、他より約金五〇、〇〇〇、〇〇〇円を借り受けているが、赤字経営のため、その利息(昭和三三年度分金五、〇〇〇、〇〇〇円、昭和三四年度分金五、四〇〇、〇〇〇円)の未払がある。右借入金は、訴外日野荘からそれぞれ利息年一割、弁済期昭和三三年一二月末日の約定で、昭和二八年一〇月三〇日に金五、〇〇〇、〇〇〇円、昭和三一年五月一日に金二、〇〇〇、〇〇〇円を借り受けたほか借入先を明示できないものを含むのである。

(地代家賃)

原告が、パチンコ営業を営んでいる土地六七二坪三合四勺、建物延七〇一坪二合五勺中、原告の所有は土地一二八坪六合七勺、建物一四二坪六合九勺のみであり、その余は訴外日野博行、同山路照子、同山路孝志、同浅海和嘉、同日野英子の共有であるので、原告は右訴外人らとの間で昭和二八年一一月頃、賃料一ケ月金五〇〇、〇〇〇円、毎年末払の約定で賃貸借契約を締結したが、赤字経営のため、昭和三三年度、三四年度分とも各金六、〇〇〇、〇〇〇円の賃料が未払となつている。

(譲渡所得)

原告が昭和三〇年頃、東京穀物取引所の会員権を代金三、〇〇〇、〇〇〇円で買受け、喜日野商店を経営していたことおよび昭和三三年一二月右会員権を売却したことは認める。ただし売却代金は金三、八〇〇、〇〇〇円である。

したがつて、差益金は金八〇〇、〇〇〇円となるが、右仲買商をなした三ケ年にわたつて金二〇、〇〇〇、〇〇〇円余(一ケ年約金七、〇〇〇、〇〇〇円)の損失を蒙つたため会員権を他に売却して廃業したものであるから、護渡所得として課税さるべきではない。

(雀球損および外注工賃)

(一) 原告は、昭和三四年七月二五日から同年一〇月二六日まで三ケ月雀球を経営したが、そのため店の拡張工事も施行した。しかし、雀球はマージヤンを知らない客には興味なく、また機械の故障続出し、相当数の予備台も備えたが修繕に間にあわず、従業員も不慣であり、且つ一ゲーム時間が長く、新規事業であるので多額の景品を放出したが客が寄りつかず、結局は失敗廃業するのやむなきに至り、次のとおり欠損を生じた。

1 雀球損

支出の部

(イ) 雀球機械購入代金 七五〇、〇〇〇円

(一台一五、〇〇〇円宛、五〇台分)

(ロ) 給与手当金 三六〇、〇〇〇円

(一人当り月金一五、〇〇〇円宛、八人分三ケ月間)

(ハ) 機械据付撤去工事代金 二一〇、〇〇〇円

(ニ) 電装工事代金 三〇、〇〇〇円

(ホ) 景品代金 一、七一五、〇〇〇円

支出合計 三、〇六五、〇〇〇円

収入の部

(イ) 機械廃業処分金 六、七五〇円

(一台当り金一三五円宛、五〇台分)

(ロ) 古電線廃棄処分金 三、二五〇円

(一キロ金六五円宛、六五キロ分)

(ハ) 売上金 一、二一五、〇〇〇円

収入合計 一、二二五、〇〇〇円

差引欠損金 一、八四〇、〇〇〇円

2 外注費

(イ) 拡張工事の地面土取工事費金 二五〇、〇〇〇円

(一車金五〇〇円宛、五〇〇車分)

(ロ) 土間コンクリートおよび配管工事代金 七五〇、〇〇〇円

(一坪金一、八〇〇円宛、四二〇坪分)

計 一、〇〇〇、〇〇〇円

右外注費は、三〇年消却として一年当り(昭和三四年度分)は金三三、〇〇〇円となる。

(二) なお、被告主張事実中、愛媛県知事に対する雀球場開始申告書および松山遊技場組合備付の人場税台帳の申告者および納税者が原告の三男訴外日野博行名義になつていることは認めるが、これは原告が取引関係の用務のため東京に在住することが多く、松山での営業は殆んど訴外日野博行が代理していた関係で、その間右訴外日野博行が誤つて自己名義で申告したり納税しているにすぎない。また被告は外注費は資本的支出であると主張するが、もし、事業を廃止するとすれば取りこわさなければならず、かえつて除却費を伴うものでなんら資本的蓄積にはなつていないのであるから、一時的な損失とみるべきである。

第五、原告の反論

仮りに、被告主張どおりの所得金額が認められるとしても原告は昭和三三年度、三四年度に次のような損害を蒙つているので、右所得金額から控除されるべきである。

(自動車盗難、売却損)

原告は、昭和三二年八月頃、横浜市でオースチン乗用車一台を代金一、〇〇〇、〇〇〇円で購入したが、昭和三三年三月二九日に、右自動車を盗まれ、後日発見されたときは甚しく損傷しており、金五八〇、〇〇〇円の損害を蒙つた。すなわち、同月三〇日に、訴外愛媛日産自動車株式会社から、右損傷自動車を下取りにして金五八〇、〇〇〇円を加え、金一、〇〇〇、〇〇〇円相当の自動車の買替を余儀なくされた。

また、昭昭三四年四月一一日、右買替えた金一、〇〇〇、〇〇〇円相当の自動車を、右会社に金三五〇、〇〇〇円で売却したため、金六五〇、〇〇〇円の損害を蒙つた。

(災害補償費)

