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秋田地方裁判所 昭和59年(行ウ)6号 判決 1990年11月15日

原告 近藤博

原告 鎌田幸助

右原告ら訴訟代理人弁護士 荘司昊

被告 工藤長四郎

右訴訟代理人弁護士 豊口祐一

被告 大民施設工業株式会社

右代表者代表取締役 大島民治

<ほか一名>

右被告大民施設工業株式会社及び同小玉建設株式会社両名訴訟代理人弁護士 渡部聡

被告 山岡工業株式会社

右代表者代表取締役 山岡緑三郎

<ほか一名>

右被告山岡工業株式会社及び同有限会社柴田建設両名訴訟代理人弁護士 渡辺隆

被告 工藤建設株式会社

右代表者代表取締役 工藤喜久男

右訴訟代理人弁護士 伊勢正克

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告大民施設工業株式会社(以下、「被告大民施設工業」という。)及び同小玉建設株式会社(以下、「被告小玉建設」という。)は、各自秋田県山本郡琴丘町(以下、「琴丘町」という。)に対し、金五三〇九万四二〇〇円及びこれに対する昭和六〇年三月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告山岡工業株式会社(以下、「被告山岡工業」という。)及び同有限会社柴田建設(以下、「被告柴田建設」という。)は、各自琴丘町に対し、金五〇二二万〇二〇〇円及びこれに対する昭和六〇年三月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  被告工藤建設株式会社(以下、単に「被告工藤建設」という。)は、琴丘町に対し、金八〇二万七二〇〇円及びこれに対する昭和六〇年三月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  被告工藤長四郎(以下、「被告町長」という。)は、琴丘町に対し、金一〇〇四万七六三一円及びこれに対する昭和六〇年三月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

5  訴訟費用は被告らの負担とする。

6  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告らはいずれも琴丘町の住民であり、被告町長は昭和五八年四月から琴丘町長の職にあるもの、その余の被告ら(以下、「被告会社ら」という。)は、いずれも同町発注の後記上岩川地区簡易水道新設工事を請負ったものである。

2  琴丘町は、昭和五八年八月一九日、いずれも指名競争入札の方法により、被告大民施設工業及び同小玉建設との間で左記(一)のとおりの、被告山岡工業及び同柴田建設との間で左記(二)のとおりの、被告工藤建設との間で左記(三)のとおりの各請負契約を締結した(以下、総称して「本件請負契約」という。)。

(一) 仕事の内容 琴丘町上岩川地区簡易水道新設工事のうち、第一工区に属する一切の工事

工事代金額 金二億五四〇〇万円

完成引渡時期 昭和五九年一二月二〇日(以下、「本件第一工区の工事」という。)

(二) 仕事の内容 前記簡易水道新設工事のうち、第二工区に属する一切の工事

工事代金額 金二億二二六〇万円

完成引渡時期 昭和五九年一二月二〇日(以下、「本件第二工区の工事」という。)

(三) 仕事の内容 前記簡易水道新設工事のうち、第三工区に属する一切の工事

工事代金額 金三七五〇万円

完成引渡時期 昭和五九年一二月二〇日(以下、「本件第三工区の工事」という。)

3  琴丘町は、昭和五九年六月二五日、各被告会社らとの間で、本件請負工事代金につき、次のとおり増額変更する旨合意した。

(一) 本件第一工区の工事代金額を金二億六五四七万一〇〇〇円とする。

(二) 本件第二工区の工事代金額を金二億五一一〇万一〇〇〇円とする。

(三) 本件第三工区の工事代金額を金四〇一三万六〇〇〇円とする。

4  本件各工区の工事は、いずれも昭和六〇年一月一八日までに完成し、琴丘町はこれらの水道施設の引渡しを受け、前記工事代金をそれぞれ被告会社らに支払った。

5  しかしながら、本件請負契約にはその手続き上、以下のとおりの違法があり、同契約は無効である。

(一) 指名競争入札参加者の資格を定め、これを公示する手続きをとらなかった違法

(1) 地方自治法施行令第一六七条の一一第二項、第三項によれば、指名競争入札の方法により契約を締結しようとする地方公共団体の長は、指名の実施に先立ち、あらかじめ契約の種類及び金額に応じ、工事等の実績、従業員数、資本額その他経営の規模及び状況を要件とする資格を定め、更にこれを公示すべき旨規定されている。

同規定の趣旨は、建設業法二七条の二三(建設大臣又は都道府県知事の経営事項審査)及び同条の二七(審査結果の通知)の規定と相俟って、公共工事の入札制度の合理化を図り、建設業者の能力に応じた発注により建設工事の適正な施行を確保しようとするものである。

