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釧路地方裁判所 昭和58年(ワ)86号 判決 1991年11月22日

原告

柴田節子

右訴訟代理人弁護士

鎌形寛之

高橋政雄

佐藤文彦

川村俊紀

伊藤誠一

伊東秀子

被告

釧路市

右代表者市長

鰐淵俊之

右訴訟代理人弁護士

笠井真一

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一主位的請求

原告が被告の職員たる地位を有することを確認する。

二予備的請求

被告は、原告に対し、五五三万八七八〇円及びこれに対する昭和六一年三月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事実の概要

一争いのない事実

原告は、昭和四六年六月一日、被告の市長から、「釧路市労働相談員を嘱託する。報酬月額二万八〇〇〇円を給する。」との辞令の交付を受けて、被告の公務員に任用され、釧路市労働相談室(昭和四七年四月一日以降は釧路市雇用労働相談所)の事務に従事することとなった。

その後、原告は、ほぼ一年ごとに同様の辞令の交付を受け、雇用労働相談所における相談申込の受付、相談などに携わってきたが、昭和五七年一〇月一日、任期を六か月とする辞令の交付を受けたのを最後に、以後は任用を更新しないことを通告され、昭和五八年四月一日以降、退職したものとして取り扱われている。

二争点

1  原告の地位

(一)  原告の主張

(1) 原告は、地方公務員法一七条に基づき、一般職(非常勤)として被告に任用されたものである。このことは、原告の職務がその内容及び勤務実態からみて他の一般職の非常勤職員のものと異なるところがなく、その性質上特別職をもって従事させることを予定しているものではないこと、原告の任用にあたっては被告の市長自らが労働相談室の業務の存続する限り原告に勤務させることを約束し、原告が昭和四六年及び昭和四七年に交付を受けた各辞令には任期の記載がなかったことなどから明らかである。

(2) 右主張に理由がないとしても、原告は、任期の定めのない特別職の地方公務員(地方公務員法三条三項三号の非常勤嘱託員)として任用されたものである。

(3) 仮に原告の任用について任期の定めがあったとしても、期限付任用が許されるのは、それを必要とする特段の事由があり、かつ職員の身分保障の趣旨に反しないという要件を満たす場合に限られるところ(最高裁判所昭和三八年四月二日判決・民集一七巻三号四三五頁)、原告においてはこのような要件を満たすことはないので、任期の定めは無効である。

(二)  被告の主張

原告は、地方公務員法三条の特別職(非常勤嘱託員)として任用が繰り返されていたものであり、その任期は、それぞれ任用のあった日から辞令に記載された日までである(ただし、昭和四六年及び四七年における任用については辞令に任期の定めがないが、いずれも翌年の三月三一日までである)。そして、被告は昭和五八年四月一日以降、原告を任用していないから、原告は当然にその地位を失っている。

2  解雇に関する法理の適用

(一)  原告の主張

(1) 仮に原告の任用について任期の定めが有効であったとしても、被告の市長は昭和四六年六月一日から昭和五七年一〇月一日までの長期にわたり、原告に対する任用を繰り返し更新し、その回数も多数に及んでいること、原告の従事した職務内容、勤務条件、賃金等については常勤の一般職の職員と差異がないこと、被告においては、原告と同様の「嘱託職員」と呼ばれる公務員が多数存在し、原告と同様にその任用が反復継続されてきたが、原告が任用の更新をしないこと(以下、便宜的に「雇止め」という。)を最初に通告された昭和五七年三月以前には雇止めをされた事例は見当らず、ほとんどが長期にわたって継続して任用されていたこと、原告の任用にあたっては、当初、辞令上も任期の定めはなく、前記の被告の市長の約束もあって原告は長期間継続して任用されるものと信じていたこと、昭和四八年から辞令に任期が記載されるようになったが、原告の上司は任期の定めは形式的なものに過ぎず、任用を継続する点において従来と変らないと原告に説明してること、昭和五八年四月一日以降も原告に代って他の者が同種の仕事に従事していることから考えると、原告と被告との任用関係は、原告の従事する職務が廃止されたり、原告が職務に耐えられなくなるなど、任用関係を変更してもやむを得ないと認められる特段の事情が発生しない限り、当然継続されることが予定されていたというべきであって、任期の満了のつど当然のように更新を重ねてあたかも任期の定めのないものと実質的に異ならない状態で存在していたものであるから、右雇止めの通告は実質的には解雇の意思表示に当たるというべきで、右雇止めの効力の判断にあたっても解雇に関する法理を類推すべきである(最高裁判所昭和四九年七月二二日判決・民集二八巻五号九二七頁)。

