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那覇地方裁判所 平成3年(行ウ)3号 判決 1994年12月14日

原告

阿波根昌鴻

阿波根喜代

右原告ら訴訟代理人弁護士

新垣勉

阿波根昌秀

仲山忠克

池宮城紀夫

島袋勝也

伊志嶺善三

藤井幹雄

原告ら補佐人

加藤俊也

被告

名護税務署長

宮城秀雄

右指定代理人

有賀文宣

外一一名

主文

一  被告が、原告阿波根昌鴻の昭和六二年分所得税にかかる更正の請求について、平成元年四月五日付けでした更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り消す。

二  被告が、原告阿波根喜代の昭和六二年分所得税にかかる更正の請求について、平成元年四月五日付けでした更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り消す。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

主文と同旨

第二  事案の概要

一  争いのない事実等

1  原告阿波根昌鴻の不動産収入

(一) 沖縄県収用委員会は、那覇防衛施設局が「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う土地等の使用に関する特別措置法」(以下「米軍用地収用特措法」という。)に基づき申し立てた、原告阿波根昌鴻(以下「原告昌鴻」という。)所有の土地に対する二〇年間の強制使用裁決申立てに対し、昭和六二年二月二四日、次の内容の使用裁決をした。

①土地の使用法 駐留米軍用地として使用する。

②土地の使用期間 権利を取得する時期から一〇年間

③損失補償金 九四五九万二七二八円

④権利取得の時期 昭和六二年五月一五日

⑤明渡しの時期 昭和六二年五月一五日

(二) 原告昌鴻は、昭和六二年三月二五日、国から、右損失補償金を受領した。

(三) 原告昌鴻の昭和六二年分の不動産所得は、右損失補償金以外には存しない。

2  原告阿波根喜代の不動産収入

(一) 沖縄県収用委員会は、原告阿波根喜代(以下「原告喜代」という。)についても、原告昌鴻と同様、次の内容の使用裁決をした。

①土地の使用方法 駐留米軍用地として使用する。

②土地の使用期間 権利を取得する時期から一〇年間

③損失補償金 二二九〇万六六九二円

④権利取得の時期 昭和六二年五月一五日

⑤明渡しの時期 昭和六二年五月一五日

(二) 原告喜代は、昭和六二年三月二五日、国から、右損失補償金を受領した。

(三) 原告喜代の昭和六二年分の不動産所得は、右損失補償金以外には存しない。

3  確定申告と更正処分

(一) 原告らは、昭和六三年三月一一日、右各損失補償金につき、それぞれ別紙「確定申告」欄記載の所得税確定申告(以下「本件確定申告」という。)をした。

(二) 被告は、昭和六三年八月二四日付けで、別紙「更正処分等」欄記載の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定(以下「本件更正処分等」という。)をした。

(三) 原告らは、右更正処分等に対し、原告らの確定申告及び右更正処分等には誤りが存するとして、平成元年三月八日付けで、被告に対し、それぞれ別紙「更正の請求」欄記載のとおりの更正の請求をした。

(四) 被告は、原告らの右更正の請求に対し、平成元年四月五日付けで、それぞれ更正すべき理由がない旨の通知処分(以下「原処分」という。)をした。

4  不服申立ての前置

(一) 原告らは、右各通知処分を不服として、平成元年六月五日、被告に対し、それぞれ異議を申し立てたが、被告は、同年九月二日付けでそれぞれ異議を棄却する旨の決定をした。

(二) 原告らは、右決定に不服があるとして、平成元年一〇月二日、それぞれ審査請求をしたが、国税不服審判所長は、平成三年一月七日付けで、それぞれ審査請求を棄却する旨の裁決をした。

二  争点

1  原告の主張

(一) 本件損失補償金収入の帰属年について

本件損失補償金は、強制使用裁決により国が原告らの土地につき使用権を取得したことに伴い、昭和六二年五月一五日から一〇年間の土地の使用という役務に対する対価、すなわち賃料の前受けとしての性格を有するものである。

そして、本件損失補償金中、昭和六二年分の強制使用の対価たる性質を有する金員は、原告昌鴻については六七九万五二二六円、原告喜代については一六四万五五三九円であり、右を超える部分の損失補償金については、次年以降の損失補償金の前受収益と解すべきものであり、昭和六二年分の不動産所得とすべきものではない。

にもかかわらず、被告は、原告らの損失補償金の全額を、昭和六二年分の不動産所得の総収入金額に算入して所得及び税額を計算した更正処分等をしたが、その税額は、原告昌鴻につき二七一六万六〇〇〇円、原告喜代につき六六九万七〇〇〇円過大であり、違法である。

そして、原処分は、右更正処分等を適法なものと判断したのであるから、これもまた違法である。

(二) 長期譲渡所得課税(所得税法三三条一項、同法施行令七九条)の適用

仮に、被告の主張どおり、本件損失補償金の全額が、本件使用裁決によって取得する使用権取得の対価に該当し、昭和六二年分の所得として計上されるとしても、同使用権の取得は、いわゆる借地権の設定と同視すべきものであるから、譲渡所得課税の適用を受けるものである。