(一)  昭和三三年二月一一日、原告の経営するモナコ・パチンコ店から出火し、多数の類焼罹災者を出した。右火災は原告の使用人訴外浅海一郎の過失により発生したものである。したがつて原告は訴外浅海一郎の使用者として民法第七一五条の責任を負わなければならず、そのため罹災者に対し、合計金二〇、五〇〇、〇〇〇円の見舞金を支払つたのである。以上のようなわけで罹災者に対する見舞金は原告の所得金額から雑損控除として控除すべきものである。

もつとも、さきに原告が、右モナコ・パチンコ店の経営は訴外日野産業株式会社(以下単に「日野産業」という。)である旨陳述したが、それは真実に反する陳述で錯誤にもとづいてしたものであるから右自白を撤回する。

(二)  仮りに、訴外日野産業がモナコ・パチンコ店の経営に当つていたとしても、原告は同会社使用人訴外浅海一郎について右会社に代つて監督する立場にあつたので、その責任上本件火災の補償をなしたものである。したがつて、原告の個人所得に対する雑損控除として控除すべきものである。

第六、原告の反論に対する被告の再反論

(自動車盗難、売却損)

(一)  自動車盗難による欠損および自動車売却による損害を認めることができない。

もつとも訴外愛媛日産自動車株式会社が、昭和三三年四月二一日訴外日野産業に乗用自動車を代金九三〇、〇〇〇円で売却し、右代金の内金五八〇、〇〇〇円を現金で受領するほか乗用自動車を金三五〇、〇〇〇円で下取りした事実はあるが、右下取りの自動車も右訴外日野産業が、従前、他から無償譲渡を受けた自動車であつて、原告所有のものではないから原告の盗難損失ということはできない。

(二)  仮りに、右下取りの自動車が、原告所有のもので盗難損失の事実があつたとしても、盗難による損失は、所得税法上事業所得の経費となるのではなく、所得税法第一一条の四の雑損控除に該当することになるが、その控除の適用を受けるためには、確定申告書にその旨を記載のうえ、これを証する証拠書類を添付しなければならないのに、原告は、これをなさなかつたから控除することはできない。

(災害補償費)

前記類焼罹災者に対する見舞金は、すべて訴外日野産業が原告よりその資金を借入れて支払つたものである。

また、右支出は、原告自身の資産の災害でないから、所得税法第一一条の四の雑損控除の対象にもならないものである。

なお、原告主張の原告の自白の撤回には異議がある。

第七、証拠関係

一、原告

甲第一号証、第二号証、第三号証の一ないし二〇、第四号証ないし第六号証、第七号証の一、二、第八号証ないし第二五号証、第二六号証の一、二、第二七号証の一ないし八を提出し、証人平田清高、同宮内勇、同森実、同日野博行、同浅海一郎、同新井稔、同福島渉、同富田順三、同山田米吉、同高橋要、同日野荘、同向井正文、同重松実雄、同山沢和三郎の各証言および原告本人尋問の結果を援用し、乙第一号証、第二号証の一ないし三、第三号証の一ないし三、第六号証、第一四号証ないし第一九号証の各成立を認め、第二〇号証の一ないし三の各原本の存在並びに成立を認め、その余の乙各号証はすべて不知と答えた。

二、被告

乙第一号証、第二号証の一ないし三、第三号証の一ないし三、第四号証の一ないし六、第五号証の一ないし三、第六号証第七号証の一ないし九、第八号証の一、二、第九号証の一、二、第一〇号証の一ないし六、第一一号証の一、二、第一二号証ないし第一九号証、第二〇号証の一ないし三を提出し、証人浜崎正己、同砂川瓢、同高橋要、同村下美芳、同福増治、同宮内勇、同高丸寿男、同中川貢の各証言を援用し、甲第一号証、第二号証、第三号証の一ないし三、第三号証の五ないし一七、第六号証、第七号証の一、二、第八号証ないし第一〇号証、第一二号証、第一三号証、第一七号証、第二三号証ないし第二五号証、第二六号証の一、二の各成立を認め、第二七号証の一ないし八の各原本の存在並びに成立を認め、その余の甲号各証はすべて不知と答えた。

理由

一、請求原因第一項(一)および同第二項の事実については当事者間に争いがない。

二、ところで証人富田順三および同浜崎正巳の各証言によれば、昭和三三年度、三四年度の所得調査に二、三回係官三人ないし四人で原告宅に行つたことが認められるが、請求原因第一項(二)の如く、係官数名が約二週間に亘り調査したことを認めるに足りる証拠はなく、そのため原告が昭和三四年度所得申告を申告期間中になすことができなくなつたことを認めるに足りる証拠もない。

三、次に被告の主張について判断する。

成立に争のない乙第一号証、証人砂川瓢の証言により真正に成立したものと認められる同第八号証の一、二、同第九号証の一、二と証人浜崎正巳、同富田順三、同日野博行の各証言を綜合すれば、被告係官らが、昭和三五年二月一七日原告宅に赴き昭和三三年度、昭和三四年度の所得計算に必要な帳簿書類および原始記録等の提示を求めたところ、原告は、すでに焼却して帳簿書類がないとの理由で提示を拒否したので、被告係官らは原告に対し、翌一八日再度帳簿書類の提示を求めたところ、原告は漸く売上帳および仕入帳のみを提示したが、右帳簿は取引毎に記帳したものでなく、一ケ月或いは二ケ月と纒めて記帳しているので信用できるものではなく、その他の関係資料を一切提示せず、漸くにして原告が所轄税務署に提出した収支計算書も原告の記憶に基いて作成したものであることが認められる。してみると、原告は本件税務調査に協力しなかつたものというべきである。このような事情のもとにおいては、被告が原告の取引先、同業者の実績等を斟酌して原告の所得金額を推計のうえ課税したことはやむを得なかつたというべきである。そして推計課税をする場合、その所得をできるだけ真実に近似するように推測計算する技術方式を採用し、客観的にみてもつとも適切、合理的と認められる方法によらなければならないことはいうまでもない。そこで弁論の全趣旨により被告の採用した推計方法は、仕入高から売上高を推計するいわゆる比率法といわれるものであることが認められ、この方法はあながち不合理というわけでもないから、当裁判所も被告の採用した推計方法に従い、原告の所得金額を認定することとする。

