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福島地方裁判所 昭和63年(行ウ)5号 判決 1989年10月09日

原告

清和電器産業株式会社

右代表者代表取締役

石川保男

右訴訟代理人弁護士

中町誠

被告

福島県地方労働委員会

右代表者会長

中村嘉吉

右指定代理人

片岡正彦

外二名

被告補助参加人

全金同盟福島地方金属

右代表者執行委員長

深野一雄

被告補助参加人

全金同盟福島地方金属清和電器労働組合

右代表者執行委員長

野地芳夫

右補助参加人両名訴訟代理人弁護士

高橋一郎

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が福地労委昭和六三年(不)第一号の二の事件につき昭和六三年一〇月一七日付でなした命令を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する被告の答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  被告補助参加人らは、原告を被申立人として、被告に不当労働行為救済申立をしたところ(福地労委昭和六三年(不)第一号の二、以下「初審」という。)、被告は、昭和六三年一〇月一七日付で、原告に対し別紙「命令書」のとおりの救済命令(以下「本件命令」という。)を発し、右命令の写は同月一八日に原告に交付された。

2  本件命令の違法性

(一) (認定・判断の欠落)

本件命令は、初審において被告補助参加人らが、「不当労働行為を構成する具体的事実」として申し立て、原告が争った事実のうち、別紙(一)「認定・判断を欠落した事実」記載の事実(以下「別紙(一)の事実」という<省略>。)について認定・判断を欠落している。労働委員会の審判の対象は、被告補助参加人ら(初審申立人)の主張する「不当労働行為を構成する具体的事実」であるから、被告はその存否を認定し、主張された不当労働行為を構成する事実の一部が認められなかった場合には、命令書主文において当然その部分の申立を棄却する旨明示しなければならない。しかるに本件命令は主文中にも理由中にも右事実の認定・判断を遺脱したものであって、この点において本件命令は違法である。

(二) (事実誤認)

(1) 本件命令は、石川文雄専務(以下「石川専務」という。)が被告補助参加人全金同盟福島地方金属清和電器労働組合(以下「清和労組」という。)代表者(以下「野地委員長」という。)に対して行った昭和六三年二月二日の発言について事実を誤認している。すなわち、石川専務は、「会社は上部団体を外せば団体交渉に応じる。アルプス電気は強い組合は認めないと言われているので『労働委員会』にして労使でうまくやろう。」とか「もし、会社が倒産したら、執行委員長である君は、全従業員の生活に対して、どう責任をとろうとするのか。」と発言をした事実はない。

(2) 石川専務が、右同日、「この円高で受注が大変厳しい時期にそのような事を行っていたのでは会社がおかしくなってしまうのではないか。まして自社製品を持たない会社では無理ではないのか。」との発言をした事実はあるが、右発言には、何ら威嚇、不利益の示唆、利益の誘導を伴っていないから、使用者の正当な言論の自由の行使であり、支配介入に該当しない。

(3) また、原告が昭和六三年一月一九日に原告の従業員に本件命令で認定された内容の「質問、申し入れ並びに回答書」と題する書面を配付した事実はあるが、その行為についても同様であり、原告の見解を率直に表明したもので、使用者の言論の自由に属し、不当労働行為には該当しない。

(4) 本件命令において原告が行ったとされるその余の組合脱退慫慂行為についての認定は、いずれも採証法則を誤った違法なものである。

(三) (本件命令主文第二項の違法性)

(1) 本件命令が主文第二項において掲示を命じる文書には、「当社は、貴組合に対して陳謝する。」及び「誓約いたします。」との文言が含まれている。

しかし、右のような「陳謝」や「誓約」を強制することは、憲法一九条により絶対的に保障されている思想・良心の自由及びその一内容をなす「沈黙の自由」を侵害することになるから、違憲である。

(2) また、本件命令主文第二項は、報復的、懲罰的な性格を有し、原状回復の範囲を逸脱しているから、労働委員会に許された裁量の範囲を超え、違法である。

3  よって、原告は、本件命令の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否及び被告の主張

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2(本件命令の違法性)の主張は争う。

本件命令は、適法に発せられた行政処分であり、処分の理由は、別紙「命令書」の理由(<省略>)記載のとおりである。

(一) 同2(一)(認定・判断の欠落)の主張について

被告は、別紙(一)の事実については存否不明であったため、その判断を示さなかったものである。被告としては、主張された「不当労働行為を構成する具体的事実」を総合的に審理・判断したうえ、不当労働行為に該当する行為を特定すれば充分であって、原告の主張は失当である。

