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釧路地方裁判所 平成元年(行ウ)3号 判決 1993年3月16日

帯広市東九条南一一丁目

中村ハイツ二〇二号室

原告

武田首

右訴訟代理人弁護士

今重一

今瞭美

帯広市西五条南六丁目

被告

帯広税務署長 松本修

右指定代理人

栂村明剛

堀千紘

三上隆司

小林勝明

中村保

酒井順一

高橋徳友

松井一晃

荒木伸治

平山法幸

主文

一  原告の昭和六一年分所得税について被告が昭和六三年一月一一日にした更正処分及び過少申告加算税賦課決定のうち、総所得金額八三万二二〇八円分離短期譲渡所得金額(損失)七六〇万三八六六円及び分離長期譲渡所得金額三八二一万九〇八一円を基礎として計算された税額を超える部分を取り消す。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その三を原告の、その余を被告の各負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告の昭和六一年分所得税について被告が昭和六三年一月一一日にした更正処分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  昭和六一年分の所得税について、原告がした確定申告、これに対する被告の更正処分(以下「本件更正」という。)及び過少申告加算税賦課決定(以下、本件更正と併せて「本件各処分」という。)並びに異議決定、並びに国税不服審判所長がした審査裁決の経緯は、別紙1に記載のとおりである。

2  しかし、本件更正は、分離譲渡所得を過大に認定した違法がある。

3  よって、原告は、本件各処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の主張は争う。

三  被告の主張

1  分離譲渡所得金額の算出過程

原告の分離短期譲渡所得金額及び分離長期譲渡所得金額の算出過程は、別紙2、3の被告主張額欄に記載のとおりである。

2  借地権の消滅及び本件譲渡等

(一) 原告は、別紙物件目録(一)記載の土地(以下「本件土地(一)」といい、他の土地についても同様に略称し、本件土地(一)ないし(三)の土地を併せて「本件土地」という。)及び本件土地(二)を昭和三七年二月一四日から、本件土地(三)を昭和二三年一〇月二〇日から、それぞれ所有していた。

(二) 原告は、本件土地の一部(面積九二・五平方メートル)を山添陽子(以下「山添」という。)に建物所有目的で賃貸していたが、昭和五九年二月二二日、山添に対し立退料一三〇〇万円を支払い、その借地権を消滅させた。

(三) 原告は、昭和六一年二月二五日、有限会社北武企画に対し、本件土地を代金合計一億二三五五万円で売り渡した(以下「本件譲渡」という。)。

(四) 原告は、本件譲渡に際し、広告代金一三万五〇〇〇円及び建物取壊し費用三五万円(以下合計四八万五〇〇〇円)を支払った。

3  分離短期譲渡所得と分離長期譲渡所得の区分

(一) 借地権の消滅とその後の譲渡

借地権の設定されている土地の所有者が当該借地権を消滅させた後に当該土地を譲渡した場合、借地権の消滅時に当該土地のうち旧借地権部分を取得し、その後の譲渡時において旧借地権部分と旧底地部分をそれぞれ譲渡したものとして取り扱うのが合理的である(所得税基本通達三三-一〇、三三-一一の二参照)。

よって、本件においても、山添から取得した旧借地権部分と原告が以前から所有していた旧底地部分をそれぞれ譲渡したものとして取り扱うのが相当であり、したがって、前者の旧借地権部分に係る譲渡は、所有期間一〇年以下の分離短期譲渡に当たる(租税特別措置法(昭和六二年法律第九六号による改正前のもの。以下「措置法」という。)三二条)。

(二) 各収入金額の算定

本件土地の一平方メートル当たりの譲渡価額は一一万七一三二円(本件譲渡代金の合計額一億二三五五万円を本件土地の総面積一〇五四・七九平方メートルで除した額)であり、これに旧借地権部分の面積(九二・五平方メートル)及びその借地権割合五〇パーセントを乗じると、旧借地権部分に係る収入金額は、五四一万七四〇〇円となり(一〇〇円未満四捨五入)、旧底地部分に係る収入金額は一億一八一三万二六〇〇円となる。