(2) ところが、被告町長は、本件請負契約に先立つ指名競争入札の実施に際し、前記地方自治法施行令第一六七条の一一所定の資格の決定及びその公示を行うことなく、昭和五八年八月三日ころには、本件第一及び第二工区につき指名競争入札参加者の「予備指名」なるものを行い、同月六日ころ、本件第一ないし第三の全工区につき指名競争入札参加者の指名を行った。

右のとおり、被告町長が行った本件指名競争入札参加者の指名、同指名競争入札の実施、これに基づく本件各請負契約の締結の一連の手続きは、その前提となる指名競争入札参加者の資格要件の決定及びその公示の義務を怠った違法があり、本件請負契約の締結は被告町長の権限外の行為と解さざるを得ないから、本件請負契約及びこれに基づく前記工事代金の増額変更契約はいずれも無効である。

(二) 被告会社らに建設業法上の許可が存しない違法

(1) 建設業法第三条は、建設業を営もうとする者につき、同法に定める二種類の一式工事、二六の専門工事の区分に応じ、建設大臣もしくは都道府県知事の許可を受けなければならない旨定め、無許可業者は軽微工事及び附帯工事以外の工事の受注、施行を禁じられている。

(2) ところで、本件第一工区の工事は被告大民施設工業と同小玉建設の、本件第二工区の工事は被告山岡工業と同柴田建設の各共同企業体により受注、施行されたものであるが、共同企業体形式における建設業法上の許可業種と施行する工事内容との対応関係については、昭和五三年三月二〇日建設省計振発第一一号建設省計画局建設振興課長通達に定めがあり、同通達によれば、本件のようないわゆる甲型共同企業体の場合には次の二つの要件が必要であるとされている。

① 共同企業体により施行しようとする建設工事の種類の全部が構成員のいずれかの許可業種に対応していること。

② 共同企業体の各構成員についてそれぞれの許可業種の全部又は一部がその工事の種類の全部または一部に対応していること。

(3) 右の各要件に照らして本件請負工事の内容と被告会社らの許可業種との対応関係をみると、その内訳は以下のとおりであり、結局、本件請負契約は工事の種類と被告らの許可業種とが対応しておらず、その工事の種類に応じた許可を得ていない無資格業者との間で締結された違法な契約というべきである。すなわち、

① 第一工区について

同工区の工事は水道施設工事及び電気工事に該当するところ、被告大民施設工業は水道施設工事業及び管工事業の許可を得ているものの電気工事業についての許可は得ておらず、同小玉建設は土木工事業の許可しか得ていない。したがって、当該共同企業体においては、前(2)項の①、②いずれの要件も具備していない。

② 第二工区について

同工区の工事は水道施設工事に該当するところ、被告山岡工業は水道施設工事業及び管工事業の許可を得ているが、これと共同企業体を構成した被告柴田建設は土木工事業の許可しか得ていない。したがって、同共同企業体においても前(2)項の②の要件を具備していない。

③ 第三工区について

同工区の工事は水道施設工事業に該当するところ、被告工藤建設は土木工事業の許可しか得ておらず、右工事の内容に応じた許可を有していない。

(4) 無許可業者を受注者とする請負契約の効力については、建設業法第三条の趣旨が、何よりも悪質建設業者から発注者、大衆の保護を目的としたものであること、一般に工事の内容というものが公共性、公益性の強いものであること、無資格業者の工事が国民の生活に与える危険性も大きいものであること等に鑑みれば、これを無効と解すべきである。

一方、完成後の本件簡易水道施設の財産的価値は、前記工事代金額の八割を越えるものではないところ、以上によれば、本件請負契約はいずれも無効のものであり、被告会社らはそれぞれ本件各工事代金額と右簡易水道施設の価値相当額の差額である同代金額の二割相当額を法律上の原因なく不当に利得していることとなる。したがって、琴丘町は被告会社らに対し、右各不当利得返還請求権を有している。

6  ところで、被告町長は右の各違法の事実を知りながら被告会社らとの間で本件請負契約を締結し、琴丘町はこの違法、無効な請負契約の代金支払に当てるため、左記のとおりの借金をしてその利息の支払いをした。右支払利息相当額は、被告町長の右不法行為と相当因果関係にある損害として、琴丘町より同被告に対し、賠償請求し得るものである。

(一) 昭和五九年五月二五日、国から過疎対策債として金五五三〇万円を、簡易事業債として金一億六六四〇万円をそれぞれ利息年七・一パーセントの約定で借受け、同年九月二五日、前者に対する利息金一三二万三一〇九円及び後者に対する利息金三九八万一二九〇円の合計金五三〇万四三九九円を支払った。

