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長崎地方裁判所 昭和30年(ワ)400号 判決 1959年2月03日

原告 株式会社佐賀銀行

右代表者 手塚文蔵

右代理人弁護士 吉浦大蔵

被告 中村深

被告 中川製材所こと 中川重雄

右被告両名代理人弁護士 古賀野茂見

主文

一、被告中村深は、原告に対し、金三十八万六千三百七十二円及び内金二十五万七百二十円に対する昭和三十一年一月二十八日から、内金十三万五千六百五十二円に対する昭和三十一年十月四日から、夫々その支払済に至るまでの年六分の割合による金員を支払はなければならない。

二、被告中川重雄は、原告に対し、金三十九万四千六百五円及び内金十万七千三百七十一円に対する昭和三十一年十月四日から、内金二十八万七千二百三十四円に対する昭和二十九年四月一日から、夫々、その支払済に至るまでの年六分の割合による金員を支払はなければならない。

三、訴訟費用は被告等の連帯負担とする。

事実

≪省略≫

理由

一、被告中村が、原告主張の各日に、夫々、訴外人を受取人として、本件(1)及び(2)の各手形を振出したことは、成立に争のない甲第一、二号証と証人今村重雄の証言並に被告証人中村深の供述とを綜合して、之を認定することが出来る。

乙第一、二号証の存在は、前顕各証拠に照し、右認定を為す妨げとはならないのであつて、他に、右認定を動かすに足りる証拠はない。

被告中村は、右各手形は、孰れも、之を右訴外人に預けたに過ぎないものであつて、之を振出したものではない旨主張して居るのであるが、乙第一、二号証は、被告中村によつて振出された右各手形を、右訴外人に於て、受取つたと云う趣旨の書面であると認められるので、右事実を証明する証拠とはなし難く、他に、右事実を認めるに足りる証拠はないのであるから、右事実は、之を認めるに由ないところである。

二、而して、右訴外人が、原告主張の各日に、夫々、右各手形を、訴外銀行に裏書譲渡し、同訴外銀行が、之によつて、右各手形を取得し、その各所持人となつたものであることは、前顕甲第一、二号証及び同証人今村重雄の証言と証人金子三雄の証言とを綜合して、之を肯定することが出来る。

右認定に反する証拠はない。

三、被告中川が、原告銀行主張の各日に、夫々、訴外人を受取人として、本件(3)及び(4)の各手形を振出したことは、当事者間に争のないところであり、又、右訴外人が、原告主張の各日に、夫々右各手形を、訴外銀行に裏書譲渡し、同訴外銀行が之によつて、右各手形を取得し、その各所持人となつたものであることは、成立に争のない甲第三、四号証と証人今村重雄、同金子三雄の各証言とを綜合して、之を認定することが出来るのであつて、この認定を動かすに足りる証拠はない。

四、原告銀行が、その主張の両銀行の合併によつて、その主張の日に、設立された会社であつて、その主張の日に、その設立の登記を了し、之によつて、前記訴外銀行の本件(1)乃至(4)の各手形に対する所持を承継し、その各所持人となり、現に、之を所持して居るものであることは、弁論の全趣旨によつて、当事者間に争のないところであると認められる事実と弁論の全趣旨によつて、本件各手形であることについて、当事者間に争のないところであると認められるところの甲第一乃至第四号証の各手形が、現に、原告銀行の手中に存する事実と、前顕証人金子三雄の証言とを綜合して、之を肯定することが出来る。

右認定に反する証拠はない。

右認定の事実によると、原告銀行は、本件各手形の適法の所持人であると云うことが出来るから、原告銀行が、被告等に対し、夫夫、右各手形上の権利を行使し得ること勿論である。故に、その各振出人である被告等は、夫々、原告銀行に対し、右各手形の支払を為すべき義務があると云はなければならない。