4  その他の説明

(一) 分離短期譲渡所得の取得費用

山添に支払った立退料一三〇〇万円がその取得費用となる。

(二) 分離長期譲渡所得の取得費用

分離長期譲渡所得の収入金額一億一八一三万二六〇〇円の一〇〇分の五に相当する金額である(措置法三一条の四)。

(三) 譲渡費用

前記の四八万五〇〇〇円を収入金額の割合をもって分離短期譲渡所得と分離長期譲渡所得の各譲渡費用に割り振った。

(4) 分離長期譲渡所得の特別控除額

措置法三一条三項の認める金額である。

5  吉沢からの借入れ(第三債務)について

(一) 株式会社タケダデザインルーム(以下「タケダ」という。)は、別紙4第三債務欄記載のとおり、かねてより吉沢庚三郎(以下「吉沢」という。)から事業資金を借り入れていたが、昭和六一年二月現在の債務額は、同欄に記載のとおり、七〇〇万円であった。

(二) 原告は、タケダの吉沢に対する右債務につき連帯保証をしていた。

(三) 原告は、保証債務を履行するため本件譲渡を行い、吉沢に対しその売却代金の中から七〇〇万円を支払ったが、タケダが昭和五八年末に事実上営業を廃止したため、同社に求償することはできなかった。

(四) したがって、右七〇〇万円については、所得税法六四条二項の適用がある。

6  帯広信金からの借入れ(第一、第二債務)について

(一) タケダは、別紙4第一債務及び第二債務欄記載のとおり、かねてより帯広信用金庫(以下「帯広信金」という。)から事業資金を借り入れていたが、昭和六一年二月現在の債務額は、同欄に記載のとおり八〇五八万二九〇四円及び一二三八万九二五九円であった。

(二) 原告は、タケダの帯広信金からの事業資金の借入れにつき、次の連帯保証  をしていた。

保証書差入日 元本限度額 保証期限

(昭和 年 月 日) (単位 円) (昭和 年 月 日)

<1> 五三・ 一・一四 四〇〇〇万 五六・ 一・三一

<2> 五六・ 一・一六 四五〇〇万 五八・ 一・三一

<3> 五六・ 二・二〇 四八〇〇万 五八・ 一・三一

<4> 五八・ 二・ 七 五〇〇〇万 六一・ 一・三一

<5> 五八・ 九・二九 五五〇〇万 六一・ 一・三一

<6> 五八・一一・三〇 五三〇〇(追加物上保証)

<7> 五九・ 二・二二 一億 六〇・ 三・三一

<8> 六〇・ 五・三一 一億一〇〇〇万 六一・ 五・三一

(三) 原告は、保証債務を履行するため本件譲渡を行い、昭和六一年二月二七日、帯広信金に対し、その売却代金の中から九二九七万二一六三円(第一債務と第二債務の合計額)を支払った。

7  タケダの弁済能力と原告の認識

(一) 保証人が債務保証をした際に既に主債務者が資力を喪失しており、かつ、保証人が主債務者に弁済能力がないことを知りながらあえて保証をしたような場合には、実質的に、主債務者に対し利益供与又は贈与をしたものとみなし得るのであって、所得税法六四条二項を適用する余地はないと解するのが相当である。

(二)(1) タケダは、昭和四〇年四月、洋家具の製造販売等を目的として設立されたが、昭和五〇年ころから経営状態が思わしくなく、累積赤字も多額となり、その債務整理のため原告所有の本件土地の売却代金を充てる方針であったところ、同五六年六月二五日に同社の工場と事務所が火災により焼失し、これにより債務が更に増加し、同五七年三月期においては赤字が一一九万七六三六円(累積赤字は一六三四万四八九一円)に達していた。

(2) さらに、タケダは昭和五八年八月中受注がほとんどなく、九月以降も引き続き受注難であったところ、一〇月末、一一月に合わせて七〇〇万円を越える受取手形の不渡りによる不良債権が発生したことから、経営状態が悪化し回復の見込みもなかったため、同年一一月二六日の時点では、帯広信金もそれまでに再三指導してきた営業廃止の方針を原告に示し、原告も本件土地の売却による負債整理と同年一二月末での休業を了承した。そして、会社整理のための資金として同年一一月三〇日に一五〇〇万円の貸付がなされ、同年一二月末には、タケダは事実上の倒産をして営業を廃止するに至った。