(二) 昭和五八年一二月二七日、株式会社秋田銀行鹿渡支店から金一億七〇〇〇万円を利息年六・七〇パーセントの約定で借受け、その利息として同年三月三一日金二九九万五七二六円、同年五月二六日金一七四万七五〇六円の合計金四七四万三二三二円を支払った。

7  原告らは、昭和五九年八月一〇日、琴丘町監査委員に対し、本件請負契約の違法を示して監査請求をなしたが、同委員は原告らに昭和五九年一〇月八日付書面をもって、原告らの請求は理由がない旨の通知をした。

8  そのため、原告らは昭和六〇年三月一一日、本訴第二回口頭弁論期日において、琴丘町を代位し、被告らに対し、それぞれ前記不当利得の返還請求及び損害賠償請求をした。

9  よって、原告らは地方自治法二四二条の二第一項四号に基づき、琴丘町を代位して被告会社らに対し、不当利得返還請求としてそれぞれ請求の趣旨第一ないし第三項記載の金員及びこれに対する各請求の日の翌日である昭和六〇年三月一二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による金員を、被告町長に対し、不法行為による損害賠償として金一〇〇四万七六三一円及びこれに対する弁済期の経過した後である右同日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いをそれぞれ求める。

二  請求原因に対する認否

(被告町長)

1 請求原因1ないし4の各事実はいずれも認める。

2 同5の事実について(一)の(1)は認める。(一)の(2)のうち、原告主張のころそれぞれ予備指名、指名競争入札の執行通知、指名競争入札を行ったこと及び入札参加者の資格の公示を行わなかったことは認め、その余の事実は否認する。その主張は争う。

(二)の(1)は認める。(二)の(3)のうち、被告会社らの各許可業種の内容については認め、その余の事実は否認する。(二)の(4)は争う。

3 同6の事実のうち、琴丘町の各借入れの内容及びその利息の返済に関する事実は認め、その余の事実は否認する。

4 同7の事実は認める。

(被告大民施設工業及び同小玉建設)

1 請求原因1の事実は認める。

2 同2のうち、(一)の事実は認める。その余の事実は不知。

3 同3のうち、(一)の事実は認め、その余の事実は不知。

4 同4の事実は認める。

5 同5の事実について(一)の(1)は認める。(一)の(2)のうち、被告町長が原告主張のころそれぞれ予備指名、指名競争入札の執行通知、指名競争入札を行ったこと及び入札参加者の資格の公示をしなかったことは認め、その余の事実は否認する。その他の主張は争う。

(二)の(1)は認める。(二)の(2)のうち、被告大民施設工業と同小玉建設が共同企業体を構成し、本件第一工区の工事を受注、施行したことは認め、その余は争う。(二)の(3)の①のうち、被告大民施設工業及び同小玉建設の各許可業種の内容及び本件第一工区の工事に電気工事が含まれていたことは認め、その余の事実は否認する。(二)の(4)は争う。

6 同6のうち、本件請負契約が違法、無効であることは争い、その余の事実は不知。

7 同7の事実は認める。

(被告山岡工業及び同柴田建設)

1 請求原因1ないし4の各事実はいずれも認める。

2 同5の主張はいずれも争う。

3 同6のうち、本件請負契約が違法、無効であることは争い、その余の事実は不知。

4 同7の事実は不知。

(被告工藤建設)

1 請求原因1の事実は認める。

2 同2のうち、(三)の事実は認める。

3 同3のうち、(三)の事実は認める。

4 同4の事実は認める。

5 同5の事実について(一)の(1)は認める。(一)の(2)のうち、被告町長が原告主張のころ予備指名、指名競争入札の執行通知、指名競争入札を行ったことは認める。同町長が入札参加者の資格の決定及びその公示をしなかったことは不知。その余の主張は争う。

(二)の(1)は認める。(二)の(3)のうち、被告工藤建設の許可業種の内容については認め、その余の事実は否認する。(二)の(4)は争う。

6 同6のうち、琴丘町の各借入れの内容、その利息の返済に関する事実は認め、その余の事実は否認する。

7 同7の事実は認める。

三  被告らの主張及び抗弁

(被告町長)

1 被告町長は、本件請負契約の締結に際し、その指名競争入札参加者の資格を次のとおり定めている。すなわち、

(一) 本件第一工区については、秋田県の「建設業者等級格付名簿」(以下、単に「県の格付名簿」という。)に基づき、管工事業の許可を得ている業者のうち同名簿上Aランクとされている業者或いはこれと同等以上と認められる県外業者と土木工事業の許可を得ている業者のうちAランクとされている県内業者との共同企業体とする。