(2) しかして右雇止めは解雇権の濫用であるというべきである。すなわち、被告は原告に対する雇止めの理由として、行政改革の一環として勤務年数七ないし一〇年以上の職員の新陳代謝を図る目的があると説明するが、「正規職員」の場合には新陳代謝は単なる職場の配置転換を意味するに過ぎないのに対し、「嘱託職員」の場合には労働者の身分喪失を意味するものであり、影響はまことに深刻であること、労働相談員としての原告の評価は極めて高く、原告の勤務年数が一〇年以上にわたったことをもって雇止めの基準としなければならない合理的な理由を見出すことができないこと、「嘱託職員」の担当している職種(例えば、児童厚生員)によっては、七ないし一〇年以上の勤務経験を有する者の方が高度のサービスを住民に提供することができるから、被告の基準をもって雇止めを行うのは極めて不合理であること、後進に道を譲るという観点からしても、後継者の養成については、職務をともに遂行することによって後継者がその能力を高めることに意義があるから、このことを理由に原告を雇止めとすることは合理的といえないこと、原告の後任者の待遇は原告とまったく同一であったことから、原告を雇止めとして別人を採用することによって人件費等の経費節減をもたらすわけではないことからすると、右雇止めは合理的な基準に基づくものではなく、かつ、雇止めの必要性も存在しなかったというべきである。

(3) また、原告に対する雇止めの通告は昭和五七年三月二五日に突然なされたものであるが、被告は昭和五六年一二月中に雇止めの方針を決定しているのにもかかわらず、雇止めの通告の数日前に原告から次年度の任用のための履歴書を徴していること、「嘱託職員」の任用継続については、以前から切実な要求として被告の職員団体と被告との交渉事項とされ、両者の間において、「嘱託職員」の任期が満了しても一方的に雇止めはしないとの確認がなされており、昭和五四年における交渉においても、被告により、業務がなくなるか制度の変更により必要がなくなるほかは任用の継続を保障することが約束されていることからすると、右雇止めは事前の手続において著しく信義に反し、無効であるといわなければならない。

(4) さらに、原告が突然雇止めを通告されるに至ったのは、原告の任命権者である被告の市長が原告の経緯を嫌悪したか、あるいは原告が日本社会党の釧路市議会議員控室に出入りしていると誤解したことにある、すると、原告に対する雇止めは原告の思想信条を理由とする差別的取扱いが動機をなしているものであるから、右雇止めは公序良俗に反して無効である。

(二)  被告の主張

公務員の任用はその内容が法律によって規定されている厳格な要式行為であって、私法上の雇用契約のように当事者が自由にその内容を定め得るというものではない。したがって公務員が期限付で任用された場合には、任期満了ごとに新たな任用が行われなければ、その地位は当然に失われるのであって、新たな任用がいかに反復継続されたとしても、それが任期の定めがない任用に転化するものではないから、私法上の雇用関係について判断された最高裁判所の前記判決を本件に類推することは許されない。

また被告は昭和五四年以降、行政改革を推進してきており、原告に対する雇止めは職員の人事の活性化、新陳代謝を図る目的のもとに行われたものであって、原告のみがその対象となったわけではなく、右雇止めには合理的な理由がある。

3  不法行為の成否(予備的請求)

