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福島地方裁判所 平成9年(行ウ)3号 判決 1999年7月27日

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  請求

一  被告が平成八年七月三一日付けでした平成四年度町県民税の税額変更決定のうち、税額六万一七〇〇円を超える部分を取り消す。

二  被告が平成八年七月三一日付けでした平成五年度町県民税の税額変更決定のうち、税額三万九二〇〇円を超える部分を取り消す。

三  被告が平成八年七月三一日付けでした平成六年度町県民税の税額変更決定のうち、税額一万八〇〇〇円を超える部分を取り消す。

四  被告が平成八年七月二四日付けでした平成八年度町県民税の税額変更決定のうち、税額六万一三〇〇円を超える部分を取り消す。

五  被告が平成九年一二月一一日付けでした平成九年度町県民税の税額変更決定のうち、税額七万九二〇〇円を超える部分を取り消す。

第二  本件訴え提起に至る経緯(争いのない事実)

一  原告は、会津若松税務署長に対し、平成三年ないし五年分の所得税について、それぞれ別紙一の各「確定申告」欄記載のとおりの内容を記した確定申告書を提出した。これに対して同税務署長は、平成六年七月五日、別紙一の各「更正」欄記載のとおり、各年分の所得税について、各更正処分(以下「本件更正処分一」と総称する。)を行った。原告は、これを不服として、同月一四日、同税務署長に対して異議申立をしたが、同税務署長は、同年一〇月一三日、異議申立を棄却する旨の決定をした。原告は、これを不服として、同年一一月七日、国税不服審判所長に対して、本件更正処分一の各取消しを求める審査請求をしたが、同審判所長は、平成七年一二月一二日、審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をした。原告は、これを不服として、会津若松税務署長に対し、本件更正処分一の各取消しを求める訴えを当庁に提起した(当庁平成八年(行ウ)第三号所得税更正処分等取消請求事件)。当庁は、平成一〇年四月三日、原告の訴えを却下し、仙台高等裁判所は、同年八月二七日、控訴を棄却し、同年一一月九日上告却下により確定した。

原告の平成三年ないし五年分の所得税額が右のように争われている一方で、被告は、平成六年七月五日、会津若松税務署長から本件更正処分一が行われた旨の通知を受けたため、平成八年七月三一日、原告に対して、平成四年度ないし六年度の各年度分の町民税及び県民税(以下、これらを併せて「町県民税」という。)の所得割の各税額変更決定を行った(以下「本件処分一」と総称する。)。この結果、原告の平成四年度分の町県民税額は六万一七〇〇円から九万六五〇〇円に、平成五年度分の町県民税額は三万九二〇〇円から一〇万八七〇〇円に、平成六年度分の町県民税額は一万八〇〇〇円から四万九〇〇〇円に、それぞれ変更された。原告は、これを不服として、同年九月二五日、被告に対して異議申立をしたが、被告は、同年一二月四日、これを棄却する旨の決定をした。

二  原告は、会津若松税務署長に対し、平成八年二月一四日、平成七年分の所得税について、医療費控除の額を八万九七八五円と記載した確定申告書を提出した。これに対して同税務署長は、同年七月八日、右医療費控除の全額を否認し、これを〇円とする旨の更正処分(以下「本件更正処分二」という。)を行った。原告は、これを不服として、同月二五日、同税務署長に対して異議申立をしたが、同税務署長は、同年一〇月一八日、異議申立を棄却する旨の決定をした。原告は、これを不服として、同月二二日、国税不服審判所長に対して、本件更正処分二の取消しを求める審査請求をしたが、同審判所長は、平成九年一一月一八日、審査請求を棄却する旨の裁決をした。これに対しては、原告は本件更正処分二の取消しを求める訴えを提起しなかった。

原告の平成七年分の所得税額が右のように争われている一方で、被告は、平成八年七月八日、会津若松税務署長から本件更正処分二が行われた旨の通知を受けたため、同月二四日、原告に対して、平成八年度分の町県民税の税額変更決定を行った(以下「本件処分二」という。)。この結果、原告の平成八年度分の町県民税額は六万一三〇〇円から六万五二〇〇円に変更された。原告は、これを不服として、同年九月二五日、被告に対して異議申立をしたが、被告は、同年一二月四日、これを棄却する旨の決定をした。