(二) 同(二)(事実誤認)の主張について

(1) 本件命令においては、当事者から提出された証拠などを労働委員会規則の手続きに則り厳正に審査した結果、確信するに至った事実を認定したもので、石川専務は、同(二)(1)に指摘されているとおりの発言をしている。

(2) 同(二)(2)及び(3)のとおりの石川専務の発言及び原告の文書配付行為があった事実は認めるが、右各行為はいずれも使用者の言論の自由に属し、不当労働行為に該当しないとの主張についてはこれを争う。石川専務らの右行為は、本件命令において判断したとおり不当労働行為であるから原告の右主張は失当である。

(3) 同(二)(4)の主張は争う。

(三) 同2(三)(本件命令主文第二項の違法性)の主張について

(1) 本件命令主文第二項は、使用者の行為が労働委員会によって不当労働行為と認定された事実を関係者に周知徹底せしめ、将来同種の行為の再発を抑制することを主眼としており、その文言中に「陳謝」等の文言が用いられているとしても、それは使用者に倫理的な意味での「謝罪」の意思表白を要求するものではないから、憲法一九条に違反するものではない。

(2) また、本件命令主文第二項の主眼とするものは、右(1)のとおりであり、使用者に倫理的な意味での「謝罪」の意思表白を要求するのではないから、報復的、懲罰的なものではなく、労働委員会の裁量権の範囲を超えていない。

第三  証拠関係<省略>

理由

一請求原因1の事実(本件命令がなされたこと)は、当事者間に争いがない。

二同2の主張(本件命令の違法性)について判断する。

1  同2(一)の主張(認定・判断の欠落)について

<証拠>によれば、被告補助参加人らは、初審において、不当労働行為を構成する具体的事実として、別紙(二)「不当労働行為と認定された事実」(以下「別紙(二)の事実」という<省略>。)のほか、別紙(一)の事実を主張し、原告は右各事実を争ったが、本件命令においては別紙(一)の事実について何ら明示的な認定・判断が示されなかったことが認められる(本件命令において別紙(一)の事実について何ら明示的な認定・判断が示されなかったことは、当事者間に争いがない。)。

ところで別紙(一)の①ないし⑩及び⑫ないし⑰の各事実は、別紙(二)の②ないし⑤の各事実と外形的には別個の事実ではあるが、<証拠>に徴すると、被告補助参加人らが初審においてなした不当労働行為救済申立は、右各行為を一括して、原告側職制が同一の不当労働行為意思に基づき、昭和六三年一月中旬から同年三月中旬までの短期間に行なった清和労組組合員に対する組合脱退強制行為ないしその準備行為であるとし、全体として一個の継続的な支配介入行為として主張されたものと認められる。

したがって、被告としては、一個の申立として包括的に主張された支配介入行為の内容をなす各具体的行為については、そのうち証拠によって認定できる行為の一部が不当労働行為と認定することができ、かつこれに基づき、労働組合の申し立てた不当労働行為救済命令を発することが相当と判断される以上、さらにその余の行為の存否の認定にまで及ばず、不当労働行為救済命令を発しても何ら違法ということはできない。そしてこの場合、認定しない行為について、申立の一部棄却をする必要もないと解せられる。

そして別紙(一)の①ないし⑩及び⑫ないし⑰の各事実は、右説示のとおり包括的な支配介入行為の内容として主張されたものであるから、被告補助参加人らは再びこの行為を主張して、改めて不当労働行為救済の申立をなすことは、本件命令において認定・判断された事実と同一の事実について再び救済の申立をすることになるので、許されない。すなわち、原告は、本件命令において、右各事実についての明示的な認定・判断が欠落しているからといって、右事実について改めて不当労働行為救済申立の審理に応じるべきことを強いられるということはない。

同様に、別紙(一)の⑪及び別紙(二)の⑧の石川専務の各行為は、清和労組幹部に対してなされた一連の継続的な支配介入行為とみるべきであって、別紙(一)の⑪の行為を主張することにより改めて不当労働行為救済の申立をすることはできないというべきである。