すなわち、建物もしくは構築物の所有を目的とする土地の使用の権利であり、対価としての権利金の額がその土地の価額(更地の時価)の二分の一を超える場合は、譲渡所得に該当し(所得税法三三条一項、同法施行令七九条)、その年の一月一日において、所有期間が一〇年を超えるものについては、長期譲渡所得として他の所得と分離して課税されることとなる。

そして、原告らの本件使用裁決にかかる土地について、国土利用計画法の標準価格又は地価公示法による公示価格と相続税評価額との比準により土地の時価を算出する方法(以下「公示価格比準法」という。)により算出した土地の価額と、収受した本件補償金の額とを比較すると、以下のようになる。

原告昌鴻 八七二三万五四三六円

補償金 九四五九万二七二八円

原告喜代 一八六〇万七六二五円

補償金 二二九〇万六六九二円

右のとおり、補償金は両名とも土地の価額を上回っており、公示価格比準法に基づき算出された価額は、実際の取引価額よりいくらか下回る価額となるという公知の事実を考えれば、本件補償金の額が、土地の価額の二分の一を上回っていることは明らかである。そして、原告らは、いずれも本件土地を一〇年を超えて所有しており、長期譲渡所得の適用がある。

したがって、本件損失補償金について、長期譲渡所得として計算すれば、課税額は、原告昌鴻について一九三一万四八〇〇円、原告喜代について四〇八万六二〇〇円となり、いずれも被告のした更正処分による税額を下回ることとなるため、被告の更正処分は右課税額を差し引いた過大税額分(原告昌鴻について七八五万一二〇〇円、原告喜代について二七〇万五三〇〇円)は取り消されるべきである。

(三) 合算課税の違法性

仮に、原告らの前記(一)(二)の主張が認められないとしても、本件更正処分等及び原処分は、合算課税を適用している点で違法性がある。

すなわち、所得税法九六条ないし一〇一条の合算課税の規定は、法的に人格を異にする原告らの不動産所得について、合算して課税を行うものであり、国民の個人の尊厳、財産権を保障した憲法一三条及び二九条に違反し、違憲無効である(なお、右合算課税の規定は、昭和六三年に削除改正された。)。

仮に、所得税法の合算課税を定めた条項自体は合憲であるとしても、右規定の本来の目的は、資産所得の特質から租税負担の公平を期するところにあり、被課税者が自由取引により一定額以上の所得を得たときを課税対象とする趣旨のものであり、強制使用による損失補償金については、対象としていないものと解される。なぜならば、強制使用による損失補償金は、公益的理由から強制的に強制使用期間に対応する損失補償金の一括受領を被収用者に強制し、合算課税最低限度額を超える不動産所得を生じさせるものであるから、右損失補償金について、合算課税を適用して課税することは、租税負担の公平を害することになるからである。

(四) 過少申告加算税賦課決定の違法性

原告らは、確定申告を行う際、事前に名護税務署と税務申告の仕方について再三交渉を行い、同交渉の中で更正の請求内容と同一の確定申告を行いたい旨主張したが、同署は、原告らの損失補償金の全額を昭和六二年分の不動産所得の総収入金額に算入して、所得及び税額を計算する申告しか認められない旨主張したため、原告らは、その指示に従ってそれぞれ確定申告をした。

ところが、名護税務署は、右確定申告の際には、原告らに対して何ら合算課税による確定申告をすべき指導をしていないにもかかわらず、後日、確定申告方法に誤りが存したとして更正処分等を行ったものである。

したがって、仮に、原告らの確定申告方法につき誤りが存するとしても、それは名護税務署の責に帰すべきものであるから、原告らに対し過少申告加算税の賦課決定をするのは、所得税申告手続の信義則に違反し、違法である。

(五) 課税における公平原則違反

任意に国と軍用地賃貸借契約を締結している地主(以下「契約地主」という。)の所有地と、米軍用地収用特措法により強制使用された地主(以下「反戦地主」という。)の所有地のそれぞれの使用は、いずれも同一目的のために、同一の使用形態で使用されているものであり、その実態は、経済的実態を含めて全く同一である。両者間には、国の使用権原の根拠が契約によるのか、強制使用裁決によるのかという法的形式に違いがあるにすぎず、租税負担の公平という租税制度の精神からすれば、両者は同一に扱うべきである。

しかし、被告がした本件更正処分等によれば、原告らの総所得金額は、一億〇〇二四万〇八九八円となり、納付すべき税額は、合計三三九五万七五〇〇円となる。

これに対して、原告らが契約地主となったと仮定し、原告らが強制使用裁決書が認定した額の賃料を一年ごとに受領するとした場合、使用期間と対応する一一年間の各年の税額の現在価値を中間利息三パーセントとして算出すると、原告昌鴻分は合計一一〇六万三二二九円、原告喜代分は合計一〇四万一八二八円となり、両名の分の合計は一二一〇万五〇五七円となる。

