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静岡地方裁判所 昭和27年(行)8号 判決 1955年2月14日

原告 岡村春之助

被告 藤枝税務署長

訴訟代理人 加藤隆司 外三名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、被告が昭和二十六年五月三十一日付を以てなした原告の昭和二十五年事業所得金額を六十万円とする更正決定中、名古屋国税局長が昭和二十七年三月七日付を以て取消した所得金額の一部十二万四百円を除いた残額四十七万九千六百円の中金二十五万円をこえる部分を取消す、訴訟費用は被告の負担とする旨の判決を求め、その請求の原因として、原告は肩書住居地において家具製造販売、履物小売販売、冷蔵庫製造販売、建具取付修理、鰹節箱製造販売を営む者であつて、その昭和二十五年度の所得金額は別表第一の通り二十四万八千八十円で略二十五万円であつたので、所得金額を二十五万円とする確定申告をなしたが、被告は昭和二十六年五月三十一日附を以て原告の昭和二十五年度の所得金額を六十万円とする旨更正決定をなし、同年六月九日原告にその旨通知したので、原告はただちに被告に対し再調査の請求をなしたところ、被告は同年九月十八日付を以て改訂の必要を認めない旨の決定を原告に通知したので、原告はこれに対し、同年九月二十六日所轄名古屋国税局長に審査の請求をしたところ、同局長は昭和二十七年三月七日付を以て右更正決定の一部十二万四百円を取消す旨の決定をなし、同年三月十九日原告にその旨の通知をなした。然しながら原告の昭和二十五年度の所得金額は前記の通りであるので、被告に対しその更正決定中名古屋国税局長が取消した十二万四百円を除く四十七万九千六百円中二十五万をこえる部分は違法であるのでその取消を求めると述べ、被告主張の事実中冷蔵庫鰹節箱の売上高、傭人費、葬式費用減価償却費は認め、その余は否認し、資産負債の増減から原告の事業所得を推計する場合にはその差引額より同期間の香典一万六千五百三十五円を差引くべきであると述べた。<立証 省略>

被告指定代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁として原告主張事実中原告の事業並びに不服申立手続の経緯の点は認めるが、その余は否認する。原告の諸帳簿の記帳整備等は不完全であるので、その事業による所得を算出するには所得税法第四十六条の二第三項により認められる間接認定の方法による他ない。昭和二十五年度の原告の家具履物の平均在庫高は別表第二記載の額以上であり、冷蔵庫、建具取付修理料鰹節箱の売上高並びに傭人費は同表記載の通りであるので、これより該当する回転率、所得標準率により所得を算出すると、六十七万三千四百五十三円となる。また、昭和二十五年度の期首と期末を比較し、増減のある原告の資産負債は別表第三記載の通りであり、差引六十万二千五百三十四円の資産増加となつているので、同額の所得のあつたことがうかがわれる。即ちこの二つの推計方法から原告の昭和二十五年度の所得額は四十七万九千六百円以上であることが認められ、原告の請求は理由がないと述べた。<立証 省略>

理由

原告主張事実中不服申立手続の経緯については当事者間に争いがない。

被告は二つの推計方法により原告の事業所得を推定することができると主張するが、年間の売上高より所得標準率により所得を計算する方法は、業種業態規模に応じて適用すべきその系数につき立証がないので資産負債増減調による主張について判断すると葬祭費、減価償却費が別表第三の通りであることは当事者間に争がない。しかして成立に争いのない乙第三乃至第六号証及び第八乃至第十号証並びに第五問答の部分を除きその他の部分(署名捺印の部分をも含む)の成立につき争いがないから反証ない限り右除外部分も真正に成立したものと認められる乙第二号証、証人小倉春夫の証言により成立の認められる乙第一号証の二乃至五、証人春日房義、黒岡邦治の各証言並びに原告本人尋問の結果を総合すれば、別表第四のように昭和二十五年度期末においては期首よりも五十五万三千四百七円の資産増加があつたことを推知するに足るからこれより原告本人尋問の結果により認められ、且原告の事業上の所得というを得ないこと明かな香典料一万六千円を差引いた五十三万七千四百七円が昭和二十五年度の原告の事業所得であると認定するを相当とする。

原告は当該年度の所得金額は金二十四万八千八十円であると主張するけれども、この点に関する原告本人尋問の結果は信用し難くその他の原告挙示の証拠によつては未だ右認定を覆して該主張事実を認めるに足りない。

そうすると名古屋国税局長が原告の所得額を金四十七万九千六百円と決定通知したことはむしろ、低きに過ぎることはあつても不当な認定金額というを得ないことは明かである。

よつて之が取消を求める原告の請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用し主文の通り判決する。

(裁判官 戸塚敬造 田島重徳 土肥原光圀)

別表第一及び第二<省略>

別表第三 資産負債増減表

課目

期首

期末

増減

預金

七五、六五〇円

六五、一〇一円

減 一〇、五四九円

否認公課

八一、九二四円

増 八一、九二四円

家計簿

二一〇、〇〇〇円

増 二一〇、〇〇〇円

商品

四三四、三〇五円

六二〇、四五一円

増 一八六、一四六円

料 ベニヤ板

三五、五二〇円

五九、二〇〇円

増 二三、六八〇円

割板

三一七、七〇〇円

三六〇、〇〇〇円

増 四二、三〇〇円

材 小計

増 六五、九八〇円

家屋改造費

二八、〇〇〇円

増 二八、〇〇〇円

備品増加分

一、五〇〇円

増 一、五〇〇円

医療費

一二、九一〇円

増 一二、九一〇円

葬祭費

七、四五〇円

増 七、四五〇円

是認未払公課

一九、六五五円

増 一九、六五五円

減価償却費

四八二円

増 四八二円

合計

増 六〇二、五三四円

別表第四 資産負債増減表

課目

期首

期末

増減

預金

否認公課

八一、三五三円

増 八一、三五三円

家計簿

一八〇、〇〇〇円

増 一八〇、〇〇〇円

商品

三九〇、八一〇円

五五八、四〇〇円

増 一六七、五九〇円

料 ベニヤ板

割板

材 小計

家屋改造費

備品増加分

医療費

葬祭費

是認未払公課

減価償却費

合計

増 五五三、四〇七円

備考

一、表中空欄は第三表と同じ。

二、商品については、昭和二十六年二月十日の」在庫商品の売価合計を九十五万四千五百四十円、期末はその一割減、仕入分と自家製造物はそれぞれの二分の一、期首は期末の七割と認めて算出した。

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