(一)  原告の主張

仮に原告が任期の定めがある被告の地方公務員であったとしても、被告の市長が原告を昭和五八年四月一日以降任用しなかったことは、任命権者としての裁量を逸脱したものであり、また任用の更新につき原告に期待を抱かせながらそれを裏切ったものであるから、被告は国家賠償法一条一項に基づき、右市長の違法な公権力の行使により原告に生じた損害(昭和六一年二月末日までの給与相当の損害金四五三万八七八〇円及び精神的苦痛に対する慰謝料一〇〇万円)を賠償する義務があるので、原告は被告に対し予備的に、右損害金合計五五三万八七八〇円及びこれに対する予備的請求が追加された準備書面が被告に送達された日の翌日である昭和六一年三月五日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(二)  被告の主張

被告の市長が昭和五八年四月以降原告を任用しなかったことについては何ら裁量権の逸脱となるものではなく、また任用の更新について原告の抱いた期待は法的に保護されるべきものではない。

第三争点に対する判断

一争点1(原告の地位)について

1  公務員の任用は任命権者による行政行為の性質を有するものであるから、公務員がいかなる地位、身分を取得するかは、任命権者の任用行為の内容、すなわち任命権者が法の予定している任用類型のうちいずれを選択したかといことによって定まるものである。そして任命権者の右の意思は、辞令の記載により判断されるべきものであるが、これにより任用類型が必ずしも明らかでないときは職名やそれを規定する法令などを資料として解釈されるのであり、当該公務員の担っている職種、勤務条件などの実態を具体的に検討することによってのみ即断されるべきものではない。

そこで被告の市長が原告をいかなる類型の地方公務員に任用したのかを検討する。

2  本件では以下の事実を認めることができる(なお人証の表示に続く丸数字は当該人証の尋問が複数の期日にわたった際における期日の回数を示す)。

(一) 被告においては、主として中小企業における労働問題一般について労働者及び使用者の相談に応じ、もって健全なる労働組合の運営並びに労使関係の確立を図り、労働者の福祉の増進及び企業の発展に資するという目的のもとに、釧路市労働相談室を設置することとし、昭和三六年七月、被告の市長において右内容を規定した釧路市労働相談室規程と題する訓令を定め、同年八月一日からこれを施行した。右訓令には、労働相談室に労働相談員を置くこと、労働相談員には国の行政機関の職員や学識経験者等から市長が委嘱すること、労働相談員の任期は一年とし、補欠の労働相談員の任期は前任者の残任期間とするが、再任を妨げないことが定められていた(<書証番号略>)。

(二) 労働相談室においては、当初は常勤の労働相談員は存在せず、被告の労政係職員がまず労働相談に応対し、簡易な内容のものは右職員が処理するが、相談内容によっては、そのつど労働基準監督署、公共職業安定所などの職員、労働組合の役員や弁護士などの外部に委嘱した労働相談員に相談業務を引き継いでいた。しかし、当時のパート労働者の増大と構造不況の始まりという経済的状況にあって、労働相談業務を拡充する必要が生じたうえ、労働相談に被告の職員が対応するとどうしても指導監督の色彩を帯びて相談業務としてはふさわしくなくなるので、昭和四六年六月一日以降、常勤の労働相談員を設置することとなった(証人田部①2丁以下、同②1丁以下)。

(三) 原告は、当時四五歳であったが、昭和四二年ころから釧路市で最大の企業である太平洋炭鉱の主婦会の役員をつとめ、パート労働に携わる会員からさまざまの相談を受ける中で女性労働問題にも関心を深め、労働条件の改善等の要望につき、積極的に被告に具申するなどしていたところ、当時の被告の市長は、原告の右活動に目をとめ、水産加工を中心とするパート労働を通じての女性の職場進出に伴う労働問題の増加に対処するための労働相談員には原告が適任であると判断し、昭和四六年五月下旬ころ、二回にわたって被告の市長室において原告と面会し、常勤の労働相談員として労働相談業務に従事することを要請し、原告の快諾を得た。この際右市長は、労働相談の業務がある限り原告に仕事をしてもらいたいとの発言をしたが、労働相談員の任期についての説明はしなかった(原告①1丁以下)。

(四) 同年六月一日、右市長は、市長室において、原告に対して辞令を交付して被告を釧路市労働相談員として任用した。右辞令には、「釧路市労働相談員を嘱託する。報酬月額二万八〇〇〇円を給する。」との記載があったが、任期は記載していなかった(争いがない事実、<書証番号略>原告①7丁以下)。