右のとおり、本件更正処分等及び原処分の納税額は、原告らが契約地主と仮定した場合と比較して、二一八五万二四四三円も高額であり、著しい不公平が生じている。

原告らは、良心と信念に従い、国との軍用地賃貸借契約を拒否しているものであり、そのため、原告らに対し、強制使用裁決がなされ、損失補償金が支払われたものであるところ、原告らに対し、契約地主に比べて前記のような重税を課すことは、憲法一四条が保障する租税における公平原則に違反し、かつ、原告らを思想、信条により差別するもので、憲法一九条の思想、信条の自由を侵害する違法なものである。

2  被告の主張

被告の本件更正処分等の算出根拠は、以下のとおりである。

(一) 原告らの本件損失補償金収入の帰属年

本件損失補償金は、本件使用裁決により、国が本件土地を一〇年間、日本国に駐留するアメリカ合衆国軍隊の空対地射爆撃訓練場用地として使用する物権類似の権利を取得し、その反面として、原告らが本件土地を使用し、収益することができなくなったことによって被る損失に対する確定した補償として、土地収用法九五条一項の規定に基づき、国から原告らに対し、一時に支払われたものである。

この補償金は、本件土地の使用期間の経過により、逐次発生するものではないし、後年分の使用の対価(前受収益)の性質を有するものではない。

また、右にいう確定した補償とは、本件使用裁決時に本件補償金の返還が予定されていないということを意味するが、その後の事情ないし法律関係の変動等によって本件補償金が返還される可能性を否定するものではない。

原告らは、本件使用裁決により、本件土地の明渡しの期限である昭和六二年五月一五日において、本件損失補償金の全額の支払いを請求し得ることが確定し、それ以前の同年三月二五日、本件損失補償金の全額を受領することにより、現実にその利得を支配、管理し、自己のために享受していたものであるから、所得税法三六条一項に照らし、本件補償金全額が、昭和六二年分の不動産所得にかかる総収入金額に算入されることとなる。

したがって、被告は、原告昌鴻の受領した九四五九万二七二八円及び原告喜代の受領した二二九〇万六六九二円を全て昭和六二年分の不動産所得として計上した。

(二) 長期譲渡所得課税の適用の有無

本件使用裁決により、国が取得する権利は、物権類似の権利であるが、長期譲渡所得課税を適用するためには、その権利の目的が所得税法三三条一項かっこ書及び同法施行令七九条一項一号にいう「建物若しくは構築物の全部の所有を目的」としているか否かが検討されねばならない。

本件使用裁決において、土地の使用方法は、「日本国に駐留するアメリカ合衆国軍隊の空対地射爆撃訓練場用地として使用する。」と特定されている。そして、現実にも本件使用裁決にかかる土地の大部分は、射爆撃訓練場として使用されており、右土地上には、五個の建造物、管制塔及び倉庫様(木造)の建物並びに仮設の構造物である滑走路、ハリヤーパット及びテント等はあるものの、その占める割合は極めて僅少である。しかも、原告ら所有地上には建造物も構築物もないから、建物あるいは構築物の所有を目的として利用されているとは、到底いい難い。

以上によれば、本件使用裁決に基づく使用権は、建物もしくは構築物の所有を目的としているとはいえない。

更に、所得税法七九条一項一号の土地の価額とは、通常の取引価格をいうところ、本件補償金は、本件各土地の取引価格のおよそ四三パーセント程度にすぎず、右価額の一〇分の五を超えないから、本件には所得税法三三条一項の適用はない。

(三) 平均課税の適用(所得税法九〇条)

所得税法は、居住者のその年分の変動所得の金額及び臨時所得の金額の合計額等(以下「平均課税対象金額」という。)が総所得金額の一〇〇分の二〇以上である場合には、課税総所得金額から、平均課税対象金額の五分の四に相当する金額を控除した金額(以下「調整所得金額」という。)をその年の課税総所得金額とみなして計算した税額と、課税総所得金額から調整所得金額を控除した金額(平均課税対象金額の五分の四)に調整所得金額に対する右の税額の割合(平均税率)を乗じて計算した金額との合計額が、その年の総所得金額に対する合計額とする、いわゆる平均課税方式を採用している。この制度は、要するに、変動所得及び臨時所得を五年間にわたって平準化するという考え方のもとに、その五分の一のみを他の所得と合算して、累進税率の適用に服せしめ、他の五分の四には平均税率を適用して累進税率の適用を緩和しようというものである。

そして、臨時所得とは、役務の提供を約することにより一時に取得する契約金にかかる所得等で、臨時に発生する所得のうち政令で定めるものをいい、具体的には、専属契約によって支払いを受ける一時金のような臨時に発生する所得のうち政令で定める一定の要件を具備するものをいう(同法二条一項二四号、同法施行令八条)とされている。

