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福島家庭裁判所 昭和45年(家ロ)129号 審判 1971年5月19日

申立人 山中宏子(仮名)

相手方 大畑孝広(仮名)

主文

本件申立はこれを却下する。

理由

申立人と相手方間の当裁判所昭和四五年(家イ)第二三三号離婚等調停事件で、昭和四五年八月五日調停が成立し、該調停条項第三項において、相手方は申立人に対し長男公男の養育料として、同四五年九月から同人が満一八歳に達する月まで、毎月末日かぎり金一万円ずつ当裁判所に寄託して支払うことに定めたが、相手方がこれを支払わないので、本件申立がなされたものである。

調査の結果によると、義務者である相手方は、申立人との離婚により精神的衝撃を受けて落着かなくなり、離婚後現在まで夢遊的に実母大畑きく方に身を寄せて無為徒食して生活し、生活の能力、気力を欠き、全然就職の意思すらもない有様である上、家財道具一式も相手方に引渡して財産も皆無となつてしまい、実母は旅館を経営しているが、相手方の姉のほか使用人をおかず、客も少なく、家族は相手方、その姉夫婦、その間の子供二人の世帯で生活にゆとりがないため、やむをえず当事者間の長男の引取扶養には協力を約するが、調停条項の履行には難色を示し、申立人も相手方の引取扶養に反対していることが認められる。

そして、履行命令なるものは、いわゆる債務名義の執行でなく履行の円滑のため行う一種の催告にすぎないと解せられるから、義務者においてその義務の履行が可能な場合に命ずるのが相当であると思われるところ、上記認定のもとでは、相手方の無資力がその帰責の結果とはいえ、その義務を履行するに足る資力を欠いていて事実上履行不能の状態にあること明白なので、これに対し、履行を命ずることは相当でないといわなければならない。

よつて、本件申立はこれを却下することとし、主文の通り審判した。

(家事審判官 早坂弘)

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