四、ところで被告のなした本件審査決定において認定した昭和三三年度および同三四年度の所得額は別表一の被告欄記載のとおりであり、同欄中年初棚卸商品、年末棚卸商品、公租公課、荷造運賃、光熱費、水道料、火災保険料、旅費通信費、広告宣伝費、接待交際費、福利厚生費、サービス費、装飾費、修繕費、雑費、雑損失の額については当事者間に争いがないから、その余の項目について判断することとする。

(事業収入金)

(一)  パチンコ事業収入金

一般にパチンコ店の景品は、客が持ち帰る景品とパチンコ店が払出後直ちに景品定価の一定割引額により買戻す景品との二種類あることは当事者間に争いがない。そこで右形態に従つて景品払出の額を認定し、これをもとに原告のパチンコ事業収入金を推計することとする。

1 客が持ち帰つた煙草の景品高

原告の専売公社からの煙草仕入総額および小売用の額、年初、年末の煙草在高が同一であることならびに煙草の仕入れが定価の八分引で仕入れるものであることについては当事者間に争いがない。そこで、原告のパチンコ事業の景品として払出した煙草の原価を算出すると、原告が、パチンコ事業および煙草小売用として専売公社から仕入れた煙草の仕入総額は昭和三三年度分金三二、四二二、三六四円、昭和三四年度分金二二、三六〇、一九八円であり、右両年度とも年初年末の煙草在高は同一であるから右仕入金額から両年度とも小売分金六七一、六〇〇円を控除すると、その金額は昭和三三年度分金三一、七五〇、七六四円、昭和三四年度分金二一、六八八、五九八円となる。そして煙草は定価の八分引で仕入れるから右の原価を〇・八二(一から〇・〇八を控除した率)で除して定価の額に換算すると、昭和三三年度分金三四、五一一、七〇〇円、昭和三四年度分二三、五七四、五六三円となる。

2 客が持ち帰つた煙草以外の景品高

原告が、訴外明治商事株式会社より昭和三三年度分金一、八三六、〇〇〇円、昭和三四年度分金一、四一八、三一一円、訴外森永商事株式会社より昭和三三年度分金二、一八五、七三二円、昭和三四年度分金一五八、九四九円、訴外株式会社松尾商店より昭和三三年度分金二七一、八九九円、昭和三四年度分金六六三、一四七円の煙草以外の景品を仕入れたことについて当事者間に争いがない。ところで、前示乙第一号証、同第八号証の一、二、同第九号証の一、二、証人中川貢の証言により真正に成立したものと認められる乙第一三号証と証人砂川瓢、同浜崎正巳の各証言を綜合すれば、原告が前記認定以外に煙草以外の景品を仕入れたことが認められそれが両年度とも金五、〇〇〇、〇〇〇円であることが認められる。原告は、仕入先およびその額を争うのみで立証をしないから原告の主張を採用することができない。次に煙草以外の景品の定価に対する平均荒利益が〇・一八であることについては当事者間に争いがないから、原告の右仕入金額を〇・八二(一から〇・一八を控除した率)で除して定価の額に換算すると両年度とも金六、〇七九、五六〇円となる。

3 買戻した景品高

パチンコ店において、払出した景品を直ちに買戻すいわゆる現金交換分があることは前記のとおりである。

ところで前示乙第一号証と証人砂川瓢の証言によれば、原告が景品の買戻しに要した一日平均金額は昭和三三年度分が金三五〇、〇〇〇円、昭和三四年度分が金四〇〇、〇〇〇円であることが認められる。そして証人村下美芳の証言により真正に成立したと認められる乙第五号証の一と証人村下美芳、同砂川瓢の証言によれば、原告店の一年間における営業日数が三六五日であることが認められ、右認定に反する証人日野博行の証言部分および原告本人尋問の結果は前記の各証拠と対比するとたやすく信用できない。そこで右認定の原告店で買戻に要した一日平均金額に一年間の営業日数を乗じると年間の買戻金額を得られるが、その金額は昭和三三年度分金一二七、七五〇、〇〇〇円、昭和三四年度分金一四六、〇〇〇、〇〇〇円となる。そして原告店での買戻割合が一二分の一〇であることについては当事者間に争いがないから、右認定した原告店での年間景品買戻金額を右買戻割合で除して定価の額に換算すると、昭和三三年度分金一五三、三〇〇、〇〇〇円、昭和三四年度分一七五、二〇〇、〇〇〇円となる。