本件損失補償金は、本件使用裁決がなければ、これを他に賃貸することなどにより得ることができたであろう不動産所得の補償として支払われたものと見ることができることから、所得税法施行令八条三号の規定する、「一定の場所における業務の全部又は一部を休止し、転換し又は廃止することとなった者が、当該休止、転換又は廃止により当該業務に係る」不動産所得の補償として支払われたということができ、かつ、三年以上の期間の、不動産所得の補償として受ける補償金にかかる所得に該当するものということができるから、同号に掲げる所得に類する所得に当たるものである。

したがって、被告は、原告らの不動産所得について、平均課税の規定を適用して、原告昌鴻の不動産所得を八五一三万三四五五円、原告喜代の不動産所得を二〇六一万六〇二三円と計算した。

(四) 合算課税の適用(所得税法九六条ないし一〇一条、ただし、昭和六三年の法改正により削除された。)

資産所得合算課税の制度は、生計を一にする親族の中に資産所得(利子所得、配当所得、不動産所得)を有する者がいる場合には、これらの者の中で、資産所得以外の所得が最も多い者(主たる所得者)が、自己の所得のほかその他の親族(合算対象世帯員)の資産所得を有するものとみなして計算した所得金額に、一般の税率を適用して所得金額を算出し、これを主たる所得者の所得金額及び合算対象世帯員の資産所得に応じて案分した金額を、それぞれの納付すべき税額として課税するものである。ただし、主たる所得者の所得金額及び合算対象世帯員の資産所得額の合計金額から、これらの者にかかる雑損控除の対象となる損失の金額とこれらの者の支払った医療費控除の対象となる医療費の金額との合計額を控除した金額(以下「所得合計額」という。)が一五〇〇万円以下である場合には、資産所得の合算課税の規定は適用されないものとされている。

原告らは、生計を一にする夫婦であるが、本件損失補償金として原告昌鴻が受領した九四五九万二七二八円及び原告喜代が受領した二二九〇万六六九二円は、いずれも昭和六二年分の総収入金額に算入されるべきものであるところ、確定申告にかかる不動産所得の必要経費の金額を控除し、更に、原告昌鴻については事業所得の損失の額を控除して、原告らの総所得金額を計算すると、原告昌鴻の総所得金額は七九六二万四八七五円、原告喜代の総所得金額は二〇六一万六〇二三円となり、原告昌鴻及び原告喜代には、雑損控除の対象となる損失の金額及び医療費控除の対象となる医療費の金額はないため、その合計額は一五〇〇万円を超えることとなり、原告らの昭和六二年分の所得金額の計算においては、資産所得の合算課税の規定を適用すべきこととなる。

以上から、被告は、原告らの所得税額に合算課税を適用し、納付すべき税額を原告昌鴻について二七一六万六〇〇〇円、原告喜代について六七九万一五〇〇円と計算した。

(五) 更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分

原告らの昭和六二年分の所得税額は、右のとおり合算課税の規定を適用して計算すべきところ、原告らの行った本件確定申告は、同規定を適用したものでなかったため、被告は同規定を正しく適用して所得税額を計算し、原告らに対し、納付すべき税額について、前記計算のとおり更正処分を行い、更に、原告昌鴻に対し三三万三〇〇〇円、原告喜代に対し三九万六〇〇〇円の過少申告加算税の賦課決定処分を行った。

第三  争点に対する判断

一  まずはじめに、本件補償金の全額を原告らの昭和六二年分の所得として計上し得るか否かについて検討する。

1  権利確定主義

所得税法にいう所得とは、各人が収入等の形で新たに取得する経済的価値、すなわち経済的利得を意味し、これは、財貨の譲渡もしくは役務の提供の対価である収入(収益)から、財貨の譲渡もしくは役務の提供に要した必要経費(費用)を控除したものである。

このように、収入から必要経費その他の金額を控除して所得が計算されるが、この所得がどの年分に帰属するかという問題は、結局、収入がどの年分に帰属するかという問題に帰着する。

そして、収入がどの年分に帰属するかについては、現実に収入があった時点を基準とする考え方(現金主義)と、現実の収入がなくても所得が発生した時点を基準とする考え方(発生主義)とがある。

ところで所得税法は、三六条一項において、「その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額」と定めている。

そして、ここにいう「その年において収入すべき金額」とは、その年において収入すべきことが確定し、相手方にその支払いを請求し得ることとなった金額をいうのであり、所得税法は、広義の発生主義のうち、いわゆる権利確定主義を採用したものであると解されている。

このように、所得税法が、収入の帰属時期につき、現金主義によらず、権利確定主義を採用した理由は、今日の経済取引においては、信用取引が支配的であり、たとえ現実の収入がなくても、収入すべき権利が確定すれば、その段階で所得の実現があったと考えるのが合理的であり、また、現金主義のもとでは、租税を回避するため、収入の時期を先に引き延ばし、あるいは人為的にその時期を操作する傾向が生じやすいことから、収入の原因となる権利の確定した時期をとらえて課税することとしたものである。

