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金沢地方裁判所 昭和63年(ワ)29号 判決 1990年4月26日

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は別紙第一の図面及び写真によって表示された意匠に係るフェンス(以下「被告製品」という。)を製造販売してはならない。

第二事案の概要

一  争いのない事実並びに弁論の全趣旨及び証拠上明らかな事実

1  原告は、別紙第二の意匠公報(以下「本件意匠公報」という。)記載の登録意匠(以下「本件登録意匠」という。)の意匠権者であり、被告は、被告製品を製造販売している。

2  本件登録意匠に係る物品も被告製品も胴縁一体型メッシュフェンスであるところ、その沿革と意匠の特徴は、およそ以下のとおりである。

(一) 戦後官公庁ないし一般家庭において広く塀として用いられた菱形金網は、鉄線を菱形に編んで網とし、その上下に細長い成形鉄板や型鋼を胴縁として取り付け、左右を支柱によって、支持したものであった。近年に至り従来の菱形金網の代わりにエキスパンドメタルを用い、その上下に胴縁を取り付けたフェンスが出現し、更にエキスパンドメタルの代わりに熔接金網を用い、これに胴縁を取り付けたメッシュフェンスが登場したのである。胴縁一体型メッシュフェンスは熔接金網メッシュフェンスから発展したものであって、前者が成形鉄板や型鋼を胴縁として上下に取り付けているのに対し、後者は鉄板や型鋼の胴縁を廃止し、熔接金網の上下部の金網を延長して種々の形に成形し、胴縁の代わりとしたものであって、いわばネットの一部を胴縁としたものである。胴縁一体型メッシュフェンスは胴縁を軽量化したことによって風に対する抵抗を少なくし、開放的で軽快な感じを与えることで好評を博し、従来の菱形金網ないし熔接金網メッシュフェンスの領域に進出しつつある。胴縁一体型メッシュフェンスは、現在国内十数社が製造販売を競っている普通商品である。(ちなみに、本件を直接左右するものではないが、甲第三号証の業界紙によれば、昭和六二年当時、ネット系フェンスの総需要は二百億円前後で、うち二五パーセント前後の五、六十億円がメッシュフェンスであり、そのうちの三〇パーセントの一五ないし一八億円が胴縁一体型メッシュフェンスと推定され、メッシュフェンスに魅力的なスタイルを導入し、業界にインパクトを与えたのは、原告が昭和五五年に製品販売した「ユニフェンス」(胴縁一体型メッシュフェンス)とされている。)

(二) 胴縁一体型メッシュフェンスの意匠を各社の製品について見ると、甲第三号証を見ても判るように、ネットの形状に重点を置いたものもないではないが、胴縁の形状に重点を置くものが多数である。胴縁の形状は正面から見た場合、なかなか区別がつけ難いのであって、側面から見た場合にはじめて各社の製品の相違が明瞭にあらわれる。

(三) 胴縁の形状を側面から見るとき、ネットを中心として左右同型のものと左右異形のものとがある。前者は胴縁を含めたネット全体の表裏が同一形状になり、後者はこれが異なり、表と裏の区別が明瞭となる。本件登録意匠も被告製品も右の点は左右同型であって、同じである。もっとも、前示甲第三号証によれば、メッシュフェンスについては従前の各社製品のほとんどが左右同型であって、これをもって本件登録意匠の特徴ということはできない(原告も特にそのように主張するわけではなく、ただ被告製品との共通点として指摘するにとどまるものと解される。)。

(四) かくして、胴縁一体型メッシュフェンスの意匠の同一、類似ないし侵害を論ずるときには、基本的に右の胴縁の側面形状の差異をどのように評価するかにより決定されるといえる。

