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長野地方裁判所佐久支部 平成5年(ワ)107号 判決 1999年7月14日

原告

倉根保男

原告

土屋修

原告

鈴木健児

原告

宮沢計人

原告

北村潔

原告

井出正義

原告ら訴訟代理人弁護士

佐藤芳嗣

被告

日本セキュリティシステム株式会社

右代表者代表取締役

鷹野澄雄

右訴訟代理人弁護士

本島信

大澤政道

主文

一  被告は、原告倉根保男に対し、金七〇三万八八七四円及びこれに対する平成五年六月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告土屋修に対し、金六四七万七四〇〇円及びこれに対する平成五年六月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告は、原告鈴木健児に対し、金四八〇万二九八〇円及びこれに対する平成五年六月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告は、原告宮沢計人に対し、金四二八万六七〇九円及びこれに対する平成五年六月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  被告は、原告北村潔に対し、金四四九万九三一七円及びこれに対する平成五年六月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

六  被告は、原告井出正義に対し、金二三七万三〇〇〇円及びこれに対する平成五年六月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

七  訴訟費用は被告の負担とする。

八  この判決は、第一項ないし第六項について、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

主文第一ないし第六項と同旨

第二事案の概要

一  本件は、警備業等を営む被告の従業員であった原告らが、原告らと被告間の労働契約に基づき、在職当時の平成二年一一月支払分から平成五年四月支払分までの間の時間外労働及び深夜労働に対する割増賃金を請求するものである。

二  争いのない事実、証拠により容易に認定できる事実又は裁判所に顕著な事実若しくは記録上明らかな事実

1  被告は、警備業等を営む会社であり、原告らは、いずれも既に被告を退社しているが、かつて被告に警備員として勤務し、被告の就業規則の上では常夜勤務者とされている。

2  被告の業務内容は、被告が警備及び管理を委託された工場、行政庁、病院、学校、温泉、店舗、別荘などの建物施設の警備のほか、被告が委託を受けた現金輸送などである。

3  原告らの主な勤務先は、長野県佐久合同庁舎(以下「佐久合同庁舎」という。)、長野県佐久地方の農業協同組合(以下「農協」という。)、佐久市立浅間総合病院(以下「浅間病院」という。)、長野県佐久地方の小中学校、温泉ホテル星野温泉(以下「星野温泉」という。)、別荘三井の森約三五〇戸、マミヤ株式会社(以下「マミヤ」という。)・双信電機株式会社(以下「双信電機」という。)等の工場、パチンコ店、図書館、デパート、被告本社(以下「本社」という。)管制室(以下「管制室」という。)などであった。

4  被告における原告らの勤務は、管制室勤務を除くと以下の八方面隊に分かれる。

(1) 第一方面隊(小海町、南牧方面の巡回等)

(2) 第三方面隊(佐久、南佐久方面の巡回等)

(3) 第四方面隊(佐久、望月、和田、上田方面の巡回等)

(4) 第五方面隊(軽井沢方面の巡回等)

(5) 星野温泉(常駐)

(6) 双信電機(常駐)

(7) 佐久合同庁舎(常駐)

(8) 巡回(浅間病院、マミヤ、黒沢病院等の巡回)

5  原告らは、別紙一覧表<略>1ないし6記載の各「一月の労働日数」欄記載の日数について、被告の就業規則に定める常夜勤務の月給者として午後五時三〇分から翌日午前八時三〇分までの間勤務に従事した(ただし、原告井出正義(以下「井出」という。)については、平成三年一一月支給分から平成四年三月支給分までの間は就業規則に定める常夜勤務の日給者として勤務した。)。

6  原告らの勤務は、原則として午後五時三〇分から翌日の午前八時三〇分までの夜間勤務で、拘束時間は一五時間であり、原則として四夜連続して勤務し、五夜目が休日となっていた。

7  被告は、労働基準法四一条三号、同規則二三条の許可を受けていない。

8  被告は、毎月二一日から翌月二〇日までを一か月として、毎月中旬ころまでに、警備員各自の希望休暇予定を提出させて勤務予定表を作成し、これに基づいて、警備員らは交替で各方面の勤務に就いた。

9  被告は、前月の二一日から当月の二〇日までの間の賃金を当月末日に支払うこととなっていた。また、各年度四月一日に賃金改定を行っていた。

10  被告は、契約先と警備契約を締結し、原告ら警備員を警備業務担当要員として契約先等に派遣していた。機械警備が行われている契約先では、警備機器が作動し、管制室が盗難、火災等の異常信号を受信した場合は、管制室は原告らにポケットベル、無線、電話で作業の指示をしていた。

11  原告らの拘束時間中の食事の時間及び場所は指定されていなかった。

12  被告は、原告らを含む従業員に対し、平成四年四月二〇日勤務分までは、勤務に応じて、星野常駐手当(一勤務二〇〇〇円)、双信電機警備勤務手当(一勤務五〇〇円)、宇宙科学研究所勤務手当(一勤務五〇〇円)、マミヤ機器操作手当(一勤務五〇〇円)、佐久合同庁舎巡回手当(一勤務五〇〇円)、現金書類輸送手当(一勤務三〇〇〇円)、交通誘導手当(一勤務一〇〇〇円ないし五〇〇〇円)、常昼勤務者夜勤手当(一勤務八二〇円ないし二四〇〇円)、常夜勤者皆勤手当(一か月一万円)、常夜勤者精勤手当(一か月三五〇〇円)等の諸手当を支払ってきたが、同月二一日以降は、右諸手当のうち星野常駐手当、双信電機警備勤務手当、佐久合同庁舎巡回手当、現金書類輸送手当を廃止し、新たに現金輸送残業手当、第五方面隊残業手当、星野常駐隊残業手当、合同庁舎勤務者残業手当、管制勤務早出残業手当を新設し、原告らを含む従業員に対し、拘束時間外手当として支給していた。

13  原告らの平成三年八月分以前の賃金については、いずれも各支払期から二年が経過した。

14  被告は、平成八年二月一九日の本件第一六回口頭弁論期日において、原告らの請求のうち平成三年八月分以前の分について、消滅時効を援用する旨の意思表示をした。

15  原告らは、被告に対し、平成五年六月四日到達の書面で、原告らの住所、氏名を明示した上で、賃金台帳、タイムカード、勤務表に基づいて、平成二年四月分以降の時間外及び深夜の割増賃金を計算して支払うよう請求したが、右請求においては、原告らの債権額及びその内訳は明示されていなかった。

16  原告らで組織する労働組合は、平成四年六月一日、小諸労働基準監督署に対し、被告が残業手当を支給せず、労働基準法違反の事実がある旨申告した。

17  原告らで組織する労働組合は、平成四年九月一四日、長野県労働委員会(以下「労働委員会」という。)に対し、労使紛争の解決の斡旋を申し立て、斡旋を求める事項の一つとして残業手当支給問題が含まれていたが、労働組合は、同月二五日の第一回の斡旋の直前に右残業手当問題については取り下げた。

18  原告らで組織する労働組合は、平成五年六月ころ、解散した。

19  原告らは、平成五年一〇月一日本件請求にかかる訴えを提起した。

三  争点

1  原告らの休憩、仮眠時間は被告の指揮命令下にある労働時間といえるか。

2  原告らと被告間で、拘束時間一五時間中の実作業時間以外の休憩、仮眠時間について、時間外手当、深夜手当を支給しないこととし、これに相当する手当を支払う旨の労働契約がなされていたか。

3  原告らの割増賃金計算の基礎となる基準賃金と割増賃金の額

4  原告らの請求のうち平成三年八月分以前の分について消滅時効が完成しているか。また、被告の右時効援用が権利の濫用にあたるか。

四  争点1に対する双方の主張

1  原告ら

(一) 原告らは、被告の業務として、前記二2の建物施設の警備及び現金輸送のほか、マミヤ、双信電機において工作機械を作動させ、野辺山学園においてボイラーを運転し、ドライブイン松原湖、同高根農協、碓氷バイパス料金所手前、白糸の滝などに設置してある自動販売機を保全する勤務に就いていた。

(二) 原告らの勤務状況

(1) 出勤から出動まで

<1> 午後五時ないし午後五時一〇分の間に本社に入る。

<2> 本社のタイムカードに出社時刻を記録する。

<3> 作業支度をする。

<4> 被告代表者の訓示を五分ないし一〇分間受ける。

<5> 午後五時四五分それぞれの勤務に就く。

(2) 第一方面隊

<1> コスモタワー(臼田町)で戸締まりや人のいないことを確認して、シャッターを閉め(午後六時)、無線で会社に報告する。

<2> 臼田町農協など六か所の戸締まり、火の始末などの点検をする。

<3> 小海中学校の外周を点検する。

<4> 南牧村野辺山(小海、野辺山、川上、南北相木村を範囲とする。)において、車中で一晩中待機し、会社から無線信号が入ればいつでもその場所へ出動する(午前七時三〇分ころまで)。

<5> コスモタワーのシヤッターを開ける(午前八時)。

<6> 本社に帰え(ママ)る(午前八時三〇分)。

(3) 第三方面隊

<1> 会社で午後八時まで待機する。

<2> 中島木材を点検する。

<3> 塩川ベーカリー(佐久市)の外周を点検する。

<4> 川村精機第一工場(臼田町)を点検する。

<5> 青木木材を点検する。

<6> 川村精機第二工場(臼田町)を点検する。

<7> 中島木材を点検する。

<8> 塩川ベーカリー(佐久市)の外周を点検する。

<9> サンマルコの外周を点検する。

<10> 本社に帰り朝まで待機する。

(4) 第四方面隊

<1> 佐久合同庁舎を点検し、午後八時まで待機する。

<2> 佐久市農協、平根農協、高瀬農協などを点検する。

<3> 佐久合同庁舎を巡回し、同所で仮眠する(午前零時過ぎ)。

<4> 佐久合同庁舎の鍵を開ける(午前五時)。

<5> マミヤで機械を操作し、点検し、鍵を開ける。

<6> 本社に帰る(午前八時三〇分)。

(5) 第五方面隊

<1> 三井の森(軽井沢町)事務所で電話の受付を行う(午後九時)。

<2> 三井の森別荘一〇か所を点検する。

<3> 軽井沢町立の学校、資料館、図書館、老人ホーム、公民館など九か所を点検する。

<4> 三井の森へ帰り、別荘を巡回する。

<5> 三井の森を巡回する(三回目)。その間に個人別荘を点検する。

<6> 三井の森(平成四年春ころまでは車中)で午前五時三〇分まで待機する。

<7> 三井の森の個人別荘など二〇か所を巡回する。

<8> 三井の森事務所のメモに記帳する(午前七時)。

<9> 本社に帰る(午前八時三〇分)。

(6) 星野温泉

<1> 軽井沢町営運動場、記念館、資料館、保育園、児童館等一九か所の施設を点検する。

<2> 星野温泉本館で挨拶する。

<3> ホテルニュー星野で灰皿等を片づける。

<4> 星野温泉で車両ナンバーを記入する。

<5> 星野温泉本館を巡回する(午後一一時ころ)。

<6> ホテルニュー星野を巡回する。

<7> 星野温泉本館を巡回する(三回目・午前二時)。

<8> 星野温泉本館を巡回する(四回目・午前五時)。

<9> ホテルニュー星野の外周を点検する。

<10> 星野温泉本館(平成四年四月以前は車中)で午前七時三〇分まで待機する。

<11> 本社へ帰る(午前八時三〇分)。

(7) 双信電機佐久工場

<1> 常駐勤務で、午前一時ころに双信電機の社内を巡回する。双信電機においても、機械警備が行われており、盗難信号等は管制室に入り、原告らに伝えられ、直ちに対処することになる。