4 そこで右123で算出した各金額を合算し、定価による払出景品総額を計算すると昭和三三年度分金一九三、九〇九、二六〇円、昭和三四年度分二〇四、八七二、一二三円となる。ところで原告店での景品の払出割合が収入金の九割五分であることについては当事者間に争いがないから、右景品払出総額を〇・九五で除しパチンコの事業収入金を計算すると昭和三三年度分金二〇四、一一五、〇一〇円、昭和三四年度分金二一五、六五五四、八六六円となる。

5 原告は、パチンコ事業収入金について、精々昭和三三年度分金一八五、一九九、六五一円、昭和三四年度分金二一二、六五七、九五五円であると主張するが、その計算の基礎となる一台が一日に得る平均収入金について、原告本人尋問の結果中には昭和三三年度分については金七三三円、昭和三四年度分については金六七五円である旨原告の主張に副うような部分があるけれども、右は裏付資料に基づかないものであるからたやすく信用できず、他に原告主張の金額を認めるに足る証拠はない。してみれば他の判断をするまでもなく右原告主張の事業収入金を採用することはできない。

6 ここで訴外共栄パチンコ店の年間平均一台当りの収入金と比較して、右認定した原告のパチンコ事業収入金の適否を検討してみることとする。

前示乙第八号証の一、二、同第九号証の一、二、証人村下美芳の証言により真正に成立したと認められる乙第九号証の五、六、同第五号証の一ないし三と証人村下美芳の証言によれば、訴外共栄パチンコ店の年間平均一台当り収入金が別表四記載のとおり、昭和三三年度分金四二六、八五三円、昭和三四年度分金四一六、五二五円となることが認められる。ところで前示乙第八号証の一、二、同第九号証の一、二と証人砂川瓢の証言によれば、原告店の共栄パチンコ店に対する客の入場割合は六八・五%であることが認められるから、右認定した訴外共栄パチンコ店の年間平均一台当りの収入金に六八・五%を乗ずると原告店の年間平均一台当りの収入金を得られるが、その金額は昭和三三年度分金二九二、三九三円、昭和三四年分二八五、三二〇円となる。一方さきに認定した原告のパチンコ事業収入金を年間平均台数で除すと年間平均一台当りの収入金を得られるが、その金額は別表四の「被告が主張する原告店の収入金」欄記載のとおり、昭和三三年度分金三〇二、八四一円、昭和三四年度分金二九三、〇〇九円となる。そして右金額と訴外共栄パチンコ店の収入金を基にして計算した年間平均一台当り収入金とを比較すると両者はほぼ一致する。したがつてさきに認定した原告のパチンコ事業収入金は決して不当な金額でないことがわかる。

(二)  煙草小売業による収入金

1 煙草小売業の名義人が原告の五女訴外浅海和嘉であることは当事者間に争いがない。しかるに被告は、原告が煙草小売業を経営している旨主張しているので、まず煙草小売業の経営主体について判断する。

前示乙第一号証と、証人砂川瓢、同浅海一郎の各証言および原告本人尋問の結果を綜合すれば、訴外浅海和嘉は訴外浅海一郎の妻で、同人が昭和三三年、三四年頃宇和島および博多でパチンコ店を経営していたとき常に同人と行動をともにし、松山には居住していなかつたため、その間の煙草小売業の経営は名義人訴外浅海和嘉としたまま原告がこれに当り、そして原告は、自から煙草の仕入代金等の資金を出し、店員を雇つて小売に従事させたうえ、売上金も自ら取得し、ただ利益があつたときのみ訴外浅海和嘉に与えることにしていたことが認められる。右事実によれば名義人が訴外浅海和嘉であることはともかく、実質上の煙草小売の経営主体は原告であるというべきである。したがつて、実質課税の原則(当時施行の所得税法〔昭和二二年法律第二七号以下同様とする〕第三条の二)によりその所得は原告の所得として加算されるべきものである。

2 ところで、煙草の小売分は昭和三三年度、三四年度とも金六七一、六〇〇円であること、年初、年末の煙草在高は同一であること、両年度とも右同額の原価により小売がなされたこと、煙草は定価の八分引で仕入れられることについては当事者間に争いがない。そこで右金額を〇・八二(一から〇・〇八を控除した率)で除し、定価額に換算すると両年度とも金七三〇、〇〇〇円となる。

(三)  よつて、原告の事業収入金すなわちパチンコ事業収入金と煙草小売収入金とを合算すると昭和三三年度分金二〇四、八四五、〇一〇円、昭和三四年度分金二一六、三八四、八六六円となる。

(仕入金)

(一)  パチンコ事業収入金の項123で認定したように、

1 専売公社から仕入れた煙草の仕入額は、

昭和三三年度分 金 三二、四二二、三六四円

昭和三四年度分 金 二二、三六〇、一九八円

2 菓子、石けん等煙草以外の景品仕入額は、

両年度分とも 金 五、〇〇〇、〇〇〇円

3 景品の自店買戻しに要した金額は、

昭和三三年度分 金一二七、七五〇、〇〇〇円

昭和三四年度分 金一四六、〇〇〇、〇〇〇円

となる。

(二)  そこで右123の金額を合算して仕入金を算出すると、

昭和三三年度分 金一六五、一七二、三六四円

昭和三四年度分 金一七三、三六〇、一九八円

となる。

以上認定した事業収入金から年初棚卸商品および仕入金額を控除し、さらに年末棚卸商品を加えると原告の総収入金額が得られるが、その金額は別表一被告欄記載のとおり昭和三三年度分金三九、六七二、六四六円、昭和三四年度分金四三、〇二四、六六八円となる。

五、次に必要経費のうち争いある項目について判断すると次のとおりである。

(支払手数料)