(二) 第二工区については、右格付名簿に基づき、管工事業の許可を得ている業者のうち同名簿上Aランクとされている業者と土木工事業の許可を得ている業者のうち、同名簿上B又はCランクとされている県内業者との共同企業体とする。

(三) 第三工区については、右格付名簿に基づき、土木工事業の許可を得ている業者のうち、同名簿上Aランクとされている業者とする。

2 右資格の公示については、これがなされなかったものの、琴丘町におけるこれまでの指名競争入札施行の具体的な手続内容からすると、右公示を欠いても何ら実質的弊害を生じないことや、地方自治法施行令一六七条の一一の規定の趣旨に鑑みると、同法条の手続に違反しても直ちに私法上、請負契約の効力に影響を及ぼすものではないと解されることなどから、本件請負契約は有効なものである。

3 建設業法上の許可業種と工事内容の対応について本件各工区の工事内容は、第一工区が主として管工事、第二工区が管工事及び第三工区が土木工事であって、各工区の工事を受注した被告会社らの許可業種とほぼ対応しており、何ら本件において建設業法三条違反の問題は生じないというべきである。

(被告大民施設工業及び同小玉建設)

1 被告町長は、本件第一工区の請負契約に先立ち、その指名競争入札参加者の資格を決定しており、しかも、これを公示しなかったことについては実質的な違法性がない。

(一) 本件第一工区の指名競争入札参加者の資格決定及び具体的指名に至る経緯、手続は以下のとおりである。

(1) 琴丘町の発注する請負工事の指名を希望する建設業者は、毎年三月末日までに「建設工事入札参加資格申請書」(いわゆる「指名願い」)を琴丘町に提出する。

(2) 琴丘町では右申請書を順番に受付け、「入札指名願受付簿」を作成し、これに当該業者の建設業法上の許可業種を調査確認の上記入しておく。

(3) この他、建設業者らは通常、秋田県に対してもいわゆる指名願いを提出し、同県の資格審査を受け、その結果、許可業種ごとにA、B、Cの三段階の等級格付けを受けている。この等級格付は県の格付名簿に記載されている。

(4) 琴丘町は、具体的な建設工事の入札に先立ち、建設業者を指名する際には、右県の格付名簿等を参考にして当該指名競争入札参加者の資格を定め、前記入札指名願受付簿登載の業者の中からその資格に適合する具体的な業者を指名している。

(5) 本件第一工区の工事の場合には、右入札指名願受付簿に記載されている業者のうち、管工事業の許可を得ており、かつ県の格付名簿で同業種がAランクとされている業者或いはこれと同等以上と認められる県外業者及び土木工事業の許可を得ている県内業者でかつ県の格付名簿上同業種がAランクとされている業者と資格決定された。

(二) 右資格の公示はなされなかったが、琴丘町の本件入札の指名の手続が前記のとおりであることからすれば、原告の主張する法が資格の公示を定める趣旨は十分満たされており、現実に公示をする必要性も、有効性も認められない。

しかも、琴丘町では、はるか以前から前記のような方法で入札の指名を行っており、一方、原告近藤博は前琴丘町長であるところ、その当時も現在と同様の方法、手続で指名競争入札を施行しているのであって、自ら資格の公示なるものは行っていなかったものである。

以上によれば、本件の公示を欠くことに何ら実質的違法性はない。

(三) 仮に、右公示の欠缺が違法であるとしても、

(1) 被告大民施設工業及び同小玉建設は、琴丘町が前記決定した資格の公示をしなかったことについては善意、無過失であり、何らその責を負うべきではない。

(2) およそ、地方自治法施行令第一六七条の一一は、契約締結にあたる公務員の職務上の義務を定めた規定であって、同条項の違法があっても、対外的関係において契約の無効を生じさせるものではない。

2 工事内容と許可業種の対応について

(一) 第一工区のうち、被告大民施設工業が分担した区域の工事内容は、主体が簡易水道新設工に要する配管工事及び機械器具設備工事であり、管工事業に属するものである。

なお、同区域内には、一部電気計装設備工事が含まれているが、その工事内容からすると、簡易水道新設工事を施行するのに必要な従たる工事であって、いわゆる附帯工事と解されるものである。

(二) また、被告小玉建設が分担した区域の工事内容は、主として地面の掘削工事、埋め戻し工事、舗装工事等でその実体は土木工事である。

したがって、本件第一工区の工事内容と右被告らの各許可業種とはいずれも対応していて、何ら建設業法上の違法はない。

(三) 仮に、右工事内容と被告らの許可業種との間で不一致があったとしても、建設業法第三条の規定は、当該の建設業が無許可で現実になされること自体を行政的立場から取り締まることを直接の目的とする取締規定であり、これに対する違反によって私法上の契約の効力が左右されるものではない。