<2> 双信電機においては、原告らは双信電機勤務の従業員からの応援を受けてはいない。

<3> 夕方及び早朝に電話の受付業務を行っている。

(8) 佐久合同庁舎

<1> 午後一二時以後も、長野地方気象台とファックスがつながっている上、管制室と電話やポケットベルで連絡できる状態になっている。

<2> 午後一二時以降の注意報は少ないが、注意報を知らせるブザーの音がいつ鳴るかわからないし、盗難等の異常信号について管制室からいつ連絡が入るかわからない状態にあった。

<3> 気象台から大雨や大雪等の注意報が入ったときは、地方事務所や建設事務所の当番の自宅に連絡を入れることになっていた。

<4> 原告らが佐久合同庁舎内で組合会議を開催したことはない。

(9) 巡回

<1> 防災センター(佐久市)で午後七時まで待機する。

<2> JA佐久市紅雲台支所(佐久市)を点検する。

<3> 浅間病院の全室、各階ナースステーションなど六か所を点検する。

<4> マミヤを点検する。

<5> 中島木材(佐久市)の事務所や工場を点検する。

<6> 浅間病院を点検し、駐車場で待機する(一時間)。

<7> 浅間病院を点検する(三度目・午前零時)。

<8> パチンコレインボー、黒沢病院の外周を点検する。

<9> 防災センターに帰り待機する(午前二時ころ)。

<10> 大進建設株式会社の鍵を開ける。

<11> 防災センターで午前8(ママ)時まで待機する。

<12> 本社に帰る(午前八時三〇分)。

(三) 被告の契約先では、すべて機械警備が行われており、異常信号の多くは機器の操作ミス、悪天候、犬や猫などの動物による誤った信号であるが、警備機器がセットされると、何時異常信号が管制室に入るかわからない。すなわち、原告らが巡回などの実作業に従事している時間だけでなく、待機、休憩、仮眠時間を問わず、警備機器は常に作動しており、被告は、契約先との警備保障契約上異常信号が入ってから二五分以内に原告ら警備員を現場に急行させなければならず、しかも一部の派遣先(星野温泉、双信電機など)を除き、原告らは契約先一社のみの警備に従事しているのではなく、一人で受け持つ警備先は十数社に及び、またその範囲もかなり広い。なお、被告においては、原則として、各勤務場所に仮眠室を設置しておらず、原告らは、駐車場の車中等で待機していたが、平成四年春以降に仮眠室を設置され、同所で休憩、仮眠することができるようになった。

(四) 被告は、休憩、仮眠時間を形式的に定めていたが、その時間は具体的に特定されず、また、特定しようにも、顧客である警備保障委託会社との契約内容からして、休憩、仮眠時間中といえども、警備の業務を原告らにさせざるをえない。前記のとおり、被告は、契約先との警備保障契約上異常信号が入ってから二五分以内に原告ら警備員を現場に急行させなければならず、休憩、仮眠時間中の原告ら警備員の場所的拘束の度合いは強い。原告らは、各自別々の契約先に派遣され、一五時間の拘束時間中一人で所定の警備などの業務に従事し、管制室からのポケットベル、無線、電話、ファックスを通じて、被告の指揮監督下におかれ、盗難や火災等の異常信号に直ちに対応することが義務づけられていた。

(五) 原告らの四日連続の一勤務一五時間ないし一五時間半の勤務で、かつ、深夜勤務を伴う勤務形態は、原告ら警備員に過度の精神的緊張を与えるものである。原告土屋は、農業に従事しているが、妻や娘も従事しており、田は一部他人に委託して耕作しており、原告らの警備勤務が労働密度の低いものではない。

(六) したがって、被告においては、休憩、仮眠時間のいずれも労働時間であり、原告ら警備員は、拘束一五時間全部について労働しているというべきであり、被告は、労働基準法四一条の許可を受けていないから、八時間を超える七時間について、時間外労働に対する時間外手当及び深夜労働に対する深夜手当の支払義務がある。

2  被告

(一) 被告における原告らの各方面隊の勤務状況は次のとおりである。

(1) 第一方面隊

<1> 機械警備緊急対処担当地域であり、原則として、小海町、南相木村、南牧村、川上村、野辺山、清里が担当地域である。

<2> 待機場所は、南牧村に六畳間のプレハブを賃借しており、ベッド一台、テレビ一台、湯茶設備一式が備えられている。

<3> 勤務内容は以下のとおりである。

(イ) 午後五時三〇分までに本社に出社し、担当方面別契約先の鍵の有無を確認し、午後五時五五分ころ出発する。

(ロ) 午後六時ころコスモタワー(臼田町)の内外を巡回する。

(ハ) 午後六時一〇分ころ南牧村待機所に行き、待機する。

(ニ) 午後一〇時から午後一一時の間に、小海中学校の外周を一回巡回する。

(ホ) 実作業時間(往復時間を含む。)は合計約二時間である。

<4> 休憩、仮眠及び緊急時の対応

(イ) 実作業時間のほかは、仮眠することも、テレビを見ることも、レストランなどに食事にでかけることも自由であり、労働から解放されていた。

(ロ) 原則的に仮眠室を利用することになっていたが、被告は、休憩、仮眠時間の利用を原告らの自由に委ねていた。そのため、原告らが入浴、食事を兼ねて、自宅に行ったり、車中で休んだりすることも自由であった。

(ハ) 被告は、原告らにポケットベルを携帯させていたが、それは、万一緊急事態が発生した場合、原告らに直ちに対処してもらうことができるように指示するためであり、休憩、仮眠時間における自由行動を認めていたからこそ、このような連絡方法をとっていたものである。なお、ファックスによる指示はしていない。

(2) 第三方面隊

<1> 機械警備緊急対処担当地域であり、原則として、八千穂村、佐久町、臼田町、浅科村、望月町、和田村、小諸市、上田市が担当地域である。

<2> 待機所は、本社仮眠室(六畳間)であり、ベッド二台、テレビ一台、湯茶設備一式が備えられている。

<3> 勤務内容は以下のとおりである。

(イ) 午後五時三〇分までに本社に出社し、担当方面別契約先の鍵の有無を確認し、午後九時ころまで本社で待機する。

(ロ) 午後九時ころ本社を出発し、青木木材、サンマルコ(外周のみ)、自動車センター、農協東支所、中島木材の内外を巡回する。

(ハ) 実作業時間(往復時間を含む。)は約三時間三〇分である。

<4> 休憩、仮眠及び緊急時の対応は第一方面隊と同様である。

(3) 第四方面隊

<1> 機械警備緊急対処担当地域であり、原則として、佐久市、浅科村、望月町、小諸市、上田市が担当地域である。

<2> 待機所は、佐久合同庁舎又は被告佐久営業所であり、六畳間の仮眠室で、ベッド一台、テレビ一台、湯茶設備一式が備えられている。

<3> 勤務内容は以下のとおりである。

(イ) 午後五時三〇分までに本社に出社し、担当方面別契約先の鍵の有無を確認し、午後五時四五分ころ佐久合同庁舎に出発する。

(ロ) 午後七時ころから約三〇分間、佐久合同庁舎の内外を巡回する。

(ハ) 午後九時ころから約一〇分間中島木材の内外を巡回し、午後九時から午後一〇時の間にJA佐久市本所、高瀬支所を巡回する。

(ニ) 午後一一時ころから約二〇分間、佐久合同庁舎を巡回する。

(ホ) 午前六時ころマミヤに行き、機械のスイッチを入れ、内外を巡回する。

(ヘ) 実作業時間(往復時間を含む。)は合計約五時間三〇分である。

<4> 休憩、仮眠及び緊急時の対応は第一方面隊と同様である。

(4) 第五方面隊

<1> 機械警備緊急対処担当地域であり、原則として、御代田町、軽井沢町が担当地区である。

<2> 待機所は、軽井沢三井の森管理事務所の休憩室である。ソファーベッド一台、テレビ一台、湯茶設備一式が備えられている。

<3> 勤務内容は以下のとおりである。

(イ) 午後五時三〇分までに被告本社に出社し、担当方面別契約先の鍵の有無を確認し、午後五時四五分に出発する。

(ロ) 午後六時五〇分ころに三井の森管理事務所に到着する。午後七時から午後九時までの二時間休憩する。

(ハ) 午後九時から午後九時四〇分の間、別荘敷地内を回転灯を回しながら自動車で巡回する。

(ニ) 午後九時四〇分から午後一一時三〇分の間、軽井沢町の公共施設一一か所の外周を巡回する。

(ホ) 午前七時三〇分から午前八時一五分までに本社に帰る。

(ヘ) 実作業時間(往復時間を含む。)は合計約六時間である。

<4> 休憩、仮眠及び緊急時の対応は第一方面隊と同様である。

(5) 星野温泉

<1> 軽井沢町公共建物の外部の巡回及び星野温泉常駐警備である。

<2> 待機所は、星野温泉内であって、ベッド一台、テレビ一台、湯茶設備一式が備えられている。

<3> 勤務内容は以下のとおりである。

(イ) 午後五時三〇分までに被告本社に出社し、担当方面別契約先の鍵の有無を点検し、午後六時ころまでに出発する。

(ロ) 午後六時三〇分から午後九時まで軽井沢町公共施設一八か所の外周を巡回する。

(ハ) 午後九時三〇分から星野温泉の常駐警備の任務に就く。

(ニ) 午後九時四〇分から午後一一時ころまでの間、第一回目の巡回をする。

(ホ) 午前一時前後に三〇分間から四〇分間、第二回目の巡回をする。

(ヘ) 午前五時三〇分から午前六時までの三〇分間、第三回目の巡回をする。

(ト) 午前七時から午前七時三〇分まで日誌を書く。

(チ) 実作業時間(往復時間を含む。)は合計約六時間である。

<4> 休憩、仮眠は第一方面と(ママ)同様である。ここでは、緊急時の対応はなく、星野温泉常駐警備員が一名一緒に勤務しているので、電話さえも受ける必要がなく、実作業時間以外は完全に労働から解放されている。

(6) 双信電機佐久工場

<1> 双信電機の常駐警備である。

<2> 待機所は、工場とは別棟の警備員室である。ベッド一台、テレビ一台、湯茶設備一式が備えられている。

<3> 勤務内容は以下のとおりである。

(イ) 午後五時までに双信電機に出社し、工場とは別棟となっている警備員室に待機し、電話の受付及び休憩をする。

(ロ) 午後九時ころから約三〇分間、第一回目の巡回をする。

(ハ) 午前一時から約三〇分間、第二回目の巡回をする。

(ニ) 午前五時三〇分から午前六時までの三〇分間、第三回目の巡回をする。

(ホ) 午前八時三〇分終業する。

(ヘ) 実作業時間(往復時間を含む。)は合計約六時間である。

<4> 休憩、仮眠は待機所を除いて第一方面と(ママ)同様である。ここでは、休憩、仮眠に場所的な限定があるが、緊急時の対応はなく、定時の巡回を除き、深夜にわたる作業はない。双信電機の交替勤務の従業員が勤務しているので、同従業員の応援が得られ、巡回時間以外は休憩、仮眠を十分に取ることができ、労働から完全に解放されている。