(三) 右の事情からすれば、タケダの代表取締役である原告は、<4>の昭和五八年二月七日の保証契約の時点で、タケダに弁済能力がないことを知っていた。仮にそうでないとしても、同年一二月末日には営業を廃止することを決定していた<6>の同年一一月三〇日の物上保証の時点にはタケダに弁済能力がないことを認識していたし、どんなに遅くとも<8>の昭和六〇年五月三一日の根保証契約締結の時点では、同社に対する求償が不可能であることを知っていた。

(四) 前記<4>、<6>又は<8>の各債務保証は、以前からの保証の継続ではなく、新たな保証であると解釈すべきところ、前記のとおり、原告は右各保証時にタケダに弁済能力がないことを知っていたから、原告が帯広信金に支払った額のうち、所得税法六四条二項の適用されるものはない。

(五) 第一債務については、昭和六〇年六月一一日にそれまでの貸付金八七四〇万円が返済され、改めて同日九一〇〇万円が貸し付けられているから、第一債務分である八〇五八万二九〇四円については、所得税法六四条二項の適用はない。

(六)(1) 原告が<6>の物上保証の前にタケダに弁済能力がないことを知ったとした場合、所得税法六四条二項の適用を受けられるのは、<5>の保証による元本限度額五五〇〇万円とこれに対する利息等の額の限度内である。

(2) そして、原告が昭和六一年二月二七日に右元金五五〇〇万円を弁済したものとして同五八年一一月二六日から同六一年二月二七日までの利息を計算すると、同五八年一一月二六日から同五九年五月一五日までが年利九パーセントで二三三万二六〇二円、同月一六日から同五九年一二月二六日までが年利八・七五パーセントで二九六万六六〇九円、同月二七日から同六〇年一〇月二日までが年利八・二五パーセントで三四八万〇八二一円、同月三日から同六一年二月二七日までが年利七パーセントで一五六万一〇九五円の合計一〇三四万一一二七円となる。

8  他の連帯保証人に対する求償について

(一) タケダの帯広信金からの借入れのうち、第二債務(北海道信用保証協会の保証付きの借入れ)については、原告のほか、吉沢及び助川健二(以下「助川」という。)が、第一債務(その余の借入れ)については、原告のほか、吉沢が、それぞれ連帯保証をしていた。

(二) 本件において、共同保証人間の負担割合についての特約はなかった。すなわち、

(1) 助川は、タケダの設立以来の従業員であるが、原告の信任も厚く、昭和四四年ころ工場長になって以来、工場の全責任を任されており、かつ、同社の株主であったこと及び昭和五四年、五年当時、経営者たる原告の報酬を上回る月額二五万円から二八万円くらいの給与を受けていたこと等からすると、同人は、単なる一従業員とはいえず、同社の工場における最高責任者の一人として、実質的に経営を任されていたものである。

なお、甲第一号証の書面は、本件訴訟提起後に作成された可能性が高い。

(2) 吉沢は、タケダの取締役であり、株主でもあって、取締役として役員報酬の支払を受けていたから、同社の経営には責任を負っていたものである。

(三) 吉沢は十分な保有資産があり、同人に対する求償は可能であった。

(四) 助川は、昭和五八年末にタケダを退職したが、椅子製造・修理業を開業し、開業一年目の同五九年には年商約三〇〇〇万円を上げ、事業も順調に継続拡大しており、同人に対する求償も可能であった。