したがって、原告は、本件命令において別紙(一)の事実についての明示的な認定・判断が欠落しているからといって何らの不利益を被ることはない。

以上のとおり、右認定・判断の欠落をもって本件命令を違法とすることはできず、原告の請求原因2(一)の主張は失当である。

2  同2(二)(事実誤認)の主張について

(一)  <証拠>によれば、石川専務は、昭和六三年二月五日に、野地委員長に対し、「会社は上部団体を外せば団体交渉に応じる。アルプス電気から強い組合は認めないと言われているので『労働委員会』にして労使でうまくやろう。」とか「もし、会社が倒産したら、執行委員長である君は、全従業員の生活に対して、どう責任をとろうとするのか。」と発言をした事実が認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。なお、<証拠>によれば、石川専務が同年二月二日の発言に関する陳述書を作成した事実が認められるが、右陳述書の内容は右認定に反するものではない。また<証拠>によれば、石川専務が同年二月五日の発言に関連する陳述書を作成した事実が認められるが、その内容は具体性に欠け、<証拠>に照らし措信できない。

(二)  そして、石川専務が、同年二月二日「この円高で受注が大変厳しい時期にそのような事を行っていたのでは会社がおかしくなってしまうのではないか。まして自社製品を持たない会社では無理ではないのか。」との発言を行った事実は当事者間に争いがない。

ところで、使用者も言論の自由を有することはいうまでもないが、労働者に対する発言においては、労働者の団結権等を侵害してはならないという制約を受けるものと解され、その発言が組合の結成、組織、運営等に影響を及ぼしうるものは、支配介入行為として不当労働行為となるものである。石川専務の右発言及び右(一)に認定の発言は、清和労組の運営に影響を及ぼす意図のもとになされたものと推認され、かつ清和労組の運営に影響を及ぼしうるもので、使用者としての正当な言論の自由の行使の範囲を超えた不当労働行為に該当するというべきであり、この点に関する本件命令の判断は是認できる。

(三)  また、原告が、昭和六三年一月一九日、原告の従業員に対し、本件命令において認定された内容の「質問、申し入れ並びに回答書」と題する書面を配付した事実は当事者間に争いがない。

右書面中、「多数の従業員より『管理監督者(リーダーを含む。)が組合活動をやっているのはおかしい。』、『管理監督者(リーダーを含む。)が組合に加入している組合は労働組合ではない。』、『しらないうちにかってに組合員にされて困っている。』、『一部管理監督者(リーダーを含む。)が職務と権限を利用し、組合加入活動をしたのでやむを得ず加入した。』など数多くの問い合わせが来ています。」との記載部分は、清和労組が右のような誤った活動を行っていることを従業員に訴え、清和労組の活動を批判するものであると解され、また「組合からの脱退に関しても、『自らの意思で脱退することは自由であり、組合がこれを拒否したり、阻止したりすることはできない。』、『脱退の自由を不当に制限することは違法であり、その組合の行為は無効である。』との裁判所の判決もあります。」との記載部分は、原告の従業員に対し清和労組が組合員の脱退の自由を制限しているかのような印象を与え、組合からの脱退を示唆して記載されたものと認められる。

そして、これらの記載のある原告代表者の作成にかかる文書を清和労組結成直後に朝礼において原告従業員に配付すること(右の配付の時期が清和労組結成直後の朝礼の際であったことは弁論の全趣旨により明らかである。)は、清和労組の組織を弱体化してその運営に影響を及ぼしうる行為であり、使用者としての言論の自由の範囲を超えた支配介入行為として不当労働行為に該当するというべきで、この点に関する本件命令の判断は是認することができる。

(四)  本件命令において認定された原告の従業員に対する組合脱退慫慂行為について検討するに、

(1) まず、石川専務の昭和六三年二月五日及び同月六日の小宅嘉伸に対する組合脱退慫慂行為は、<証拠>によりこれを認めることができる。右認定に反する<証拠>は、<証拠>に照らし措信できず、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

なお、<証拠>によれば、小宅嘉伸が同年三月一一日付で原告会社を退社した事情について記載した陳述書を作成した事実が認められるが、右認定に反するものではない。

(2) 原告代表者と山口武雄係長の同年二月二八日の丸田厚志に対する組合脱退慫慂行為については、<証拠>によりこれを認めることができ、右認定に反する証拠はない。

なお<証拠>によれば、丸田厚志が同年三月一〇日付で原告会社を退社したことなどを記載した書面を作成したことが認められるが、その内容は右認定に反するものではない。

(3) 石川専務の同年二月二八日の根本正好に対する組合脱退慫慂行為については、<証拠>によりこれを認めることができ、右認定に反する証拠はない。

(4) 原告代表者と山口係長の同日の高橋明夫に対する組合脱退慫慂行為については、<証拠>によりこれを認めることができ、右認定に反する証拠はない。

(5) なお、<証拠>によれば、清和労組は、原告に対し、その組合員名簿を提出したことがなかった事実が認められるが、組合員の名簿の提出がなくとも、原告側において組合員の氏名を知ることは可能であると解され、右事実は以上の(1)ないし(4)の認定に反するものではない。