そして、権利の確定した時期とは、財貨の譲渡や役務の提供などにより債権が確定した時期であると解すべきである。

したがって、本件補償金を当該年分の収入として計上するか否かは、本件補償金が生ずる原因となった強制使用裁決の性質、内容、その他の法律上、事実上の諸条件等を具体的に総合考慮し、財貨の譲渡や役務の提供の有無について検討する必要がある。

2  強制使用裁決の効力

駐留米軍の用に供するため土地を強制使用する場合には、米軍用地収用特措法一四条により、同法に特別の定めのある場合を除くほかは、土地収用法が適用されるところ、土地収用法によれば、起業者は、権利取得裁決において定められた権利取得の時期までに、権利取得裁決にかかる補償金を支払わねばならず(同法九五条一項)、右時期までに補償金を支払わない場合は、権利取得裁決はその効力を失い、取り消されたものとみなされる(同法一〇〇条一項)。

そして、起業者は、土地を使用するときは、権利取得裁決において定められた権利取得の時期に、裁決で定められたところにより、当該土地を使用する権利を取得し、当該土地に関するその他の権利は、使用の期間中は、行使することができないのであり(同法一〇一条二項)、右補償金の支払い等の義務が履行される限り、裁決で定められた期間中の使用権限が確定的に取得されることとなる。

また、裁決後に生じた滅失又はき損の危険は、起業者が負担すべきものと規定されている(同法一〇三条)。

3  本件使用裁決による補償金額の算出方法

一般に、使用裁決に伴う補償金額は、使用される土地及び近傍類地の地代及び借賃等を考慮して算定した事業の認定の告示の時における相当な価格に、権利取得裁決の時までの物価の変動に応ずる修正率を乗じて得た額とされており(土地収用法七二条、七一条)、公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱一九条は、使用する土地に対しては、正常な地代又は借賃をもって補償するものとしており(一項)、右正常な地代又は借賃は、使用する土地及び近傍類地の地代又は借賃に、これらの土地の使用に関する契約が締結された事情、時期及び権利の設定の対価を支払っている場合においてはその額を考慮して適正な補正を加えた額を基準とし、これらの土地の前記要綱八条の規定により算定した正常な取引価格、収益性、使用の態様等を総合的に比較考量して算定するものとする(右要綱一九条三項)とされている。

そして、甲一号証、証人冝保安浩の証言及び弁論の全趣旨によれば、沖縄県収用委員会は、本件土地について、損失補償金を算定するに当たり、まず、不動産鑑定士に原告らの土地の当時の時価及び適正賃料を鑑定させ、その鑑定の結果を尊重し、更に、近傍類地の賃料、従前の補償金額、申請者である国の申立て金額等を考慮してその補償金額を決定したことが認められ、使用裁決書(甲一号証)には、本件土地の損失補償金については、「鑑定人の評価額、近傍類地の賃料、従前の使用裁決の際の補償金、現地調査の結果等を総合勘案し、中間利息の控除率については現在の経済情勢等を考慮して年三パーセントと定め、ライプニッツ式算出方法により算出し」たと記載されている。

4  本件土地の使用態様

甲一号証、乙一三、一四号証、一五号証の一ないし五、一六号証の一、二及び弁論の全趣旨によれば、本件土地の使用裁決において決定された使用目的は、「日本国に駐留するアメリカ合衆国軍隊の空対地射爆撃訓練場用地として使用する」とされているところ、本件使用裁決の対象となった原告らの所有する本件土地は、沖縄県国頭郡伊江村北西部の伊江島補助飛行場内に存し、他の反戦地主及び契約地主の土地と一体となって、現実に、米軍基地射爆撃場として利用されていることが認められる。

5  補償金の支払い時期

昭和四二年法律第七五号による削除前の米軍用地収用特措法一〇条によれば、一年を超える土地の補償金は、これを一年ごとに分割して支払うことができるとされていた。

しかし、確実に補償金の全額を取得するという被使用者の権利強化等の観点から、右規定が削除され、現在では、権利取得裁決において定められた権利取得の時期までに補償金の全額を支払わねばならないとされている(土地収用法九五条一項)。

なお、契約地主と国との間の賃貸借契約の期間は一年であり、賃料は、一年ごとに支払われている。

6  補償金の返還について

土地収用法一〇五条一項は、「起業者は、土地を使用する場合において、その期間が満了したとき、又は事業の廃止、変更その他の事由に因って使用する必要がなくなったときは、遅滞なく、その土地を土地所有者又はその承継人に返還しなければならない。」と定め、また、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定二条三項は、「合衆国軍隊が使用する施設及び区域は、この協定の目的のため必要でなくなったときは、いつでも、日本国に返還しなければならない。」と定め、米軍用地収用特措法八条は、「土地等を使用し、又は収用する必要がなくなったときは、防衛施設局長は、遅滞なく、その旨を内閣総理大臣に報告しなければならない。」(一項)、報告を受けた内閣総理大臣は、「土地等の使用又は収用の認定が将来に向ってその効力を失う旨を官報で告示しなければならない。」(二項)と規定していることから明らかなように、米軍用地収用特措法に基づく強制使用においても、強制使用期間満了前に使用土地が返還されることが法的に予定されているものである。

