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釧路地方裁判所 昭和62年(わ)129号 判決 1988年2月24日

国籍

韓国(慶尚南道蔚山市方魚洞一六八番地の五)

住居

北海道根室市梅ケ枝町二丁目一〇番地

会社役員

木村伊佐夫こと

李且寛

一九二五年九月二日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官伊丹俊彦出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年六月及び罰金二五〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、北海道根室市梅ケ枝町二丁目一〇番地ほか一箇所においてパチンコ営業及びスナック営業を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、売上金の一部を除外して架空名義の簿外の普通預金口座に入金するなどの方法によりその所得を秘匿した上、

第一  昭和五九年分の実際総所得金額が一億〇七三〇万一三六三円であった(別紙(一)修正損益計算書参照)にもかかわらず、同六〇年三月七日、同市大正町一丁目一番地所在の所轄根室税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一三四四万五三八八円であり、これに対する所得税額が三三七万七四〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書(同六二年押第三一号の1の同五九年分)を提出し、そのまま法定納期限の同月一五日を徒過させ、もって不正の行為により同五九年分の正規の所得税額六一八七万九九〇〇円と右申告税額との差額五八五〇万二五〇〇円(別紙(二)脱税額計算書参照)を免れ、

第二  同六〇年分の実際総所得金額が八三九〇万一三二八円であった(別紙(三)修正損益計算書参照)にもかかわらず、同六一年二月二八日、前記根室税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が六九六万一七三五円であり、これに対する所得税額が一一七万九五〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書(同押号の1の同六〇年分)を提出し、そのまま法定納期限の同年三月一五日を徒過させ、もって不正の行為により同六〇年分の正規の所得税額四四四七万〇八〇〇円と右申告税額との差額四三二九万一三〇〇円(別紙(四)脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書七通

一  被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書四通

一  宮野洋志(二通)、奈良勝俊(二通)、伊野清子、小部淑子、斉藤由美子、高谷恒夫及び須貝清伸の検察官に対する各供述調書

一  志賀武の大蔵事務官に対する質問てん末書二通

一  検察官ほか四名共同作成の合意書面

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書、期末商品棚卸高調査書、仕入金額調査書、事業専従者控除調査書、専従者給与調査書、青色申告控除額調査書、不動産所得調査書及び調査事績報告費

一  大蔵事務官二名共同作成の売上金額調査書、租税公課調査書、通信費調査書、接待交際費調査書、損害保険料調査書、修繕費調査書、消耗品費調査書、福利更生費調査書、給料賃金調査書、利子割引料調査書、地代家賃調査書、除却損調査書、雑費調査書、利子所得調査書、雑所得調査書及び事業主貸調査書

一  押収してある、所得税の確定申告書綴一冊(昭和六二年押第三一号の1)、所得税の青色申告決算書綴一冊(同押号の2)、金銭出納帳一冊(同押号の3)、一九八六年ミセスの手帳一冊(同押号の6)及び手帳一冊(朝日生命ミニノート、同押号の7)

判示第一の事実について

一  押収してある昭和五九年度売上帳一冊(同押号の4)

判示第二の事実について

一  押収してある昭和六〇年度売上一冊(同押号の5)

(法令の適用)

被告人の判示各所為は、いずれも所得税法二三八条一項に該当するので、所定刑中いずれも懲役刑及び罰金刑を併科することとし、なお免れた所得税の額がいずれも五〇〇万円をこえるから情状により同条二項を適用することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第一の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により各所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で、被告人を懲役一年六月及び罰金二五〇〇万円に処し、右の罰金を完納することができないときは、同法一八条により金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、後記情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

被告人の本件犯行は、二年間で合計約一億円の所得税の支払を免れたというものであって、逋脱額が多額である上、逋脱率も極めて高く、犯行態様も裏帳簿を作成し、架空名義の預金口座を設置して入金するなど悪質であり、その犯行動機も事業の維持拡張や蓄財を目的としたものであって酌量の余地がなく、税負担の公平が社会的課題となっている今日、本件のような逋脱犯に対しては誠実な納税者を愚弄する犯罪として強い社会的非難が加えられるべきことなどに照らすと、被告人の罪責は重いと言わなければならない。しかしながら、被告人は、公判廷において、本件犯行を自認し、本件以外の三年度をも含めた昭和五六年度から同六〇年度までの更生決定を受けた国税債務金合計約二億七〇〇〇万円のうち約二億円の納付を了し、未払国税債務金約七〇〇〇万円も近い将来に納付される見込みであること、被告人は本件以後に経理態勢の改善を図り、当公判廷において改悛の情を示しており、再犯の虞が低いと認められること、被告人は保釈に至るまで約二箇月間勾留されたこと、被告人は自白刑の前科を有せず、根室市の地域新興等に尽力してきたことなど被告人にとって有利な諸事情を考慮し、主文のとおり量定した上、今回に限り懲役刑の執行を猶予することとした次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 矢村宏 裁判官 菅野博之 裁判官 齊木教朗)

別紙(一)

修正損益計算書

自 昭和59年1月1日

至 昭和59年12月31日

<省略>

別表(二)

<省略>

別紙(三)

修正損益計算書

自 昭和60年1月1日

至 昭和60年12月31日

<省略>

別表(四)

<省略>

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