大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

長崎家庭裁判所 昭和57年(家ロ)106号 審判 1982年11月16日

申立人 中島アキコ 外一名

相手方 中島実美

主文

本件申立をいずれも却下する。

理由

一  申立人両名は相手方に対し、「相手方は申立人両名に対し扶養の方法として相手方所有の別紙物件目録記載の建物(以下本件建物という。)を申立人両名に引続き店舗兼居宅として使用させなければならない。」との扶養審判申立(当庁(家)第一二九九号、第一三〇〇号)をするとともに審判前の保全処分申立として、「前記審判事件の審判確定に至るまで、相手方の申立人両名に対する長崎地方裁判所昭和五三年(レ)第二五号建物明渡請求控訴事件の執行力ある判決正本に基づく強制執行はこれを停止する。」旨の審判を求めた。申立人両名が右審判前の保全処分を求める事由の要旨は次のとおりである。

(一)  申立人中島アキコ(以下申立人アキコという。)は中島長太郎、同タエの長女、申立人中島道子(以下申立人道子という。)は同じく四女であり、相手方は同じく長男であるが、中島長太郎が昭和一七年死亡した後は、タエ及び申立人アキコ、同道子らは相手方を信頼して、何事も同人に相談しその指導によつて生活してきた。

(二)  申立人アキコは夫に死別後、子供と申立人道子及びタエらと同居し飲食店を経営して生活を維持してきたが、その間昭和二五年七月一二日本件建物の完成とともに右建物に移り引続き飲食店を経営し、昭和二八年一月一九日タエが死亡した後も申立人両名協力して営業を続けて今日に至つた。

(三)  本件建物及びその敷地の所有権については申立人両名と相手方との間に争いがあり、先ず相手方を原告及び反訴被告とし、申立人両名を被告及び反訴原告とする長崎簡易裁判所昭和五一年(ハ)第二二七号建物明渡請求事件、同五二年(ハ)第三二九号土地・建物所有権移転登記手続等反訴請求事件において申立人両名は全部勝訴したが、その控訴審である相手方を控訴人、申立人両名を被控訴人とする長崎地方裁判所昭和五三年(レ)第二五号事件において、原判決は取消され申立人両名は全部敗訴し、その上告審である申立人両名を上告人、相手方を被上告人とする福岡高等裁判所昭和五三年(ツ)第三六号事件においても、申立人両名の上告は棄却された結果、申立人両名は相手方に対し本件建物を明渡すべき旨の第二審判決が確定した。

(四)  申立人両名は本件建物を店舗兼居宅として使用して飯飲店を営業して生活を維持しているところ、相手方は前記第二審の執行力ある判決正本に基づき申立人両名に対し本件建物明渡強制執行に着手したので、申立人両名は相手方に対し、扶養の方法として相手方は申立人両名に引続き本件建物を店舗兼居宅として使用させるべき旨の審判の申立をした。よつて審判前の保全処分として、前記のとおり相手方の申立人らに対する本件建物明渡強制執行を停止する旨の審判を求める。

二  前記一に記載する事実のうち、扶養審判事件が当裁判所に係属していることは当裁判所に顕著なところであり、またその余の記載事実は、申立人ら提出の戸籍謄本三通(写)及び判決書三通(写)によつて一応これを認めることができる。

ところで本件保全処分申立は家事審判規則九五条、五二条の二に基づき確定判決に基づく強制執行の停止を求めるものであるが、凡そ確定判決に基づく強制執行を停止することができる場合については民事執行法にそれぞれの規定があり、これは制限的に列挙したものと認めるべきであるから、右の場合に当たらない家事審判規則九五条、五二条の二に基づく仮処分その他の必要な保全処分によつて強制執行を停止することは許されないものということができる。してみればこの点において本件申立は却下されるべきである。

のみならず右規則に基づく保全処分としての仮処分はいわゆる仮の地位を定める仮処分として、本案審判による給付命令の先取りであり、本案審判において命じ得ない処分を命ずることはできないし、また、「その他の保全処分」としても実体法的な問題及び手続法的な問題を有する処分をすることはできないものというべきであり、更に本件本案事件における親族的扶養の扶養義務者である相手方は、自己の地位身分に相当する生活をした余剰をもつて扶養権利者たる申立人両名を扶養すれば足りるのであり、また人の生活の本拠である住居を定めることは扶養の程度ないし方法に関する事項であるとしても、既に独立して社会経済生活を営んでいる申立人両名に対し、前記のとおり確定判決を有する相手方が敢えて申立人両名が本件建物をその店舗兼居宅として使用居住することを受認すべきものとする扶養義務を形成すべき事情は、本件全疎明をもつてしても一応認めることはできないのみならず、他方金銭的扶養としても、申立人両名において扶養の必要限度額としてどの程度の扶養料を必要とするかの点についてもこれを一応認めるに足りる資料もない。してみれば本件申立は本案審判においてなされるべき具体的な形成処分の蓋然性の疎明を欠くものといわざるをえないから、これらの点からみても本件申立は却下されるべきである。

よつて右いずれの点からみても本件申立はこれを却下すべきものとして主文のとおり審判する。

(家事審判官 安達昌彦)

別紙 物件目録<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例