三  原告は、会津若松税務署長に対し、平成九年二月一七日、平成八年分の所得税について、医療費控除の額を四五万九〇七〇円と、配偶者特別控除額を二八万円と記載した確定申告書を提出した。これに対して同税務署長は、同年六月一九日更正処分を、同年一一月二八日再更正処分(以下「本件更正処分三」といい、本件更正処分一ないし三を総称して「本件各更正処分」という。)を行い、右医療費控除の額のうち三三万九五一〇円を否認し、これを一一万九五六〇

円とし、配偶者特別控除額のうち二〇万円を否認し、これを八万円とした。原告は、右六月一九日付け更正処分を不服とし、同年八月一〇日、同税務署長に対して異議申立をしたが、同税務署長は、同年一一月一二日、異議申立を棄却する旨の決定をした。原告は、これを不服として、同月二八日、国税不服審判所長に対して、同処分の取消しを求める審査請求をするとともに、本件更正処分三について、同年一二月一日、会津若松税務署長に対して異議申立をした。同税務署長は、右の異議申立に係る申立書を国税不服審判所長に送付するとともに、その旨原告に通知した。その結果、本件更正処分三について審査請求がされたものと見なされたため、同審判所長は、両審査請求を併合審査し、平成一〇年七月九日、審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をした。原告は、これを不服として、会津若松税務署長に対し、本件更正処分三の取消しを求める訴えを当庁に提起した(当庁平成一〇年(行ウ)第七号所得税の更正処分等の取消請求事件)が、平成一一年六月二二日、原告の請求を棄却するとの判決が下され、確定した。

原告の平成八年分の所得税額が右のように争われている一方で、被告は、平成九年七月三日、会津若松税務署長から右六月一九日付け更正処分が行われた旨の通知を受けたため、同月一七日、原告に対して、平成九年度分の町県民税の税額変更決定を行った。原告は、これを不服として、同年九月一五日、被告に対して異議申立をした。また、被告は、同年一二月五日、同税務署長から本件更正処分三が行われた旨の通知を受けたため、同年一二月一一日、原告に対して、平成九年度分の町県民税の税額変更決定を行った(以下「本件処分三」といい、本件処分一ないし三を総称して「本件各処分」という。)。この結果、原告の平成九年度分の町県民税額は七万九二〇〇円から九万六二〇〇円に変更された。原告は、これを不服として、同月一五日、被告に対して異議申立をしたが、被告は、同年九月一五日付けの異議申立と併せてこれを棄却した。

四  原告は、平成九年三月四日、本件処分一、二の取消しを求めて訴えを提起し、平成一〇年五月一七日、本件処分三の取消しを求める訴えを追加した。

第三  請求原因

一  会津若松税務署長は、原告が、平成三年ないし五年分、七年分及び八年分の所得税について、医療費控除の対象となる医療費の額として前記のとおり申告したことに対

し、主として、お茶の水クリニック(以下「クリニック」という。)におけるいわゆる自然医食品の購入費やクリニックヘの通院費等が、医療費控除の対象とは認められないことを理由に、右申告に係る医療費控除額を認めず、本件各更正処分を行ったものである。

かかる本件各更正処分は、所得税法七三条二項及び所得税法施行令二〇七条の解釈を誤り、幸福追求権(憲法一三条)によって保障されるべき、原告のクリニックで診療を受ける権利を侵害した違法な処分である。

被告のした本件各処分は、原告の医療費控除の申告を否認した会津若松税務署長の違法な本件各更正処分を前提としたものであって違法である。

二  被告は、原告が、本件各更正処分が違法であることを主張して、その取消しを求めて訴えを提起していることを知っていたにもかかわらず、職務上通常尽くすべき注意義務を怠って、何ら独自の調査研究等を行うことなく、本件各更正処分があったことのみを理由として、本件各処分を行った。また、被告は、本件各処分に際して、課税根拠を明確にしなかった。

かかる手続上の瑕疵がある本件各処分は、信義則に反しており、違法、無効な処分である。

三  よって、原告は、被告に対し、「第一請求」欄のとおりの判決を求める。

第四  請求原因に対する認否及び被告の主張

一  請求原因に対する認否

原告の主張は争う。

二  被告の主張

1  被告は、会津若松税務署長のした原告の所得税についての本件各更正処分の通知を受けて、地方税法三一五条の規定に基づき、町県民税の所得割の計算における医療費控除の金額につき右通知書記載の額を前提として、本件各処分をしたものである。