ところが、裁決の定めた使用期間の中途で土地が返還された場合に、土地所有者が、既に受領している、右返還のとき以降の使用期間に対応する損失補償金の返還が必要か否かについては、明文の規定を欠いており、この点については、米軍用地収用特措法、土地収用法等の趣旨、不当利得等の法理などを考慮の上、解釈により決していくことになる。

そして、調査嘱託の結果及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

学校法人嘉数学園は、沖縄県国頭村字慶佐次弁田原五一三番四二(原野、二万八八三五平方メートル)の土地のうち、共有持分一〇分の六を所有していたところ、平成四年二月一二日付けで、同年五月一五日から平成七年五月一四日までの期間について、使用裁決がなされ、平成四年四月一〇日、右補償金として、七三五万七四二六円を受領した。

ところが、使用期間の中途である平成五年六月二四日、那覇防衛施設局長から、右土地を使用する必要がなくなったとして、同年七月一日に右土地を返還する旨の通知があり、その際、同年七月一日から平成七年五月一四日までの期間を土地の未使用期間として、その期間に対応する金額の返還を求められた。

右金額の具体的な算出方法は、以下のとおりである。

① 平成四年二月一二日の沖縄県収用委員会の裁決に基づく土地単価に使用面積を乗じた額(年額)に、裁決と同じ年利率三パーセントによる使用期間一年一か月一七日の複利年金原価率1.0938を乗じ、使用認定告示日(平成二年八月二二日)における損失補償金額二七三万九八五五円を求める。

② 右認定告示日における損失補償金額二七三万九八五五円に、土地収用法七一条に基づく権利取得裁決時までの物価変動率に応じる修正率1.0384を乗じた額二八四万五〇六五円を、使用期間に相当する損失補償金額とし、既払補償金額七三五万七四二六円から右二八四万五〇六五円を差し引いた四五一万二三六一円を、返還すべき金額とする。

以上の事実は、たとえ一定期間分の損失補償金を受領していたとしても、その期間中に土地の使用が不要になり、その返還を受けた場合には、残存期間に対応する補償金を返還することになることを示しており、その意味では、右返還にかかる補償金は、残存期間が経過しない間は、収入としては未確定であったということができる。

7  通達の存在

(一) 不動産所得における支払日基準の採用

課税実務においては、地代、家賃等の不動産所得の総収入金額は、契約等により支払日が定められているものについてはその支払日、支払日が定められていないものについてはその支払を受けた日を収入すべき時期とすることとされている(所得税基本通達三六―五(一)、いわゆる「支払日基準」の採用)。

(二) 個別通達における時間基準の採用

ところで、不動産所得のうち、不動産等の賃貸料にかかる収入金額は、前記基本通達三六―五によれば、原則として契約上の支払日の属する年分の総収入金額に算入されることになるが、個別通達において、その例外として、不動産等の貸付けが事業的規模で行われている場合で、①不動産所得を生ずべき業務にかかる取引について、帳簿書類を備えて継続的に記帳し、その記帳に基づいて、不動産の金額を計算していること、②その者の不動産等の賃貸料にかかる収入金額の全部について、継続的にその年中の貸付期間に対応する部分の金額をその年分の総収入金額に算入する方法により所得金額を計算しており、かつ、帳簿上当該賃貸料にかかる前受収益及び未収収益の経理が行われていること、③その者の一年を超える期間にかかる賃貸料収入については、その前受収益又は未収収益についての明細書を確定申告書に添付していること、以上の要件に該当するものは、所得税法六七条の二の適用を受ける場合を除き、その賃貸料にかかる貸付期間の経過に応じ、その年中の貸付期間に対応する部分の賃貸料の額を、その年分の不動産所得の総収入金額に算入すべき金額とすることができる旨定めている(個別通達「不動産等の賃貸料にかかる不動産所得の収入金額の計上時期について」(昭和四八年一一月六日付け直所二―七八通達))。

(三) 事業所得における時間基準の採用

また、事業所得において、資産の貸付けによる賃貸料で、その年に対応するものにかかる収入金額については、その末日をもって総収入の金額とすべきことを定めている(前記基本通達三六―八(六))。

(四) 返還を要しない金銭の取扱い

また、所得税基本通達三六―七において、不動産の貸付けに伴い、敷金、保証金等の名目により収受する金額について、その収入計上時期を定めている。

すなわち、貸付期間の経過に応じて返還を要しないこととなる部分の金額がある場合における当該返還を要しないこととなる部分の金額については、当該貸付けにかかる契約に定められたところにより当該返還を要しないこととなった日の属する年分の不動産所得の金額の計算上総収入金額に算入するとしている(同基本通達三六―七(二))。

8 検討

(一)  本件補償金の法的性質

(1)  被告は、本件補償金は、国が期間を一〇年間とする駐留米軍用地としての使用権を取得することの対価として、かつ、本件土地を使用できなくなったことにより生じる原告らの損失に対する確定した補償として支払われたものとみるべきであると主張する。