(5) したがって、所得税法六四条二項の適用があるのは、第一債務の二分の一である四〇二九万一四五二円、第二債務の三分の一である四一二万九七五三円の限度内である。

四  被告の主張に対する原告の認否および反論

1  被告の主張1の事実に対する原告の認否は、別紙2、3の原告主張額欄に記載のとおりである。

2  同2(一)ないし(四)の事実はいずれも認める。

3(一)  同2(一)の主張は争う。

(二)  原告の本件譲渡に係る所得は全部分離長期譲渡所得として課税されるべきである。そもそも、分離短期譲渡所得は、短期間での資産譲渡の場合に生ずる所得が実質所得であり、長期譲渡の場合が名目所得であることが多いこととの格差の存在やいわゆる土地転がしのような事態を避けることを政策的に封ずることを考慮して設けられた制度であると考えられるが、本件では、長期間所有していた土地上にある借地権を解消して、当該土地の売却を図っただけであり、山添に対する立退料は、本件土地を売却するための必要経費とみるべきである。

4(一)  同4(一)、(三)の事実は否認する。

すべて分離長期譲渡所得の必要経費とすべきである。

(二)  同4(二)の事実は否認する。

原告主張の収入金額の一〇〇分の五に相当する金額を取得費用とすべきである。

(三)  同4(四)の事実は認める。

5  同5(一)ないし(四)の事実は認める。

6  同6(一)ないし(三)の事実は認める。

7(一)  同7(一)の主張は争う。

(二)(1)  同7(二)(1)の事実のうち、タケダの設立時期、火災の点及び昭和五七年三月期の赤字額(累積赤字額も含む。)の点は認め、その余の事実は否認する。

(2) 同7(二)(2)の事実のうち、タケダが昭和五八年一二月末に営業を廃止したことは認め、その余の事実は否認する。

(3) タケダは、昭和五六年に工場を再建し、経過を継続しようとしてこれを実行し、累積赤字は若干増加したものの、純資産では負債がわずかながら減少し、経営を継続することで利息の支払も続けることが可能であった。売上も順調であって、新たな資金借入れの必要は、不良債権の発生・受取手形の不渡り等の事故によるものが大部分であるから、このような事故がなければ、原告のもくろみどおり、タケダはいくらかずつでも負債を返済しながら経営を継続することが可能であった。

(三)  同7(三)の事実のうち、<8>の昭和六〇年五月三一日の時点でタケダに対する求償が不可能であることを知っていたことは認め、その余の事実は否認する。

(四)  同7(四)の事実は否認する。

原告の保証は、実質的にはそれ以前からの保証契約が継続したものである。したがって、仮に弁済能力の欠如についての認識を問題とするとしても、新たに拡大した保証枠についてのみこれを論ずるべきものである。

(五)  同7(五)の主張は争う。

(六)(1)  同7(六)の事実は否認する。

原告は、その当時元本五五〇〇万円の連帯保証に加え、六五〇〇万円の根抵当権を設定していたから、合計一億二〇〇〇万円の責任を負担していた。

(2) 同7(六)(2)の事実は否認する。

昭和五八年一二月末日現在の元本額六六六〇万円を元本とすべきである。

ただし、利率につき、昭和五九年一月一日以降の利率は少なくとも年九パーセントであったこと、昭和五九年五月一六日以降の利率が年八・七五パーセントであったこと(乙第三三号証)、昭和五九年一二月二七日以降の利率が年八・二五パーセントであったこと(乙第三四号証)、昭和六〇年一〇月三日から同六一年二月二七日までの利率が年七パーセントであったことは認める。

また、貸付金一二〇〇万円につき、信用保証協会の保証料年一パーセントを加算すべきである。

8(一)  同8(一)の事実は認める。

(二)  同8(二)の事実は否認する。

(三)  原告と吉沢及び助川との間には、原告の負担割合を一〇〇とし、同人らのそれを零とする明示又は少なくとも黙示の合意があった。すなわち、

(1) タケダは、資本金等も原告が準備し、原告がその代表取締役を勤め、取締役会や株主総会も開催されたことのないいわゆる原告のワンマン会社である。

(2) 吉沢は、藤丸デパートの売場責任者(取締役)であり、原告が以前木工玩具を納入していた関係で親しくなり、原告ら夫婦が結婚する際媒酌人を勤めてもらったりしたが、タケダの経営には全く関与していなかった。