原告が、本件各更正処分につき取消訴訟を提起しているとしても、直ちに更正処分の効力が停止されるわけではなく、被告が地方税法三一五条に基づき、所得税の更正処分を前提として町県民税の税額変更決定を行うことを何ら妨げるものではない。

2  原告が医療費控除の対象となる旨主張する医療費の額のうち、被告が本件各処分の前提とするところの、会津若松税務署長が否認した額は、別紙二の「会津若松税務署長及び被告が否認した金額」欄記載の金額である。これらは、原告が、クリニックを開設しているA医師の指導に基づき購入した強化食品、薬草茶等の、いわゆる自然医食品の購入費、社団法人生命科学協会への会費、食事代、宿泊費、宿泊先や病院への御礼の品の購入費、B

の身の回りの品の購入費、同人が入院相談のために支出した交通費及び入院先の病院から自宅へ外泊した際の交通費等であり、いずれも社会通念上疾病の診療又は治療として必要と認められるものとも、社会通念上疾病の治療又は療養のために必要と認められる医薬品の購入に関するものとも認められないから、医療費控除の対象である医療費ということはできない。

第五  原告の反論

一  被告の主張の内、原告の所得税の申告に係る医療費の金額及び会津若松税務署長が本件各更正処分に関して否認した医療費の金額及びその内訳は認め、その余は争う。

二  クリニックは、国際自然医学会会長であるA医師が、東西両医学を止揚して確立した浄血自然医食療法という独自の自然医学理論に基づいて、諸々の難病の根治を図るべく開設したものであり、玄米・菜食、健康強化食品、薬草・野草茶を用いた診療が行われている。このような革新的なクリニックの診療は、法や施行令が想定していないものであるから、それらの適用に際しては、クリニックの診療の実体を精査して、正義と公平の観念や公共の福祉にもっとも適合するように、これを解釈しなければならないのであり、本件各更正処分に漫然と従って、右自然医食品の購入費を医療費と認めなかった本件各処分は違法である。

被告は、原告が支出した食事代、宿泊費、宿泊先や病院への御礼の品の購入費が、医師等による診療等を受けるため直接必要な費用であると認められないと主張するが、これらは、A医師から、クリニックにおける診療の際は、親戚等の家に宿泊して、通常の生活状態で来所するように指示されたために要した支出であり、医師等による診療等を受けるため直接必要な費用というべきである。また、被告は、社団法人生命科学協会への会費が、医師等による診療等を受けるため直接必要な費用であると認められないと主張するが、クリニックでの診療は、同会の特別会員を対象とした予約制となっているのであって、同会への会費は、クリニックでの診療を受けるための初診料と評すべきものであるから、これは医師等による診療等を受けるため直接必要な費用というべきである。

理由

一  被告は、地方税法三一五条等を根拠として、個人の市町村民税及び道府県民税の各所得割の税額変更決定等の取消訴訟において、納税義務者がその課税所得の前提となる課税標準たる所得自体が過大であること、所得控除

が過小であることを理由として処分を争うことはできないと主張する(「第四請求原因に対する認否及び被告の主張 二被告の主張1)ので、まずこの点につき判断する。

法人税額を課税標準とする法人の市町村民税及び道府県民税の各法人税割については、その課税標準を国税たる法人税に求めており、これらの地方税の納税義務者は、地方税の更正等の取消訴訟において、その課税標準たる法人税額又は所得自体が過大であるとして地方税についての更正を争うことができないものと解するのが相当である(東京高判昭和五一年一二月七日行裁集二七巻一一、一二号一七八八頁、札幌高判昭和六二年一〇月二九日)。

しかしながら、個人の町村民税及び道府県民税の各所得割については、課税標準たる所得の算定について所得税に関する手続により算定された金額によることを原則としつつも(地方税法三二条一、二項、三一三条一、二項)、他方では、市町村は、一定の場合には自ら調査し、独自の所得の算定をすることができるとされている(同法三一五条一号ただし書、同条二号、三一六条)。これによれば、地方税法上、個人の市町村民税及び道府県民税の各所得割については、その所得の計算を、所得税におけるそれと必ず一致させなければならないとされているものではないことは明らかであるし、また、これらの例外規定によって、市町村が自ら所得の計算をして町村民税及び道府県民税を課した場合には、市町村長は、その算定に係る総所得金額を当該市町村の区域を管轄する税務署長に通知するものと定められている(同法三一七条)。このように、個人の市町村民税及び道府県民税の各所得割の場合には、法人の市町村民税及び道府県民税の各法人税割とは異なり、その課税標準ないし課税標準算定の基礎を国税たる所得税に求めているとまでいうことはできず、結局、所得税の確定があり、それを前提とする税額変更決定があっても、独自に訴訟を提起し、課税所得の前提となる課税標準たる所得自体が過大であること、所得控除が過小であることを理由として賦課決定等の処分を争うことはできるものと解される。

