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秋田地方裁判所 昭和54年(ワ)459号 判決 1981年7月07日

原告

田口リヱ

ほか二名

被告

第一貨物自動車株式会社

ほか一名

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨(原告ら)

1  被告らは、各自、原告らに対し、各金三〇万円及びこれらに対する被告第一貨物自動車株式会社は昭和五四年一二月二八日から、同大江猛は昭和五四年一二月三〇日から、各支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁(被告ら)

主文同旨。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

訴外亡田口慶助(以下、「慶助」という。)は、昭和五四年四月一八日午後一一時八分ころ、秋田市寺内字神屋敷二九〇番地先路上(国道七号線)を、原動機付自転車を運転して、土崎方面から茨島方面へと進行中、同所に停止していた大型貨物自動車(以下、「本件自動車」という。)の後部に追突し、脳挫傷、頭蓋・顔面骨骨折等の傷害を負い、翌一九日、同傷害により死亡した(以下、「本件事故」という。)。

2  被告らの責任

(一) 被告大江猛(不法行為責任)

被告大江は、交通量も多く特に夜間は暗くて危険なため駐車禁止とされていた本件事故現場に、本件自動車を違法に駐車させていた。本件事故は同被告の右過失により発生したものである。

(二) 被告第一貨物自動車株式会社(以下、「被告会社」という。)

(1) 使用者責任

被告会社は、貨物運送業を営む会社であり、同事業のため被告大江を運転手として使用していたところ、同被告は、右貨物運送の事業を執行中、前記(一)記載のように、過失によつて本件事故を発生させた。

(2) 運行供用者責任

被告会社は、本件事故当時本件自動車を所有し、自己のため運行の用に供していた。本件事故は右運行によつて発生したものである。

3  損害

本件事故により次の損害が生じた。

(一) 逸失利益

慶助は、本件事故当時四四歳であり、年に一九六万二〇〇〇円の収入を得ていた。そして同人は、本件事故で死亡しなければ六七歳まで就労が可能であつたと考えられるから、生活費として三割を控除し、中間利息をライプニツツ方式(係数一三・四八八)で控除してその逸失利益を算出すると一八五二万四四一九円となる。

(二) 慰謝料

慶助は、本件事故当時、四四歳の働きざかりであり、名実共に一家の柱であつたもので、まだ年少な二人の子供をかかえた原告ら(慶助との身分関係は後記4のとおり。)一家の将来は極めて多難であると推測され、本件事故により慶助を失つた原告らの悲しみと衝撃は極めて大きいものがある。この原告らの精神的苦痛に対する慰謝料としては各三三三万三三三三円が相当である。

(三) 葬祭費 五〇万円

原告田口リヱが出費した。

4  相続関係

慶助が死亡した時、同人には妻として原告田口リヱ、子として同田口教子及び同田口大志がおり、これら原告三名が同人を相続し、同人の前記3(一)の損害賠償請求権の各三分の一を取得した。

よつて、原告らは、被告会社に対しては使用者責任又は運行供用者責任に基づき、被告大江に対しては不法行為に基づき、原告らに生じた前記損害のうち各三〇万円及び右金員に対する被告会社は昭和五四年一二月二八日から、被告大江は同月三〇日からそれぞれ支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を各自支払うことを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1のうち、慶助が原告主張の日時、場所を進行中、停止中の本件自動車の後部に追突し、死亡したことは認めるが、同人の傷害の部位、死に至る経過は不知。

2  請求原因2の(一)のうち、本件事故現場が駐車禁止になつていたこと及び被告大江が本件自動車を停止させていたことは認めるが、右停止が駐車にあたること及び本件事故につき同被告に過失があつたことは争う。

同2の(二)の(1)のうち、本件事故原因が被告大江の過失にあるとの点は争い、その余の事実は認める。

同2の(二)の(2)の事実は認める。

3  請求原因3の事実は不知。

4  請求原因4の事実は不知。

三  抗弁

1  運行供用者の免責

(一) 本件事故は、慶助の過失により生じたものであり、被告大江は、本件自動車の運行に関し、注意を怠らなかつた。

すなわち、被告大江は、本件事故現場に本件自動車を停止させた後、ワイパーの調整、小用等のため本件事故発生までの間に一、二分間本件自動車を離れたに過ぎず、右停止は「駐車」ではなく「停車」であり、この間被告大江は、停車灯で停車中であることを合図していたのであるから、慶助が前方注視を怠らず進行したならば容易に本件自動車を発見し、追突を回避しえた情況にあつたのにも拘らず、同人は、本件事故当時、雨が降つていたため、雨が顔にかかるのを避けるため下を向いて原動機付自転車を運転し、その結果、本件自動車の発見が遅れてこれに追突し、また、同人はヘルメツトを着用していなかつたため、本件事故を死亡事故に拡大したものである。

(二) 被告会社は、本件自動車の運行に関し注意を怠らなかつた。

(三) 本件自動車には、構造上の欠陥又は機能の障害がなかつた。

2  示談契約

(一) 被告らと原告らとの間において、昭和五四年五月九日、本件事故の損害賠償につき、被告らは、原告らに対し、被告会社の加入している自動車損害賠償責任保険から給付される保険金の範囲内でのみ、賠償義務を負担し、その余の負担は一切しない旨の示談契約が成立した(以下、「本件示談契約」という。)。

(二) 被告会社が本件自動車につき加入している自動車損害賠償責任保険の保険会社は、本件事故につき、被告らには過失がないとして保険金の支払いをしない。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の(一)は争う。

