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福島地方裁判所郡山支部 昭和45年(わ)153号 判決 1971年2月25日

被告人 甲野太郎(昭二五・一〇・三生)

主文

被告人を禁錮一〇月に処する。

但し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、自動車運転の業務に従事する者であるが、昭和四五年八月一四日午後〇時一〇分ころ、普通乗用自動車を運転し、福島県田村郡小野町方面から同県郡山市方八町方面に向け、郡山市○○町○○○○○××の三附近道路(幅員六・二メートル)の左側部分を時速約六〇ないし七〇キロメートルで進行中、見とおしのよくない左カーブにさしかかつたのであるから、このような場合自車が道路右側部分にはみ出さないよう適宜減速運転すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り、前記同一速度で慢然進行した過失により高速のためハンドル操作が意に任せずセンターラインを超えて道路右側部分に進入し、反対方向から進行して来た○耳○光(当時三六歳)運転の自動二輪車を約九メートル前方に認め、急制動したが及ばずその前部に自車前面右端部を衝突させ、よつて同人に対し頭部外傷等の傷害を負わせ、このため同年一一月四日午前一一時五三分ころ、郡山市○○×丁目×番×○号○総合病院において死亡させたものである。

(証拠の標目)(略)

(付加説明)

被告人は判示各所為当時少年(一九歳一〇月)であつたが、本件につき家庭裁判所を経由しないまま成年に達し公訴提起に至つたものであること一件記録上明らかである。この点検察官提出の司法警察員阿部勝広作成の「交通事故事件処理遅延報告書」によれば、本件においては、被害者である○耳○光が本件受傷により意識不明の状態となり、同人から事情を聴取することが不可能であつたため、事件を担当した福島県郡山警察署では同人の意識回復をまつてその取調べをなしたうえ事件を検察官に送致する予定にしているうち、被告人が成年に達したものであることが認められる。なお右被害者は結局意識を回復しないまま被告人が成年に達した後である昭和四五年一一月四日死亡した。

ところで少年の刑事事件については、これを担当する警察官は、すみやかに捜査を遂げ、事件を検察官(罰金以下の刑にあたる犯罪の嫌疑があるものと思料するときは家庭裁判所)に送致すべきものであり、いやしくも捜査の懈怠や理由のない送致手続の遅滞等によつて少年に対する家庭裁判所の調査、審判の機会を失わしめるようなことがあつてはならないこと勿論であるが、他方警察官が当該被疑事件を探知した時点において既に被疑少年の年齢が成年に切迫していて且つ事件の重要な部分につきすみやかに捜査を遂げることが著しく困難な事情が存するような例外的な場合については、事件の送致を右の事情が解消するまで一時留保することも又止むを得ないところであつてその間被疑少年が成年に達し家庭裁判所を経由する手続がとれなかつたとしても、一概に違法、不当なものということはできないであろう。

これを本件についてみると、事件発生から被告人が成年に達するまでの期間が比較的短かいことや被害者に前記のような障害があつて同人から事件に関する事情を聴取することが不可能な状況にあり且つ他に目撃者等が全く存せず被害者の供述が事実確定上極めて重要な意味を持つていたこと等の事情を勘案すると結果的には被害者がその後そのまま死亡したためこれについて取調べができなかつた事案ではあるけれども、未だその生死の明らかでない時点において警察官が被害者の意識回復を待つため検察官への本件事件送致をしばらく差控えていたことは前記の例外的場合に該当するものと考えられ、他に警察官が事件送致を殊更に懈怠していたこともうかがわれない本件においては右のような事情により家庭裁判所を経由しないまま公訴を提起したことが弁護人主張のように違法なものとは言うことができない。

(法令の適用)

被告人の判示所為は刑法第二一一条前段、罰金等臨時措置法第三条第一項第一号に該当するので所定刑中禁錮刑を選択し、その刑期範囲内で被告人を禁錮一〇月に処するが、犯情にかんがみ刑法第二五条第一項によりこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとし、訴訟費用は刑事訴訟法第一八一条第一項但書により被告人には負担させない。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 長崎裕次)

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