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青森地方裁判所 昭和40年(タ)12号 判決 1965年7月20日

原告 甲野花子(仮名)

右訴訟代理人弁護士 内野房吉

被告 青森地方検察庁検事正 醍醐政

主文

昭和三九年一二月一七日青森市長に対する届出による原告と訴外亡Hとの間の協議上の離婚が無効であることを確認する。

訴訟費用は、国庫の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、請求の原因として、

「一、原告は、昭和三〇年一〇月一五日訴外Hの内妻となり、同三九年四月一七日青森市長に対し婚姻の届出をすませて夫婦となった。

二、戸籍には、原告と同訴外人が同三九年一二月一七日青森市長に対する届出によって協議上の離婚をした旨の記載がなされている。しかし、右協議上の離婚は、原告が夫である同訴外人に無断で、同訴外人の印顆を使用して作成した協議上の離婚届に基くものであるから、同訴外人に離婚の意思も、その届出の意思もなかったものとして無効である。すなわち、同訴外人は、市内大町所在の同訴外人所有の家屋の二階で、その家族と離れて、原告と暮らし、原告は、同訴外人が病弱のため、献身的にその看病に当っていた。同訴外人は、昭和三九年一二月一〇日頃から続く嘔吐のため、かかりつけの竹山医師の治療を受けていたが思わしくなかったので、原告の意思により、同月二二日県立中央病院へ入院することとなったが、これよりさきに、原告は、同訴外人が竹山医師の往診治療を受けながら回復がはかばかしくないこと、従来から自分が同訴外人の家族の者から敵視され、少なくない苦労を重ねてきたこと、さらに将来とも襲いかかるべき苦痛にもたえがたかったこと、このようなことから、原告は、単独で離婚の届出をしようと思い立ち、同年一二月一七日遠島行政書士を訪ね、同人に自己と夫の二個の印鑑を交付して離婚の届出の手続を依頼した結果、前記のとおり、戸籍に離婚の記載がなされるに至ったものである。

三、訴外Hは、同四〇年三月四日死亡した。よって、原告は、検察官を被告として、前記離婚の無効の確認を求めるため、本訴に及んだ。」

と述べ、立証≪省略≫

被告は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

「原告主張の請求原因事実は、すべて知らない。」

と述べ、≪証拠関係省略≫

理由

一、≪証拠省略≫を総合すると、原告と訴外Hとは、昭和三九年四月一七日に婚姻の届出をすませて夫婦となったこと、戸籍には右夫婦が同年一二月一七日に協議離婚の届出をしたことの記載があることおよび右協議離婚の届出は同訴外人に協議離婚の届出をする意思はもとより協議離婚をする意思もないのに、原告が戸籍に表示されている自己と同訴外人との間の夫婦関係を勝手に解消させようと考え、たまたま預っていた同訴外人の印顆を無断で使用し、行政書士に依頼して届出人を自己および同訴外人とする離婚届書を作成、これを青森市長に提出したことによるものであること、以上の各事実が認められ、これに反する証拠はない。右の各事実によると原告と同訴外人の右届出による協議離婚は、当事者である同訴外人の離婚の意思およびその届出の意思を欠くものであることが明らかであるから、無効のものといわなければならない。

二、もっとも、右協議離婚の無効は、前判示のとおり本訴でその確認を求める原告が配偶者の意思を無視して同人名義の離婚届書を偽造し、公務員である青森市長に対し虚偽の申し立てをなして戸籍原本に不実の記載をさせたことに基くもので、この原告の所為は、いずれも刑法上の犯罪行為を組成するものである。したがって民法七〇八条に示されている法の精神より自己の破廉恥な非行を理由として法律的保護を求めることができないとの考えを導くことができるものと解される以上、原告の本訴における右協議離婚無効の主張は、許されないものというべきであるかのようにみえる。しかしながら、身分関係において当事者の真意に基く実体関係の真実の保障が高度に要求されている趣旨と以下に認定するような原告が右協議離婚の届出をするに至った経緯の中に認められる道義上原告を強くは責められない事情とを考え併せると、前記の考えを直ちにそのまま本件にあてはめることはできない。すなわち、≪証拠省略≫を総合すると、原告は、昭和三〇年一〇月訴外Hと同棲するようになったが、当時原告は七九才の高齢であり、同訴外人は五八才であったが、同訴外人は、その子供を含む家族の者との折合いが思わしくなかったので、原告を頼りとし、これに自己の身の廻りの世話一切を委ね、他方原告も同訴外人の世話に心を尽したので、右両名の仲はむつまじく経過して、前記認定のとおり昭和三九年四月一七日婚姻の届出をすませて法律上の夫婦となったこと、しかしながら右婚姻の届出は、同訴外人からの強い希望によったものであるが、その家族の者には内密になされたものであったところ、その後同訴外人の病状の悪化するにともない、原告は、同訴外人に万一のことを懸念し、その際には同訴外人の身寄りの者たちから右婚姻の届出について非難を受けるものと考え、思いあまって、前判示のとおり、協議離婚の届出をなし、同訴外人にはこれを秘して、その臨終まで看病に専念したものであること、以上の各事実が認められ、他に右認定に反する証拠はない。

三、そうすると、同訴外人が同四〇年三月四日死亡したことは、≪証拠省略≫により明らかであるから、原告が検察官を被告として、これとの間で、右協議離婚の無効の確認を求める本訴請求は、正当として認容しなければならない。

四、よって、訴訟費用の負担につき人事訴訟法一七条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 井上清)

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