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青森地方裁判所 昭和48年(タ)21号 判決 1974年10月04日

原告 甲野花子

右訴訟代理人弁護士 寺井俊正

被告 甲野一郎

主文

原告と被告とを離婚する。

被告は原告に対し金二〇万円及びこれに対する本裁判確定の日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

原告と被告を離婚する。

被告は原告に対し金五〇万円及びこれに対する昭和四八年一二月九日から完済まで年五分の割合の金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二請求の原因

一  原告と被告は、昭和四七年一〇月仲人の世話で見合し、昭和四八年二月一一日結婚式を挙げ、同年三月二九日婚姻届出をした夫婦である。原告は、昭和四一年○○商業高等学校を卒業し、○○生命○○支店に勤務していたが昭和四八年一月退職した。被告は○○中学校を卒業し、食料品店等に勤めた後、家業である写真業に従事している。原告らは婚姻後被告方で被告の両親と同居して婚姻生活をしていたが、原告は婚姻して間もなく○○市○○の○○化粧品店に勤めた。

二  昭和四八年三月初旬、原告は身体に異常を覚え、産婦人科の診察を受けたところ、急性膀胱炎との診断であった。ところが、原告からこれを聞いた被告は原告が梅毒に罹患したものと思い込み、「離婚する。たった今出て行け。」などといって原告の布団を部屋の外へ放り出して乱暴した挙句、自動車で原告を実家に連れて行った。翌日被告は態度を変え、原告に対し被告方で治療するように促したので原告は被告方に戻った。しかし、原告はこのような夫婦の信頼関係を破壊するが如き被告の態度に強い精神的衝撃を受けた。

三  原告が○○化粧品店に勤務することに関しては、被告は、当初同意していたところ、昭和四八年五月、突然退職するようにといい出し、その際、同年九月の決算期まで勤めることに相談がまとまったにも拘らず、六月一〇日過ぎ頃、再び「今月中にやめろ」といい、原告の言葉を聞き入れようとしないので、結局、原告は六月末をもって○○化粧品店を退職することになった。その後被告は勤務中の原告に対し、電話で「家は化粧品店の取扱い店でない。お前は帰って来ないで、○○(原告の実家の意)へ帰れ」などと申し向けて離婚を示唆したことがあったが、原告は隠忍して来た。

四  昭和四八年六月二六日、被告は勤務中の原告に電話し、原告に対し昼までに帰宅するようにといったが、丁度当日は従業員の給料を計算する日であり、原告は原告の代りの新入事務員に仕事を教えなければならないので帰れない旨を伝えた。ところが、その夜被告は原告に対し、「帰れと電話したのに何故帰らない。」「出て行け。」と怒鳴り原告の頬を二回殴打し、飲んでいたウイスキーをかけ、更に落ちた眼鏡を拾おうとする原告の背後から後頭部の辺りを殴打するなどして暴行した。原告は右のような被告の暴行に耐えられず、離婚を決意し当夜実家に帰り、以後被告と別居している。

五  以上のとおり、原告は被告から同居に耐えられない侮辱、虐待、暴行を受けた。右は婚姻を継続し難い重大な事由に該当する。よって、原告は被告に対し離婚を求める。

六  被告の原告に対する前記暴行、虐待及び離婚による原告の精神的苦痛を慰藉するための慰藉料として金五〇万円が相当である。よって、被告に対し金五〇万円及びこれに対する本訴状送達の翌日である昭和四八年一二月九日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第三請求原因に対する被告の認否及び主張

一  請求原因第一項の事実のうち、原告が昭和四八年一月○○生命を退職したとの事実は知らない。その余の事実はいずれも認める。

二  同第二項の事実のうち、原告が産婦人科の診断を受けたこと、原告主張の如くタクシーで原告を実家へ送って行ったこと、翌日原告が被告方に戻って来たことは認める。被告は原告から「梅毒」であると診断されたと聞いたので、原告が結婚前他の男性と関係して梅毒が感染したものと考え、興奮のあまり原告の布団を隣室に移したのである。その際、原告に対し離婚を求めたこともなく、乱暴したこともない。

三  同第三項の事実はいずれも否認する。

四  同第四項の事実のうち、ウイスキーをかけたことは認める。原告が被告に対し暴言を吐いたので、被告は少量のウイスキーを原告の肩の辺りにかけたものである。その余の事実は否認する。

五  同第五、第六項はいずれも争う。

第四証拠関係≪省略≫

理由

一  ≪証拠省略≫によると、請求原因第一項の事実はすべてこれを認めることができる。

二  ≪証拠省略≫を綜合すると次の事実が認められる。

(一)  被告方は肩書地において写真店を経営しているが、従業員はなく、主として被告の父が撮影を、被告が現像、焼付等を担当しており、その収支は別会計としている。当時被告の収入は月額平均約六万円、原告は約四万円であった。原告ら夫婦の生活は、生計は両親と別にしているが食事は共にしており、原告らが食費として月額一万円を母親に渡していた。