同1の(二)及び(三)の事実は認める。

2  抗弁2の(一)について、被告らと原告らの間において、昭和五四年五月九日付で「被告会社の加入している自動車損害賠償責任保険から給付される保険金の範囲でのみ原告らに対し賠償義務を負担し、その余の負担は一切しない」旨の示談書が作成されていることは認める。

同2の(二)の事実は認める。

五  再抗弁(本件示談契約に関する錯誤)

本件示談契約は、昭和五四年五月九日になされたが、当時、原告らは、慶助が死亡して二〇日くらいしか経つていなかつたため、いまだ精神的シヨツクから立直つておらず、本件示談交渉を慶助の元勤務先の東北石油輸送株式会社秋田営業所の人たちにまかせ切りであつたところ、その人たちが、自賠責保険金は必ず交付させるから心配ないと原告らに話したので、その旨信じて、原告らは本件示談契約に応じたものである。

従つて、原告らの本件示談契約についての意思表示は、その重要な部分に錯誤があり無効である。

六  再抗弁に対する認否

争う。

第三証拠〔略〕

理由

一  事故の発生について

慶助が昭和五四年四月一八日午後一一時八分ころ、秋田市寺内字神屋敷二九〇番地先路上を原動機付自転車を運転して進行中、同所に停止していた本件自動車の後部に追突し死亡したことについては当事者間に争いがない。

二  本件事故と被告らの関係について

本件事故当時、被告大江が本件自動車を事故現場に停止させていたこと、被告会社が被告大江をその事業のため使用し、また本件自動車を自己のため運行の用に供していたことについては当事者間に争いがない。

三  被告大江及び慶助の過失について

まず、本件事故の状況についてみると、成立に争いのない甲第一号証及び第二号証、証人木内忠の証言並びに被告大江猛本人尋問の結果によれば、被告大江は、本件事故前、本件自動車を車道左端に停止させたうえ、同車後部左右の点滅灯を点灯して下車し、同車の前面ガラスに付着した油膜を唾液をかけて除去した後、車道から約三・五メートルの歩道端で小用を足し、更に同所から約一〇メートル離れた「コインスナツクりんかい」に行き、自動販売機から飲料を買おうとしたところ本件事故が発生したこと、慶助運転の原動機付自転車は、時速四〇キロメートル以下の速度で進行し、本件自動車の右後部に衝突したが、衝突までの間、慶助が制動や転把等の措置を講じた形跡はないことが認められる。そして、右甲第一号証によれば、本件事故現場は、ほぼ直線の片側二車線の道路で見とおしは良く、本件事故当時は深夜で小雨が降つていたが、店舗の照明で本件自動車の停止した場所は明るかつたこと、本件自動車は、左車線に歩道との間に五〇センチメートルの距離をおいて停止していたが、車幅二・四九メートルの同車の右側には、左車線になお約一・五メートルの余地があり、更に三・四メートル幅の右車線があつたこと、本件事故直後の実況見分の際の交通量は、一分間に五台程度であつたこと、以上の事実が認められ、右事実に前記認定の本件事故の状況を併せ考えれば、慶助は、本件事故の際、前方を注視しないで原動機付自転車を運転していたため、前方に停止中の本件自動車の発見が遅れ、何らの避譲措置を講ずることもなく同車後部に衝突したと推認することができ、本件事故につき慶助に過失があつたことは明らかである。

他方、被告大江の過失についてみると、本件事故現場の道路が駐車禁止場所に指定されていたことについては当事者間に争いがないが、被告大江の本件自動車停止後の行動は前記認定のとおりであり、右行動に要する時間は五分を超えないと考えられ、これに被告大江猛本人尋問の結果により認められる次の事実、すなわち、被告大江が本件自動車を停止させた最初の目的は、前面ガラスに付着した油膜を除去することにあり、小用や飲料の購入は下車後に思いついたものであること、停止中、本件自動車のエンジンは回転させたままであり、被告大江は、飲料購入後、本件自動車内で就寝中の交替運転手と交替して同車を発進させるつもりであつたことを総合考慮すれば、本件事故時の本件自動車の停止は、道路交通法二条一項一八号にいう「駐車」には該当しないというべきである。もつとも、証人木内忠は、同人がテレビの「ロードシヨー」を見ている際に外で自動車の停止する音が聞こえ、それが本件自動車の停止音であつたと思う旨供述し、成立に争いのない甲第四号証によれば、右「ロードシヨー」の放送時間は午後一〇時五四分までであり、成立に争いのない甲第三号証の三並びに原本の存在及びその成立に争いのない乙第一号証の九によれば、本件事故の発生時間は午後一一時八分ころであることが認められるから、右証人の供述のとおりであるとすると、本件自動車は、本件事故までの間に約一五分間以上停止していたことになるが、前記認定の被告大江の行動に加え、右証人は他方で自動車の停止音から本件事故までは五、六分であつたと思う旨供述していること、本件自動車の前に本件事故現場に停止していた車があつたこと(被告大江猛本人尋問の結果により認めることができる。)に照らせば、右証人の供述はたやすく信用できない。

そして、他に被告大江が本件自動車を「駐車」させていたと認めるに足りる証拠はなく、前記認定の事実に照らせば、本件事故について同被告に過失はなく、同被告は本件自動車の運行に関し注意を怠らなかつたというべきである(なお、仮に本件自動車の停止が「駐車」に該当するとしても、前記認定の事実に照らせば、被告大江の右違法駐車の過失と本件事故との間にいわゆる相当因果関係があるとは肯認し難い。)

四  運行供用者のその他の免責事由について

抗弁1の(二)及び(三)の事実についてはいずれも当事者間に争いがない。

五  結論

以上の次第により、原告らの被告らに対する本訴請求は、その余の点を判断するまでもなくいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 鈴木健太)

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