(2)  しかしながら、前記のとおり、本件土地は、他の反戦地主や、契約地主の土地と一体となり、駐留米軍の軍用地として使用されているものであり、土地収用法の使用裁決に基づき使用権限を取得した原告らの土地と、賃貸借契約に基づいて使用する契約地主の土地について、米軍の利用形態に何らの違いが存するわけではない。

(3)  また、一般に、土地の使用において、所有者がなす最も中心的な役務は、当該土地を使用者に使用、収益させることであるが、本件のような強制使用裁決においては、土地所有者の意思に反して強制的に使用権を設定することから、所有者と起業者との間で、私法上の合意により、所有者において、起業者に使用収益させる義務は生じないものの、土地収用法一〇一条二項によれば、起業者は、強制的に、当該土地を使用する権利を取得し、所有者は、強制的に右使用を受忍する義務を負わされ、その他の権利を行使することはできなくなるのであるから、使用裁決においても、少なくとも、国の使用を妨害しないで国の使用を容認するという限度において、役務の提供を観念することができる。

(4)  そして、原告らの補償金は、前記3認定のとおり、土地収用法七二条に基づいて、当該土地の賃料相当額を鑑定等により求め、それらを参考にして、中間利息等を控除して算出したものであり、右算出方法、同法七一条との対比等を考慮すれば、本件補償金は、本件土地についての、使用期間に対応した使用の対価を損失としてとらえ、これを補償するものということができる。

(5)  更に、土地収用法において、契約期間の中途で土地が返還された場合についての補償金の返還の有無について定めた規定はないが(なお、被告の主張する同法一〇三条は、公平の原則より滅失、き損についての危険負担を定めた規定であり、中途返還の場合の補償金の返還とは関係ない。)、前記6認定のとおり、実際に、土地を所有者に対し、強制使用期間の中途で返還した場合、補償金の一部返還を要求した事例が存し、しかも、その際の返還要求額の算出方法は、使用裁決における期間のうち、未使用期間に対応する割合の損失補償金について返還を求めていることが認められる。これは、国においても、右のような中途返還の場合については、損失補償金の返還請求権が発生するとの立場に立っていることを示すものである。

この点について、被告は、起業者と地権者との間に新たな合意が形成され、この合意に基づいて金員の返還がされたものであり、損失補償金についての返還請求権を認めた事例ではない旨主張するが、調査嘱託の結果によれば、「慶佐次通信所に所在する嘉数学園所有土地に係る補償金の返納について」と題する書面において、「貴園所有の土地について、使用期間途中において使用する必要がなくなったので、未使用分(平成五年七月一日から平成七年五月一四日までの一年一〇か月一四日分)の損失補償金については返納してもらうことになる。」、「当局から貴園に対し、財産返還通知書の発出がなされた後、貴園は当局から納入告知書の記載のとおり返納金を返納してもらうことになる」との記載が見られることからすれば、右は地権者との間で補償金の一部返還について新たな合意を形成するものではなく、未使用期間に対応する損失補償金について、返還請求権を行使したものとみるのが自然である。

(6)  また、前記のとおり、かつて補償金の支払時期は、一年ごとであったところ、その後の改正で全額を一括して支払わねばならなくなったが、これは、土地所有者が、事前に一括して全額の支払を受けるという権利強化を図ったものであって、補償金の性質は、何ら変更されていないと考えられるところ、一年ごとに支払うこと自体、土地使用の対価たる性質であることを裏付けるものである。

(7)  以上からすれば、本件補償金は、原告らがその所有する土地を一定期間国に使用させるという役務を提供することにより、その期間に対応する対価として支払われたもの、すなわち土地使用の対価であると解すべきである。

したがって、本来原告らに対する補償金は、原告らの役務の提供をまってはじめて収益が発生し、使用期間が経過するにしたがって発生していくものであり、また、その時点で権利が確定していくと解すべきである。ところで、本件において、原告らが補償金を現実に受領した時点では、原告らは役務の提供(国に土地を使用させること)を全く行っておらず、原告らは、いまだ役務を提供していない段階で、その対価だけを先に受領したものである。本件補償金が、確定的に原告らの収入としてとらえられるのは、使用期間の経過により、原告が国に対し現実に役務を提供し、補償金について経過に応じて確定した返還不要部分であると考えられ、中途で本件土地が返還されれば、右補償金のうち、返還日以降の日数に対応する部分は、国に補償金の返還請求権が認められると解される。

したがって、原告らの昭和六二年分の所得は、同年一二月三一日において、使用期間が経過し、実際に使用された同年五月一五日から同年一二月三一日までの期間に対応する金額が計上され、昭和六三年一月一日以降の期間に対応する補償金は、土地使用という役務の提供の対価の前受金たる性質を有するものと解すべきである。

(二) 通達との関係

本件補償金は、原告らがその所有する土地を国に使用させるという役務の提供に対する対価として支払われたものであると解すれば、その所得区分は、不動産の貸付けによる所得(所得税法二六条一項)として不動産所得に該当する。

