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長崎家庭裁判所佐世保支部 昭和49年(少)551号 決定 1974年10月16日

少年 T・I子(昭三三・一二・二一生)

主文

この事件を長崎県佐世保児童相談所長に送致する。

少年を親権者の意思に反しても教護院に入所させることができる。

少年に対して、昭和四九年一〇月一六日以降一ヵ月を限度としてその行動の自由を制限する強制的措置をとることができる。

理由

一、本件申請の要旨は、「少年は、昭和四九年六月二八日怠学、家出、不純異性交遊等で、松浦福祉事務所より佐世保児童相談所に身柄通告となり、一時保護。同年七月一九日教護院開成学園に措置入院となつたが、入園後一ヵ月余りの間に六回の逃走を繰り返し、逃走中二回万引等の非行があり、今の状態では開成学園での教護継続は困難であるから、強制的措置をとりうる国立教護院きぬ川学院に入所せしめて指導する必要があるので、児童福祉法二七条の二、少年法六条三項により少年に対し強制措置の許可を求める。というにある。

二、そこで本件記録及び長崎県児童相談所の児童記録票、鑑別結果通知書並びに調査、審判の結果によれば少年は生まれつき兎唇、口ガイ裂で言語障害があり、両親が早く離婚した為、少年は生後間もない頃から祖母と暮らすことが多く、また離婚後半年余りで実母が再婚し、少年は実母と祖母の許を行き来する不安定な生活をしてきた。実母は少年の非行が始まると、継父に気がねしてか、少年をやつかい視する状態で、心からの愛情は認められない。(しかし、少年が鑑別所に入つて反省の手紙を母宛にやつたことから母は少年を引き取りたいという態度に変つて来ている。)祖母も高齢病弱であり、現在の家庭では少年に対する強力な監護は期待できない。

ところで、一方少年は、前記言語障害のために、小学校から特殊学級で学習し、小学校時代は少年を良く理解してくれる先生に恵まれたことで、ほとんど問題を起すことなく無事卒業したが、中学校に入学してからは、通勤距離が遠いことや、特殊学級に女生徒は少年一人であり、しかも少年を理解してくれる人もいなかつたことから次第に学業を嫌うようになり怠学、家出等の問題行動が一種の逃癖行動としてあらわれたものと認められる。

三、そこで、考えてみると、本件少年の場合は要保護性という点では無視できないものがあり、特に少年の罪に対する意識はきわめて甘く、罪障感に乏しいようであり、性格的にも自己中心的で、感情に左右されて即行的に行動する傾向があるところから、今回と同様な逃走を繰り返すようであれば、小遣銭に窮して、万引や空巣等の非行を起すであろうことは十分予想しなければならない。

そうすると、少年の母親が現在少年を引き取りたいという気持に変つていることが一応認められるにしても、現実に少年の将来を安定させるに足る家庭環境を形成することは未だ不可能であつて、なお少年自身の更生の意欲も充分でない。

以上の事情を総合すると、本件送致事由はすべて理由があるから、少年の知能(動作性知能はIQ=九三で言語性のIQ=六一に比較して相当良い結果を示している。)、性格(多少他と協調することは不得手のようであるが、潜在的能力は一応普通にあるが、小学校時代から言語障害のために特殊学級での生活だつたために、基本的な学力が十分でないためと考えられるから、将来兎唇等を手術により矯正する必要があると認められる。)、経歴、家庭環境(姉が神奈川県で稼働中)等一切の事情から、少年を適宜その行動の自由を制限しうる教護院国立きぬ川学院に入所させ基本的な生活指導を中心に教護を受けさせることが必要と認められる。

なお、期間について一ヵ月を限度として強制的措置をとることが相当である。

よつて少年法一八条二項により主文のとおり決定する。

(裁判官 吉武克洋)

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