(7) 佐久合同庁舎

<1> 佐久合同庁舎の常駐警備である。

<2> 待機所は、警備員休憩室である。布団、湯茶設備一式が備えられている。

<3> 勤務内容は以下のとおりである。

(イ) 午後五時までに佐久合同庁舎に出社し、警備員室に待機し、午後五時から午後一一時まで電話受付及び電話交換業務を行う。

(ロ) 午前七時から約三〇分間、庁舎内五か所の湯沸器のスイッチを入れる。

(ハ) 午前七時三〇分から午前八時三〇分まで受付及び電話交換業務を行う。

(ニ) 実作業時間(往復時間を含む。)は合計約六時間である。

<4> 休憩、仮眠は、待機所を除いて、第一方面と(ママ)同様である。佐久合同庁舎警備員休憩室には、第四方面隊の警備員と佐久合同庁舎常駐警備員の二人が毎晩勤務しているので、庁舎内の巡回又は緊急時の対応は第四方面隊がする。

<5> 佐久合同庁舎の常駐警備勤務者は、長野地方気象台から注意報等を受信することがあるが、その殆どが午後五時から午前零時及び午前五時から午前八時三〇分の間であり、深夜の休憩、仮眠時間に受信することは殆どなかった。すなわち、平成三年一〇月一日から平成四年六月三〇日までの九か月間で午前〇時から午前五時までの時間帯で注意報等を受信した記載があるのは、平成三年一〇月七日午前四時三〇分、同年一二月七日午前三時五〇分、平成四年二月一日午前一時二〇分、同年五月一九日午前四時一〇分、同月二四日午前一時五〇分、同年六月一一日午前四時三〇分などである。

<6> 佐久合同庁舎勤務は、実作業時間以外の時間は、場所的な限定はあるが、勤務者の自由利用に委ねられていた。

<7> 原告らで組織していた労働組合は、平成四年六月一一日午後八時から及び同月一八日午後一〇時三〇分ころから、佐久合同庁舎警備員休憩室において、それぞれ組合会議を開催した。

<8> 佐久合同庁舎では、ファックスが受信されると、警備員受付右上方二メートルの壁面に設置されたブザーが大音量で鳴動し、表示灯が点灯するようになっており、熟睡していても目が覚め、作業に取りかかれるように配慮されており、安心して仮眠を取ることができるようになっていた。

<9> 佐久合同庁舎常駐勤務警備者は、少なくとも午前零時から午前五時までの間は、自由に休憩、仮眠をとることができた。

(8) 巡回

<1> 巡回勤務のみで、JA佐久市紅雲台支所、平根支所、浅間病院、マミヤ、パチンコレインボー、中島木材、黒沢病院が巡回先である。

<2> 待機所は、被告本社仮眠室(六畳間)、被告佐久営業所仮眠室又は警備員の自宅であり、仮眠室等にはベッド又は布団、テレビ一台、湯茶設備一式が備えられている。

<3> 勤務内容は以下のとおりである。

(イ) 午後五時三〇分までに被告本社に出社し、担当方面別契約先の鍵の有無を点検し、午後八時ころまで本社で待機する。

(ロ) 午後八時三〇分ころ被告本社を出発し、JA佐久市紅雲台支所の内外を約五分間巡回し、約一〇分間の移動時間の後、平根支所の内外部を約一〇分間巡回する。

(ハ) 午後九時から午後一〇時の間、浅間病院の内外を巡回する。

(ニ) 午後一〇時ころから約五〇分間、マミヤの内外を巡回する。

(ホ) 午後一一時から約三〇分間、浅間病院の内外を巡回する。

(ヘ) 午前一時から約三〇分間、浅間病院の内外を巡回する。

(ト) 午前一時三〇分から午前二時三〇分の間にパチンコレインボー、中島木材、黒沢病院を巡回する。

(チ) 実作業時間(往復時間を含む。)は合計約六時間である。

(リ) 休憩、仮眠は第一方面隊と同同(ママ)様である。巡回勤務では、緊急時の対応はなく、休憩、仮眠時間は完全に自由に利用でき、場所的にも拘束はない。

(二) 被告における警備勤務の拘束時間は一五時間であるが、原告らの実作業時間は、約二時間から約六時間であり、拘束時間の大部分は休憩室での休憩、仮眠時間である。また、警備機器は常には(ママ)作動しているものではなく、警備機器が作動してその異常信号を管制室が受けたときのみ、管制室は、原告らにポケットベル、無線等で作業の指示をしていたものであり、使用者の指揮命令の及ぶ程度は極めて低い。外部から連絡が入りうることから直ちに使用者の指揮監督下にあるものということはできない。原告らは、警報器吹鳴、呼出等がない限り実作業から完全に解放され、休憩、仮眠時間を自由に利用していた。仮眠時間中は、電話、無線、ポケットベルによる呼出しの可能性はあるものの、実際にはほとんどなかったのであるから、現実の労務の提供はない。

(三) 被告は、原告ら警備員の便宜のために、休憩、仮眠施設を用意していたが、双信電機勤務及び佐久合同庁舎常駐勤務を除き、休憩、仮眠場所等の指定はなく、仮眠施設での休憩、仮眠を義務づけたことはなく、場所的制限の程度は極めて弱いものであった。

(四) このように、被告における警備勤務は、通常の日勤労働に比べて労働密度は極めて低く、近代的な大規模ビルにおける施設・設備管理と異なり、精神的、身体的な緊張を要求されない上、仮眠、休憩等の自由に利用しうる不活動時間が多く、高齢者でも就労可能な程度の労働密度の職務内容である。ちなみに、原告土屋は、田七反、畑八反を耕作しているが、これは、警備勤務の労働密度が極めて低く、精神的緊張を要求されないことから可能なのである。

(五) 前記のとおり、原告らで組織していた労働組合は、合同庁舎警備員休憩室において、それぞれ組合会議を開催しているが、組合会議のために集合することはいかなる意味でも原告らが被告の指揮監督下にあること又は労務提供中であることとは両立しえない。原告らが休憩中はもちろん、仮眠中であっても、完全に労働から解放され、自由に行動できたことを示すものであり、被告における休憩、仮眠時間の指揮監督の程度、場所的拘束の程度は無いに等しいほどの極めて低いものであった。

(六) したがって、被告における休憩、仮眠時間は労働時間ではなく、賃金支払の対象となるべき時間ではない。

五  争点2に対する双方の主張

1  原告ら

(一) 原告らと被告間で、拘束時間中の仮眠、休憩時間について、時間外手当、深夜手当を支給しないとする合意はなされていない。

(二) 平成四年四月二〇日以前に支給されていた諸手当及び同月二一日以降に支給された諸手当(拘束時間外の勤務に対する手当を除く。)は時間外手当、深夜手当には関係がない。すなわち、

(1) 現金書類輸送手当は、一五時間の通常勤務を終えてからする業務に対して支払われていたものである。

(2) 双信電機警備勤務手当、宇宙科学研究所勤務手当は、他の職場と異なり、拘束時間が通常で一五時間三〇分になる現場であることが考慮されて支払われていた特別手当である。

(3) 交通誘導手当は一五時間の勤務外の昼間の特別な業務に対する手当であり、原告らはこの業務に従事したことはない。

(4) マミヤ機器操作手当は、警備員がマミヤの機器を社員に代わって操作することがあり、この特別な業務に従事することに対する特別手当である。

(5) 星野常駐手当は、星野温泉以外に一八か所余りの巡回警備があり、他の警備以上に仕事が厳しいことを考慮して支払われていた特別手当である。

(6) 佐久合同庁舎巡回手当は、早期に各階を巡回し、各階の湯沸器の操作など本来の警備業務以外の業務をすることに対する特別手当である。

(7) 常駐(ママ)勤務者夜勤手当は、日頃は昼間の勤務に従事している従業員が夜勤についた場合に支払われる特別手当である。

(8) 皆勤手当、精勤手当は残業とは関係がない。

(三) 残業手当、深夜手当の支給に関する労働基準法の規定は強行規定であり、労働契約により変更することはできない。

(四) 被告の主張は、平成一〇年八月二〇日の第三一回口頭弁論期日においてなされたもので、故意、少なくとも重大な過失により訴訟を遅延させるもので、時機に遅れた防禦方法であり、却下されるべきである。

2  被告

(一) 拘束時間中の仮眠、休憩時間について、星野常駐手当等の諸手当を支給し、時間外手当、深夜手当を支給しないとすることが原告らと被告間の労働契約となっていた。平成四年四月二一日以降は、拘束時間中の仮眠、休憩時間については時間外手当、深夜手当の支給はしないこととし、拘束時間を超える残業、深夜労働について、新設された残業手当を支給することが労働契約の内容となっていた。

(二) 被告は、実働時間以外の仮眠、休憩時間について、残業の実態が把握できないことから、時間外手当、深夜手当を支給しないこととし、従前は、これらの手当に代え、原告らに現金書類輸送の業務に対する手当、双信電機警備勤務手当、宇宙科学研究所勤務手当、交通誘導手当、マミヤ機械(ママ)操作手当、星野常駐手当、佐久合同庁舎巡回手当、常昼勤務者夜勤手当、常駐勤務者皆勤手当、常駐勤務者精勤手当、その他の特別手当を支払っていた。

(三) しかしながら、平成四年四月二日、原告らで組織する労働組合との団体交渉において、原告らから、右諸手当のうち、星野常駐手当、双信電機警備手当、佐久合同庁舎巡回手当、現金書類輸送手当についてはこれを廃止し、残業手当として支給されたい旨の要求があった。原告らは、被告におけるこれらの諸手当が時間外手当等に代わる手当として労働契約の内容になっていたことを前提に、この改正を要求してきたのである。

(四) 被告は、平成四年四月二一日以降、これらの手当に代えて、現金書類輸送残業手当、星野常駐隊残業手当、合同庁舎勤務者残業手当、管制室勤務早出残業手当を新設して支給している。被告は、これらの手当は、拘束時間外の労働に対する手当であって、残業時間の把握が困難でないところから、原告らの要求に基づき、残業手当として労働契約の内容を変更したのであって、拘束時間中の休憩時間、仮眠時間における作業等については、残業として明確に把握することが困難であり、従来どおり、残業手当に代わるものとして諸手当を支給している。

(五) 被告の主張は、時期(ママ)に遅れた防禦方法ではない。すなわち、被告が原告らに残業に代わるべき手当を支給してきたことは、既に被告代表者が平成七年一〇月九日の第一四回口頭弁論期日において供述しているところ、右は新たに明らかにしようとする事実ではないから、新たな証拠調べの必要もなく、予備的仮定的抗弁としての右主張により訴訟の完結を遅延させることはない。