3 損害の不発生について

本件請負工事により完成した水道施設には何らの瑕疵がなく、琴丘町は、被告大民施設工業及び同小玉建設に支払った代金に相当する簡易水道施設を取得しており、同町に何ら損害は発生していない。

すなわち、琴丘町は、本件指名競争入札以前に、訴外オリジナル設計に本件第一工区の工事の精算、見積りをさせ、この金額を基に同工事の予定価額を設定しているが、本件請負代金はこの予定価額の範囲内で、かつ最低の入札価額であって、正当な金額である。そして、被告大民施設工業及び同小玉建設は本件請負工事の設計書のとおり工事を施行し、琴丘町の工事検査を受け、これに合格している。更に、簡易水道工事として県の環境衛生課の検査も受けており、これにも既に合格している。

(被告山岡工業及び同柴田建設)

1 指名競争入札参加者の資格の決定、公示の欠缺の違法について

仮に、本件請負契約の前提である指名競争入札の手続において、同入札参加者の資格要件の決定、その公示の義務を怠った違法があるとしても、私法上、本件請負契約の無効をきたすものではない。

2 建設業法違反について

本件第二工区の工事が水道施設工事に該当し、一方、被告柴田建設に同業種の許可がないとしても、そもそも、建設業法第三条が行政上の取締法規であることに鑑みれば、このことをもって直ちに本件請負契約の効力が否定されるものではない。

3 相殺の抗弁

仮に、右の各違法によって本件請負契約が私法上も無効となり、琴丘町が不当利得を理由として既に完成引渡し済みの本件簡易水道施設に対する工事代金の返還を求め得るとすれば、被告山岡工業及び同柴田建設は、琴岡町の過失によって、これと同額の損害を被ることとなり、同被告らは、琴岡町に対し不法行為に基づく損害賠償請求権を有する。

したがって、右被告らは、琴丘町の本件不当利得返還請求権と同被告らの右損害賠償請求権とを対等額で相殺する。

(被告工藤建設)

1 本件請負契約の前提である指名競争入札に、同入札参加者の資格の決定、公示を欠く違法があったとしても、本件請負契約の効力に影響を及ぼすものではなく、同契約は私法上有効なものと解される。

2 建設業法違反について

(一) 本件第三工区の工事内容は浄水場築造工事、配水池躯体築造工事などの土木工事である。したがって、土木工事業の許可を有する被告工藤建設には、何ら建設業法第三条の違反はない。

(二) 仮に、右第三工区の工事が水道施設工事と解される余地があり、右被告に同業種の許可を欠く違法があるとしても、それが直ちに、私法上本件請負契約の無効をきたすものではない。

四  被告山岡工業及び同柴田建設の抗弁に対する認否

否認し、その主張は争う。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1(当事者の地位)の事実はいずれも各当事者間に争いがない。

二  請求原因2(本件請負契約)について見るに、原告と被告町長、同山岡工業及び同柴田建設間では同請求原因事実全部につき争いがなく、原告と被告大民施設工業及び同小玉建設間では同請求原因(一)の事実につき、原告と被告工藤建設間では同請求原因(三)の事実につきいずれも争いがない。

三  請求原因3(請負代金の増額契約)についても、原告と被告町長、同山岡工業及び同柴田建設間では同事実全部につき争いがなく、原告と被告大民施設工業及び同小玉建設間では同請求原因(一)の事実につき、原告と被告工藤建設間では同請求原因(三)の事実につきいずれも争いがない。

四  請求原因4(工事の完成引渡しと工事代金の支払い)の事実は、いずれも各当事者間で争いがない。

五  請求原因5(本件請負契約の違法、無効)について判断する。

1  同請求原因(一)(地方自治法施行令第一六七条の一一所定の資格の決定及び公示の欠款)について

(一)  一般に、地方公共団体の長は、指名競争入札を実施するに際し、地方自治法施行令第一六七条の一一第二項に基づいて、同入札に参加する者に必要な資格として、工事の請負等の契約につきあらかじめ、契約の種類及び金額に応じ、工事、製造又は販売の実績、従業員の数、資本の額その他の経営の規模及び状況を要件とする資格を定め、更に、同条第三項に基づき右決定した資格を公示しなければならないとされているところ、原告は、本件請負契約の前提である指名競争入札において、琴丘町長である被告町長が右資格の決定及び公示の手続を怠った違法があり、これにより本件請負契約は無効である旨主張するので、この点について検討する。

