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秋田地方裁判所大館支部 昭和40年(む)98号 判決 1965年7月15日

被疑者 松井勝明

決  定

(申立人 氏名略)

右の者に対する公職選挙法違反被疑事件につき、昭和四〇年七月一四日大館簡易裁判所裁判官藤本清のなした勾留決定に対し、同日右被疑者の弁護人小野寺照東から適法な準抗告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件準抗告を棄却する。

理由

本件準抗告の申立の趣旨及び理由は弁護人小野寺照東の準抗告申立書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

よつて按ずるに被疑者は逮捕後勾留質問時に至るまで本件被疑事実について終始供述を拒否しているが、検察官提出の本件各資料によれば、勾留請求書記載の被疑事実については疎明があり、被疑者がそのような犯罪を犯したと疑うに足りる相当な理由があるものとみとめられる。

そこで次に罪証隠滅のおそれの有無につき判断する。本件はさきに行われた参議院議員選挙において、秋田地方区から立候補した内藤良平の選挙運動員である被疑者が他の運動員に対し、同候補への投票取りまとめのために金員を交付したといういわゆる買収事犯であるが、本件の捜査においては、金銭の直接の受領者児玉朋司と同人とともにこれを饗応のために費消した黒沢福弥、黒沢惣一はいずれも重要な証拠方法といわなければならない。ところで本件各資料を総合すると、被疑者と同様前記内藤候補のための選挙運動をし、被疑者の意を受けて本件金員で饗応の違反行為をなした右児玉惣司、黒沢福弥、黒沢朋一は逮捕前に本件金員について捜査当局に供述しないことを謀り、黒沢福弥、黒沢惣一は捜査の当初取調官に対し虚偽の供述をしていたことを認めており、また被疑者は児玉に対し、本件金員を交付してから数日の後、黒沢惣一にあて「児玉に渡した一万円を黒沢福弥と相談して適当に処分してほしい、見たらこの紙を焼いてくれ」等と記した紙片を交付している等の事実がみとめられ、これらの事実に、前述の如く黒沢、児玉等が被疑者と同じく内藤候補を当選させるべく運動をしていたこと、更には本件事犯が選挙法違反という、直接の被害者のない犯罪であり、被疑者個人の利害に関するものではなく、選挙運動という、いわば団体、組織的活動に関する事犯であることを考え合せると、被疑者が右三名の者を含む本件買収行為の関係者に影響を与え、罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるものといわねばならない。弁護人は右三名は目下勾留中であつて自白をしているから罪証を隠滅する虞が存在しないと主張するが、未だ右三名に対する検察官の取調が終了した形跡はないし、公訴の提起の有無も明らかでなく、かりに公訴の提起があつたとしても保釈による身柄釈放は十分考えられるところであり、前記各事実に照すときは現在右三名が勾留中である一事のみをもつてしては罪証隠滅の虞なしと断ずることはできない。以上の諸点からすれば、被疑者が現在供述拒否権を行使している事実にかかわりなく、被疑者を現在直ちに釈放すれば罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるものというべきである。

よつて、刑事訴訟法第六〇条第一項第二号により被疑者を勾留する旨の決定をした原裁判は結局正当であつて、本件準抗告の申立は理由がないから同法第四三二条、第四二六条第一項によりこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 仲江利政 清野辰雄 谷口茂昭)

(別紙)準抗告の申立(略)

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