六  争点3に対する双方の主張

1  原告ら

(一) 月給者の割増賃金の基礎となる基準賃金は、基本給のほか、職能給、物価手当(夜勤手当)、安全手当、食事手当、常駐手当が含まれる。

(二) 原告らの基準賃金は別紙一覧表1ないし6の各「割増賃金の基礎となる基準賃金月額または日額」欄記載のとおりである(原告井出正義(以下「井出」という。)の別紙一覧表6のうち平成三年一一月分ないし平成四年三月分までは日額で、その余は月額であり、その余の原告についてはいずれも月額である。)。

(三) 割増賃金の基礎となる一時間当たりの賃金の計算は、以下のとおりである。

(1) 労働基準法三七条一項、同法施行規則一九条は、通常の労働時間、通常の労働日の賃金計算を規定している。

(2) 日給については、その金額を一日の所定労働時間で除した金額(同施行規則一九条二項)であり、被告の場合、労働基準法三二条二項が規定する法定限度(最長)の一日八時間で除した金額である。

(3) 月給については、同規則一九条四項が適用される。したがって、基準賃金について、一月の所定労働時間数で除した金額である。月によって労働時間が異なる場合は、一年間における一月平均の所定労働時間数で除した金額である。本件については、労働基準法が規定する最長の労働時間である週四六時間を基準に計算することになる。

(4) また、被告の賃金は、各年四月に改訂されている。したがって、ここにいう一年間とは、各年三月二一日から翌年三月二〇日の間をいう。したがって、通常は三六五日、閏年の前年は三六六日が基準となる。

(5) 月平均の労働時間数は次の計算式となる。

<1> 平年(平成二年、四年、五年度)

365÷12÷7×46

<2> 閏年(平成三年度)

366÷12÷7×46

(6) そうすると、被告の場合、平成二年度、平成四年度、平成五年度の一月平均の所定労働時間は一九九・八八時間であり、平成三年度は二〇〇・四三時間である(小数点第三位で四捨五入)。なお、円未満は切捨ることとする。

(7) 以上の計算方法により割増賃金の基礎となる一時間当たりの賃金を計算することができる。

(四) 前記計算方法によると、原告らの一時間の賃金は、別紙一覧表1ないし6の各「一時間の賃金」欄記載のとおりである。

(五) 原告らの一月の労働日数は、前記のとおり、別紙一覧表1ないし6の各「一月の労働日数」欄記載のとおりであるから、一か月の時間外労働総時間及び一月の深夜労働総時間は、それぞれ同一覧表1ないし6の各「一月の時間外労働総時間」欄及び各「一月の深夜労働総時間」欄記載のとおりである。

(六) そこで、一月の時間外手当総額及び一月の深夜手当総額を、割増賃金を二割五分として計算すると、それぞれ別紙一覧表1ないし6の各「一月の時間外手当総額」及び各「一月の深夜手当総額」欄記載のとおりであり、その合計額は同一覧表1ないし6の各「合計額欄」記載のとおりである。

2  被告

(一) 割増賃金の基礎となる基準賃金は、通常の労働時間又は労働日の賃金であり、基本給のほか、職能手当、物価(昼間勤務者)・夜勤(夜間勤務者)手当及び技術手当であり、安全手当、常駐手当、食事手当は、以下の趣旨で設けられたもので、割増賃金算定の基礎となる賃金に算入されない。

(1) 安全手当

運転の巧拙、注意力等の個人的な事情による交通事故を防止するために設けたものであり、労務提供とは関連がなく、割増賃金算定の基礎となる賃金に算入すべき通常の労働時間、労働日の賃金ではない。

(2) 常駐手当

勤務場所により、法定労働時間を超える拘束時間中の作業もありうること、勤務場所が本社から離れていること及び一人勤務という勤務の性質上残業時間の把握が困難であることから設けたものであって、拘束時間中に発生することのありうる残業手当に相当するものであり、割増賃金の基礎となる賃金に算入すべき通常の労働日の賃金ではない。

(3) 食事手当

警備勤務者は、作業時間以外の休憩、仮眠時間に飲食店で外食し、又は弁当を持参するなどして、各自の都合に応じて自由に食事をとっていた。被告においては、警備勤務者によっては、拘束時間中に夜食を取る者もいることから、即席ラーメンを常備して自由に利用することができるようにする外、夜食補助として食事手当を支給していたのであって、労務の提供とは関係のない個人的事情に基づいて支給される手当であり、割増賃金の基礎となる賃金に算入すべき通常の労働時間、労働日の賃金ではない。

(二) 被告においては、就業規則一〇条(2)で拘束時間一五時間、実労働時間七時間三〇分、休憩時間二時間三〇分、仮眠時間五時間と定めており、一日の所定労働時間は七時間三〇分とし、一日の所定労働時間七時間三〇分に一か月の労働日二五日を乗じて一月の所定労働時間を算出し、前記基本給、職能手当、夜勤手当及び技術手当の合計金額を割増賃金計算の基礎となる賃金月額とし、これを一か月の所定労働時間数で除し、一時間当たりの金額を算出し、これを割増賃金算定の基礎としている。被告は、通常、拘束時間を超える労務提供があった場合に、以上の方法により割増賃金を計算し、この全額を支払ってきた。

七  争点4に対する双方の主張

1  原告ら

(一) 原告らは、原告らの労働組合が結成された平成四年三月一日をもって、佐久地区労働組合評議会の指導を受け、原告らの本件請求について初めて自ら権利を認識することができたのであるから、時効の起算点は右同日をもってすべきである。

(二) 前記のとおり、原告らは、被告に対し、平成五年六月四日到達の書面により、平成二年四月分以降の時間外手当及び深夜手当を支払うよう請求したところ、右書面では、従業員の氏名を明示し、これらの者に対して平成二年四月分以降の時間外手当、深夜手当を計算して支払うことを請求しているもので、催告としての効力がある。

(三) 仮に時効中断の効力がないとしても、被告の時効援用は権利の濫用である。すなわち、

(1) 原告らは、残業手当の支給を受けず、一五時間勤務を強いられている労働実態に疑問を感じ、平成四年三月労働組合を結成し、そのころから、労働組合を通じて、被告に対し、残業手当を支払うよう再三申し入れ、労働組合はこれを団体交渉の議題として繰り返し提案し続けたが、被告は残業手当の支払を拒否した。

(2) また、労働組合は、前記のとおり、平成四年九月一四日、労働委員会に対し、労使紛争の解決の斡旋の申立をしたが、斡旋を求めた事項の一つに残業手当支給問題が含まれており、労働委員会の斡旋手続において解決すべき労使紛争の一つとして取り上げ、権利主張をしてきたが、被告はこれをかたくなに拒否してきた。

(3) 労働組合は、労働委員会の斡旋の直前に残業手当問題に関する斡旋の申立を取り下げているが、それは、労働委員会において、労働組合がこの件について既に小諸労働基準監督署に申告をしている経緯を了知し、専門行政機関である小諸労働基準監督署の結論が出されていない段階で斡旋を行うことは、小諸労働基準監督署の専門機関性を無視することになるため、労働組合に対して取下げを勧告したことによるものであり、原告らの支払請求を放棄したものではなく、残業手当問題は依然解決していなかった。

(4) 労働委員会の斡旋は四回にわたって行われたが、合意に至らず、平成九年一二月一日打ち切られたところ、その際、労働委員会は、労使双方に対し、労使間の残業手当未払問題等について、今後積極的に団体交渉を行い、誠意をもって解決を図ることを要請したが、被告は、右要請に応えず、その後も残業手当の支給をかたくなに拒否した。

(5) 被告が、労使間の話合いによる自主的解決を拒否し続けたため、原告らは、警備勤務表、給料明細書、昇給内訳などの資料を自ら収集せざるをえず、半年以上かけて資料収集に努力したが、右の各資料も裁判所に提出した文書しか収集できず、就業規則は、賃金規則の一部改定部分しか入手することができなかった。

(6) 原告らが収集した右資料は不完全なものであり、原告らが直ちに残業手当を計算するに足りるものではなかった。すなわち、原告らが収集した警備勤務表は予定勤務表であり、実際の勤務は変更されることがあり、また、被告が保管すべき原告らの賃金台帳、タイムカード、被告が本件裁判になってから提出した警備勤務表、就業規則、賃金規則がなければ、正確な残業手当の計算は不可能であった。

(7) そこで原告らは、原告ら代理人を依頼し、前記のとおり、平成五年六月四日、被告に対し、賃金台帳、タイムカード、勤務表に基づき平成二年四月分以降の原告らの時間外手当及び深夜手当を計算の上支払うよう催告した。

(8) しかし、被告がなおこれを無視したので、原告らは、自ら収集した前記の不完全な資料に基づき、未払の残業手当等を計算し、平成五年一〇月一日本件訴えを提起するに至った。

(9) これに対し、被告は、自主解決の姿勢を見せず、前記の地方労働委員会の強い要望さえ無視し、更に、原告らが残業手当を計算するに必要な資料を原告らに交付せず、裁判が提起されてからでさえ、就業規則、賃金台帳、タイムカード、警備勤務表の開示を拒否し続けた上、証拠調べがほぼ終了したころ、乙号証の大半を提出し、訴訟が提起されてから約二年四か月後に時効の主張をした。

(10) 原告らは、組合結成後、数回の団体交渉、労働委員会での斡旋手続、内容証明郵便での請求手続を行い、最終的に本件訴訟の提起に至ったものであり、必ずしも権利の上に眠っていたというものではない。また、労働組合結成後いきなり訴えを提起せず、右の各手続を履行したことは、労使対等の原則に基づく労使間の自主的な紛争解決を期待する憲法、労働組合法の基本理念に合致するものである。

(11) 賃金債権は二年の短期消滅時効にかかるところ、被告自らは裁判提起後二年以上してから時効の主張をしながら、賃金について二年の時効消滅を主張することは信義に反する。

(四) 被告の時効援用は、故意、少なくとも重大な過失により訴訟を遅延させるもので、時機に遅れた防禦方法であり、却下されるべきである。すなわち、

(1) 原告らは、平成一〇(ママ)年一〇月一日、本件訴えを提起した。被告には、法律の専門家である弁護士二名が訴訟代理人となり、答弁書、準備書面を作成し、七回の弁論期日が開かれた。平成六年一一月一四日の第八回口頭弁論期日から証拠調べが行われた。被告は、原告らの訴え提起から二年四か月経過し、証拠調べがほぼ終了した平成八年二月一九日の第一六回口頭弁論期日に、前記のとおり時効の主張をした。

(2) 原告らは、訴訟の当初から、賃金台帳や警備勤務表、就業規則等被告の手持証拠の提出を求めた。しかし、被告はこれに応じず、手持証拠を開示せず、原告に立証させることにより、いたずらに訴訟を遅延させてきた。

(3) 被告が時効の主張をしたため、原告らは、時効の援用が権利濫用であるとの主張をせざるをえず、そのための証拠調が必要となり、訴訟が遅延した。

2  被告

(一) 仮に被告に賃金支払債務が存在するとしても、平成三年八月分(支払期同日(ママ)末日)以前の債務についてはいずれも支払期から二年が経過し、時効で消滅している。

(二) 原告らの前記第二の二14記載の請求は、原告らが存在すると主張する時間外手当、深夜手当支払請求権の発生日時、金額が特定されていないので、催告の効力を有しない。