(二)  請求原因5の(一)の事実のうち、昭和五八年八月三日ころ、琴丘町長から本件指名競争入札参加者らに対し「予備指名」が行われたこと、その後間もなくして同人らに指名競争入札の執行通知がなされて正式の指名が行われたことは、いずれも各当事者間に争いがない。

右争いのない事実に、《証拠省略》を総合すれば、本件指名競争入札及び本件請負契約に至る経緯やその手続に関し、以下の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(1) 琴丘町では、毎年、同町が発注する建設工事の指名競争入札一般に参加を希望する建設業者らに対し、その行政年度の開始前である二月末日までに右各会社の過去の工事実績や経営の規模、状況等に関する事項を記載させた「指名競争参加資格審査申請書」を提出させており、これを順番に受付けた上、同申請書の記載内容を「琴丘町入札指名願受付簿」と題する帳簿(以下、「指名願受付簿」という。)に転記し、登載している。

(2) 一方、右各建設業者らは、通常、秋田県に対しても、同県実施の指名競争入札に参加を希望する趣旨で、毎年、前記と同様の資格審査申請書を提出しており、秋田県では、これに基づき、右各業者らの工事実績や経営規模等を参考に資格審査を行い、その結果、当該業者の建設業法上の許可業種ごとに、A、B、C三段階の等級格付をし、これを「建設業者の等級格付表」(「県の等級格付表」)に記載している。

(3) 琴丘町では、毎年四月ころ右県の等級格付表を入手し、同町長は、具体的な工事請負の指名競争入札を行う際には、同格付表を基本として、同入札参加者の資格基準を設定し、これに適合するものを前記指名願受付簿に登載された各業者の中から選択して右入札参加者の指名を行ってきた。

(4) 本件琴丘町上岩川地区簡易水道新設工事については、昭和五七年ころからその計画が序々に具体化し、訴外株式会社オリジナル設計事務所に同工事の設計、積算を依頼するとともに、その費用につき国庫補助の申請等各種の予算的措置を講じ、準備を進めてきたが、昭和五八年六月ころには、本件工事を第一ないし第三工区に分けて施行することとし、その後、右設計事務所の設計内容及び意見に基づいて、右各工区の工事内容につき、本件第一工区を管工事及び附帯工事としての電気工事と、本件第二工区を管工事と、本件第三工区を土木工事とそれぞれ判断した上、本件第一工区、第二工区の各工事については、琴丘町の地元業者と他の秋田県内外の業者とのいわゆる共同企業体方式で受注、施行させることとした。

そして、当時琴丘町長であった被告町長は、右工事の指名競争入札に参加できる業者の資格基準を、前記県の等級格付表に基づいて、本件第一工区については、同表の格付上管工事業がAランクとされている県内業者或いはこれと同等以上と認められる県外業者と土木工事業がAランクとされている地元業者との共同企業体とする旨、本件第二工区については同格付上、管工事業がAランクとされている業者と土木工事業がB又はCランクとされている地元業者との共同企業体とする旨、本件第三工区については同格付上、土木工事業がAランクとされている地元業者とする旨それぞれ決定した。

(5) 被告町長は、右決定した資格基準に基づいて、前記指名願受付簿記載の業者の中から、同基準に適合するものを各工区の各工事業種ごとに、それぞれ、被告会社らを含めて五、六社ずつ選び出し、昭和五八年八月三日には、これらの選定業者らに対し「予備指名」の通知を行って、当該業者らが本件指名競争入札の参加資格を有する旨通知し、かつ本件第一工区及び第二工区の各予備指名業者らに対しては、これらの中で任意に前記の資格基準に合致した形で共同企業体を組むよう、指示説明した。

(6) 昭和五八年八月六日、本件第一工区については被告大民施設工業及び同小玉建設の共同企業体を含む五組の共同企業体が、本件第二工区については被告山岡工業及び同柴田建設の共同企業体を含む六組の共同企業体がそれぞれ琴丘町長に対し、「共同企業体にする工事請負指名願い」を提出し、その後、被告町長がこれらの共同企業体及び本件第三工区の予備指名業者らに対し本件指名競争入札の執行通知を行って、同入札参加者の具体的な指名を了した。そして、同月一二日、右各指名業者ら間で本件各工区ごとに指名競争入札が実施され、その結果、本件第一工区については被告大民施設工業及び同小玉建設の共同企業体が、第二工区については被告山岡工業及び同柴田建設の共同企業体が、第三工区については被告工藤建設がそれぞれその請負工事を落札した。

