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青森地方裁判所 昭和31年(行)14号 判決 1959年6月11日

青森県五所川原市字本町六十一番地、六十二番地

原告

有限会社五所川原映画劇場

右代表者代表取締役

下山稲四郎

右訴訟代理人弁護士

三上啓二

弁護士 小田原親弘

右訴訟復代理人弁護士

内野房吉

同市柳町一番地

被告

五所川原税務署長

菅原大也

右指定代理人検事

滝田薫

法務事務官 清水忠雄

大蔵事務官 徳能一男

法務事務官 鹿内清三

法務事務官 三浦鉄夫

右当事者間の昭和三十一年(行)第一四号差押処分取消請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件訴を却下する

訴訟費用は原告の負担とする

事実

原告訴訟代理人は「被告が原告に対し、昭和三十一年九月五日納税告知した入場税額金二、六七七、六六〇円、納期日同月六日十二時納付場所五所川原税務署とする課税処分および同月七日した別紙目録第一記載の物件並に同月十日した同目録第二記載の物件に対する各差押処分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求める旨申し立て、その請求の原因として、

原告は常設興業場を経営するものであるが、被告は原告に対し、昭和三十一年九月五日原告が昭和二十九年五日十八日から同三十一年六月十七日までの入場税合計金二、六二一、九四〇円を免れ、金五五、七二〇円を免れようとしたものであるとして、入場税額金二、六七七、六六〇円を昭和三十一年九月六日十二時五所川原税務署に納付すべき旨を告知し、原告がその納付をしないことを理由として同月七日別紙目録第一記載の物件を、同月十日同目録第二記載の物件を各差押えた。

しかし、右各処分は次の理由により違法である。

(説税処分について)

一  被告の認定によれば原告会社の会計係下山清之進は支配人斎藤作太郎と相謀り原告会社の業務に関し、右興業場の入場者から呈示を受けた入場券をそのまま収納して(半片を切り取らずに)再使用により領収した入場料を正規の帳簿に記入することなく、又被告に対する課税標準額申告書に計上せず、もつて前記のとおり入場税を免れ、もしくは免れようとしたというのであるが、さような事実は全くない。被告は原告の昭和二十九月五月から同三十一年六月までの入場税課税標準額の申告額金二〇、〇三〇、五六〇円に対し金三八、三五八、四九〇円と決定しこれを基礎として前記税額を算定しているが、原告の申告には何等の偽りもなく、被告の右決定は、原告が資金借入の方便として現実の入場料の殆ど倍額を記入していた原告の裏帳簿に過られ事実を誤認したものである。

二  仮りに原告の脱税の事実があつたとしても、金二、六七七、六六〇円という莫大な金額を納税告知の翌日に納付することを求める被告の課税処分は原告の資産に対比し、社会観念上不能を強いるものであるから無効である。

(滞納処分について)

本件滞納処分は前記違法な課税処分を前提とする点で違法であるばかりでなく差押処分の前提として、督促を必要とするところ、被告は原告に対して督促をしないで差押をした点においても違法である。

よつて、本件課税処分の差押処分の各取消を求めるため本訴に及んだ。

と述べ

被告の本案前の抗弁に対し、原告は本訴提起前に被告に対する再調査の請求を経て本訴を提起したものである。すなわち、再調査の請求は必ずしも書面によることを要しないものと解すべきところ、原告は本件差押処分を受けた直後の昭和三十一年九月十一日頃、当時の五所川原税務署長佐々木市兵衛に対し口頭を以て再調査の請求をしたが、同人は本件は行政訴訟による他に救済の途はあるまいとてとりあわなかつたので、原告は税理士相馬五郎に依頼して再度口頭で再調査の請求をさせたが、右同様の返答に接した。そこで、更に右訴外人をして仙台国税局に交渉させたが要領を得なかつた。勿論再調査の請求に対し未だ決定がない。仮りに右は再調査の請求とはいえないとしても、原告が再調査の請求を書面でする旨申出たにも拘らず前記佐々木市兵衛はこれを拒否したのみならず、前記の如く昭和三十一年九月十五日に納税告知をなし、同月七日には早くも差押処分をした点から推して本件物件は直ちに公売処分に付されることが予想され、若し、公売に付されるに於ては原告の事業に重大な支障を生じ、回復し難い著しい損害を生ずることになるので、再調査及び審査の決定を経ることにより時機を失することのないよう止むを得ず直接出訴に及んだ次第で、これについて正当な事由があるものというべきである。