(五) 原告は、同月から、同時に常勤の労働相談員として任用された男性とともに勤務を開始し、一か月間、労働法規等の勉強をした後に、同年七月一日から、新たに建設された厚生年金釧路市福祉会館において労働相談業務に従事した(<書証番号略>、原告①9丁以下)。

(六) 被告は、常勤の労働相談員を設置したことを受け、かつ、労働相談業務の内容を拡充していくことを目的に、釧路市労働相談室規程を整備することとし、昭和四七年四月一日、被告の市長において右規程を廃止し、同日新たに釧路市雇用労働相談所規程と題する訓令を施行した。右訓令は、主として中小企業における労働者及び使用者の労働問題一般に関する相談に応じ、労働者の権利及び福祉の増進並びに近代的な労使関係の確立を図ることを目的として、釧路市雇用労働相談所を設置することを定めたもので、同相談所に所長、相談員及びその他の職員を置くこと、労働相談員は国の行政機関の職員や学識経験者等から市長が委嘱すること、労働相談員の任期は一年とし、再任を妨げないが、補欠の労働相談員の任期は前任者の残任期間とすることの定めがあった(<書証番号略>、証人田部①9丁以下)。

(七) 原告は、同年四月一日、「釧路市労働相談員を嘱託する。報酬月額三万円を給する。」との辞令の交付を受けた(<書証番号略>)。

(八) 原告は、同年一一月から昭和四八年五月六日まで病気療養をしたところ、昭和四八年三月三一日限りで退職扱いとなり、健康保険証を被告に返却した。そして、同年五月七日、あらためて雇用労働相談所相談員としての発令を受けた(<書証番号略>、証人志和③21丁以下、原告②1丁以下、同③27丁以下)。

原告に対して交付された右同日付けの辞令には、「釧路市労働相談員を昭和四九年三月三一日まで嘱託する。報酬月額三万三〇〇〇円を給する。」との記載があった。被告としては、任期を明確化するために辞令にこれを記載したものであったが、不審に思った原告は上司らに尋ねたところ、従来と同じように三月三一日に辞職してもらうものではないとの返答を得たので、それ以上の詮索はしなかった(<書証番号略>、証人志和①10丁、原告②6丁以下)。

(九) その後、被告の市長は、原告に対して、昭和四九年から昭和五一年の各年の四月一日、昭和五一年五月一日、昭和五二年四月一日、同年五月一日、昭和五三年から昭和五七年の各年の四月一日、昭和五七年七月一日、同年一〇月一日の各日付けで、雇用労働相談所相談員に嘱託するとの辞令を交付した。右辞令(昭和五七年一〇月一日付けを除く。)には「釧路市労働相談員」(昭和五一年の辞令は「釧路市婦人労働相談員」、昭和五六年は「釧路市雇用労働相談員」)を次期発令の日の前日まで嘱託すること及び報酬月額が記載されていた。なお昭和五七年一〇月一日には原告に対し、「嘱託職員任用通知書」と題する辞令が交付され、同書面には、報酬月額として「九万九一〇〇円」、勤務内容として「釧路市雇用労働相談員」、所属として「雇用労働相談所」、雇用期間として「昭和五七年一〇月一日から昭和五八年三月三一日まで」、雇用条件として「雇用期間満了の際は辞令を用いないで、自然退職とする。」との記載があった。そして被告の市長は昭和五八年四月一日以降、原告に対する発令をせず、原告が被告の地方公務員たる地位を有することを争っている(争いがない事実、<書証番号略>、証人志和①9丁以下、同③2丁以下)。

(一〇) 釧路市辞令規程(訓令)によれば被告において一般職の任用に用いる辞令の様式は、概ね「釧路市事務(技術)吏員に任命する」というものであるが、特別職の任用に用いる辞令の様式は、昭和四九年一〇月までは概ね「何事務を嘱託する」、その後は概ね「○○を年月日まで嘱託する」というものである(<書証番号略>)。