原告が吉沢に連帯保証人になってくれるよう依頼した際、両者の間では、原告個人が最終責任を負うことが当然の前提とされていたものである。

(3) 助川は、タケダの従業員であり、原告及び吉沢が相当高齢のため追加保証人を求められた際、従業員の中で最も経歴の古い助川を保証人としたにすぎない。原告は、担保価値が十分ある本件土地を抵当に提供しており、万が一の場合にも助川に迷惑をかけることはないと説明して、保証人になってもらったものである。

(四)  また、右(三)の事実によれば、仮に原告が全部負担するとの合意がなかったとしても、原告が吉沢及び助川に求償することは信義則に反し認められない。

(五)  同8(四)の事実は否認する。

(六)  同8(五)の主張は争う。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  本件各処分等

請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。

二  所得税法六四条二項以外の点について

1  基礎事実

被告の主張2(一)ないし(四)の事実は当事者間に争いがない。

2  分離短期譲渡所得と分離長期譲渡所得の区分について

(一)  本件におけるように、土地所有者が立退料を支払って借地権を消滅させ、更地となった土地を譲渡した場合には、旧借地権部分と旧底地部分とでは取得時期、取得費等の面で資産としての性格が異なるから、旧借地権部分と旧底地部分とをそれぞれ譲渡したものとして取り扱い、譲渡による収入金額を旧借地権部分に係る部分と旧底地部分に係る部分に区分すべきである。

(二)  譲渡に係る所得をすべて分離長期譲渡所得とし、立退料はその必要経費とみるべきであるとの原告の主張は、採用できない。

なお、旧借地権部分に係る部分を分離短期譲渡所得と解しても、少なくともそれが赤字の場合には、譲渡所得相互間の損益の通算により、全部を分離長期譲渡所得と扱った場合に比し、分離長期譲渡所得の取得費用に多少の差を生じるほかは、違いが生じないものである。

3  算出過程の説明

(一)  収入金額

分離短期譲渡所得分 五四一万七四〇〇円

分離長期譲渡所得分 一億一八一三万二六〇〇円

前記1に認定の事実によれば、旧借地権部分の譲渡は分離短期譲渡所得として、旧底地部分の譲渡は分離長期譲渡所得として課税されることになる。

前記1に認定の譲渡代金額並びに本件土地及び借地部分の各面積から算出される、本件土地の一平方メートル当たりの譲渡価額一一万七一三二円に借地部分の面積(九二・五平方メートル)及び借地権割合五〇パーセントを乗じると、分離短期譲渡所得の収入金額は五四一万七四〇〇円(一〇〇円未満四捨五入)となり、分離長期譲渡所得の収入金額は一億一八一三万二六〇〇円となる。

なお、旧借地権部分の譲渡に係る収入金額がより低額であるとすべき事情の主張立証はない。

(二)  分離短期譲渡所得の取得費用 一三〇〇万円

前記1に認定の山添に対する立退料一三〇〇万円は、分離短期譲渡所得の取得費として認められる。

(三)  分離長期譲渡所得の取得費用 五九〇万六六三〇円

前記(一)に認定の分離長期譲渡所得の収入金額一億一八一三万二六〇〇円の一〇〇分の五に相当する金額である(借置法三一条の四)。

(四)  譲渡費用

分離短期譲渡所得分 二万一二六六円

分離長期譲渡所得分 四六万三七三四円

前記認定の広告代金一三万五〇〇〇円及び建物取壊し費用三五万円合計四八万五〇〇〇円を、本件譲渡代金中に旧借地権部分と旧底地部分の各譲渡収入金額が占める割合をもって割り振ると、右のとおりとなる。

(五)  分離長期譲渡所得の特別控除額(措置法三一条三項) 一〇〇万円

三  吉沢からの借入れ(第三債務)について

被告の主張5の事実は、当事者間に争いがないから、吉沢分七〇〇万円については所得税法六四条二項の適用がある。

四  帯広信金からの借入れ(第一、第二債務)について

1  基礎事実

被告の主張6(一)ないし(三)の事実は、当事者間に争いがない。

2  所得税法六四条二項の解釈

所得税法六四条二項の適用につき、保証人が主債務者に弁済能力がないことを知りながらあえて保証した場合には、同条項の適用はないと解すべきである。

3  そこで、タケダの弁済能力等の点につき検討する。

(一)(1)  タケダは、昭和四〇年四月、洋家具の製造販売等を目的として設立されたが、取引先に飲食店等が多かったため代金不払が多かったこと及び代表取締役である原告が職人気質であったこと等の理由により赤字が累積し、昭和五五年ころには一六〇〇万円程度の累積赤字で推移していた。

