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青森地方裁判所弘前支部 昭和41年(む)189号 決定 1966年11月21日

被告人 下山三郎

決  定 <被告人氏名略>

右被告人の贈賄被告事件につき、昭和四一年一一月一五日青森地方裁判所弘前支部裁判官大塚一郎がなした保釈請求却下の決定に対し、同月一九日弁護人黒滝正道より適法な準抗告の申立がなされたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

原決定を取消す。

別紙記載の条件を付して、被告人の保釈を許可する。

保証金額を金一五万円とする。

理由

(一)一件記録によれば、次のとおりの経緯を認めることができる。

被告人は昭和四一年一〇月一七日検察官より「同人は南津軽郡平賀町大字本町字北柳田一四の四一において、有限会社下山建設の社長として土建業を経営している者であり、斉藤兼吉、大川聖三、今井三郎、乗田敬八等は、それぞれ独立して土建業を経営している者であるが、昭和四〇年四月中旬頃、南津軽郡平賀町新舘部落から町居間の道路を走行中の乗用車の中において、南津軽郡平賀町長として、同町執行の各種工事の入札参加業者の指名、工事入札予定価格の決定、入札の執行、請負契約の締結および工事の監督検査等に関する一切の権限を有する小野清勝に対して、同町執行の工事について指名業者として入札に参加させてもらうべく依頼する謝礼金を出し合い、右乗田敬八を介して、これが懇請することを共謀し、その頃各二万円宛合計一〇万円を出資のうえ、右乗田をして弘前市住吉町の料理店吉野二階客室において、右平賀町長小野清勝に対し、今後平賀町において執行する各種工事の入札指名業者に指定し、入札に参加させてもらいたいことを依頼する謝礼の趣旨で現金一〇万円を供与し、もつて公務員の職務に関して贈賄したものである」との事実につき、青森地方裁判所弘前支部に対し、勾留を請求され、前同日同支部裁判官より右事実につき勾留状の発布があり、同年一一月五日右事実および他一件の贈賄事件につき起訴され、また同月一〇日にも二件の贈賄事件で追起訴されたが、結局前記事実により同月五日以降引続き勾留されているところ、同月一四日弁護人黒滝正道より保釈の請求がなされたのであるが、当裁判所裁判官大塚一郎は同月一五日被告人には刑事訴訟法第八九条第四号該当の事由があるとして、右請求を却下したため、同弁護人は同月一九日「被告人は青森県南津軽郡平賀町大字北柳田一四の四一において建設業を営み、妻子もあり、社会的地位も相当あり、逃亡の虞なく、また被疑事実については認めており、収賄者の小野清勝も収賄の事実を警察官並びに検察官に対し認めているので、証拠隠滅の方法もおそれもないものである。従つて原裁判所の却下決定は違法である」との事由で、原裁判所のなした保釈却下決定を取消し、被告人の保釈を許可する決定を求めて、準抗告が申立てられた。

(二)  そこで、まず被告人に罪証隠滅のおそれがあるか否かの点について一件記録にもとづいて検討する。

(1)  被告人は逮捕直後より前示事実を認めており、その後の供述にも賄賂の趣旨を否定するごとき口吻のものは全くみられない。被告人の供述も仔細にこれをみるとき、前後多少の齟齬をきたしているかに見えるところもないわけではないが、それは被告人の記憶が不確かであつたためか、乃至は先になした供述をより詳細に述べたため、かくうけとられる可能性が生れたものとみるべきで、ことさらに虚偽の供述をなし、あるいは転々その供述を変え、その責任を免がれんとしているものとは考えられない。

(2)  もつとも、収賄者側において、罪証隠滅工作を行つていた事実があることは明らかであるから、収賄者の身柄の拘束をといた場合、同人らが再び罪証隠滅工作を行なう可能性は否定しえないところであるが、その故をもつてしては、せいぜい収賄者の保釈を許さぬ理由としたり、既に保釈を許した収賄者の保釈を取消すことができるにとどまる。贈賄者である被告人についていえば、右工作に応じ、被告人の方でもこれに協力し、既になした自白を覆えすに足りる活動をなす特段の可能性でもあるならば格別、そうでなければ本罪の罪質を考慮してみても、なお公訴提起の段階に至つている現在、なお右事由をもつて保釈不許可の事由とすることはできないものといわなくてはならないところ、右特段の事情を認めるに足る資料はない。しかも現段階では、収賄者側においても、成田雄治一名が多少賄賂の趣旨を疑わしめる供述をする(それとても、終局的には、罪責を否定し去るに足るものとはうけとれない)にとどまり、その他の収賄者は賄賂として収受した旨を認めるに至つているのであるから、罪証隠滅のおそれはなお薄れているものといわなくてはならない。

(3)  賄賂収受の前後の事情について、各関係者の供述に多少の齟齬があることは、当裁判所もこれを認めるに吝かではない。けれども、本件のごとき一連の涜職事件の一環として犯された犯罪では、関係者全員の供述が細部に至るまで一致することは、むしろ少なく、かかる事由をもつて罪証隠滅のおそれととることは許されない。

(4)  捜査官側では、本件に関係ある工場契約書・預金証書等を手元におき、必要に応じ被告人らに示し、供述を求めて事件の解明に努めており、なおこのうえ、引続き被告人の身柄を拘束したうえでなくては捜査の実が挙がらない物証があるとは考えられない。

そのほか、記録を検討するも、被告人に罪証隠滅のおそれがあると認めるに足りる資料はない。

(三)  而して、被告人には刑事訴訟法第八九条第一乃至第三、第五及び第六号所定の事由に該当する事実も認められないから、被告人は、権利として保釈を求めうるところ、これが判断を誤り、被告人には同法第八九条第四号該当事実があるとして保釈請求を却下した原決定は失当であり、本件準抗告は理由がある。よつて前同法第四三二条、第四二六条第二項を適用し、保釈保証金については諸般の事情を考慮し金一五万円を相当と認め、主文のとおり決定する。

(裁判官 三宅純一 吉田修 谷川克)

別紙<省略>

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