(一)  支払手数料とは、パチンコ業を円滑に営むため、暴力団に対し、支払を余儀なくされているいわゆる安全運営費であるが、原告が松山遊技場組合を通じて支払つた支払手数料の額につき、昭和三三年度分金三、〇一七、三二〇円、昭和三四年度分金二、二六七、〇六〇円の範囲内においては原告の認めるところである。

(二)  そこで原告が右松山遊技場組合を通じて支払つたものとそれ以外の支払手数料とを合わせた全額について判断することとする。まず証人砂川瓢の証言によれば、被告係官らが調査にあたつた当時、原告は組合を通じて支払つたもの以外にも支払手数料を支払つたことがある旨主張したが、それに関するなんらの資料をも提示しなかつたことが認められる。したがつて被告が同業者の実績に応じて原告店の支払手数料を算出したことはやむを得なかつたというべきである。そして証人村下美芳、同宮内勇、同砂川瓢の各証言によれば、松山遊技場組合ではパチンコ機械の台数に応じて各業者に支払手数料を賦課していることが認められる。そこで同業者である訴外共栄パチンコ店の一台当りの実績を基礎にして、それを原告店の年間平均台数に乗じて原告の支払手数料を算出することとする。前示乙第四号証の五、六、同第五号証の一ないし三によれば、共栄パチンコ店の昭和三三年度におけるパチンコ機械の年間平均台数は別表二記載のとおり四五七台で、その支払手数料が金二、七五五、九六五円であり、また同店の昭和三四年度におけるパチンコ機械の年間平均台数は別表二記載のとおり八七三台で、その支払手数料が金三、〇八一、〇七八円であることが認められる。右台数と支払手数料から同店の一台当りの支払手数料を計算すると昭和三三年度分金六、〇三〇円五六銭、昭和三四年度分金三、五二九円三〇銭となる。

(三)  成立に争のない甲第一三号証、証人浜崎正巳の証言により真正に成立したものと認められる乙第四号証の二、同第七号証の三と証人浜崎正巳、同宮内勇、同日野博行の各証言ならびに原告本人尋問の結果を綜合すれば、原告店のパチンコ機械の年間平均台数は別表二記載のとおり昭和三三年度分が六七四台であり、昭和三四年度分が七三六台であることが認められる。そこで右台数に前記訴外共栄パチンコ店の一台当りの平均支払手数料を乗ずると原告店における支払手数料を計算できるが、その金額は昭和三三年度分金四、〇六四、五九八円、昭和三四年度分金二、五九七、五六五円となる。

(四)  ところで原告は、組合を通じて支払つた支払手数料以外にも暴力団に直接支払つたものが昭和三三年度分金二、〇三二、六八〇円、昭和三四年度分金二、七三二、九四〇円であるから、右金額に松山遊技場組合を通じて支払つた分を合算すると昭和三三年度分金五、〇五〇、〇〇〇円、昭和三四年度分金五、〇〇〇、〇〇〇円となると主張するので判断する。この点につき、証人日野荘、同森実、同宮内勇、同村下美芳、同砂川瓢および同日野博行の各証言ならびに原告本人尋問の結果を綜合すれば、原告は松山遊技場組合を通じて支払つた外に昭和三三年度、三四年度とも相当額の支払手数料を支払つていることがうかがわれる。しかし、右各証人の証言によつても、原告が昭和三三年度、三四年度の支払手数料としてそれぞれ金二、〇三二、六八〇円、金二、七三二、九四〇円支払つたことを認めるに足りず、また原告本人尋問の結果によつても原告主張の事実を推認させるに十分でない。したがつて、原告が松山遊技場組合を通じて支払つた外になお支払手数料として昭和三三年度分金二、〇三二、六八〇円、昭和三四年度分金二、七三二、九四〇円を支払つたとの主張を採用することができない。

(雇人費)

(一)  証人浜崎正巳の証言により真正に成立したものと認められる乙第七号証の二、七および証人浜崎正巳、同砂川瓢の各証言によれば、被告係官が原告の所得調査をした際、雇人費のうち源泉徴収分についてはそのまま計上し、臨時雇分については原告の申立と同業者の実績を考慮して計上したが、その額は昭和三三年度の源泉分で金六、三七八、八一一円、臨時分で金一、〇五〇、〇〇〇円、合計金七、四二八、八一一円、昭和三四年度の源泉分で金七、五八〇、五五二円、臨時分で金一、〇五〇、〇〇〇円、合計金八、六三〇、五五二円であることが認められる。

(二)  ところで原告は、雇人費について昭和三三年度分常時雇人費金一七、〇〇八、六六三円、モナコ臨時雇人費金三、三七二、〇〇〇円、食費補給費金二、八六八、九一二円、合計金二三、二四九、五七五円、昭和三四年度分雇人費金一八、二八一、一四三円、食費補給費金三、一〇七、一六〇円、合計金二一、三八八、三〇三円支払つている旨主張する。そして証人日野博行の証言および原告本人尋問の結果中には、原告店において従業員が常時一〇〇名程度であれば営業でき、一人当り平均月一〇、〇〇〇円で雇入れ、その外に病気手当、賞与二ケ月分、退職手当金を支給し、さらに食費一二〇円のうち半額六〇円は原告が負担している旨原告の主張事実に副う部分がある。しかし、右証言及び原告本人尋問の結果自体裏付けの資料もないのでたやすく信用することができず、他に原告主張事実を認めるに足る証拠はない。