(三) 債権の消滅時効は、債権を行使することについて法律上の障害がなくなったときから進行するものであり、原告らと被告間の労働契約において、賃金支払期は前記のとおり毎月末日の確定日払と定められていたから、原告らの賃金債権の消滅時効は、月々の賃金について、各支払期から進行し二年の消滅時効にかかる。

(四) 被告の消滅時効の援用は、権利濫用ではない。すなわち、

(1) 労働組合から残業手当に関する団体交渉の申入れはなかったし、労働組合の労働委員会に対する斡旋申立事項のうち残業手当の問題については、前記のとおり、平成四年九月二五日の第一回目の斡旋の直前に取り下げ、その後、同年一〇月五日の第二回目の斡旋、同年一一月二一日の第三回目の斡旋においても、原告らから残業手当の支払請求はなかった。

(2) 労働委員会における斡旋は、平成四年一二月一日の第四回の斡旋で不調となった。この間、原告らとの間で、平成四年一〇月一三日、同年一一月五日の二度にわたり、団体交渉が行われたが、残業手当の問題は交渉事項として議題にあげられていたが、原告らは、一言も触れず、全く取り上げようとはしなかった。斡旋申請と同じころに行われていた小諸労働基準監督署の調査の結果、被告会社に違法がなく、残業手当について支払請求権がないことが判明したため取り下げたものと考えられる。したがって、労働委員会に対する申立は、権利の行使とはいえない。

(3) 被告は、労働組合の主張である労働基準法四一条の許可がないことにつき、この許可の必要性の有無及び労働組合の要求である前記二時間を残業扱いすべきかについて、同監督署に確認したところ、被告の勤務実態からみて、残業的な手当は支払っているので、四一条の許可は必要なく、残業手当に未払分はない旨の指摘があった。

(4) 労働組合は、労働委員会に、平成四年九月一四日付けで、斡旋申請を行い、同地労(ママ)働委員会による斡旋が四回行われ、不調に終わったが、いずれの斡旋期日においても、残業手当問題が対象になったことはなかった。斡旋期日において、労働組合が、斡旋の申出を取り下げたため、斡旋の対象となったことはなく、平成四年一二月一日付け要請書(<証拠略>)に残業手当未払問題その他の未解決事項について、今後積極的に団体交渉を行い、誠意をもって解決を図ること、と明示されているにもかかわらず、原告らからの団体交渉の申入れはなく、かえって、原告らは、同月二五日、団体交渉を経ることなく、突如被告、被告代表者を誹謗中傷する違法、不当なステッカー張り行動に及んでいるのであって、原告らは、団体交渉による解決、労働委員会の斡旋による解決のいずれも自ら放棄したものである。

(五) 被告の時効援用は時機に遅れた防禦方法ではない。

(1) 賃金請求の請求原因事実は原告らがすべてこれを主張立証すべきものであり、被告が原告らのために証拠を提出すべき義務を負うものではない。被告は、原告らの主張事実を否認し、これを中心に防禦を行い、被告の主張を立証するために必要な時機に必要な限度で書証を提出してきた。そして、予備的に消滅時効の援用を抗弁として主張したにすぎず、時効援用によって訴訟が遅延していない。

(2) 被告の消滅時効の援用は、主張自体から直ちに法律的判断が可能であって、いささかも訴訟の完結を遅延させるものではない。原告らは、被告の消滅時効の援用について、権利濫用の主張を余儀なくされ、新たな証拠調を必要とする旨主張し、権利濫用の理由として、被告が原告らの超過勤務手当の支払要求を何らの合理的理由を示さずこれを無視した等と主張するが、原告らの右主張は事実に反する。被告は、原告らの団体交渉の要求に応じて、誠実に交渉を続けてきたのであり、原告らの超過勤務手当の支払要求については、これを支給する合理的理由がないため団体交渉において労使の合意に至らなかったに過ぎない。

(3) 被告は、事業所に就業規則を備え付けて周知徹底をはかり、原告らはいつでも自由に閲覧できる状態にあった。また、被告は、原告らに対し、勤務場所については警備勤務表により、勤務時間、給料支払の明細については給料明細書により明示している。これらは既に証拠調べ済みの証拠によって明らかであって、原告らが主張するような新たな証拠調は不必要である。

第三争点に対する判断

一  争点1について

1  労働基準法にいう労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下にある時間(いわゆる拘束時間)のうち休憩時間(同法三二条)を除いた時間、すなわち、実作業(労働)時間をさすものであるところ、ここにいう休憩時間は、就業規則等で休憩時間とされている時間を指すのではなく、現実に労働者が自由に利用することが保障された時間を指すものというべきである(同法三四条三項)。すなわち、現実に労務を提供している時間だけではなく、使用者の指揮命令下にあり、現実に労務に従事していなくても、作業遂行上の都合で待機しているいわゆる手待時間であれば、たとえこれが就業規則等で休憩、仮眠時間とされているものであっても、なお労働時間に当たり、賃金支給の対象となるべきものである。

2  本件は、原告らと被告間の労働契約に基づく時間外手当、深夜手当の支払請求であるところ、被告の就業規則に基づく賃金規定二六条には、早出残業手当(時間外手当)は、就業規則一〇条に定めた所定労働時間を超えて勤務をさせたときに、その超過勤務に対して支給するとされ、また、深夜業手当(深夜手当)は、就業規則一〇条に定めた所定労働時間を超えて勤務をさせたとき又は就業規則一六条に定めた休日に勤務させたとき、その勤務が深夜(午後一〇時ないし午前五時)に及んだ場合に、その深夜勤務に対して支給するとされ、右賃金規定にいう所定労働時間とは、就業規則によれば、常夜勤務者については拘束一五時間(実働は平成四年四月二〇日改訂前は一一時間、右改定後原告ら勤務中は七時間四〇分とされているが、従前から拘束時間一五時間のうち実働時間を七時間三〇分として運用され、これを基に時間外手当が計算されるべきものとされている。なお、右改訂にあたっては、原告らで組織する労働組合の構成員が職場の従業員の過半数に達しないことから労働組合の意見は聴取されず、小諸労働基準監督署への届出に際し、被告総務部所属従業員の意見書が添付されている。)とされている(<証拠・人証略>)。

3  前記のとおり、被告は、労働基準法四一条の許可を受けていない上、被告の賃金規定は、手待時間を賃金支払の対象から除外することを規定しているものと解すべきではないから、前記時間外労働、深夜労働に対する手当に関する右賃金規定が、右各手当の対象を拘束一五時間を超える時間外労働に限定し、拘束一五時間のうちの休憩、仮眠時間について、それらが手待時間の実質を備えていても、およそ時間外手当、深夜手当の対象としないものと解するのは相当でなく、労働基準法三七条の趣旨に則って合理的に解釈すれば、右賃金規定は、原告ら警備員の休憩、仮眠時間が手待時間すなわち労働時間としての実質を有するものと認められる限りは、時間外手当、深夜手当の対象とすべきものと解するのが相当である。

4  そこで、原告らの拘束時間一五時間のうち、実作業を伴わない休憩、仮眠時間が手待時間に相当し労働時間性を有するものであるかどうかについて以下検討する。

(一) 前記第二の二1ないし6、8、10、11の事実のほか、(証拠・人証略)及び弁論の全趣旨によると、原告ら警備員の被告における勤務、休憩、仮眠等の実情は次のとおりであることが認められる。

(1) 出勤から出動まで

<1> 午後五時三〇分までに出社してタイムカードに出社時刻を記録する。

<2> 制服に着替えて、担当方面別契約先の鍵の有無を確認し、上司から訓示を受ける。

(2) 第一方面隊

<1> 担当地域は小海町、南相木村、南牧村、川上村、野辺山、清里である。

<2> 待機所は、平成三年一一月ころ南牧村に設置された六畳間のプレハブの建物で、ベッド一台、テレビ一台、湯茶設備一式が備えられている。

<3> 勤務内容は以下のとおりである。

(イ) 午後五時四五分ころ出発する。

(ロ) 午後六時ころコスモタワー(臼田町)の内外を巡回し、戸締まりをする。

(ハ) その後、臼田町農協(臼田町)等の支所六、七か所を巡回する(平成四年四月ころまで)。

(ニ) その後、南牧村の待機所で待機するなどして過ごす(ママ)(平成三年一一月ころまでは駐車場の車中で待機するなどして過ごした。)後、小海中学校(小海町)の外周を一回巡回し、再び南牧村の待機所で待機するなどして過ごす(平成三年一一月ころまでは駐車場の車中で待機するなどして過ごした。)。

(ホ) 午前八時ころコスモタワーのシャッターを開け、本社に帰る。

<4> 実作業、待機のほかは、休憩、仮眠にあてることができたが、管制室に盗難、火災等の事故発生にかかる異常信号による緊急の連絡が入った場合は、管制室勤務の警備員は、ポケットベル、無線機、電話で、各方面隊の原告ら警備員に指示をし、原告らは、休憩、仮眠中であっても、管制室が異常信号を受信した後自動車等で二五分以内に現場に急行し、事実の確認その他の必要な措置を講じ、これを管制室に報告することが義務づけられていた。なお、原告らは、平成三年一一月ころまでは、車中で待機したり、休憩、仮眠を取っていたが、そのころ以降は待機所を利用することができるようになった。

(3) 第三方面隊

<1> 担当地域は、八千穂村、佐久町、臼田町、浅科村、望月町、和田村、小諸市、上田市である。

<2> 待機所は、本社仮眠室であり、ベッド二台、テレビ一台、湯茶設備一式が備えられている。

<3> 勤務内容は以下のとおりである。

(イ) 午後八時ころまで本社で待機する。

(ロ) 午後八時ころ、本社を出発し、中島木材(佐久市)、塩川ベーカリーの外周、川村精機第一工場・第二工場(臼田町)、青木木材(臼田町)、サンマルコ(臼田町)の外周、佐久市農協自動車センター(佐久市)、農協佐久東支所(佐久市)を巡回して点検する。

(ハ) 午後一一時三〇分ころ本社に帰り、朝まで過ごす。

<4> 休憩、仮眠及び緊急時の対応等については、待機所の点を除いて第一方面隊と同じである。

(4) 第四方面隊

<1> 担当地域は、佐久市、浅科村、望月町、小諸市、上田市である。

<2> 待機所は、防災センター(佐久市)、後に佐久合同庁舎(佐久市)の待機所であり、ベッド一台、テレビ一台、湯茶設備一式が備えられている。

<3> 勤務内容は以下のとおりである。

(イ) 午後五時四五分ころ佐久合同庁舎に出発する。

(ロ) 湯沸器のガスの元栓を止め、外周にポールを立て、鎖を張り、午後七時ころ、合同庁舎の内外を巡回し、午後八時まで合同庁舎で待機する。

(ハ) その後、中島木材の内外、JA佐久市本所(佐久市)、JA高瀬支所(佐久市)を巡回する。

(ニ) 午後一一時ころ合同庁舎を巡回する。

(ホ) 午前六時ころ合同庁舎からマミヤに行き、午前八時ころまでの間、機械の操作、点検をし、工場の鍵を開けて内外を巡回する。

(ヘ) 午前八時三〇分ころ本社に帰る。

<4> 休憩、仮眠及び緊急時の対応等については、待機所の点を除いて第一方面隊と同じである。佐久合同庁舎常駐勤務者と同じ待機所で待機するなどして過ごすようになっても、互いに勤務を交替することはなかった。