3  しかるところ、本件登録意匠の構成は別紙第二の本件意匠公報のとおりであるが、これを文章で表現すればほぼ次のとおりである。

(一) フェンスは、横長四角形のネットとその上下部の管状の胴縁から成っている。

(二) ネットは、多数の縦鉄線とそれより少ない数の横鉄線とを直角に組合わせ、縦長の長方形の格子孔ができるように形成している。

(三) 胴縁は、ネットの縦鉄線の上下両端をそれぞれ延長し、側面から見て、別紙第二中の右側面図のような偏平四角状になるように折り曲げ、その内側に直角に数本の横鉄線を格子状に配設して、管状を形成している。一方、被告製品の意匠のうち、フェンスとネットの構成は、右(一)及び(二)の本件登録意匠の構成と同一である。また、右(三)の本件登録意匠の構成のうち、胴縁がネットの縦鉄線の上下両端を延長し、これを折り曲げて、その内側に直角に数本の横鉄線を格子状に配設して、管状に形成されていることも、被告製品の意匠の構成と同一である。しかし、以上の点は、いずれも本件登録意匠の出願日(昭和五八年一〇月二八日)以前から公知の意匠であって、本件登録意匠が創作した意匠とはいえないので、その特徴的な部分(要部)を構成するものではない(原告においても、右が本件登録意匠の創作に係る意匠であるとは主張していない。)。

4  そこで、右3(三)のうち、胴縁の側面形状前示の偏平四角状になるように形成した点に本件登録意匠の特徴的な部分があるというべきところ、これに対し、被告製品の胴縁の側面形状は、別紙第一の中断右側の図面のような偏平五角形となるように形成しているものであり、ひいて、この点において被告製品が本件登録意匠に類似しているといえるかどうかが本件の争点である。

二  争点についての原告の主張

本件登録意匠と被告製品の意匠とを対比してみると、本件登録意匠の胴縁の側面形状が偏平四角状であるのに対し、被告製品の胴縁の側面形状が偏平五角状を呈する点において相違があるのみであって、それ以外の部分の形状はすべて同一であるということができる。

これを詳細に検討してみるに、本件登録意匠の胴縁の側面形状は、上辺と下辺とが長く、これより短い両側辺がそれぞれ下辺と直角に形成されているものである。その特徴は、左右同形であって、横長の偏平四角形であるということができる。しかも、右各直線が交わっている四隅は、いずれも丸みをもっているものである。

これに対し、被告製品の胴縁の側面形状は、下辺が長く、それより短い両側辺がそれぞれ下辺と直角に形成されており、上辺は二辺に分かれて最も短く、上辺の二辺が接する角度は鈍角(一四〇度)であり、直角よりむしろ直線に近いものである。その特徴は、左右同形であるとともに、これが五角形であったとしても、それはむしろ横長の四角形に近いような印象を与えるものである。しかも、右五角形の内側にネットの横鉄線が接着されており、そのため被告製品の胴縁の側面形状の五角は、いずれもその角が丸みをもっているような感じを与えている。

したがって、被告製品の胴縁の側面形状は、その下辺と両側辺とがその配置角度及び長さの比の点において本件登録意匠のそれと同一である。ただ、上辺は二辺から成り、本件登録意匠が一辺である点が異なるが、この二辺は、本件登録意匠の上辺を屋根状に変形して二辺としたものとみることができる。その他本件登録意匠と被告製品がいずれも左右同形であり、角が丸みをもった点でも共通している。

以上の意味において、被告製品の胴縁の側面形状は、正五角形よりむしろ偏平四角形に近いものということができ、本件登録意匠と同一とはいえなくても、共通点が多いので、被告製品の胴縁の側面形状は、本件登録意匠のそれに類似しているというべきである。

三  争点についての被告の主張

本件登録意匠の出願以前に、胴縁の側面形状が、①円形になるように形成されたもの(乙第一、二号証)、②四角形になるようにして、これがフェンスの前方又は背方にのみ突出して形成されたもの(乙第一号証)、③やや丸みを帯びた略四角状に形成されたもの(乙第三号証)、④六角形になるように形成されたもの(乙第四号証)は、いずれも公知のものであった。したがって、本件登録意匠における特徴的部分(要部)は、胴縁の側面形状がフェンスの前方または背方に突出することなく四角形に形成されているところにあり、これに限定されるものである。これは、本件登録意匠に類似するものとして登録された類似意匠を精査しても、いずれも胴縁の側面形状が四角状になるように形成されたものに限られていることからも明らかである。