また、モナコ臨時雇人費についても、証人森実、同浅海一郎、同日野博行の各証言および原告本人尋問の結果を綜合すれば、モナコパチンコ店が火災にあい、そのため同店の従業員約六〇名は平約三ケ月間全く余分であつたけれども原告店で臨時に雇入れ、一人当り月一〇、〇〇〇円を支給したことが認められる。しかし、モナコ臨時雇分は原告店において全く不要な従業員であり、原告が恩恵的に雇入れたものであるから、これを所得税法第一〇条第二項にいう当該総収入金を得るために必要な経費と認めなければならない理由はない。以上のようなわけで原告の主張を採用することはできない。

(消耗品費)

(一)  支払手数料の項で認定したごとく、訴外共栄パチンコ店におけるパチンコ機械の年間平均台数は昭和三三年度分四五七台であり、昭和三四年度分八七三台である。そして証人前示乙第五号証の一ないし三と証人村下美芳の証言によれば、訴外共栄パチンコ店の消耗品費は昭和三三年度分が金六二三、七七七円、昭和三四年度分が金七三七、三二七円であることが認められる。したがつて一台当りの消耗品費は昭和三三年度分が金一、三六四円九五銭、昭和三四年度分が金八四四円五九銭となる。

(二)  右の一台当りの消耗品費を基に原告店の消耗品費を計算すると、すでに支払手数料の項で認定したごとく、原告店の年間平均台数は昭和三三年度分が六七四台、昭和三四年度分が七三六台であるから、右台数に訴外共栄パチンコ店の一台当りの平均金額を乗ずると原告店の消耗品費を算出できるが、その金額は昭和三三年度分金九一九、九七六円、昭和三四年度分金六二一、六一八円となる。

(三)  原告は、消耗品費は実際原告主張どおり使用したと主張するが、これを認めるにたる証拠はないから原告の主張を採用することができない。

(減価償却費)

(一)  前示乙第七号証の二、七、証人浜崎正巳の証言により真正に成立したものと認められる乙第七号証の三ないし五、八、九によれば、原告所有の資産の取得価額が別表三の取得価額欄のとおりであることが認められ、そして証人浜崎正巳の証言によれば、右取得価額は原告が昭和三二年所轄税務署に提出した減額申請書の添付書類控から転記したことが認められる。そこで右各資産の取得価額を基にして、当時施行の所得税法施行規則第一二条の一一第一項第一号および第四項(ただし昭和三四年度分については同規則第一二条の一二第一項第一号および第四項)に定められた残存価額、同規則第一〇条第三項および固定資産の耐用年数等に関する省令第一条に定められた耐用年数、固定資産の耐用年数に関する省令第五条に定められた償却率をそれぞれ適用し、さらに定額法を用いて減価償却費を計算すると別表三のとおりであり、その合計額は昭和三三年度分が金二、五二七、二五七円、昭和三四年度分が金二、六八〇、七〇七円となる。なお証人砂川瓢の証言によればパチンコ機械の法定耐用年数は二年となつているが、通常は八ケ月使用するとこれを新品と取替えるので、そのために生ずる除却損は雑損失として計上していることが認められる。またパチンコ玉についても二年使用すると機械同様に除却するので、その損失を雑損失として計上したことが認められる。

(二)  原告は、減価償却費について、昭和三三年度分金六、五〇〇、〇〇〇円、昭和三四年度分金七、五〇〇、〇〇〇円である旨主張するが、右金額を支出したと認めるに足る証拠はないから、原告の主張を採用することはできない。

(借入金利息)

(一)  証人浜崎正巳、砂川瓢の各証言によれば、被告係官らの調査当時、原告は借入金があるけれども、その利息は未払になつており、未払利息は相当の額になる旨の申立をなしたが、その借入金は土地の購入代金にあてたもので、原告のパチンコ営業のために借入れたものでなく、しかも借受月日、貸主使途、契約内容等を明らかにしなかつたため、経費として控除されなかつたことが認められる。

(二)  しかるに原告は、パチンコ営業のため、約金五〇、〇〇〇、〇〇〇円を借り受けているが、赤字経営のため、その利息昭和三三年度分金五、〇〇〇、〇〇〇円、昭和三四年度分金五、四〇〇、〇〇〇円の未払があると主張するので判断する。甲第一五号証、同第一六号証と原告本人尋問の結果中には、原告が訴外日野荘から金七、〇〇〇、〇〇〇円を借入れ、その利息年一割、弁済期昭和三三年一二月末日と定めた旨原告の主張事実に副う部分がある。しかし、一方証人日野荘の証言によれば、訴外日野荘が原告に対し、金七、〇〇〇、〇〇〇円を貸付けたときは、親子の間柄であるので、利息の定めをしなかつたこと、むしろ営業に対する出資の意味で利息以上のものを期待していたこと、甲第十五号証および同第一六号証は現金を原告に交付した後に同訴外人が原告に対し元金の返還請求をした際原告が作成して交付したことが認められる。以上の事実を綜合すれば、原告と訴外日野荘との間でなされた消費貸借契約は無利息の定めであつたと認めるのが相当である。なお、原告は右訴外日野荘以外の者からも金四五、〇〇〇、〇〇〇円借入れをしている旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。そうすると、昭和三三年度分金五、〇〇〇、〇〇〇円、昭和三四年度分金五、四〇〇、〇〇〇円の未払利息があるとの原告の主張は採用することができない。

(地代家賃)