(一一) 原告の勤務時間は、昭和四六年六月から昭和五一年三月までは毎週月・水・金曜日の各午前九時から午後五時までの週合計二一時間、昭和五一年四月以降は毎週月曜日ないし金曜日の各午前一〇時から午後四時まで週合計二五時間であった(いずれも休憩時間を除く。)。なお、被告の常勤の一般職の勤務時間は、毎週月曜日ないし金曜日は午前九時から午後五時まで、土曜日は午前九時から午後一時までの合計四〇時間一五分であった(証人志和①6丁、弁論の全趣旨)。

(一二) 被告においては、一般職に対しては、「釧路市職員の給与に関する条例」により給与の外に、扶養、通勤、住居、寒冷地、管理職、期末、超勤務等の諸手当及び退職手当が支給されるが、原告の場合には、「釧路市特別職の職員で非常勤のものの報酬及び費用弁償に関する条例」により月額の報酬、費用弁償として通勤費及び期末加給金としての報酬加給金が支給されていた。また、一般職の休暇については、「釧路市職員の勤務時間等に関する条例」により年次休暇、病気休暇、忌引休暇、特殊休暇等が与えられるが、原告に対しては休暇制度はなかった。さらに原告は、一般職が加入し地方公務員共済組合法の適用を受ける北海道都市職員共済組合には加入しておらず、健康保険、厚生年金及び雇用保険に加入していた(<書証番号略>、証人志和①7丁以下、証人奥宮②27丁以下、原告②35丁以下、弁論の全趣旨)。

(一三) 原告が行ってきた職務は、労働相談の申込みの受付、相談、指導、調査、統計処理、諸行事の企画・設営・協議会・打合せ会議等への参加、中小企業の職場訪問、労働問題の学習会の企画・実行、各種アンケート調査の企画・実施・集約などであり、これらは雇用労働相談所長(昭和四七年三月三一日以前は労働相談室長)の指揮監督の下に行なわれるものもあったが、相談業務については所属長に対し従属する関係にはなかった(原告①9丁以下、③25丁以下)。

なお昭和四七年以降、雇用労働相談所の相談員として、原告以外に、弁護士、社会保険労務士、労働基準監督官、公共職業安定所職員、社会保険事務所職員、商工会議所役職員、労働団体役員など他に専門の職業を有する者が委嘱されてきた。これらの者は非常勤相談員と呼ばれ、原告と異なって雇用労働相談所に勤務することはなく、原告らの常勤の相談員が相談申込者と応対した結果、特定の分野の専門家の相談あるいは指導を受けるのが適切と判断した事案についてのみ、そのつど相談に応じるものとし、それ以外の右相談所の業務には携わることはない。さらに、原告と異なり、月額の報酬を受けることもない(争いがない事実、<書証番号略>)。

3 以上の事実によれば、原告にこれまで交付されてきた辞令には一般職を任用するにあたっては使用されない「嘱託」という文言が使われていること、被告の市長は、女性労働問題に関するそれまでの原告の活動に着目して、年齢も高い原告を厳格な成績主義によらず労働相談員に任用したものであり、恒常的に一般職と同様の事務を担当することがあり、定額の報酬を受けていたとしても、原告の職務内容の中核は広範な労働相談に応じこれを柔軟かつ適切に処理していくことにあって、原告は釧路市労働相談室規程などにいう「学識経験者」に当たること、国家公務員においては、非常勤職員の勤務時間は常勤職員の四分の三以下とされているところ(人事院規則一五―一二「非常勤職員の勤務時間及び休暇」参照)、原告もその勤務時間は週合計で被告の常勤一般職と比較して四分の三以下であること、報酬の支給、休暇制度、共済制度についても、一般職とは明らかに異なった扱いを受けていることが認められるのであって、原告に対する任用は、いずれも地方公務員法三条三項三号所定の「非常勤の嘱託員」への任用であったものというべきである。

そして労働相談員の設置は法律等により必ずしも被告に義務づけられているわけではなく、したがって原告の職務も恒常的性格を有するものとはいえないこと、常勤の労働相談員を設置したのは、指導監督という一般職の発想を超えた労働相談への柔軟な対応が期待されたからにほかならないこと、勤務時間も常勤の一般職と比較してかなり短いことからすると、原告の職務は特別職の特質とされている非専務職(地方公共団体の事務にもっぱら従事するのではなく、特定の知識、経験に基づき、随時、地方公共団体の行政に参画する職務)としての性質を有するものであり、原告については一般職として任用すべきところを特別職として任用した過誤もないということができる。