以上の事実が認められる。

右の事実によれば、本件指名競争入札において、琴丘町長である被告町長が、同入札参加者に対し、県の等級格付表及び同町の指名願受付簿の各記載に基づき、工事の実績や経営の規模、状況を要件とする一定の資格を定めていたことが認められる。したがって、地方自治法施行令第一六七条の一一第二項所定の資格の決定を欠くとする原告の主張は理由がない。

(三)  他方・自治法施行令第一六七条の一一第三項が準用する第一六七条の五第二項、所定の公示については、被告町長、同大民施設工業、同小玉建設との間においては本件において右公示をしなかったことにつき当事者間に争いがなく、その他の被告らとの間において同公示の事実がなかったことは、前記認定事実及び弁論の全趣旨によりこれを認めることができる。この点、同法令の手続違反が問題となる。

しかしながら、右法令が指名競争入札参加者の資格の公示を定める趣旨は、その資格の決定を広く公示させることにより、同決定内容の合理性や公正さを担保するものであるとともに、右資格要件を満たす建設業者一般に対し、右入札参加の機会を付与するものであると解されるところ、前記の認定事実によれば、各建設業者が毎年度琴丘町に提出する「指名競争参加資格審査申請書」は、単にその資格の審査を求めるものにとどまらず、当該年度内に同町が発注する工事に対する一般的、包括的な指名願いの趣旨をも兼ねているものと認められ、琴丘町では、この申請書に従って各業者の資格内容を登載した指名願受付簿及び県の等級格付表を基本として具体的な指名競争入札における業者の選定、指名を行ってきており、これらの右入札手続きの運営方法に鑑みれば、前記決定内容の公正さの担保や入札参加の機会の保障といった右法令の規定の趣旨は概ね満たされているものと解され、本件において公示というより公共性の高い手段が講じられなかったとしても、それは軽微な手続的瑕疵と評さざるを得ない。したがって、この一事をもって直ちに、右指名競争入札に基づく本件請負契約の実体私法上の効力までも否定されるものとは到底解されず、本件請負契約は有効というべきである。

2  同請求原因(二)(建設業法第三条違反)について

(一)  およそ、建設業者は、建設業法第三条の規定により、同法別表に定める二種類の一式工事、二六の専門工事の区分に応じ、建設大臣もしくは都道府県知事の許可を受けなければならないとされ、原則として、一定の業種につき無許可の業者が軽微工事及び附帯工事以外の当該業種に属する工事の受注、施行をすることは、右法規により禁止されている。

そして、本件第一工区及び第二工区の各工事のように、いわゆる共同企業体が一体となって一つの工事を受注、施行する場合には、右建設業法第三条の許可と施行工事の種類の対応について、当該建設工事の種類の全部が右共同企業体の構成員のいずれかの許可業種に対応していること及び右各構成員の許可業種の全部又は一部がその工事の種類の全部又は一部に対応していることの二つの要件が求められていると解される(昭和五三年三月二〇日建設省計振発第一一号建設省計画局建設振興課長通達)。

ところで、原告は、本件においては被告会社らの得ている各許可業種と、本件各工事の種類とが対応しておらず、いずれも無許可業者による請負工事というべきであるとし、本件請負契約は建設業法第三条に違反して無効である旨主張するので、この点について判断する。

(二)  請求原因5の(二)の事実のうち、被告会社らの各建設業法上の許可業種について、被告大民施設工業及び同山岡工業がいずれも水道施設工事業と管工事業の、被告小玉建設、同柴田建設及び同工藤建設がいずれも土木工事業の各許可を得ていることは、各当事者間で争いがない。

そこで、本件各工区の工事の種類、内容について検討する。

《証拠省略》によれば、次の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(1) 本件各請負工事の設計書から徴しうかがえるその工事内容は、以下のとおりである。すなわち、

① 第一工区は、深井戸、取水ポンプ室築造、取水ポンプ設備、フェンス設備、導水管敷設、浄水場廻り配管、排水ポンプ設備、電気計装設備、塩素滅菌設備、送水ポンプ・送水管敷設、配水池廻り配管、配水管敷設及び消火栓設置等の各工事

② 第二工区は、配水管敷設、消火栓設置、減圧弁室築造等の各工事

③ 第三工区は、浄水場整地、浄水施設築造、量水器室築造、排水桝築造、配水池築造、フェンス設置等の各工事

(2) 本件第一工区の右工事内容のうち、電気計装設備工事とは、取水井水位計、取水流量計、同指示計・記録計、浄水池水位計、導水流量計、同指示計・記録計・積算計、配水池水位計、配水池流量計、同指示計・記録計・積算計、といったいわゆる、各水道施設における水位や流水量を検査、計測する計装機械を設置する工事であり、その工事の見積り額も、第一工区の工事費総額が金二億六二六三万九〇〇〇円とされているのに対し、当該電気計装設備工事の費用は金四八一〇万三〇〇〇円と全体額の二割に満たないものである。