成立に争のない甲第七号証の一、二、同第八号証および証人日野荘、同日野博行の各証言ならびに原告本人尋問の結果を綜合すれば、原告がパチンコ営業を営んでいる土地、建物の所有は訴外日野博行、同山路照子、同山路孝子、同浅海和嘉、同日野英子と、原告の共有であることが認められる。ところで、原告は右不動産について昭和二八年一一月頃賃料一ケ月金五〇〇、〇〇〇円、毎年末払の約定で賃貸借契約を締結したと主張するので判断するに、証人日野博行の証言および原告本人尋問の結果によつてもこれを認めるに十分でなく、かえつて証人浜崎正巳、同砂川瓢の各証言によれば、原告が現実に賃料を払つたことはなく、賃貸人とみられる訴外日野博行、同山路照子、同山路孝子、同浅海和嘉、同日野英子らにおいても家賃収入の申告したこともないので、本件不動産に関する公租公課はすべて原告分として控除していることが認められ、他に原告の主張事実を認めるに足る証拠はない。したがつて原告の該主張を採用することはできない。

(譲渡所得)

(一)  原告は、昭和三〇年頃、氏名不詳の者より東京穀物取引所の会員権を代金三、〇〇〇、〇〇〇円で買受け、右取引所の会員となつて喜日野商店を経営していたところ、昭和三三年一二月頃右会員権を売却したことについては当事者間に争いがない。

(二)  ところで成立に争のない乙第一四号証、同第一五号証、証人高丸寿男の証言により真正に成立したと認められる乙第一一号証の二、証人砂川瓢の証言により真正に成立したと認められる乙第一二号証と証人高丸寿男、同砂川瓢の各証言を綜合すれば、原告は昭和三三年一二月二三日訴外大平洋物産株式会社に対し、東京穀物取引所の会員権を代金三、九〇〇、〇〇〇円で売却したことが認められ、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

(三)  そうすると当時施行の所得税法第九条第一項を適用して譲渡所得を計算すると右売却代金三、九〇〇、〇〇〇円からさきの買入代金三、〇〇〇、〇〇〇円を控除した差益金九〇〇、〇〇〇円から金一五〇、〇〇〇円を控除し、これを二で除した金三七五、〇〇〇円となる。

なお、原告は差益金があつたとしても、仲買商を営んだ三年間に金二〇、〇〇〇、〇〇〇円の損失を蒙つたため会員権を売却し廃業したのであるから、譲渡所得として課税されるべきでないと主張する。しかし、右損失は当時施行の所得税法第九条の三の損失に当るものでもない。したがつて被告主張のとおり、譲渡所得と穀物取引による事業所得とは別個であり所得計算もそれぞれ独立してなすべきものと解するから、原告の該主張を採用することはできない。

(雀球損および外注工賃)

(一)  昭和三四年七月二七日付愛媛県知事に対する雀球場開始申告書および松山遊技場組合備え付けの入場税台帳の申告者および納税者が訴外日野博行名義になつていることについて当事者間に争いがない。ところで証人向井利文の証言によれば雀球場を開始するについて訴外向井利文が原告の営業許可、届出等の手続をなした際、警察からパチンコ店とは別個に日野博行名義で申請するよう要請があつたため、同人名義で申請し、雀球は原告店の奥の一角に土盛などをして機械を備え付け、会計などでもパチンコ店と区別せずやつていたことが認められ、また証人日野博行の証言によれば、営業許可は訴外日野博行名義でとつたが営業利益はすべて原告に帰属し、実際の経営主体も原告であつたことが認められ、更に原告本人尋問の結果によれば、雀球の営業許可を得たころ、原告は東京に行つていたため訴外日野博行名義で営業許可を受けたが、経営主体は原告自身であることが認められる。以上の事実を綜合すると雀球の名義人が訴外日野博行になつているとしても、実質上の経営主体は原告であると認めるのが相当である。

(二)  次に雀球の損害額について判断するに、原告は雀球の差引欠損金一、八四〇、〇〇〇円である旨主張するが、原告本人尋問の結果によるも右原告主張事実を認めるに十分でなく、他に右主張を認めるに足る証拠はない。また外注費についても本件全証拠をもつてしても原告が金一、〇〇〇、〇〇〇円の外注費を支出したことを認めるに足らない。したがつて雀球損および外注費についての原告の主張を採用することはできない。

以上認定したとおり、原告のパチンコ事業における必要経費は別表一被告欄記載のとおり、その合計額は昭和三三年度分金二八、九三一、四七五円、昭和三四年度分金二九、九七一、五四六円となる。そしてさきに認定した総収入金額から右認定した必要経費を控除し、さらに譲渡所得額を加えると原告の総所得金額が得られるが、その金額は別表一被告欄記載のとおり昭和三三年度分金一一、一一六、一七一円、昭和三四年度分金一三、〇五三、一二二円となる。

五、原告は、さらに右認定のとおり総所得金額があるとしてもなお自動車盗難、売却損および災害補償費の支出がある旨主張するので、最後にこの点について判断することとする。

(自動車盗難、売却損)

