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長崎地方裁判所 平成2年(わ)132号 判決 1990年10月02日

本籍

長崎県南松浦郡奈留町泊郷三九二番地

住居

同町浦郷一七八〇番地

鮮魚仲買業

笠松力太郎

大正七年五月二六日生

右の者に対する所得税法違反被告事件につき、当裁判所は検察官平山龍徹出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年及び罰金一七〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

本裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、長崎県南松浦郡奈留町浦郷一七八〇番地において、笠松水産の名称で鮮魚仲買業を営むものであるが、所得税を免れようと企て、売上の一部を除外するとともに、簿外貸付金に対する利息収入を除外する等の方法により所得を秘匿した上

第一  昭和六一年分の実際所得金額は七四三二万四八八六円で、これに対する所得税額は三九七一万九六〇〇円であつたにもかかわらず、同六二年三月一六日、同県福江市三尾野町三五番地一所在の所轄福江税務署において、同税務署長に対し、同六一年分の所得金額は二九三八万七九四六円で、これに対する所得税額は一一六七万四八〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて、不正の行為により同年分の正規の所得税額との差額二八〇四万四八〇〇円を免れ

第二  昭和六二年分の実際所得金額は五五八〇万〇六六〇円で、これに対する所得税額は二五八二万七五〇〇円であつたにもかかわらず、同六三年三月一五日、前記福江税務署において、同税務署長に対し、同六二年分の所得金額は二四五八万〇一二八円で、これに対する所得税額は八七四万二五〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて、不正の行為により同年分の正規の所得税額との差額一七〇八万五〇〇〇円を免れ

第三  昭和六三年分の実際所得金額は七六一二万三三四六円で、これに対する所得税額は三六一三万七八〇〇円であつたにもかかわらず、平成元年三月一五日、前記福江税務署において、同税務署長に対し、昭和六三年分の所得金額は三五六九万五六六八円で、これに対する所得税額は一三四一万七五〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて、不正の行為により同年分の正規の所得税額との差額二二七二万〇三〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書(乙16)及び大蔵事務官に対する各質問てん末書(但し乙4、11を除く)

一  大蔵事務官作成の査察官報告書(甲9)

一  大蔵事務官作成の各査察官調査書(甲10ないし27)

一  笠松耀子の大蔵事務官に対する平成元年九月五日付け(甲28)、同年一〇月一九日付け(甲30)各質問てん末書

一  宿輪数一の検察官に対する各供述調書(甲34、35)

一  永田敏憲(甲36)、永田勉(甲37)、高山勇一(甲39)、の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  検察事務官作成の電話聴取書(甲5)

判示第一の事実につき

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(甲2)

一  中村英雄(甲42)、平岡孝(甲43)、市本文三(甲44)の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  押収にかかる六一年分の所得税の確定申告書(平成二年押第三三号の1)

判示第二の事実につき

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(甲3)

一  押収にかかる六二年分の所得税の確定申告書(同号の2)

判示第三の事実につき

一  深浦学(甲40)、中島隆(甲41)の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(甲4)

一  押収にかかる六三年分の所得税の確定申告書(同号の3)

(法令の適用)

被告人の判示各所為はいずれも所得税法二三八条一項に該当するところ、所定刑中懲役刑と罰金刑を併科することとし、なお、罰金刑についてはいずれも情状により同条二項を適用して、その免れた所得税の額に相当する金額以下とすることとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑につき同法四七条本文、一〇条により最も犯情の重い判示第一の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑につき同法四八条二項により判示各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び罰金額の範囲内で被告人を懲役一年及び罰金一七〇〇万円に処し、同法一八条により右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は被告人が、昭和六一年から昭和六三年の各所得税確定申告に際し、各年の所得額について実際の所得金額の平均して約六六・七パーセントにも当たる合計一億一六五八万円余りの所得を隠して虚偽の所得税確定申告書を提出し、合計約六七八五万円にのぼる多額の所得税を免れた事案であるところ、被告人は、鮮魚仲買の取引において、取引先と結託して売上代金を架空の預金口座に送金させ、あるいは現金取引分を売上から除外して架空人名義で預金し、また、簿外貸付金の利息、謝礼を所得に計上せず、旅費、接待費等を架空に計上するなどして元帳などの会計帳簿に虚偽の記載をして、計画的かつ継続的に脱税していたもので、脱税した金額も多額で、かような所得隠しによる脱税は、納税者に対する国の信頼を基盤とする納税者申告制度を揺るがしかねず、所得を確実に捕捉され、また所得を正確に申告している善良な納税者の税負担の公平感を著しく阻害し、国民の非難もとみに厳しいおりから、被告人はこのことに思いを致さず、納税者としての倫理感が著しく欠如していることが窺えるのであつて、被告人の本件刑事責任を軽視することはできない。しかしながら、被告人は本件犯行を率直に認め、脱税にかかる三年分の本税及び重加算税、延滞税等の付帯税合計約一億一五〇万円の納付を了し、実害が回復していること、本件を反省し、今後は二度と脱税をしない旨を誓い、自己の営む笠松水産を法人組織にして顧問税理士をおくなど、経理体制を改善する計画であること、被告人は尋常高等小学校を中退した後努力を重ね、地元では最大手の鮮魚仲買業者として地元産業の発展に貢献し、また、消防団活動や日本赤十字社の活動に寄与するなどし、地元の人望も厚かったこと、被告人は、海難事故で死亡した長男の二人の遺児や病弱な娘を抱え、これらの者の支柱として働いてきたこと、被告人は自己の事業に関し、昭和四二年に一回、昭和五八年に一回いずれも船舶職員法違反の罪で罰金刑に処せられた前科はあるが、他にはいかなる前科もないこと、被告人は老齢で病弱であることなどの酌むべき事情もあるのでこれらの事情を総合考慮して懲役刑の執行はこれを猶予することとし、主文のとおり量刑した次第である。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 赤塚健)

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