(3) なお、本件各工区の工事内容の更に具体的な工事内訳けを見ると、いずれも、地面の掘削、埋戻し、残土処理、砕石基礎工、コンクリート工、型枠工、路面復旧工などいわゆる一般土木工事に属する工事も相当程度含まれている。

以上の事実が認められる。

そして、建設業法に定める別表及び同表掲記の各工事内容の概念を明らかにした昭和四七年三月八日付建設省告示三五〇号によれば、右認定事実のとおり、本件各請負工事はいずれも主として、上水道のための取水、浄水、配水等の施設を築造する工事といえ、同別表上の水道施設工事に該当する工事と解せられるものである。しかしながら他方、前記認定事実によれば、本件各工事内容の中には、いずれもいわゆる土木工事と見られる工事もかなりの程度含まれていることや、本件簡易水道新設工事が琴丘町の上岩川地区、鹿渡地区等広範囲にわたる簡易水道施設の設置という、かなり大規模な工事であって、総合的な企画、指導、調整のもとに当該水道施設を建設する工事であると認められることに鑑みれば、本件各工区の工事とも、右別表に定める、総合的企画、指導、調整のもとに土木工作物を建設する工事である土木一式工事も複合的に組合わされているものと解される。

なお、本件第一工区の工事内容のうち、電気計装設備工事については、前記認定事実にある同工事の具体的内容に徴すれば、いわゆる水道施設工事に付随した工事と評されることや、費用面等における第一工区の工事全体中に占める同工事の比重に照らせば、建設業法第四条所定の「附帯工事」に該当するものといえ、右水道施設工事業等の許可を得ていれば、別途独自にその許可を得ていなくても、当該工事を請負うことができるものと考えられる。

(三)  以上、本件各工区における被告会社らの許可業種と工事の種類の対応関係を見るに、第一工区及び第二工区の各工事は、前記認定のとおり、いずれも水道施設工事と土木一式工事が複合的に組合わされたもの(但し、第一工区には附帯工事として電気設備工事も含まれている。)と認められ、一方、これをそれぞれ受注、施行した第一工区の共同企業体構成員である被告大民施設工業及び第二工区の共同企業体構成員である被告山岡工業は、いずれも水道施設工事業の、更に、右各共同企業体の他方の構成員である被告小玉建設及び被告柴田建設は、いずれも土木工事業の各許可を得ており、右各工区とも、その工事の種類の全部が共同企業体構成員らの許可業種に対応しているとともに、右各構成員の許可業種がその工事の種類の一つに対応している関係にあって、施行業者の許可業種と工事の種類の不一致という違法の事実はないというべきである。

したがって、本件第一工区及び第二工区の各工事に関して建設業法違反をいう原告の主張は理由がない。

(四)  他方、本件第三工区については、被告工藤建設には土木工事業の許可があるのみで、水道施設工事業の許可がなく、この点、施行工事の種類と完全に対応していないという、建設業法第三条違反が問題となる。

しかしながら、前記認定のとおり、本件第三工区の工事内容は、実質上、土木工事と見られる工事が相当程度の比重を占めており、右許可業種と工事の種類との間の不一致の程度はさほど重大なものとはいえないこと、更に、およそ建設業法の立法趣旨が、建設業を営む者の資質の向上、建設工事の請負契約の適正化等を図ることによって、建設工事の適正な施行を確保し、発注者を保護するとともに、建設業の健全な発展を促進し、もって公共の福祉の増進に寄与することを目的としている(同法第一条)ことに照らせば、同法第三条の規定は、建設業が無許可で現実になされること自体を行政的立場から取締まることを直接の目的とする、いわゆる取締法規にすぎず、直ちに同法条の違反行為の私法上の効果までをも否定する趣旨と解すべきではない(東京高裁判決昭和五一年五月二七日参照。)。

これよりすれば、琴丘町と被告工藤建設間の本件第三工区の請負契約が右法条に違反して無効であるとする原告の主張も、また理由がないというべきである。

3  以上、本件請負契約の違法、無効を主張する請求原因5はいずれも理由がなく、したがって、その余について判断するまでもなく、原告の請求原因は失当である。

六  結論

以上によれば、本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 秋山賢三 裁判官 加々美光子 川本清巌)

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