(一)  証人高橋要の証言により真正に成立したものと認められる乙第四号証の四および証人高橋要、同砂川瓢の各証言によれば、訴外愛媛日産自動車株式会社が、昭和三三年四月二一日訴外日野産業(代表者原告)に対し、オースチン乗用自動車一台を代金九三〇、〇〇〇円とし、右代金のうち金五八〇、〇〇〇円は現金で、金三五〇、〇〇〇円は下取車を引取る条件で売却したこと、そして登録も訴外日野産業名義でなされていることが認められる。もつとも甲第一一号証および第一四号証中には本件自動車が原告の所有である旨原告主張に副う部分があるけれども、証人高橋要の証言により真正に成立したと認められる乙第四号証の三と証人高橋要の証言によれば、甲第一一号証および同第一四号証は、訴外高橋要が原告の使用人に執ように依頼されたため、事実関係を調査することなく、原告の使用人が提出した証明書用紙にやむなく前示のような証明をしたことが認められる。したがつて右甲第一一号証および同第一四号証だけをもつてしたのでは本件自動車が原告の所有であると認めるに十分でない。また成立に争のない甲第一〇号証も盗難届のあつたことを証明するのみで本件自動車が原告の所有であることまで証明するものでないから、右甲第一〇号証をもつてしても、本件自動車が原告の所有であることを認めるに足らない。さらに証人日野博行の証言および原告本人尋問の結果中にも原告主張に副う部分があるけれども、これだけでは本件自動車が原告の所有であることを認めるに十分でなく、他に原告の主張事実を認めるに足る証拠はない。

(二)  以上の事実からすれば結局本件自動車の所有権は訴外日野産業に帰属すると認めるのが相当である。そうすると本件自動車を原告の所有であるとして、その自動車の盗難および売却損を原告の所得から控除すべきであるとの原告の主張は、その前提において失当であるから、その余の判断をするまでもなく採用することができない。

(災害補償費)

(一)  原告は、さきにモナコ・パチンコ店の経営主体は訴外日野産業である旨主張していたところ、右主張は真実に反し、錯誤に基くものであるから撤回し、右経営者は原告自身である旨訂正すると主張するので、まずこの点から判断する。

原告の主張する災害補償費の立証責任がいずれが負担すべきかを検討するに、所得税の課税処分において所得控除については、課税処分の権利障害事実として当時施行の所得税法第一一条の四ないし八所定の事実は、原告において立証する責任を負うものと解すべきである。そして原告は、災害補償費を雑損控除に該当するものとして主張しているから、その立証責任は原告において負担すべきものといわなければならない。そうするとモナコ・パチンコ店の経営者が訴外日野産業であると主張するのは自白にならず、したがつて、これを原告自身が経営者であると訂正する陳述も、錯誤の有無にかかわらず任意になし得るものと解するのが相当である。

(二)  そこで次にモナコ・パチンコ店の経営主体について判断する。成立に争のない甲第二三号証、第二四号証、第二六号証の一、二、原告本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第二二号証と証人浅海一郎、同日野博行の各証言ならびに原告本人尋問の結果を綜合すれば、モナコ・ホールが昭和三二年六月一七日付で愛媛県公安委員会のパチンコ遊戯場の営業許可を受けて以来、昭年三三年二月一一日の火災で焼失するまで原告個人によつて営業がなされ、訴外日野産業は単にモナコ・ホールが使用していた土地、建物を提供していたにすぎないことが認められる。

もつとも乙第二号証の一ないし三、同第三号証の一ないし三中には、訴外日野産業がモナコ・ホールを経営していた旨被告主張に副う部分があるけれども、証人日野博行の証言および原告本人尋問の結果によれば、右各証拠は税理士が錯誤に基づいて作成したものであることが認められるから、右各証拠をもつてしても、訴外日野産業がモナコ・ホールを経営していたと認めることはできず、また乙第一七号証、同第二〇号証の一、二、同第一九号証および証人浜崎正巳、同砂川瓢、同日野荘の各証言中には、モナコ・ホールの経営者が訴外日野産業である旨被告主張に副うような部分があるけれども前示各資料に対比してたやすく採用し難く、他に前記認定を覆えすに足る証拠はない。

(三)  ところで雑損控除を規定した当時施行の所得税法第一一条の四には、「居住者が、震災、風水害、火災、その他これらに類する災害又は盗難に因り資産について損失を受けた場合において、当該損失額が、その者の総所得金額、退職所得の金額および山林所得の金額の合計額の十分の一を超過するときは、その超過額を、その者の総所得金額から控除する。」と規定しているから、雑損控除の適用を受けるためには原告自身の資産に生じた災害でなければならない。しかるに原告の主張する災害補償費は、原告自身の資産に生じた災害でなく、モナコ・ホールの火災により罹災した者に対する見舞金であるから、雑損控除の対象にはならず、したがつて原告の主張は、それ自体失当である。なお、原告主張の災害補償費についての仮定的主張も前示と同様の理由により採用できず、また災害補償費は当時施行の所得税法第一〇条第二項の必要経費にも当らない。

六、結局以上認定したとおり、原告の総所得金額は昭和三三年度分金一一、一一六、一七一円、昭和三四年度分金一三、〇五三、一二二円となる。しかるに被告のなした審査決定額は昭和三三年度分金一一、一一六、一七一円、昭和三四年度分金一三、〇四三、一二二円であり、右いずれも前示総所得金額と同額又はその範囲内であるから、被告のなした各処分は適法というべく、これが取消を求める原告の本訴請求は、いずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 橘盛行 裁判官 大石貢二 裁判官 新田誠志)

別表一 (当事者双方の主張額)

<省略>

別表二 原告店および共栄パチンコ店のパチンコ機械台数

<省略>

(注) 被告が主張する各月台数はすべて月初の台数をもつてその月の台数とした。原告店の昭和三三年四月分は一〇日まで五八三台である。

別表三 減価償却計算表

<省略>

別表四 パチンコ機械一台当り年間平均収入金比較表

<省略>

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