(二)  昭和四八年三月初旬、原告は身体の異常を覚えA産婦人科の診察を受けたところ、膀胱に細菌が入ったといわれ(診断は急性膀胱炎)、その旨を被告に告げると被告は原告が梅毒に罹患したものと誤解し、やにわに原告の布団を部屋の外に放り出し、「離婚する」などと騒ぎ、被告の母がとめるのも聞き入れず、深夜、原告を○○市○○の原告の兄方に連れて行った。翌日被告が態度を改めたので原告は帰宅し、その後一週間位服薬して治癒し、被告も誤解であることを覚り紛議は一応治った。

(三)  原告が結婚後勤めに出ることについて、被告は積極的ではなかったが一応賛成していたところ、昭和四八年五月頃家業が忙しくなったとして原告に退職することを求め、原告は会社の都合もありすぐにはやめられないといっていたが、結局、六月末で退職することにした。

(四)  原告の退職間近い六月二六日朝、原告が出勤する際、被告が原告に対し今日は家の仕事が忙しいから早く帰宅するようにといったところ、原告は、翌日が給料の計算日であり新入社員への事務引継ぎもあるので早く帰れないといって出かけたが、被告は勤務中の原告に再度電話し、昼までに退社して帰宅するようにと申しつけ、これに対し原告は朝と同様に返答してそのまま勤務を続け、通常と同じく午後六時頃帰宅した。その夜被告は原告に対し、何故早く帰宅しなかったかと難詰し、原告がその理由を述べても聞こうとせず、口答えしたのが悪いと立腹し、原告の顔面を二回位殴打し―そのため原告の眼鏡が落ちた―、更に「出て行け」といって飲みかけのコップのウイスキーを原告の身体にかけ、眼鏡を拾おうとした原告の後頭部を殴打した。原告は被告の右言動により離婚を決意し、被告の両親が制止するのを聞かず、そのまま○○の兄方に赴き、以来被告と別居し今日に至った。

(五)  翌日、被告は原告の兄方に赴き、原告及び原告の父に会い前夜の非を詫びて原告に戻るよう懇請したが、原告は離婚の意思が固く、原告の父も「絶対帰さない」として共に被告の申入を拒否したので、被告はやむを得ずその場で離婚に応ずる旨を述べた。そして、当日午後、被告の両親及び仲人が原告の兄方に赴いた際にも原告の態度は変らなかったので、被告の両親は被告自身の意向に従うことにし、その際、原告の父は原告の荷物の引取方を申出て、その了承を得た。六月二九日原告の父らは被告方において原告の荷物を引取り、同時に離婚届の署名押印と慰藉料五〇万円の支払いを請求したが、被告は一旦離婚の意思を明らかにしたものの、本意でなかったとして離婚届に捺印せず、その後被告側では数度原告方に赴き原告の復帰を求めたが徒労に帰した。

(六)  続いて原告は青森家庭裁判所に離婚の調停申立をなし、調停期日において離婚の合意に達するかに見えたが最終結論に至らず、昭和四八年一〇月一二日不成立となった。現在、被告はなお原告との婚姻生活の回復につき望みを持つと述べているが、原告は別居以来離婚の意思が固く、被告との婚姻生活を回復する意思は全くない。

以上の事実が認められ(る。)≪証拠判断省略≫

三  そこで離婚の当否について判断する。前記認定事実によると、別居に至る原因はさして根深いものではないが、原告は既に被告に対する愛情を喪失し離婚の意思が固く、被告も一旦は離婚のやむないことを認めたこと、原告らの同居期間は僅か四ヵ月余りの短時日であり共同生活の基礎も十分でなかったところ、別居以来既に一年余りを経てその間両者の意思の疎通は全く行われず右の現状を打開すべき方策もないことなどの諸事情が窺われ、これらの諸事情に鑑みると、原告らの婚姻関係はもはや回復し難いまでに破綻したものとみるのが相当であり、民法七七〇条一項五号所定の婚姻を継続し難い重大な事由に該当するものというべきである。

四  次に慰藉料について検討する。前記認定の事実によると、原告らの婚姻が破綻に至った原因は、被告の暴行及びそれに続く別居にあり、双方が共に未熟であったことは勿論であるが、主として被告の短慮、無分別な言動にあるといわざるを得ない。そして、≪証拠省略≫によると、原告は被告の右言動に基因する婚姻の破綻により精神的苦痛を被ったことが認められ、原告らの婚姻生活の実態、同居期間及び破綻原因等本件にあらわれた一切の事情を綜合考慮すると、慰藉料として金二〇万円が相当であると認められる。

五  原告は慰藉料につき本訴状送達の翌日から遅延損害金を請求する。しかし、本件慰藉料請求は、原告が被告の有責行為により離婚のやむなきに至り精神的苦痛を被ったことを理由にその損害の賠償を求めるものと解されるところ、このような損害は離婚が成立してはじめて評価されるものであるから、相手方が有責と判断されて離婚を命ずる判決が確定するなど離婚が成立したときはじめて離婚に至らしめた相手方の行為が不法行為であることを知り、且つ、損害の発生を確実に知ったことになるものと解するのが相当である(最高裁昭和四六年七月二三日第二小法廷判決参照)。そうすると本件慰藉料についての遅延損害金請求権の発生時は本裁判確定の日の翌日というべきであるから、本件遅延損害金請求のうち本裁判確定の日までの分は失当として棄却を免かれない。

六  よって、原告の本訴請求のうち、離婚並びに慰藉料金二〇万円及びこれに対する本裁判確定の日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 蘒原孟)

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