4 次に、前認定のとおり、被告の市長は、もともと釧路市労働相談室規程に基づいて原告を労働相談員に任用したものであって、同規程には、労働相談員の任期は一年とすることが明記されていること、昭和四七年四月一日に右規程が釧路市雇用労働相談所規程に改訂され、原告は同日付けで改めて労働相談員に任用されたが、同規程も労働相談員の任期を一年と定めていること、原告はその後辞令上も一年を超えない任期を定めて任用が更新されていること、原告は、昭和四七年一一月から昭和四八年五月六日まで病気のため欠勤したところ、昭和四八年三月三一日限りで退職扱いとなり、同年五月七日、改めて雇用労働相談所相談員の発令を受けたことからすると、原告の任用については当初から任期の定めがあり、その後も期限付の任用が繰り返されていたと認めることができ、その職務内容からみて期限付の任用を違法であるということはできない。

原告は、当初の任用にあたり交付された辞令には任期の記載がなかったこと、その際の市長の説明にも任期があるとの発言はなく、かえって労働相談の業務がある限り原告に仕事をしてもらうとの発言があったこと、上司の説明も期限付任用であることと矛盾することを理由に、原告の任用には任期の定めはなかったと主張するが、そもそも特別職に任期の定めがないことは例外であるうえに、市長といえども自ら定めた訓令(釧路市労働相談室規程)に反して、原告に対してあえて期限を定めない任用をすることは特段の事情がない限り考えられないこと、任用にあたっての市長の発言も、期限の定めのないことを表明したものではなく、今後の原告の精勤を期待しての激励の発言と解釈することが自然であることからすると、その主張は理由がない。

二争点2(解雇に関する法理の適用)について

1 前記のとおり、原告は、昭和四六年六月一日に労働相談員として任用され、その後任用が更新されて昭和五八年三月三一日の経過により任期が満了したとされたものであるが、期限付任用と期限の定めのない任用とは性質の異なる別個の行政行為であるから、期限を付した特別職への任用がいくら繰り返されたとしても、一般職や期限の定めのない任用へと転化することはあり得ないのは当然である。

もっとも、私人間の労働契約においては、短期の期限を付した雇用契約が多数回更新されており、いずれかから格別の異思表示がなければ当然更新されるべき労働契約を締結する意思であった等の事情があって、あたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在していたと認められる場合には、その更新拒絶に解雇に関する法理が類推適用されることがあるが(原告引用の最高裁判所判決)、原告に対して任用のつど辞令の交付が行われて新たなる任用が行われていることが明確にされている本件にあっては、右の法理が適用になる余地はない。

また労働相談室規程及び雇用労働相談所規程においては、労働相談員は「再任を妨げない」という規定はあるが、任期が終了しても当然に任用が繰り返されることを予定した規定がないことから考えれば、原告の任用についてはいずれも当然に更新される性質のものではないことが明らかであって、原告の地位はあくまでも任用の際付与された期限の範囲内で存続するものである。

したがって、解雇権の濫用等に関する法理の適用を求める原告の主張は理由がなく、新たな任用のない原告は昭和五八年三月三一日の経過により当然に被告の公務員たる地位を失ったものというべきである。

三争点3(不法行為の成否)について

1 そもそも地方公務員を任用するかどうかは任命権者の自由裁量に属するものであり、かつ特別職の任用には厳格な成績主義の適用がないから、右の裁量権はきわめて広範なものというべきであり、私怨などを理由としてことさらに任用を拒否するなど、その裁量を著しく逸脱したと認められるきわめて例外的な場合を除いては、ある者を特別職に任用しなかったという不作為は当不当の問題は生じても違法の問題は生じないものと解するべきである。