タケダは、帯広信金を取引金融機関とし、原告所有の本件土地及びタケダ所有の工場等を担保として提供していたが、帯広信金は、原告に対し、昭和五二年、三年ころから、本件土地を売却して累積赤字を解消した上、郊外に移転して営業を続けることを勧めていた。(タケダの設立時期は当事者間に争いがない。乙第七、三七、四一号証、原告本人尋問)

(2)  昭和五六年六月、タケダの工場、事務所が火災により焼失した。

そのため、原告は、帯広信金から工場再建費用等として三〇〇〇万円の融資を受けたが、その際、人員削減の上、代金回収の確実な仕事に集中するようにとの同信金の指導を受け入れ、従業員を二五名から一五名程度に削減して工場を再建した。

なお、昭和五七年三月期の累積赤字額は、一六三四万円余であった。

(火災の点及び昭和五七年三月期の累積赤字額は、当事者間に争いがない。乙第三六号証、原告本人尋問)

(3)  昭和五八年に入ってのタケダの状況は、八月から仕事の受注難があったところ、一〇、一一月に至り七〇〇万円を超える受取手形の不渡りが発生した。

そのため、帯広信金は、同年一一月、タケダの経営状態が悪化し、本件土地等の売却によっても貸付金の一部が回収不能となる危険性があると判断し、原告に対しこれ以上融資できないとして、営業の廃止を強く勧告した。

そのため、原告も、昭和五八年一二月末での廃業を決意し、同年一一月三〇日、本件土地に<6>の五〇〇〇万円の根抵当権を追加設定した上、会社整理資金として一五〇〇万円の融資を受けた。

(タケダが昭和五八年一二月末に営業を廃止したことは当事者間に争いがない。乙第八、三〇、三七、四六号証、原告本人尋問)

(4)  なお、原告は、以前から帯広信金に対し、タケダの同信金に対する債務を担保するため、本件土地につき根抵当権を設定し、その極度額は、昭和五六年四月九日に五〇〇〇万円、同年一二月一七日に六五〇〇万円に増額されているが、この根抵当権の設定は、原告の連帯保証の元利額(前記認定のとおり、昭和五八年九月二九日現在では元本額五五〇〇万円)にほぼ見合う額に定められていること及び前記認定のとおり昭和五八年一一月三〇日の一五〇〇万円の追加融資に当たり五〇〇〇万円の根抵当権が追加設定されていることから認められるように、原告の連帯保証額とは別枠のものとして加算されるべきものではないと考えられる。

(乙第八号証、原告本人尋問)

(二)(1)  以上に認定の事実によれば、タケダは、昭和五二、三年ころから累積赤字を抱え、帯広信金から債務整理のため本件土地の売却等を勧められていたとはいえ、多くの従業員を雇用し、営業を続けていたものであり、その累積赤字額も昭和五八年以前は一六〇〇万円程度で推移していたことからすると、受注難に加え受取手形の不渡りによる代金回収不能が生じた昭和五八年一一月以前においては、タケダに弁済能力がなく、しかも、原告がそのことを知っていたと解することはできない。しかしながら、遅くとも昭和五八年一一月二六日(乙第三〇号証参照)には、原告はタケダに弁済能力がないことを知っていたものと認められる。

したがって、所得税法六四条二項の適用がある額は、昭和五八年九月二九日の連帯保証額五五〇〇万円及びその利息額と昭和五六年一二月一七日設定の根抵当権の極度額六五〇〇万円とのいずれか高い額の限度内であると考えられる。