(5) 第五方面隊

<1> 担当地域は、御代田町、軽井沢町である。

<2> 待機所は、平成四年春ころ設置された軽井沢三井の森管理事務所(軽井沢町)の休憩室である。ベッド一台、テレビ一台、湯茶設備一式が備えられている。

<3> 勤務内容は以下のとおりである。

(イ) 午後五時四五分ころ本社を出発する。

(ロ) 午後七時ころに三井の森管理事務所に到着し、午後九時ころまでの間、待機し電話の受付をする。

(ハ) 午後九時ころ、一一時ころ、午前六時ころ、別荘三井の森の敷地内を自動車で巡回し、その間に、軽井沢町立の学校、資料館、図書館、老人ホーム、公民館などの公共施設一一か所の外周を巡回する。

(ニ) 午前零時ころ巡回を終える。

(ホ) 午前七時ころ、三井の森事務所のメモに記帳し、午前八時三〇分ころ本社に帰る。

(ヘ) 休憩、仮眠及び緊急時の対応等については、待機所の点を除いて第一方面隊と同じである。平成四年春ころまでは、午前五時三〇分ころまで車中で待機するなどして過ごしたが、平成四年春ころからは待機所を利用することができるようになった。

(6) 星野温泉

<1> 軽井沢町公共施設の外部巡回及び星野温泉(軽井沢町)常駐警備である。

<2> 待機所は、星野温泉内で、ベッド一台、湯茶設備一式が備えられている(平成四年四月ころ以降)。平成四年四月ころまでは、ホテル星野温泉の前にある「白い馬車」と呼ばれる建物が待機所とされたが、そこには仮眠施設はなく、原告らは、駐車場の車中等で待機するなどして過ごしていた。

<3> 勤務内容は以下のとおりである。

(イ) 午後七時ころから、軽井沢町営運動場、記念館、資料館、保育園、児童館等一九か所の施設の外周を巡回点検する。

(ロ) 午後九時三〇分ころ、星野温泉の常駐警備につき、午後一〇時ころ、午前一時ころ、午前五時三〇分ころそれぞれ本館を巡回し(平成四年以降)、このほかニュー星野を二回巡回する。

(ハ) 午前七時三〇分まで、星野温泉ホテル本館で待機するなどして過ごす(平成四年四月ころ以前は駐車場の車中等で待機するなどして過ごした。)。

(ニ) 午前八時三〇分ころ本社に帰る。

<4> 休憩、仮眠については、待機所の点を除いて第一方面隊と同じである。星野温泉においては、管制室から異常信号に基づく指示が入ることはないが、火災報知器が設置されており、これが作動すれば、原告ら警備員は対処することになっていた。なお、星野温泉においては、電話の応対や客の接待をするため夜勤従業員が一名勤務しているが、警備の勤務には従事していない。

(7) 双信電機佐久工場

<1> 双信電機(佐久市)の常駐警備である。

<2> 待機所は、工場と別棟になっている警備員室である。ベッド一台、テレビ一台、湯茶設備一式が備えられている。

<3> 勤務内容は以下のとおりである。

(イ) 午後五時までに双信電機に出社し、警備員室で待機し、電話の受付をする。

(ロ) 午後九時ころ、午前一時ころ、午前五時三〇分ころ、それぞれ約三〇分間巡回する。

(ハ) 定時の巡回のほか、双信電機の社員の出退社の確認業務がある。

(ニ) 早朝に電話の受付を行い、午前八時三〇分ころ終業する。

<4> 休憩、仮眠及び緊急時の対応等については、待機所の点を除いて第一方面隊と同じである。なお、双信電機では同社の交替勤務の従業員が勤務しているが、警備の勤務に従事してはおらず、応援は得ていない。

(8) 佐久合同庁舎

<1> 佐久合同庁舎の常駐警備である。

<2> 待機所は、警備員休憩室である。布団、湯茶設備一式が備えられている。

<3> 勤務内容は以下のとおりである。

(イ) 午後五時までに佐久合同庁舎に出社し、警備員室に待機し、午後五時ころから午後一一時ころまで電話の受付と電話交換業務を行う。

(ロ) 午前七時ころから三〇分位、庁舎内五か所の湯沸器のスイッチを入れる。

(ハ) 午前七時三〇分ころから午前八時三〇分ころまで、受付及び電話交換業務を行う。

(ニ) 長野地方気象台とファックスが接続されており、常駐勤務者は、気象台から注意報等の気象情報を受信した場合、地方事務所や建設事務所の当番の自宅に連絡することが業務とされていた。

<4> 休憩、仮眠については、待機所の点を除いて第一方面隊と同じである。合同庁舎においては、原告ら警備員は、管制室からの異常信号に基づく指示は受けない。第四方面隊の警備員は、合同庁舎常駐勤務者の応援をしない。

(9) 巡回

<1> 巡回勤務が中心で、JA佐久市紅雲台支所、平根支所、浅間病院、マミヤ、パチンコ「レインボー」、中島木材、黒沢病院が巡回先である。

<2> 待機所は、防災センター(佐久市)であり、ベッド、テレビ一台、湯茶設備一式が備えられている。

<3> 勤務内容は以下のとおりである。

(イ) 防災センターで午後六時ころまで待機する。

(ロ) その後、JA佐久市紅雲台支所(佐久市)、JA平根支所(佐久市)、浅間病院(佐久市)の全室及び各階ナースステーションなど六か所の点検、マミヤ(佐久市)の点検をする。

(ハ) 午後一一時ころ浅間病院を点検し、駐車場で待機する(約一時間)。

(ニ) 午前零時ころ、三度目の浅間病院の点検をする。

(ホ) 中島木材の事務所内、パチンコ「レインボー」(佐久市)の外周、黒沢病院(佐久市)の外周を点検する。

(ヘ) 午前二時ころ、防災センターに帰り待機する。

(ト) 午前六時ころ、大進建設株式会社(佐久市)の鍵を開ける。

(チ) 防災センターで午前八時ころまで待機するなどして過ごす。

(リ) 午前八時三〇分ころ本社に帰る。

<4> 休憩、仮眠及び緊急時の対応等については、待機所の点を除いて第一方面隊と同じである。

(10) 原告宮沢は、管制室においても勤務しているが、管制室勤務は、午後五時三〇分から翌日午前八時三〇分までの勤務で、一人で担当し、常時警備服を着用し、休憩、仮眠中であっても、契約先からの異常信号を受信した場合は、直ちに各方面隊の警備員に作業の指示をするとともに、受信時間、指示を受けた警備員からの報告等の必要事項を日誌に記載するなどしていた。

(11) 原告ら警備員の勤務は、被告の就業規則(昭和五四年六月一二日小諸労働基準監督署への届出)によれば、始業時刻午後五時、終業時刻翌日午前五(ママ)時、拘束時間一五時間、実働時間一一時間、勤務時間中午後一〇時から翌日午前五時までの間に適宜四時間の仮眠時間を与える、休憩時間については、労働基準法四一条の許可を得てあるので特に定めた休憩時間を与えず、適宜休憩するものとするとされ、その後改訂された就業規則(平成四年四月二〇日小諸労働基準監督署への届出)によれば、始業時刻午後五時三〇分、終業時刻翌日午前五(ママ)時三〇分、拘束時間一五時間、実働時間七時間四〇分、休憩時間二時間二〇分、仮眠時間五時間とされ、一時間毎に実働、仮眠を繰り返すなどの態様で休憩、仮眠時間が特定されている(なお、原告らが退職した後である平成五年一一月一八日小諸労働基準監督署への届出による終(ママ)業規則では、右改定後の就業規則中実働時間七時間四〇分が七時間三〇分に、休憩時間二時間二〇分が二時間三〇分にそれぞれ改訂されている。)ところ、勤務の実際では、従前から始業時刻午後五時三〇分、終業時刻翌日午前五(ママ)時三〇分、拘束時間一五時間、実働時間七時間三〇分とされ、勤務内容は前記(1)ないし(10)のとおりであり、休憩、仮眠時間は具体的に特定されていなかった。

(12) 原告ら警備員の業務は、一人勤務の態勢で行われ、交替要員はなく、原告らがそれぞれ一人で行っていた。第三方面隊勤務の警備員と本社管制室勤務の警備員は、本社で同じころ待機するが、互いに交代(ママ)要員となってはいなかった。佐久合同庁舎常駐勤務者と第四方面隊勤務者においても、互いに勤務を交替することはなかった。

(13) 原告らは、被告の業務として、前記設備の警備やマミヤなどにおける機械の操作のほか野辺山学園においてボイラーを運転し、ドライブイン松原湖、同高根農協、碓氷バイパス料金所手前、白糸の滝などに設置してある自動販売機から異常信号が発せられたときは、被告本社管制室からの連絡により出動するなどしていた。

(14) 原告らが管制室から異常信号に基づく指示を受けることは少なくなく、各方面隊によってその頻度は異なるが、午前零時ころから午前六時ころまでの間では、月二件程度ある方面隊もあれば、週二件程度ある方面隊もあった。原告らが勤務していたころの被告の契約先は約四〇〇社で、原告らが退社した後である平成七年当時に比べて若干少ないが、同年六月の一月間では、被告全体で合計二〇二件の異常信号の受信があり、その多くは午後五時から午後一〇時までの間と、午前五時から午前八時までの間であるが、午後一一時から翌日午前五時までの間で三一件、午前零時から午前五時までの間で二一件あった。異常信号の多くは機器の操作過誤等による誤った信号であるが、警備機器がセットされると、原告ら警備員は、巡回などの実作業に従事している時間のほか、待機中はもちろん、休憩、仮眠中でも、異常信号に基づく指示に対処しなければならなかった。もちろん、休憩、仮眠中に無線機やポケットベル等のスイッチを切るなどして管制室との連絡を遮断することは許されていなかった。

(15) 佐久合同庁舎、双信電機、星野温泉のほかは、休憩、仮眠場所は指定されていなかったが、原告らが勤務していたころ、待機所が設置された後は、待機所で待機するか否かは警備員の自由意思に委ねられていた。しかし、前記のとおり、被告本社管制室から原告ら警備員のポケットベル、無線機等に指示があった場合には、広範囲の警備担当地域であっても、二五分以内に現場に急行しなければならず、二五分以内に急行できる場所に待機しなければならず、病気等で許された場合を除いて自宅で待機するなどして過ごすことはなかった。

(16) 星野温泉においては、原告ら常駐勤務者は、被告本社管制室からの異常信号による出動はなかったものの、火災報知器が作動した場合は、休憩、仮眠時間であっても、直ちに対処しなければならなかった。

(17) 双信電機においては、原告ら常駐勤務者は、定時の巡回を除くと、被告本社管制室からの異常信号に基づく指示を受けることがあるほか、双信電機の従業員の出退社の確認業務があり、平成六年五月八日から平成八年一月二八日までの午前二時から午前五時までの間の社員の出退社の確認業務は、同年五月九日、同月一五日、六月二六日、七月一〇日、一二月三〇日、平成七年二月五日の六日間であった。