2  そして本件にあっては、次の事実を認めることができる。

(一) 被告においては、昭和五二年一二月の定例市議会において行政改革の必要性が議論されたことを契機に行政改革を進めることとなり、昭和五四年一月には「行政改革に関する実施要綱」が決定され、人事の面においては一般職の新陳代謝の必要性が論議される中で「嘱託職員」の見直しも検討された。そして昭和五六年一二月には、被告の各部長が構成する各部連絡会議において、「嘱託職員」についても新陳代謝を図るため、年齢が六五歳以上あるいは七年ないし一〇年以上任用されている者については、今後は任用しないことが決定された(<書証番号略>、証人志和①17丁以下、同②14丁以下、証人平野①9丁以下、同②19丁以下)。

(二) そこで被告において右の基準に該当する者を調査したところ、原告が「嘱託職員」として一〇年以上任用されていることが判明したので、昭和五七年三月二五日に被告の市民部長及び労政課長が、原告に対して、後進に道を譲ってもらいたいと述べて翌月以降任用しない方針を告げたところ、原告がそれを拒否したため、被告の当局は原告の処遇について被告の職員団体と交渉することになり、その結果、原告については特に三か月間任用を更新することとし、同年四月一日、その旨の辞令を交付した(<書証番号略>、証人志和①15丁以下、証人平野①9丁以下、同②19丁以下、証人奥宮②2丁以下、原告②15丁以下)。

(三) その後数回にわたって被告の当局と職員団体との間で原告の処遇について交渉がもたれたが、不調に終わり、その間被告の市長は、同年七月一日に同年九月三〇日までの期限付で、同年一〇月一日の昭和五八年三月三一日までの期限付で、それぞれ原告を雇用労働相談所相談員に任用したが、同年四月一日以降は原告を任用していない(<書証番号略>、証人志和①14丁以下、証人奥宮②2丁以下)。

(四) 被告に七年ないし一〇年以上勤務している「嘱託職員」のうちで、昭和五六年、五七年度に勇退した者は合計一二名であり、再任された者については後任者がいないなどやむを得ない理由がある場合に限られていた(弁論の全趣旨、証人志和①23丁以下、同②24丁以下、同③16丁以下、証人奥宮②31丁以下)。

以上の事実によれば、被告の市長が原告に対して任用を更新しなかったことにはその裁量を逸脱した違法又は原告のいう手続上の違法があるということはできない(なお、原告は、原告が日本社会党に近い存在であるものと現在の被告の市長が邪推したことが真の任用拒否の理由ではないかと述べるが、いまだ憶測の域を出ない)。

3 また、原告は任期の終了により当然にその公務員たる地位を失い、その後に同じ地位を取得するためには新たな被告の市長による任用が必要であり、さらに右任用については被告の市長の自由裁量に属するものであるから、原告が労働相談員として長期間その地位に止まることができるという期待は法的に根拠のないものであり、その期待を侵害されたのでその賠償を求めるという原告の主張は理由がない。

もっとも、法的に根拠のない事実上の期待であっても、任命権者である被告の市長が誤って右のような期待を原告に与えたとすると、右市長による不法行為が成立する余地も生ずることとなる。

そして原告は任用にあたって被告の市長から「労働相談業務がある限り、仕事をしてもらう。」と激励され、その際、任期が一年であるとの説明がされず、辞令にも任期の記載がなかったこと、その後辞令に任期が記載されるようになった際に、原告が上司らに問い質したところ、「従前と変わるものではなく、任期をもって辞職してもらうわけではない。」との回答を得ていることは、前記のとおりである。

しかしながら、原告自身当初から「正規の職員」として任用されたとは考えていなかったこと(原告③21丁)、原告の上司の言動も任命権者の意思を体現したものではなく、原告は任用されていた期間を通じ、一年以内に必ず辞令の交付を受けていたことに照らせば、前記事実をもって、被告が原告に任期の定めのないものとして任用されたと誤認させ、あるいは任用が当然に更新されるという期待を抱かせたということもできないから、右事実をもって不法行為が成立するということもできない。

四以上の次第で原告の請求はいずれも理由がないのでこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官菊池徹 裁判官齋藤大巳 裁判官髙山光明は、転補につき署名捺印することができない。裁判長裁判官菊池徹)

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