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秋田家庭裁判所 昭和49年(家)720号 審判 1974年10月31日

申立人 森正治(仮名) 他一名

主文

本件申立は却下する。

(申立の本旨及び実情)

1  申立人らは、申立人らの氏「森」とあるは「内田」と変更することを許可する旨の審判を求め、その実情として次のように述べた。

(一)  申立人正治は昭和四四年二月一九日内田良子の養子となる縁組をするとともに、同日内田良子の長女である申立人洋子と夫の氏を称する婚姻届をした。

(二)  ところが申立人正治は、同人の女性関係から妻である申立人洋子および養母内田良子との仲が悪化し、ついに養親子関係については昭和四七年三月八日協議離縁となり、森の氏に復したがその際申立人洋子も夫とともに入籍して森の氏となつた。

(三)  一方申立人らの夫婦関係については秋田家庭裁判所で夫婦関係調整事件して調整手続が行われたが不成立に終つたため、引続き申立人洋子から秋田地方裁判所に離婚の訴が提起され、申立人らの夫婦関係は訴訟によつて争われることとなつたが、昭和四九年九月申立人らの間で和解が成立したため訴は取下げられ、今後は円満に夫婦生活を続けるとともに、申立人正治は申立人洋子方の家業である内田仏壇仏具店を継承し、同店の経営者としてスタートすることになつたのでその営業上従来使用してきた内田の姓を名のりたく、本件の申立をする。

(当裁判所の判断)

1  当裁判所の事実取調の結果によれば申立人主張の事実関係はほぼこれを認めうるところ、氏は旧法下におけるような「家名としての氏」でないとはいえ、氏の表象するものは単なる個人ではなくして何等かの親族関係であり、氏の変更は原則として身分関係の変動に伴つてのみ生ずるものである。

身分行為が伴わない場合にたやすく改氏ができるとすれば戸籍の秩序または一般の権利義務に関する法的秩序に混乱が生ずるおそれがあるから、戸籍法一〇七条は氏の変更につき「やむを得ない事由」のあることを要するものとし、これは名の変更における場合の「正当な事由」に比し呼称秩序の不変化に重きを置いているところでもある。

従つてここに「やむを得ない事由」とは当人にとつて社会生活上氏を変更しなければならない真にやむを得ない事情があるとともに、その事情が社会的客観的にみても是認せられるものでなければならない場合をいうものと解すべきである。

2  これを本件についてみるに、昭和四四年三月養子縁組により申立人の氏が「内田」と改氏されたが、その後昭和四七年三月養子離縁の結果「森」の氏に戻つたのであるから、かかる短期間における身分関係の変動に伴う氏の呼称変更について、これを更に身分関係の変動を伴うことなく、縁組当時使用していた「内田」の氏に改めるということは、前記説示に照らし、たとえ個人的に如何なる事情があるにせよ、社会的、客観的にみて、「やむを得ない事由」あるものとして是認することはできない。

よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 三浦克巳)

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