五、被告中村は、本件(1)及び(2)の各手形は、同被告が、之を前記訴外人に預け置いたに過ぎないものであつて、前記訴外銀行は、この事実を知つて、右各手形を取得した悪意の取得者であり、従つて、同被告は、右訴外銀行に対し、右各手形の支払を為すべき義務がないから、その法律上の地位を承継した原告銀行に対しても、その支払を為すべき義務のないものである旨主張して居るのであるが、右各手形が、同被告によつて、右訴外人に預け置かれたに過ぎないものであると云うことの認め得ないことは、先に、説示の通りであるから、右事実のあることを前提とする同被告の右主張は、理由がない。故に、同被告の右主張は、之を排斥する。

六、被告等は、その共同主張にかかるところの、各理由のあることによつて、原告銀行に対し、本件各手形の支払を為すべき義務がない旨主張して居るのであるが、右各理由は、孰れも、後記各理由によつて、その理由がないから、被告等の右主張は、孰れも、理由がない。故に、被告等の右主張は、孰れも、之を排斥する。

(イ)本件各手形が、孰れも、被告等主張の事情によつて、前記訴外人をその各受取人として、振出された融通手形であつて、その各振出に際し、右訴外人と被告等との間に於て、夫々、被告等主張の特約の為されたものであることは、成立に争のない乙第三号証の一、二と証人今村重雄、同伊福昭典、同中島伍平、同大原金次郎、同高谷稔、同寺田次郎の各証言並に被告本人中村深の供述とを綜合して之を肯定することが出来る。

右認定に反する証人金子三雄の証言は、右各証拠に照し、措信し難く、他に、右認定を動かすに足りる証拠はない。

併しながら、前記訴外銀行が、右各特約を承認の上、右各手形を取得したと云う点については、之を認めるに足りる証拠がないので、右事実は、之を認めるに由ないところである。故に、右訴外銀行が、右各特約を承認したことを理由とする被告等の主張は理由がない。

(ロ)右訴外銀行が、右(イ)に於て認定の各事実を知つて、本件各手形を取得したものであることは、前顕各証拠を綜合して、之を推認することが出来る。

右認定に反する証人金子三雄の証言は、右各証拠に照し、措信し難く、他に、右認定を動かすに足りる証拠はない。

併しながら、融通手形の振出に際し為されるところの、前記認定の様な特約は、その振出人と被融通者との間に於て為されるところの、その手形の支払についての特約であつて、右両者間の純然たる契約関係に過ぎないものであると解するのが相当であり、従つて、その効力は、第三者に対しては及ばないものであるから、第三者が、その特約の存在することを知つて、その手形を取得したからと云つて、悪意の抗弁を以て、対抗を受けることのないものであり、又、被融通者に金融を得せしめる目的を以て、融通手形を振出した振出人は、被融通者に於て、金融を受ける為めに、その手形を、第三者に譲渡することのあるべきこと、並にその場合に於ては、その第三者から、振出人としての責任を問はれることのあるべきことを、当然に、予定し、且つ承認して、その振出を為したものであると解するのが相当であるから、その手形が、融通手形であると云う性質は、その手形を取得した第三者に対する関係に於ては、何等の意味をも有しないものであり、従つて第三者が、その手形を融通手形であると知つて取得しても、その振出人の支払義務には、何等の影響もないものであるから、右訴外銀行が、前記認定の各事実を知つて、本件各手形を取得したからと云つて、その各手形の振出人としての被告等の支払義務には、何等の消長をも来たすものではない。

故に、右訴外銀行が、右各事実を知つて、右各手形を取得したことを理由とする被告等の主張も亦、理由がない。

七、而して、前記訴外銀行が、原告主張の各日に、その主張の各場所に於て、本件各手形を呈示し、その支払を求めて、孰れも、その支払を拒絶されたこと、及び右各手形について、原告銀行主張の各内入支払が為されたのみで、その余については、未だ、その各支払が為されて居ないことは、成立に争のない甲第一乃至第四号証と証人田上順一の証言と弁論の全趣旨とを綜合して之を認定することが出来るから、原告銀行は、被告等に対し、本件各手形に基いて、夫々、原告銀行主張の各金員の支払を求めることが出来る。

故に、その各支払を求める原告銀行の本訴各請求は、孰れも、正当である。

八、仍て、原告銀行の本訴各請求を認容し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八十九条、第九十三条第一項を適用し、主文の通り判決する。

(裁判官 田中正一)

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