ところで本件登録意匠は四辺形であって、縦横の比が約一対二で横長の印象を強く与え、その上辺も水平であって、偏平四角状の形状をなしている。

他方、被告製品の意匠は、その胴縁の側面形状が最上端(フェンスの下側にあっては最下端)にその頂点が位置するように屋根状の五角形を形成したものであり、しかも縦横の比がほぼ一対一に近いものである。

このように最上端を突出させて、フェンス上端に傾斜を設けた被告製品は、最上端が平面をなすにすぎない本件登録意匠とは著しく美観を異にする。

更に、本件登録意匠は、屋上が平面に形成され、陸屋根を有する鉄筋コンクリート建物の側面形状を採用しているのに対し、被告製品の意匠は、切妻屋根式日本家屋の側面形状を採用している。本件物品はフェンスであって、住宅その他の建物と密接な関係をもって使用されるものであって、その需要者も取引者も本件登録意匠と被告製品の意匠との特徴的な右差異を容易に識別することができるから、両者を混同することはありえない。

第三争点に対する判断

一  右第二の事案の概要(争いのない事実等や争点についての原被告の主張)から明らかなように、本件登録意匠と被告製品の意匠との類似性を判断するためには、各々の胴縁の側面形状を対比して、その類似性の存否を判断することが必要不可欠であり、また、それをもって足りると考えられる。

二  胴縁の側面形状の共通点と相違点

右第二の一の事実、別紙第一中の被告製品の写真及び図面、同第二の本件意匠公報の記載、《証拠省略》によれば、本件登録意匠と被告製品の意匠との胴縁の側面形状について、次の1の各点が共通していると認められ、また、2の点が相違していると認められ、更に相違点である被告製品の意匠についての詳細は3のとおりであると認められる。

1  共通点

(一) 下辺は、フェンスの設置される地面と水平になっている。

(二) 下辺の両端から直角に両側辺が形成されている。

(三) 鉄線で形成された形状は角形である。

(四) 角形の面積に大差はない。

(五) 各角は丸みを帯びている。

(六) 左右は対称形になっている。

2  相違点

(一) 本件登録意匠の方の上辺は、平面であって、下辺と平行になっており、上下対称となっているが、被告製品の方の上辺は、二辺に分かれていて、その左右辺が中央において突出した頂点を形成して繋がっている。

したがって、本件登録意匠の方は、四角状であり、被告製品の意匠の方は、五角状である。

(二) 本件登録意匠の方の下辺は、これに垂直な鉄線と接着しているが、被告製品の方の下辺は、これに垂直な鉄線との間に、片方においてわずかな隙間が存在している。

3  被告製品の意匠についての詳細

(一) 上辺の左右辺の形成する角度は、約一四〇度である。

(二) 下辺から両側辺が上辺に向かうまでの長さ(両側辺が垂直のため高さと同じである。)は約三五ミリメートルであり、下辺から左右上辺の頂点までの高さが約四五ミリメートルである。したがって、両側辺が上辺に向かう位置から左右上辺までの高さは約一〇ミリメートルである。

三  両意匠の類似性の存否

1  両意匠の類似性の存否を判断する前提として、本件物品であるフェンスにおける胴縁の側面形状の持つ重要性について検討する。

前記のとおり、本件登録意匠の特徴的部分は、右胴縁の側面形状にあるというべきところ、《証拠省略》によると、被告の主張のとおり、本件登録意匠の出願前に、胴縁の側面形状につき、①円形になるように形成されたもの、②四角状になるようにして、これがフェンスの前方又は背方にのみ突出して形成されたもの、③やや丸みを帯びた略四角状に形成されたもの、④六角形になるように形成されたものが公開実用新案公報や意匠公報に掲載されていたことが認められ、このように本件登録意匠の出願以前に胴縁の側面形状につき各種の形が公知となっていたものであるから、本件登録意匠によって保護されるべき(換言すれば、本件登録意匠が「創作」したというべき)胴縁の側面形状の意匠は、相当程度限定されたものであったと考えるべきである。

