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那覇家庭裁判所 昭和48年(家イ)70号 審判 1974年1月30日

住所 沖縄県コザ市

申立人 大沢明信(仮名)

右法定代理人親権者母 大沢厚子(仮名)

本籍・住所 沖縄県コザ市

相手方 山下正(仮名)

主文

相手方は申立人を認知する。

理由

1  申立人は、主文同旨の審判を求め、その事由として述べる要旨は、

(1)  申立人の母大沢厚子は一九五四年(昭和二九年)ころ、当時神奈川県在の○○基地に勤務していた申立外国籍アメリカ合衆国(オハイオ州出身)ジョン・ハリス(以下ハリスと称す)と知り合い、一九五六年(昭和三一年)一二月二八日婚姻したものであるが、上記ハリスは一九六〇年(昭和三五年)ころから酒浸りのため性的不調が生じ、一九六六年(昭和四一年)ころからアルコール中毒によるインポテンツ(勃起不全)になつて性交不能となり、夫婦間に険悪な状態が生じたので母厚子は一九七一年(昭和四六年)八月から那覇市○町に別居し、爾来同人とは事実上離婚状態になり、その後昭和四八年一月一七日上記ハリスと当庁コザ支部の調停により離婚した。

(2)  ところが厚子は、上記ハリスと別居する以前(一九七一年(昭和四六年))六月ころから相手方山下正と知り合い同年一一月ころから母厚子の上記肩書地において同棲生活に入り、相手方との間に一九七三年(昭和四八年)二月二二日申立人を分娩し、同年五月一五日相手方との間に正式に婚姻届がなされた。

以上のように申立人は真実母厚子と相手方との間に出生したものであるにかかわらず、申立人は出生当時母である上記厚子と上記ハリスとの間にはなお法律上婚姻が継続(婚姻解消後三〇〇日内の期間)していたため、申立人は上記母厚子と上記ハリスとの間の嫡出子であるとの推定を受けることになり、今日まで出生届が未了のままである。よつて申立人は相手方の認知を得て相手方と母厚子との間の嫡出子として出生届出のうえ戸籍に登載されたく本件申立におよんだというのである。

2  本件について昭和四八年七月一八日に関かれた調停委員会の調停において相手方が申立人を認知することについて当事者間に合意が成立し、その原因についても争いがないので、当裁判所は、記録添付の戸籍謄本、その他資料並びに当庁調査官大城正喜の調査報告書および母厚子、相手方らの各審問等によつて、必要な調査をしたところ、申立人の上記主張どおりの事実が認められる。

3  ところで法例第一八条によつて、子の認知の要件は、その父に関しては認知の当時父の属する国の法律により、その子に関しては認知の当時子の属する国の法律によつてこれを定めるべきであるから、相手方について日本民法によるべきであり、また申立人は国籍を有していないので、申立人についても法例第二七条二項によつてその住所地法である日本民法によるべきであつて、結局のところ、本件認知の要件は、日本民法によるべきこととなる。

日本民法によると、被認知者は嫡出でない子でなければならないから(民法七七九条)、相手方が申立人を認知するためには、申立人が嫡出でない子であることを要する。そして法例第一七条によると、子が嫡出であるか否かは、その出生の当時母の夫の属した国の法律によつてこれを定めることになつているのであるが、本件申立人の出生当時、母である上記大沢厚子は上記認定のとおりアメリカ合衆国の国籍を有する上記ハリスとの間になお法律上婚姻関係(婚姻解消後三〇〇日以内の出生)を継続していたのであるから、申立人が嫡出であるか否かは、上記ハリスの属したアメリカ合衆国オハイオ州の法律によつて定まることになるが、オハイオ州の嫡出の推定に関する明文の規定が見当らないが、同州の判例によれば、婚姻中に懐胎あるいは出生した子は嫡出子と推定され、この推定は、子の懐胎時において夫婦関係のなかつたことの明確な証拠により覆すことができるとされているようであり(昭和四八年一〇月二八日付最高裁家二第二四五号(訟ろ-七)最高裁判所家庭局長回答)また、アメリカ理論法律学第二版第一〇巻第一五節婚姻解消、離婚、別居後に出生した子供の嫡出性の推定についても上記判例と同様の規定があつて、明白な証拠によつて証明されれば、嫡出の推定は覆すことができることが認められている。

そうだとすると、本件申立人は一応母大沢厚子と上記ハリスとの間の嫡出子であると推定されるが、申立人が相手方に対し認知を求め、申立人が嫡出子であるか否かが問題となつている本件調停において、この推定を争いうるものと解せられ、大沢厚子が申立人を懐胎した当時上記ハリスが、大沢厚子と交渉をもちえないことならびにことの性質上同人が申立人の父でありえないことは上記認定事実のとおり明らかであり、したがつてこの推定は完全に覆えされ、申立人は、母大沢厚子と相手方との間に儲けられた嫡出でない子であるといわなければならない。

そうだとすると、申立人が相手方に対して認知を求めその間に父子関係を確定せんとする本件申立は、日本民法によりすべて認知の要件をみたしているので、理由があるというべく、当裁判所は、調停委員佐久本永伯、同宮城フミの意見を聴いたうえ、家事審判法第二三条に則り主文のとおり審判する。

(家事審判官 前鹿川金三)

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