仮りに以上理由なしとしても少くも前記課税処分の無効を主張する限りにおいて審査の決定を経る要はないと述べ

立証として、証人木村八百蔵、前田志朗の各証言を援用し、乙号各証(但し乙第二号証中受取人署名捺印欄を除く)の成立は不知と述べた。

被告指定代理人等は、訴却下の判決を求め、本案前の抗弁として原告は本訴提起に当り再調査及び審査の決定を経ていない。尤も、原告会社代表者下山稲四郎が昭和三十一年九月八日頃当時の五所川原税務署長佐々木市兵衛に対し、電話で、被告が同月七日した差押を解いて欲しい旨申し入れて来た(同署長はこれを拒否した)ことその後訴外相馬五郎が同月三十日頃仙台国税局間税部長の私宅を訪ねて本件差押について善処方を望む旨申し出たことがあるが、これは再調査の請求に当らないことは勿論、審査の請求にも当らない。

従つて、本訴は不適法である。原告は審査の決定を経ないで出訴する正当な事由がある旨主張するけれども本件差押処分については、当時未だ公売公告もされていなかつたのであるから原告主張のような公売による著しい損害を生ずる虞があつたとはいえない。のみならず国税徴収法第三十一条ノ四第一項但書により審査の決定を経ずに出訴できるのは、適法に再調査、審査の請求をしておる場合、又は、なし得る場合に限られ、再調査、審査請求の期間を徒過した後は、もはや出訴できないものであるが、本件は課税処分が昭和三十一年九月五日差押処分が同月七日及び十日にされており、本訴は一カ月の再調査の請求期間経過後の同年十一月十二日に至つて提起されているのであるから、本件差押物件につき公売の虞があつたか否かに拘らず、不適法であると述べ、

本案について「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、原告の請求原因事実中、被告が昭和三十一年九月五日原告主張のような課税処分をし、その納付がなかつたので、同月七日、及び十日に夫々原告主張のような物件を差押えたことは認めるが、その余は否認する。本件入場税は入場税法第二十五条第三項により直ちに徴収できる場合に当るので、被告は原告に対し昭和三十一年九月五日、納期を同月六日十二時とする旨の納税告知をしたが原告はこれに応じないので、更に国税徴収法第九条第一、二項により同月六日原告に対し、納期を同日十七時と指定した督促状を送達し、指定日時経過後の同月七日及び十日、同法第十条により本件物件を差押えたもので、本件滞納処分には何等の瑕疵もない。

仮りに課税処分に何等かの瑕疵があつたとしても、その違法は当然に滞納処分の瑕疵として承継されるものではないと述べ、

立証として、乙第一号証の一、二、第二号証を提出し、証人大村吉雄、原田敏夫、鎌田一治の各証言を援用した。

理由

本件訴が適法であるか否かの点について判断するに、国税徴収法第三十一条ノ四によれば再調査の請求又は審査の請求の目的となる処分の取消を求める訴は、原則として、審査の決定を経た後でなければ提起できないのであるが、原告の本件訴により取消を求める行政処分が再調査の請求または審査の請求の目的となる処分であることは同法第三十一条ノ二、三に徴し明らかである。しかるに原告が右審査の決定を経ずに本訴を提起したものであることは弁論の全趣旨から明白である。

尤も再調査の請求後六箇月を経過してもその決定の通知がないときは直ちに出訴することができるところ、原告は被告に対し右行政処分の直後口頭で再調査の請求をしたが未だその決定がない旨主張するけれども再調査の請求は書面ですべき要式行為であるから右は主張自体理由がないばかりでなく、証人前田志朗の証言によれば、原告は本件滞納処分直後税理士相馬五郎に依頼して被告に対し、本件課税並に滞納処分を緩和せられるよう口頭により陳情せしめたがこれを拒否されたうえ、被告から右行政処分の裏付けとなる充分な証憑がある旨説明を受けたので、正式に再調査の手続をとることを断念したものであることが認められる。

原告は更に審査の決定を経ないで出訴する正当事由として当時本件物件の公売の時期が切迫していたので再調査及び審査の決定を経由するときはその間右物件を公売により失い出訴の時機を失するおそれがあつた旨主張する。しかし本件に現れた一切の資料によつてもしかく公売の時機が切迫していたものとは認められないのみならず、原告は被告の本件課税ならびに滞納処分があつた時(前者が昭和三十一年九月五日後者は同月七日及び同月十日であることは争がない)から一箇月の再調査の請求期間を空しく過ごし、更にその後一箇月余りを経過した後になつて漸く本件訴訟を提起したのであるから右主張も亦その理由がない。

原告は又、課税処分の無効を主張する点においては審査の決定を経ることなしに出訴し得るものと主張する。しかしながら本件訴訟は行政処分の無効確認を求める訴ではなくして、その取消変更を求める訴なのであるから右主張は理由がない。

よつて、原告の本件訴を不適法として却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主分のとおり判決する。

(裁判長裁判官 飯沢源助 裁判官 福田健次 裁判官 野沢明)

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