ところで、前記のとおり、不動産所得については、支払日基準を採用しているところ、本件補償金は、裁決書においては支払日は明示されていないものの、土地収用法の規定上、昭和六二年五月一五日の権利取得時までには補償金が支払われることは明らかである(現に、原告らは、同年三月二五日に補償金を受領している。)ので、昭和六二年分として、補償金全額が課税対象とならないかが一応問題となる。

継続的な役務の提供に対する収益については、役務の提供に応じて収益が発生するのであるから、収入金額の計上時期については、本質的には、発生主義、実現主義の観点からみれば、合理的な企業会計基準としての時間基準が妥当するところである。

現に、企業会計を前提とした法人税の計算においては、継続的役務提供にかかる収益については、会計慣行における実現主義的観点を取り入れ、原則として期間計算の方法により損益を計上することにしている。

基本通達三六―五が右のような期間計算の考え方を採用していないのは、企業会計を前提とした法人税の所得計算と、個人の所得税においては、所得計算の目的が必ずしも同一ではないので、直ちに企業会計を前提とした考え方は導入されるものではないことや、個人の場合には、法人と異なり、継続的記帳を前提とした所得計算が採りにくいことなどを理由とする。

しかし、事業所得に該当する資産の貸付けや、不動産所得であっても、不動産の貸付けを事業的規模で行っている場合のように、法人税との類似性が認められる場合で、しかも時間基準を用いても、課税計算が特に煩雑にならない一定の場合には、時間基準を採用することとしており、場合によっては、より合理的な時間基準を採用して所得を計算する余地があるものと解される。

私人間の通常の賃貸借等においては、毎月あるいは一年ごとに賃料が支払われる場合が通常であるところ、そのような事例においては、支払日基準を採用しても、課税年分においてそれほど異なることはなく、実際上の不利益は小さいものと考えられる。

ところが、本件において、原告らの所得について、支払日基準を採用して補償金の全額について支払日の帰属する年分の課税とすれば、累進課税制度を採用する現行税制下においては、被告の主張するように平均課税を適用して所得をある程度平準化し、累進税率の適用を緩和したとしても、なお、国から一年ごとに賃料を受け取っている契約地主との間で課税額に著しい不均衡が生じることとなる。

前記のとおり、補償金の支払い時期は、土地収用法によって一括前払いが規定されているため、通常の契約と異なり、原告らには、本件補償金の受領時期及び方法については選択の余地は全くなく(前記のとおり、以前は、一年を超える長期にわたる補償金についても、一年ごとに支払う方法が認められていたところ、土地所有者の保護の観点から、廃止された。)、本件について、硬直的に支払日基準を採用し、補償金全額に一括して課税することは、課税の公平の観点から許されるものではない。

被告は、仮に、原告らに、租税の公平負担の原則と相いれない状況があったとしても、原告らは、所得税法一五二条等によって、更正の請求ができるのであり、事後的に課税の是正を図ることができる旨主張するが、前記のとおり、右課税自体が違法である以上、事後的に更正の請求ができるからといって、これを適法なものと解すことはできない。

そして、本件補償金の法的性質を考えれば、むしろ前記基本通達三六―七(二)の趣旨があてはまる場面であると考えられる。

すなわち、同通達は、不動産の貸付けに伴い、敷金や補償金として賃貸人に提供される金額のうち、一定期間を経過すれば、その全部又は一部が賃貸人に帰属することが取り決められているものについては、その実質が権利金や更新料と変わらず、不動産所得の収入金額となるものであるが、その計上時期については、返還を要しないことが確定した都度、その確定した金額を収入金額として計上すべきことを明らかにしたものである。

前述のとおり、本件土地が、期間満了前に中途で返還された場合は、未使用期間に相当する割合の補償金は、返還することを要し、その反面、使用期間に対応する割合の補償金については、返還を要しないこととなるのであるから、その返還を要しなくなった補償金は、右基本通達三六―七(二)にいう、敷金等のうち返還を要しないこととなる部分の金額と実質的に類似性が認められる。

そうすれば、本件補償金について、使用期間の経過に応じて収益が発生し、その時点で権利が確定していくと考え、当該年分の使用期間に応じた部分を収入として計上することと、右基本通達三六―七(二)により、敷金等について、当該貸付けにかかる契約に定められたところにより、当該返還を要しないこととなった日の属する年分の収入に計上することとの間には、十分整合性が認められる。

(三)  以上から明らかなように、本件補償金について、その全額を昭和六二年分の所得として計上することは、収入の計上時期を誤った違法なものであり、許されない。

二  結論

以上から、明らかなように、原処分は、本件補償金の全額を、原告らの昭和六二年分の不動産所得として総収入金額に算入して計算した本件更正処分等を、適法妥当なものとしたものであり、その余の点を判断するまでもなく違法といわなければならず、よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官木村元昭 裁判官生島恭子 裁判官村越一浩)

別紙<省略>

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