(2)  被告は、<8>の昭和六〇年五月三一日の保証が新たな保証であるから、所得税法六四条二項の適用はない旨主張するけれども、乙第九号証の昭和六〇年五月三一日付けの保証約定書に昭和五三年一月一三日からの連帯保証人一覧表が付いていることからも明らかなように、昭和六〇年五月三一日の保証は、新規の連帯保証契約を締結したのではなく従前の連帯保証契約の限度額の増額と同視できるものであるから、五五〇〇万円とその利息の限度内で所得税法六四条二項の適用があると解することの妨げとはならない。

また、昭和六〇年六月一一日の九一〇〇万円の貸付けも従来の貸付額に利息等を加算して新たに貸し付けた形にしたにすぎないものと認められ(乙第一九、三七号証、原告本人尋問)、所得税法六四条二項の適用上は弁済能力喪失後の新たな貸付けとみなすべきものではない。

4  利息の計算

(一)  乙第一九号証によれば、昭和五八年一一月三〇日の一五〇〇万円の貸付けにより貸付総額が、手形割引分を除いても原告の保証の元本限度額である五五〇〇万円を超えたことが認められるから、五五〇〇万円に対する昭和五八年一一月三〇日以後の利息を算出することとする。

(二)  乙第二九、第三〇号証によれば、昭和五八年一一月三〇日から同五九年五月一五日まで(乙第三三号証)の利率が少なくとも年九パーセントであったことが認められるから(昭和五九年一月一日以降の利率については当事者間に争いがない。)、右期間における利息は二二七万三三一六円となる。

五五〇〇万×〇・〇九÷三六五×三二+五五〇〇万×〇・〇九÷三六六×一三六=二二七万三三一六

(三)  昭和五九年五月一六日から同年一二月二六日までの利率が年八・七五パーセントであったことは当事者間に争いがないから、右期間における利息は二九五万八五〇四円となる。

五五〇〇万×〇・〇八七五÷三六六÷二二五=二九五万八五〇四

(四)  昭和五九年一二月二七日から同六〇年一〇月二日までの利率が年八・二五パーセントであったことは当事者間に争いがないから、右期間における利息は三四八万〇六五一円となる。

五五〇〇万×〇・〇八二五÷三六六×五+五五〇〇万×〇・〇八二五÷三六五×二七五=三四八万〇六五一

(五)  昭和六〇年一〇月三日から同六一年二七日までの利率が年七パーセントであったことは当事者間に争いがないから、右期間における利息は一五六万一〇九五円となる。

五五〇〇万×〇・〇七÷三六五×一四八=一五六万一〇九五

(六)  乙第一〇号証及び第二九ないし第三五号証によれば、昭和五八年一一月三〇日から同六一年二月二七日まで継続して信用保証協会の保証付きの二口の貸付け合計一二〇〇万円が存在し、その保証料は年一パーセントであったことが認められるところ、右保証料分も原告の連帯保証の効力が及び、所得税法六四条二項の適用があると解すべきであり、その額は二六万九五八九円となる。

一二〇〇万×〇・〇一×(二+三六五分の九〇)=二六万九五八九

(七)  以上を合計すると、一〇五四万三一五五円となり、元本と合わせると六五五四万三一五五円となる。

五  他の保証人に対する求償について

1  被告の主張8(一)の事実は、当事者間に争いがない。

2  負担割合についての合意の有無

(一)(1)  前記のとおり、タケダは、昭和四〇年四月に洋家具の製造販売等を目的として設立されたが、タケダの前身であった北日本工業株式会社(以下「北日本工業」という。)が倒産したため、原告は、当初は実質的な経営者として、昭和五〇年ころからは名実ともに代表取締役としてタケダの経営を行っていた。

(乙第七号証、証人吉沢証言、原告本人尋問)

(2)  吉沢は、藤丸デパートに勤務し、取締役なども勤めたが、戦後間もなく右デパートに製品を納入していた原告と知り合い、以後、原告の仲人となるなど、原告と親しく交わっていた。

タケダの決算書類等には、吉沢がタケダの株主である旨の記載があるが(乙第三八ないし第四一号証)、吉沢がタケダのために出資したことはなかった。また、吉沢は、タケダの取締役として登記されているが(乙第七号証)、タケダの経営に関与したことはなく、取締役としての報酬を受け取ったこともなかった。ただ、タケダの資金繰りが苦しいとき、原告の求めに応じ、しばしば資金を融通し、また、帯広信金に対し、タケダの連帯保証人となっていた。