(6) したがって、原告による従業員に対する組合脱退慫慂行為に関する本件命令の認定は、これを是認することができる。

3  同2(三)(本件命令主文第二項の違法性)の主張について

(一) 本件命令主文第二項は、原告に対し、「当社は貴組合に対して陳謝する。」とか「誓約いたします。」との文言を含んだ文書の掲示をすることを命じているものであることは明らかである。

しかし、同項の命令は、原告の有する倫理的な意思、良心の自由を制限する趣旨のものではなく、原告の行為が不当労働行為であったことを関係者に周知徹底させ、将来同旨の行為の再発を抑制することを目的としたものであり、原告に陳謝や誓約の意思がなくとも、単にその文言を機械的に掲示するだけでよい趣旨のものと解することができ、憲法一九条に違反するということはできない。

(二)  また、労働委員会は、不当労働行為が認定される場合、いかなる救済を与えるかに関しては広汎な自由裁量権を有しており、具体的事件に即して不当労働行為がなかったと同じ状態に回復するための適当な処分を命じうる。

そして、<証拠>によれば、右2に認定したとおりの不当労働行為の結果、清和労組においては、昭和六三年一月二八日に一一九名であった組合員が、同年六月二九日の初審結審時には八名に激減し、重大な打撃を被った事実が認められ、右事実を考慮したとき、本件各不当労働行為がなかったと同じ状態に回復するための処分として、本件命令主文第二項の命令は、相当な措置であるというべきで、いたずらに報復的、懲罰的な目的を意図したものと認めることはできず、裁量権の範囲を逸脱したものということはできない。

三以上の検討によれば、本件命令には、原告の主張するような違法はなく、適法であるから、原告の請求は理由がない。

よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官小林茂雄 裁判官大内捷司 裁判官都築政則)

別紙命令書

申立人 全国金属産業労働組合同盟福島地方金属

執行委員長 深野一雄

申立人 全金同盟福島地方金属清和電器労働組合

執行委員長 野地芳夫

被申立人 清和電器産業株式会社

代表取締役 石川保男

上記当事者間の福地労委昭和六三年(不)第一号の二不当労働行為救済申立事件について、当委員会は、昭和六三年九月二七日開催の第四一二回及び同年一〇月一七日開催の第四一三回公益委員会議において、会長公益委員中村嘉吉、公益委員片岡正彦、同鈴木守、同鈴木芳喜及び同鎚水武夫が出席し、合議のうえ、次のとおり命令する。

主文

1 被申立人は、申立人全金同盟福島地方金属清和電器労働組合の組合員に対し、組合を非難・中傷する言動をし、また、組合の解散や組合からの脱退を要求ないし勧誘したりなどして、申立人の組合運営に支配介入してはならない。

2 被申立人は、縦八〇センチメートル以上、横一六〇センチメートル以上の白色木板に下記のとおり明瞭に墨書して、これをこの命令の到達した日から七日以内を初日として一〇日間、同会社の小名浜第一工場及び小名浜第二工場の構内の従業員の見やすい場所に掲示しなければならない。

当社が行った次の行為は、福島県地方労働委員会において、労働組合法第七条第三号に該当する不当労働行為であると認定されました。

1 昭和六三年一月一九日、朝礼において、貴組合の不適合性を主張した文書を従業員に配付したこと

2 貴組合の組合員に対し、組合を非難・中傷する言動をし、また、組合の解散や組合からの脱退を要求ないし勧誘したりしたこと

3 貴組合の組合員の脱退届の作成に関与して、組合からの脱退を幇助したこと

当社は、貴組合に対して陳謝するとともに、今後はこのようなことを繰り返さないことを誓約いたします。

昭和  年  月  日

全金同盟福島地方金属清和電器労働組合

執行委員長 野地芳夫殿

全国金属産業労働組合同盟福島地方金属

執行委員長 深野一雄殿

清和電器産業株式会社

代表取締役 石川保男

(注:日付は、掲示の初日とする)

3 被申立人は、前項を履行したときは、速やかに、当委員会に文書で報告しなければならない。

理由 <省略>

昭和六三年一〇月一七日

福島県地方労働委員会

会長 中村嘉吉

別紙(一) <省略>

別紙(二) <省略>

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