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青森地方裁判所 昭和31年(行)16号 判決 1959年6月11日

青森県北津軽郡板柳町大字福野田字実田七十三番地五号

原告

板柳映画劇場株式会社

右代表者代表取締役

三上忠太郎

右訴訟代理人弁護士

三上啓二

右訴訟復代理人弁護士

内野房吉

青森県五所川原市字柳町一番地

被告

五所川原税務署長

菅原大也

右指定代理人検事

滝田薫

法務事務官 清水忠雄

大蔵事務官 徳能一男

法務事務官 鹿内清三

法務事務官 三浦鉄夫

右当事者間の昭和三十一年(行)第一六号差押処分取消請求事件について当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告が昭和三十一年九月五日原告に対してなした入場税額七十七万八千六百円、納付期限同年同月六日十五時限りとする課税処分、及びこれに基いて同月十日なした原告所有の別紙目録記載の物件に対する差押処分はいずれもこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求原因として

一、原告会社は肩書住所において常設興業場板柳映画劇場を経営しているものであるが、被告は原告会社が入場税法第十九条に規定された入場券切取の義務に違反して昭和二十九年七月十八日から同三十一年六月十七日まで同劇場に入場する入場者から呈示を受けた入場券の半片を切り取らないでそのまま回収し、右使用済入場券を再度使用し、再使用入場券により領収した入場料金を正規の帳簿に記載せず、毎月被告に提出する課税標準額申告書にこれを算入しない不正の行為によつて合計入場税金七十五万六千五百円を免かれ、金二万二千百円を免かれようとしたものであると認定して、昭和三十一年九月五日原告会社に対し右入場税合計金七十七万八千六百円を翌六日十五時限り納付すべき旨の納税告知をし、次いで原告会社がその納付をしないことを理由に同月十日右入場税を徴収するため原告会社所有の別紙目録記載物件の差押をした。

二、しかし被告のした右課税及び差押処分には次に述べる如き違法がある。即ち

(一)  課税処分については、(イ)原告会社は被告認定の如き入場税を免れもしくは免れようとしたことは全くない。即ち原告会社が昭和二十九年五月五日から同三十一年二月十八日まで現実に領収した入場料金として所定の申告をした総額は五百十四万四千七百八十円であるところ、被告はこれを千三百七十一万六百九十円と決定しその差額八百五十六万五千九百十円に基いて原告会社が前記金額の入場税を免れ、もしくは免れようとしたと算定しているのであるが、被告の右認定は原告会社の運搬料、自転車預り料、フイルム貸付料、倉庫貸付料、その他の預り金等の収入による預金を目してすべて入場料金による収入と誤認した結果に外ならない。(ロ)仮りに百歩を譲り脱税の事実があつたとしても、金七十七万八千六百円という多額の税金を告知の翌日に納付することを求める右課税処分は原告会社に対し不能を強いるものであるから無効である。

(二)  差押処分については、(イ)右(一)において主張する如く課税処分が違法であるからこれに基いてなされた差押処分も当然違法たるを免れない。(ロ)のみならず被告は原告会社が脱税をしたものとしてその脱税額徴収のため差押処分をしたのであるが、かかる徴収は国税徴収法第四条の一に所謂繰上徴収の場合に該当するものではないから必ず督促を経た上で差押をしなければならないのに、被告はその督促もせず前記九月六日の納期到来と共に直ちに差押をした違法がある。

そこで原告会社は被告のなした前記課税処分及び差押処分の取消を求めるため本訴に及んだ

と述べ

被告の本案前の抗弁に対し

(イ)  原告会社は差押処分後の昭和三十一年九月十二日頃被告に対し口頭を以て再調査の請求をした。(尤も被告は右請求は書面をもつてするよう補正を命じなかつたばかりでなく本件は行政訴訟により救済を求めるより外に方法があるまいとてとり合わなかつたので、原告会社は相馬五郎税理士に委任し被告に対し重ねて口頭で調査の請求をなさしめたが前同様の結果に終つた。そこで相馬税理士は仙台国税局長に対し交渉したが、これ亦拒否され行政訴訟による救済を求めるべきである旨を告げられた。)しかるに未だこれに対す決定の通知がない

(ロ)  仮りに右は再調査の請求とはいえないとしても、原告会社の右のような口頭の申出に対する被告の態度及び被告は昭和三十一年九月五日に納税告知をし、同月十日には早くも差押をした経緯に鑑み、差押物件につき直ちに公売処分を執行することが予想されたので若し審査の決定を経たうえで本訴を提起するときはすでにその時機を失し著しい損害を生ずる虞があつたので、これを経ることなく本訴を提起するに至つたものであるから右は正当な事由があるものというべきである。