(18) 佐久合同庁舎において、原告ら常駐勤務者は、被告本社管制室からの異常信号による出動はなかったものの、前記のとおり、長野地方気象台から注意報等を受信し、伝達の業務を行っていたが、平成三年一〇月一日以降平成四年六月三〇日までの間の午後一一時以降翌日午前五時までに注意報等を受信したのは、平成三年一〇月七日午前四時三〇分、同年一二月七日午前三時五〇分、同月二五日午後一一時三〇分、同月二九日午前四時三〇分、平成四年二月一日午前一時二〇分、同月一〇日午前三時一〇分、同年五月一九日午前四時一〇分、同月二四日午前一時五〇分、同年六月一一日午前四時三〇分、同日二三時五〇分の合計一〇回であり、午前零時から午前五時までの間では合計八回であった。

(19) 原告ら警備員は、拘束時間中の食事の時間、場所の指定はなかった。有事に即応するため、飲酒は禁じられ、休憩、仮眠中も殆どの者が警備服を着用して過ごし(ただし仮眠中は上着又はズボンを脱ぐことはあった。)、待機所には入浴施設は設けられていなかった。

(二) 前記認定事実によると、原告らは、被告と警備委託先間の警備契約に基づいて、警備委託先に派遣され、その建物設備等を盗難、火災等の災害から守り、安全を確保するため、四夜連続一勤務一五時間ないし一五時間半の勤務で、かつ、深夜勤務を伴う勤務に従事しているものであり、このような勤務形態は原告ら警備員に相当程度の精神的、肉体的緊張を与えるものといわなければならず、原告らの労働密度が低いものであるとは到底いえず、また、原告らの一五時間の拘束時間中実作業時間を除く休憩、仮眠時間は、就業規則の規定にかかわらず、場所的拘束の度合が相当程度強い上、休憩、仮眠時間は特定されておらず、次に掲げるとおり、勤務先により、休憩、仮眠中に現実に発生する業務の内容、頻度等に差こそあれ、休憩、仮眠中に異常事態の発生等一定の業務遂行の必要性が生じることは皆無ではなく、休憩、仮眠中であっても、右業務遂行の必要性が生じた場合に即応できるよう待機するものとされ、右業務遂行の必要性が現実に生じた場合には直ちに対応して業務を遂行すべき職務上の義務が課されていたものというべきである。

(1) 佐久合同庁舎、星野温泉を除く各方面隊においては、待機所設置後は待機所が指定されており、待機所設置の前後を問わず、休憩、仮眠中であっても、異常信号による管制室からの指示があったときは、二五分以内に現場に急行し、現場で対処した上管制室に報告することが義務づけられており、原告らが勤務していたころの頻度は、前記(一)(14)の平成七年六月当時の頻度に近いものがあったと考えられる。

(2) 星野温泉においては、平成四年春以降、休憩、仮眠場所が指定されており、管制室からの異常信号による出動はなかったものの、温泉ホテルであることから、誤作動を含め、設置されている火災報知器が作動することが皆無といえず、火災報知器が作動すれば、休憩、仮眠中であっても直ちに対処することが義務づけられていた。

(3) 双信電機においては、休憩、仮眠場所が指定されており、休憩、仮眠時間であっても、管制室からの異常信号による指示に基づく前記のような作業のほか、深夜双信電機の従業員の出退社の確認業務があり、原告らが勤務していたころの右業務の頻度は、前記(一)(17)の頻度と同程度のものがあったとみられる。

(4) 佐久合同庁舎においては、休憩、仮眠場所が指定されており、管制室からの異常信号による出動はなかったものの、休憩、仮眠中であっても、長野地方気象台から注意報等を受信し、伝達する業務があり、その頻度は少なくなかった。

(5) 管制室における勤務が、休憩、仮眠中であっても、有事に備え常時待機の体制にあったことは前記のとおりである。

(三) したがって、原告ら警備員は、拘束一五時間のうち、実作業時間を除く休憩、仮眠時間についても、使用者である被告の指揮命令下におかれていたものと認めるべきものであるから、原告らの休憩、仮眠時間は労働時間に当たるものというべきである。

(四) なお、佐久合同庁舎において、原告倉根、原告鈴木、尾らが出席して、平成四年六月一一日午後八時ころから午後九時ころまでの間、また原告土屋及び尾らが出席して同月一八日午後一〇時三〇分ころからそれぞれ組合会議が開催されている(<証拠・人証略>。右認定に反する<人証略>は採用できない。)ところ、拘束時間内に右組合会議が開催された経緯については証拠上つまびらかでなく、その当否はおくとしても、前記認定の原告らの勤務の実情に照らすと、原告らが組合会議を開催したことによって、原告らの休憩、仮眠時間の労働時間性に関する前記の認定が左右されるものではない。

(五) また、原告土屋において、勤務の傍ら、田七反、畑八反を耕作していた(<証拠・人証略>)が、これだけの面積の農地は原告土屋のみの力では耕作できるものではなく(弁論の全趣旨)、前記認定の原告らの勤務の実情に照らすと、原告土屋が田畑を前記のとおり耕作していたことによって、原告らの休憩、仮眠時間の労働時間性に関する前記の認定が左右されるものではないことはいうまでもない。

二  争点2について

1  原告らは、残業手当、深夜手当の支給に関する労働基準法の規定は強行規定であり、労働契約によって変更することはできない旨主張するが、労働契約、労働協約において相当な範囲で変更することは許されるものと解されるから、右主張は採用できない。

2  被告代表者は、原告らに現金書類輸送の業務に対する手当、双信電機警備勤務手当、宇宙科学研究所勤務手当、交通誘導手当、マミヤ機器操作手当、星野常駐手当、佐久合同庁舎巡回手当、常昼勤務者夜勤手当、常駐勤務者皆勤手当、常駐勤務者精勤手当等の諸手当を支給していたが、これらは拘束時間内外の残業手当に代わるものであり、平成四年四月二〇日就業規則改定後も同様な扱いがなされている旨供述している。

3  なるほど、前記のとおり、被告は、平成四年四月二〇日勤務までの分については、勤務に応じて、原告らに対し、これらの諸手当を支給してきたが、これらの手当は残業、深夜手当の性格を有するものではなかった。すなわち、被告が平成四年四月二〇日以前に支給していた諸手当並びに平成四年四月二一日以降に支給された諸手当(拘束時間外の勤務に対する手当を除く。)は時間外勤務手当、深夜勤務手当とは関係がないものである。すなわち、(1)現金書類輸送手当は、一五時間の通常勤務を終えた後、午前九時三〇分ころから午前一一時ころまでの間に行う現金輸送の業務に対して支払われていたものであり、(2)双信電機警備勤務手当、宇宙科学研究所勤務手当は、他の職場と異なり、拘束時間が通常で一五時間三〇分になる現場であることが考慮されて支払われていた特別手当であり、(3)交通誘導手当は一五時間の勤務外の昼間の特別な業務に対する手当であり、原告らはこの業務に従事したことはなく、(4)マミヤ機器操作手当は、警備員がマミヤの機械を社員に代わって操作することがあり、この特別な業務に従事することに対する特別手当であり、(5)星野常駐手当は、星野温泉以外に十数か所の巡回警備があり、他の警備以上に仕事が厳しいことを考慮して支払われていた特別手当であり、(6)佐久合同庁舎巡回手当は、早期に各階を巡回し、各階の湯沸器の操作など本来の警備業務以外の業務をすることに対する特別手当であり、(7)常駐(ママ)勤務者夜勤手当は、日頃は昼間の勤務に従事している従業員が夜勤についた場合に支払われる特別手当であり(以上について、<証拠・人証略>)、(8)皆勤手当は、遅刻、早退、外出もなく皆勤した従業員に支給するもの、精勤手当は、有給休暇一日以内、遅刻、早退、外出が一回のみで二時間以内の従業員に支給するもの(<証拠略>)であって、その性格上残業と関係がないことは明らかである。

4  このように、被告においては、拘束時間内については、従前から、時間外手当、深夜手当に代わる手当を支給していなかったが、前記のとおり、被告の賃金規定中残業手当、深夜手当の支給に関する規定は、拘束時間内の休憩、仮眠時間についても適用されるべきものと解されるところ、原告らは、拘束時間内の休憩、仮眠時間について、何らの手当の支給を受けることがないことを不当とし、平成四年以降、残業手当を明確にするため、拘束時間外の諸手当を残業手当として支払うこと及び拘束時間内の休憩、仮眠時間について残業手当の支給をするよう求めていた(<証拠・人証略>)もので、原告らは、拘束時間内の休憩、仮眠時間について、時間外手当、深夜手当を支給せず、これに代えて諸手当を支払うこととすることを容認していたみ(ママ)ることはできず、更には、そのような合意がなされていたとみることはできない。

5  一五時間の拘束時間を超える残業に対する手当を残業手当として支給することとした平成四年四月二〇日就業規則改訂後は、原告らは、これにしたがい、警備勤務実績報告をしている(<証拠・人証略>)が、そのことで、原告らが、拘束時間内の休憩、仮眠時間の手当を支給しないことを了承したとすることができないことはいうまでもない。

6  このほか被告の主張を認めるに足りる証拠はない。

7  なお、被告は、平成一〇年八月二〇日の第三一回口頭弁論期日に至って、争点2に関する主張をしていることは訴訟上明らかであるが、被告代表者において、平成七年一〇月九日の第二(ママ)一四回口頭弁論期日において、被告は原告らに対し、残業手当に代わる手当を支給してきた旨供述していることは記録上明らかであって、これに関して新たな証拠調べの必要はなく、予備的抗弁としての右主張により訴訟の完結を遅延させることはないから、時期(ママ)に遅れた防禦方法として却下するのは相当でない。

三  争点3について

1  被告の就業規則及び賃金規定(平成四年四月二〇日改訂前のもの)二六条、四一条、二八条、四三条によれば、常夜勤務者である原告らの時間外手当及び深夜手当の計算基礎となる一時間あたりの賃金は、

(一) 月給者

基本給÷25÷11

(二) 日給者

基本給÷11

によって算出されるべきことになっているところ(<証拠略>)、前記のとおり、平成四年四月二〇日改訂後原告らの勤務期間中は就業規則の上では実働七時間四〇分とされている(<証拠略>)ものの、従前から拘束時間一五時間のうち実働時間を七時間三〇分として時間外手当が計算されるべきものとされている(基準賃金÷25÷7.5×1.25×残業時間)(<証拠・人証略>及び弁論の全趣旨)から、原告らの時間外手当及び深夜手当の計算基礎となる一時間あたりの賃金は、

(一) 月給者

基本給÷25÷7.5

=基本給÷187.5

(二) 日給者

基本給÷7.5

で計算されるべきところ、原告らの計算によれば、

(一) 月給者

(1) 平成二年度、四年度、五年度

基本給÷199.88

(2) 平成三年度

基本給÷200.43

(二) 日給者

基本給÷8

であるから、原告らの計算方法により算定することは相当である。

2  ところで、原告らの月給者の割増賃金算定の基礎となる基準賃金の範囲について、原告は、基本給のほか、職能給、物価手当(夜勤手当)、安全手当、食事手当及び常駐手当である旨主張し、他方で、被告は、基本給のほか、職能手当、物価手当(夜勤手当)及び技術手当である旨主張している。