(乙第八、一三、四六号証、証人吉沢証言、原告本人尋問)

(3)  右のように、吉沢がタケダのために保証人となったのは、大分以前からのことであるが、原告は、更新の都度(乙第九号証参照)吉沢に対し、本件土地を担保に入れているし、迷惑をかけることはないから保証人になってほしい旨を依頼し、吉沢もその都度この求めに応じていた。

(乙第四五、四六号証、証人吉沢証言、原告本人尋問)

(4)  助川は、職業訓練校卒業後、北日本工業及びタケダに勤務し、原告の下で家具職人として働いていた。

助川は、タケダの工場長として勤務し、家具職人としての腕を買われて昭和五六年ころで月二五万円の給料を得ていたが、タケダの取締役になったことはなかった。また、タケダの決算書類等の中には、助川がタケダの株主である旨の記載があるが(乙第三八ないし第四一号証)、同人がタケダの株主となったことはなかった。

(証人助川証言、原告本人尋問)

(5)  助川は、昭和五六年ころから、タケダの帯広信金に対する債務の一部につき保証しており、その額は昭和五八年一一月現在で一二〇〇万円であるが、助川が保証人となった理由は、信用保証協会の要求する保証人数及び保証人の年令等にあった。

(乙第九、二三ないし二五、三〇、三七号証、証人助川証言、原告本人尋問)

(6)  原告は、昭和五六年ころ、助川に保証人になってくれるよう依頼した際、本件土地を担保に入れているから迷惑をかけない、名義だけ貸してほしい旨を述べ、助川は、タケダの従業員である立場上やむなく保証人となることを承諾したが、原告の説明で自分に負担がかかってくることはないものと考えていた。

(乙第四四号証、証人助川証言、原告本人尋問)

(7)  なお、甲第一号証の書面は、日付欄も空白となっており、助川も昭和六三年一〇月に国税審判官から質問された際その存在に言及していないこと(乙第四四号証)からすると、本件各処分の後に作成されたのではないかとの疑いが残るといわなければならない。

しかし、甲第一号証の書面が後日作成されたものだとしても、そのことは、原告と助川との間で口頭で負担割合についての合意があったことを認定する妨げにはならないことに注意すべきである。

(二)(1)  以上の事実によれば、タケダは、原告の個人会社ともいうべきものであり、吉沢は友人として保証人になっていたものと認められるから、原告が吉沢に保証人になってくれるよう依頼した際、原告の負担部分を一〇〇、吉沢のそれを零とする黙示の合意が結ばれたと認めるべきである。

(2)  助川についても、助川はタケダの工場長とはいえ従業員の立場で保証人となったものであるから、同じく、原告の負担部分を一〇〇、助川のそれを零とする黙示の合意が結ばれたものと認められる。

(3)  したがって、前記4(七)で認定した六五五四万三一五五円が所得税法六四条二項の適用のある額となる。

六  結論

以上によれば、本件各処分は、総所得金額八三万二二〇八円、分離短期譲渡所得金額(損失)七六〇万三八六六円、分離長期譲渡所得金額三八二一万九〇八一円を基礎として計算された税額を超える部分は所得を過大に認定した違法があり、取り消されるべきである。

よって、原告の本訴請求は右の限度で理由があるからこれを認容し、その余の部分は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 市川正巳 裁判官 牧真千子 裁判官 千葉和則)

物件目録

(一) 所在 帯広市西三条南四丁目

地番 二番一

地目 宅地

地積 二五一・五〇平方メートル

(二) 所在 帯広市西三条南四丁目

地番 四番一

地目 宅地

地積 二六七・七六平方メートル

(三) 所在 帯広市西三条南四丁目

地番 六番

地目 宅地

地積 五三五・五三平方メートル

別紙1

<省略>

別紙2

分離短期譲渡所得金額

<省略>

別紙3

分離長期譲渡所得金額

<省略>

別紙4

<省略>

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