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静岡地方裁判所浜松支部 昭和39年(わ)271号 判決 1965年7月09日

被告人 藤田勇春

明四四・一一・四生 土木人夫

主文

被告人を懲役三年に処する。

たゞし、この裁判の確定した日から五年間右刑の執行を猶予し、その猶予期間中、被告人を保護観察に付する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、

第一、昭和三九年八月二七日午後六時三〇分頃、浜松市坪井町一五三番地先、国鉄東海道新幹線東京起点二四七粁二一二米の地点の下り線軌条上に重さ約八瓩の石塊一個(割れる前の昭和三九年押第九四号の一及び二)を置き、もつて電車の往来の危険を生ぜしめ、

第二、同年同月二八日午後六時三〇分頃、浜名郡舞阪町舞阪二六九五番地の四先、国鉄東海道新幹線東京起点二五一粁一八米乃至三〇米の地点の下り線軌条上に長さ約一、五米の木材一本(粉砕前の昭和三九年押第九四号の四乃至一〇)及びコンクリート塊一個(同押号の一一)を置き、もつて電車の往来の危険を生ぜしめ

たものである。

なお、被告人は、右各犯行の当時心神耗弱の状況にあつたものである。

(証拠の標目)(略)

(法令の適用)

被告人の判示各所為は、いずれも刑法第一二五条第一項に該当するが、判示の如く、被告人は本件各犯行当時心神耗弱の状況にあつたものであるから、同法第三九条第二項、第六八条第三号により、それぞれ法律上の減軽をなし、以上は同法第四五条前段の併合罪となるので同法第四七条本文、第一〇条により犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をなした刑期範囲内で、被告人を懲役三年に処し、後記情状を考慮の上同法第二五条第一項を適用して、この裁判の確定した日から五年間右刑の執行を猶予することとし、同法第二五条の二第一項前段により、被告人を右猶予期間中保護観察に付する。

訴訟費用は、刑事訴訟法第一八一条第一項但書により被告人に負担させない。

(情状)

本件は、いずれも「夢の超特急」と呼ばれ、世界に類のない最高時速二〇〇キロメートルの高速度で走行するために特に開発された東海道新幹線の軌条上に石等のかなり大きな重量物を障碍として置いたものであつて、試運転中であつたものの、列車の顛覆若しくは脱線の可能性は充分に存したものでありその犯行自体は悪質であり、かつ危険性は絶大なものといわなければならない。したがつて同種犯罪の模倣を予防するためにも厳重な処罰を要するものである。しかしながら、医師中田修作成の鑑定書によると、被告人は五、六才の幼児程度の知能しか有しない痴愚段階の精神薄弱者であつて、感情、意志は未発達であるが、その性格は遅鈍温和従順且つ小心であり、将来窃盗などの軽微な犯罪を犯す可能性は存するが、本件のような犯行を犯す可能性はまずないと考えられるから保安措置としては精神病院への措置入院が適当とされている。したがつて、右鑑定書よりも明かな如く、被告人の将来の再犯の危険性は精神病院に収容することにより充分予防できるといえる。

しかも公判進行中である本年五月二六日被告人の妻より静岡県知事に対し精神衛生法第二三条第一項の保護申請がなされ、同県知事は同法所定の手続を経て、被告人を精神病院に収容する必要があるものと認定し、同法第二九条の強制入院をさせることの決定をなしその旨被告人及び保護義務者に通知され、何時でも被告人を同県知事の指定する精神病院に強制収容する準備が整つている。

これらの事情と、被告人の責任能力が限定されていることを考え合せると、本件はまことに対社会的には危険な犯罪ではあるが、これを実刑に処するよりは、むしろ長期にわたりその刑の執行を猶予して、その間保護観察に付し、精神医の充分な治療を受けさせ、被告人の治療と隔離をはかるのが最良の手段と信ずる。

したがつて、本件については、特に被告人とその家族に対し精神衛生法の措置に協力することを保護観察の特別の条件に指定するのであつて、その条件に違反すれば直ちに刑の執行を受けるのは当然である。

(裁判官 永渕芳夫 植村秀三 鵜沢秀行)

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