3  被告の賃金規定は、時間外手当及び深夜手当について、基本給のみを基準とする旨の規定がある(被告賃金規定四一条、四三条)(<証拠略>)ところ、労働基準法三七条に照らし、右規定を合理的に解釈すれば、右規定にいう基本給は、基本給のほか諸手当をも含むものというべきであるが、その範囲については、強行規定である労働基準法の定める趣旨に則って定められるべきものと解する。

4  労働基準法三七条では、基準賃金は、家族手当、通勤手当のほか命令で定める手当を除外するものとされ、労働基準法施行規則二一条によれば、別居手当、子女教育手当、臨時に支払われた賃金、一か月を超える期間ごとに支払われる賃金は割増賃金の基礎となる賃金に算入しないものとされているところ、常夜勤務者の常駐手当、食事手当はいずれも概ね一律に支給され(<証拠略>)、賃金性が高く、また、安全手当については、それぞれ異なる金額が支給され、安全認識の高揚を目的とされているものである(<証拠略>)が、緊急時の出動を求められる原告ら警備員については、警備員としての能力評価に基づく手当であって賃金性が高いものであり、これらを除外すべき理由はないことなどを考慮すると、いずれも基準賃金に含まれるものと解するのが相当である。

5  そこで、原告らの勤務についての時間外手当、深夜手当を算定する。

(一) 基準賃金には、前記のとおり、基本給のほか、職能給、物価手当(夜勤手当)、安全手当、常駐手当、食事手当が含まれ、(証拠略)によれば、割増賃金算定の基礎となる原告らの月額ないし日額賃金については、別紙一覧表1ないし6の各「割増賃金の基礎となる基準賃金月額又は日額」欄記載のとおり(原告井出の平成三年一一月分ないし平成四年三月分まではいずれも日額、同原告の平成四年四月分以降及びその余の原告らについてはいずれも月額)であることが認められる。

(二) 以上によれば、拘束時間一五時間のうち法定労働時間である八時間を超える七時間について、前記原告らの計算方法により計算すると、原告らの割増賃金は別紙一覧表1ないし6の各「合計額」欄記載のとおりである。

四  争点4について

1  債権の消滅時効は、債権を行使することについて、法律上の障害がなくなったときから進行するものであるところ、原告らと被告間の労働契約において、賃金支払期は、前記のとおり、前月の二一日から当月の二〇日までの間の賃金について当月月末日の確定日払と定められていたから、原告らの賃金債権の消滅時効は、月々の賃金について、各支払期から進行し、二年の消滅時効にかかるものである。原告らは、労働組合が結成され、佐久地区労働組合評議会の指導を受けて初めて原告らの本件請求について自ら権利を認識することができたことを理由に、原告らで組織された労働組合結成の日である平成四年三月一日から起算すべきものである旨主張するが、右主張は採用できない。

2  平成三年六月分以降同年八月分までの賃金債権について、時効が中断されたか否かについて以下検討する。

(一) 前記のとおり、原告らは、被告に対し、平成五年六月四日到達の書面により、原告らの住所、氏名を明示した上で、賃金台帳、タイムカード、勤務表に基づいて、平成二年四月分以降の時間外及び深夜の割増賃金を計算して支払うよう請求したが、右請求においては、原告らの債権額及びその内訳は明示されていない。

(二) ところで、時間手当及び深夜手当は、賃金台帳、タイムカード、現実の勤務を記載した警備勤務表に基づいて、就業規則に基づく賃金規定に定められた複雑な計算方法により算定すべきものであるところ、これらの書類は被告において所持し、原告らは被告から交付された各月の給料明細書を所持しているに過ぎない(<証拠・人証略>)から、原告らにおいて容易に算定することができないことは明らかであるから、このような場合、消滅時効中断の催告としては、具体的な金額及びその内訳について明示することまで要求するのは酷に過ぎ、請求者を明示し、債権の種類と支払期を特定して請求すれば、時効中断のための催告としては十分であると解されるから、原告らの前記請求は時効中断の催告としての効力があるものというべきである。

(三) ところで、前記のとおり、原告らは、前記催告の後六か月以内である平成五年一〇月一日に本件訴えを提起しているから、右訴え提起により、平成三年六月分以降同年八月分までの賃金債権の時効は中断されたものというべきである。

3  平成三年五月分以前の賃金債権について、被告の時効援用が権利濫用にあたるか否かについて以下検討する。

(一) 前記第二の二15ないし18の事実、第三の二4の事実のほか、(証拠・人証略)並びに弁論の全趣旨によれば、本件時間外手当、深夜手当の支払請求をめぐる経過として、以下の事実が認められる。

(1) 原告らは、残業手当の支給を受けず、一五時間勤務を強いられている労働実態に疑問を感じ、平成四年三月一日労働組合を結成し、そのころから、労働組合を通じて、被告に対し、残業手当を支払うよう再三申し入れ、労働組合はこれを団体交渉の議題として繰り返し提案し続けたが、被告は残業手当の支払を拒否した。

(2) 原告らで組織する労働組合は、平成四年六月一日、小諸労働基準監督署に対し、被告が残業手当を支給せず、労働基準法違反の事実がある旨申告した。小諸労働基準監督署は、これに応じて、原告倉根及び被告代表者ら関係者から、残業手当問題について事情聴取をしたが、その結果格別の措置を講じていない。なお、小諸労働基準監督署は、原告ら関係者の申入れにより、平成五年七月ころ、被告の残業手当問題について、再度関係者から事情聴取をしたが、その結果格別の措置を講じていない。

(3) また、労働組合は、前記のとおり、平成四年九月一四日、労働委員会に対し、労使紛争の解決の斡旋の申立をしたが、斡旋を求めた事項の一つに残業手当問題が含まれており、労働委員会の斡旋手続において解決すべき労使紛争の一つとして取り上げ、権利主張をしてきたが、被告はこれを拒否してきた。

(4) 労働組合は、労働委員会の斡旋の直前に残業手当問題を斡旋の対象としないこととしているが、それは、労働委員会が、労働組合において、この件について既に小諸労働基準監督署に申告をしている経緯を了知し、専門行政機関である小諸労働基準監督署の結論が出されていない段階で斡旋を行うことは、小諸労働基準監督署の専門機関性を無視することにつながるため、事実上斡旋事項の対象外とするよう労働組合に対して勧告したことによるものであり、原告らの支払請求を放棄したものではなく、残業手当問題は依然解決していなかった。

(5) 労働委員会の斡旋は、平成四年一〇月五日、同年一一月七日、同月二一日、同年一二月一日の四回にわたって行われたが合意に至らず、第四回の斡旋手続で解決の見込がないとして打ち切られたところ、その際、労働委員会は、労使双方に対し、労使間の残業手当未払問題等について、今後積極的に団体交渉を行い、誠意をもって解決を図ることを要請したが、被告は、右要請に応えず、その後も残業手当の支給を拒否し続けた。

(6) 被告が、労使間の話合いによる自主的解決を許(ママ)否し続けたため、原告らは、警備勤務表、給料明細書、昇級内訳などの資料を自ら収集せざるをえなかった。原告らは、半年以上かけて資料収集に努力したが、右の各資料も裁判所に提出した文書しか収集できず、就業規則は、賃金規則の一部改定部分しか入手することができなかった。なお、この間の平成五年六月六日、原告らで組織した労働組合は解散している。

(7) 原告らが半年かけて収集した右の資料は不完全なものであり、原告らが直ちに残業手当を計算するに足りる資料ではなかった。すなわち、原告らが収集した警備勤務表は予定勤務表であり、実際の勤務は変更されることがあった。被告が保管すべき原告らの賃金台帳、タイムカード、被告が本件裁判になってから提出した警備勤務表、就業規則、賃金規則がなければ、正確な残業手当の計算は不可能であった。

(8) そこで原告らは、原告ら代理人を依頼し、前記のとおり、平成五年六月四日、被告に対し、賃金台帳、タイムカード、勤務表に基づき平成二年四月以降の原告らの時間外手当及び深夜手当を計算の上支払うよう催告した。

(9) しかし、被告がこれを受け入れなかったので、原告らは、自ら収集した前記の不完全な資料に基づき、未払の残業手当等を計算し、平成五年一〇月一日、本件訴えを提起するに至った。

(10) これに対し、被告は、自主解決の姿勢を見せず、前記の労働委員会の要望を受け入れず、更に、原告らが残業手当を計算するに必要な資料を原告らに交付せず、裁判が提起された後も、就業規則、賃金台帳、タイムカード、警備勤務表の開示に協力的ではなかった上、人証の証拠調べの半ばに、乙号証の大半を提出し、訴訟が提起されてから約二年四か月後に時効の主張をした。

(二) なお、原告らの関係者において、平成四年一二月二五日ころ、被告代表者の自宅付近を中心に、被告代表者を攻撃する内容が記載されたビラ、ステッカーを貼付している(<証拠略>)ところ、その当否は別として、このことから、原告らが本件時間外、深夜手当の請求を放棄する意思を示したものとすることはできない。

(三) 以上に認定した事実によれば、原告らは、組合結成後、数回の団体交渉、労働委員会での斡旋手続、催告の手続を行い、最終的に本件訴訟の提起に至ったものであり、必ずしも権利の上に眠っていたというものではない。また、労働組合結成後いきなり訴えを提起せず、右の各手続を履行したことは、労使対等の原則に基づく労使間の自主的な紛争解決を期待する憲法、労働組合法の基本理念に合致するものである。

(四) その上、原告らには、給料明細書のほかは時間外手当、深夜手当を算出すべき資料がなく、時間外手当、深夜手当の言算に相当程度の準備期間を要することは、被告においても十分に了知していたはずである。

(五) このような経過のなかで、訴え提起後約二年四か月を経て、たまたま時効期間が経過したことを理由に時効を援用することは信義にもとるものであり、権利濫用として許されないものというべきである。

4  なお、前記のとおり、被告は、平成八年二月一九日の本件第一六回口頭弁論期日において、消滅時効を援用する旨の意思表示をし、このため、原告らにおいて、右時効の援用が権利濫用にあたる旨主張し、それぞれの立証として、(証拠略)の取調べ及び原告倉根の尋問(いずれも平成八年八月六日の第一九回口頭弁論期日)、(証拠略)の取調べ及び被告代表者の尋問(いずれも平成八年一〇月三日の第二〇回口頭弁論期日)が行われたことは訴訟上明らかであるが、人証の取調べについては、被告の時効援用が権利濫用にあたるか否かという点だけでなく、これを超えて双方において異議なく尋問が行われている上、右時効の主張が予備的な主張であることや、原告らにおいて、右証拠調後口頭弁論終結に至るまでに、被告提出の証拠をふまえてではあるが請求の拡張を検討し、更には請求の整理を検討することとなったことは訴訟上明らかであるから、被告の時効に関する主張がなされたことによって、特段に訴訟が遅延したものと認めることはできないから、被告の時効の主張を時機に遅れた防禦方法として却下するのは相当でない。

第四結論

以上のとおりであって、原告らの本件各請求はいずれもすべて理由があるので、これを認容することとする。

(平成一〇年一一月九日口頭弁論終結)

(裁判官 川島利夫)

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