又仮りに右理由がないとしても、前記二、(一)(ロ)の如く行政処分の無効を主張する限りにおいては再調査及び審査の決定を経由するまでもなく出訴し得るものである

と述べ

立証として、甲第一、二号証を提出し、証人三上兼蔵の証言を援用し、乙第一号証の一、二の成立は不知、その余の乙号各証の成立は認めると述べた。

被告指定代理人は主文同旨の判決を求め

本案前の抗弁として

原告会社は国税徴収法第三十一条の四に違反し審査の決定を経ないで出訴したのであるから本訴は不適法として却下すべきであると述べ、

右抗弁に対し、原告会社が主張する事実はすべて否認する。たとえ差押財産について公売のおそれがあつたとしても、それは直ちに審査の決定を経ないで出訴し得る正当な事由があることにはならないのみならず、そもそも本件差押財産については未だ公売公告さえされていないのであるから、原告会社主張の如く審査の決定を経ないで出訴しなければその時機を失し著しい損害を生ずる虞があつたとはいえない。

のみならず国税徴収法第三十一条第一項但書により審査の決定を経ないで出訴し得るのは適法に再調査審査の請求をしているか、又はこれをなしうる場合に限られ、再調査、審査の期間を徒過すればもはや出訴し得ないものと解されるところ、本件においては課税処分は昭和三十一年九月五日、差押処分は同月十日になされているから、これより一カ月の再調査請求期間を経過した後の同年十一月十三日に提起された本訴は公売のおそれがあつたか否かにかかわらず不適法であるといわねばならないと述べ

本案につき請求棄却の判決を求め、その答弁として

原告会社主張の一、の事実は認めるが二、の事実は否認する。被告がした課税及び差押処分には何等違法のかどはない。即ち

被告は原告会社において入場券の半片を切取らずにこれを再使用し、その再使用して領収した入場料金を課税標準申告額に計上しない不正の行為により入場税を免かれようとしたので入場税法第二十五条第三項により直ちに入場税を徴収することができるものであるため、昭和三十一年九月五日原告会社に対し翌六日十五時と指定し納税告知をしたが、原告会社は、右納期に納税しなかつたので更に国税徴収法第九条第一、二項により同年九月六日十七時原告会社に対し期限を翌七日十五時と指定して督促状を発し右督促の指定日時経過後の九月十日同法第十条により本件差押をしたものである

仮りに課税処分につき原告主張の二、(一)の如き違法があるとしても、これがため直ちに差押処分も違法となるものではない

と述べ

立証として、乙第一、二号証の各一、二、第三、四号証を提出し、証人原田敏夫の証言を援用し、甲号各証の成立を認めた。

理由

先ず訴の適否について判断する。

国税徴収法によれば、国税の賦課徴収に関する処分又は滞納処分に関し異議ある者は当該処分に係る通知を受けた日から一カ月以内に当該処分をした税務署長に対し再調査の請求をすることができ、これに対しなされた再調査の決定に対し異議ある者は更に当該処分の通知を受けた日から一カ月以内に国税庁長官その他所定の者に審査の請求をすることができ、これに対しなされた審査の決定を経た後でけなれば右再調査の請求又は審査の請求の目的となる処分の取消又は変更を求める訴を提起することができず、唯例外として一定の事由ある場合に限り再調査の決定又は審査の決定を経ないで出訴し得る旨定められている(同法第三十一条の二、同条の三、同条の四参照)。本件において原告会社が審査の決定(同法第三十一条の三第五項による決定)を経ないで本訴を提起したことは弁論の全趣旨によりこれを認めることができる。

原告会社は本件差押処分直後被告に対し口頭で再調査の請求をした旨主張するけれども再調査の請求は書面を以てすべき要式行為であるばかりでなく、成立に争のない甲第二号証によればその内容においても原告会社は相馬五郎税理士に依頼して被告に対し本件課税及び差押の緩和を陳情せしめたものであつてとうてい再調査の請求と目することができない。

原告会社は又審査の決定を経ずに出訴する正当事由として、当時本件物件の公売の時期が切迫していたので再調査及び審査の決定を経由するときは、その間公売により右物件を失い出訴の時機を失するおそれがあつた旨主張する。しかし本件に現れた一切の資料によつてもしかく公売の時期が切迫していたものとは認められず、原告会社は本件課税処分並に差押処分の時(前者が昭和三十一年九月五日、後者が同月十日になされたことは争がない。)から一カ月の再調査請求の期間のみならず、その後更に一カ月を経過した同年十一月十三日に至り漸く本訴を提起したのであるから右主張は全くその理由がない。

原告会社は更に課税処分の無効を主張する点においては審査を決定を経ずに出訴することができる旨主張するけれども、本件訴訟は課税処分の無効確認を求める訴ではなくしてその取消変更を求める訴なのであるから右主張も亦理由がない。

そこで原告会社の本件訴は不適法として却下すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 飯沢源助 裁判官 福田健次 裁判官 野沢明)

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