一方、本件物品である胴縁メッシュフェンスは、通常、敷地を周囲から分離する目的をもって地面に設置されるものであり、その用法に鑑みても、とりわけその胴縁の上辺の形状は、人目にもつきやすく、その形状の相違によって相当美観を異にし、住宅の意匠等との適合の面でも重視される点であると考えられる。胴縁一体型メッシュフェンスの各社製品の意匠の重点が、ネットの形状よりも胴縁の形状に置くもののほうが多いのも、けだし当然である。

2  以上の観点に立って考察すると、被告製品の胴縁の側面形状の上辺が二辺に分かれて、その中央において突出して頂点を形成していることは、本件登録意匠の胴縁の側面形状が平面であることとの対比において、美観を異にしていること明らかである。

そして、被告製品の上辺の二辺が形成する角度は前記のとおり約一四〇度であって鋭角ではないが、鋭角との分岐点である直角の九〇度と平面(直線)である一八〇度との対比においては、なお、これが直線に近いものと評価することは困難である。更に、上辺の二辺が繋がっている頂点の両側辺上部からの高さは約一〇ミリメートルであって、下辺からの高さ約四五ミリメートルと対比しておよそ二二パーセント(両側辺の約三五ミリメートルと対比すると二八パーセント)突出しているというべきであるから、やはり、上辺の二辺が胴縁の側面形状の全体の中で直線に近いものと評価することは困難である。

以上のとおり、被告製品の胴縁の側面形状は五角状と評価して差し支えないこと明白であり、胴縁側面の形状が四角状の本件登録意匠とは明らかに形状及び美観を異にしており、両意匠が一般顧客をして混同されるおそれはないものというべきである。そして、両意匠の共通点(一)ないし(六)も、右結論を左右するに足りるものではない。

四  なお、本件登録意匠の類似意匠との関係について検討しておく。

類似意匠もこれが登録されると、その意匠権が本意匠権と合体するものではある(意匠法二二条)が、類似意匠制度は、登録意匠の類似範囲を明確にするためのものであると解されるから、その限りにおいて本件登録意匠の類似意匠について検討すべきである。

ところで、《証拠省略》によれば、本件登録意匠の類似意匠として八個が登録されているところ、とりわけ類似二及び類似五の各類似意匠は胴縁の側面形状の下辺及び両側面については、本件登録意匠とほとんど異なった点が見受けられないが、上辺については、なだらかな山状を形成しており、必ずしも直線状ではないという意味において、被告製品の胴縁の側面形状の上辺と共通する点のあることが認められる。しかし、右類似意匠の上辺の山状は、極めてなだらかなものであり、かつあくまで山状であって上辺が角度をもって繋がっていないことに照らせば、その側面形状はなお四角形(若干丸みを帯びた偏平四角形)の範囲にあり、この点において本件登録意匠の類似意匠とされているものと認められ、結局、右各類似意匠を参酌しても、本件登録意匠の権利範囲は、胴縁の側面形状が四角状の形状及び変形にとどまるものとしか認められず、被告製品がその範囲外にあるというべきことは動かない。

五  以上の次第であって、本件登録意匠によって原告が創作した意匠は、右類似意匠を参酌しても、胴縁側面の形状を四角状及びその変形にした美観にあり、これに限局されるものというほかないところ、被告製品は、その胴縁が明らかな五角形であって、右原告創作に係る意匠と明らかに美観を異にし、フェンス胴縁の側面形状に着目する一般顧客(これに着目しない一般顧客との関係では原告創作に係る意匠は何の意味もないことは論ずるまでもない。)が両者を混同することもあり得ないといえる。よって、被告製品の製造販売は、本件登録意匠に係る原告の意匠権を侵害するものと認められないので、原告の請求は失当である。

(裁判長裁判官 伊藤剛 裁判官 塚本伊平 松谷佳樹)

<以下省略>

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