二  そこで、以下、本件各処分の適否につき検討する。

原告が、会津若松税務署長に対して、平成三年ないし五年分、七年分及び八年分の所得税の確定申告をした際、別紙二の「原告が申告した医療費支出額」に記載された金額を医療費控除の対象となる医療費として申告

したこと、右金額には、同別紙の「否認の対象となった支出の内訳」に記載された内容の支出(以下、これらの支出を「本件支出」という。)、すなわち、(1) A医師の指導に基づき購入した自然医食品の購入費、(2) 宿泊費及び宿泊先への御礼の品の購入費並びにBの入院相談の際及び入院中の同人が自宅へ外泊した際に要した交通費、(3) 国際自然医学会等への入会金及び年会費、(4) 食事代、病院への御礼の品の購入費、診断書料、文書料及び郵送料、Bの身の廻りの品の購入費、洗濯代及び同人への小遣い、自然料理教室代並びにファイル、圧力釜、書籍及び写真集の購入費用が含まれていたこと、同署長は、本件支出を医療費控除の対象となる医療費と認めず、本件各更正処分を行ったこと、同署長から、本件各更正処分を行った旨の通知を受けた被告が、本件各処分を行ったこと、本件各更正処分に係る課税所得金額(総所得金額から所得控除の金額を差し引いた金額)を前提とした場合、原告が納付すべき町県民税の額は被告の本件各処分のとおりとなること、本件支出に係る金額を所得控除として総所得金額から差し引かなかった点を除いて、右課税所得金額算定の前提となる計数関係、算定方法自体は適正であることは、当事者間に争いがない。そして、弁論の全趣旨によれば、その他の課税根拠について争いがあるとは認められないから、以下、被告が、本件各処分において、本件支出が医療費控除の対象となる医療費であることを否認したことの適否について判断する。

1  原告がA医師の指導に基づき購入した自然医食品の購入費について

(一)  証拠(乙二、三、七、八)及び弁論の全趣旨によれば、A医師は、クリニックにおいて、浄血自然医食療法なる独自の自然医学理論に基づいて、諸々の難病の根治を図るとして、玄米・菜食、健康強化食品、薬草・野草茶を用いた独自の診療を行っていること、原告は、クリニックにおいて、同医師の診療を受けるとともに、同医師から「食餌箋」の処方を受け、「食餌箋」に記載された「チャイハナ」及び「春寿仙」をクリニックにおいて、「薬草茶」及び「医食品」をA自然医食品グルージア(法人名有限会社グリーンハートハウス)においてそれぞれ購入したこと、「チャイハナ」は、プーアル、ウーロン、サフランを原材料として混合した健康茶であり、「春寿仙」は、田七人参、杜仲茶、霊芝を原材料とした加工食品、「薬草茶」は、ドクダミ、ヨモギ等を原材料とした薬草茶、「医食品」は、ハト麦、小麦、大豆を主原料とした穀物加工食品のパンダンM及びエゾウコギを主原料とした清涼飲料水のアルガトン等の医食品であること、これらはいずれも薬事法二条一項に規定される医薬品には該当しないことが認められる。

(二)  医療費控除の制度は、医療費が多額で異常な出費となる場合における担税力の減殺を調整する目的で創設されたものであり、医療費控除の対象となる医療費の範囲について規定した地方税法の規定(道府県民税について三四条一項二号、市町村民税について三一四条の二第一項二号)が、「通常必要であると認められるもの」と定め、右各規定の委任を受けた同法施行令(道府県民税について七条の一四。市町村民税については、四八条の七第二項によって、道府県民税の規定を準用。以下、右準用規定の摘示は省略する。)が「その病状に応じて一般的に支出される水準を著しく超えない部分の金額」と定めた上で、控除の対象となる費目を限定的に列挙していること、そして右制度が地方税の公平な負担を図るためのものであることにかんがみると、医療費控除の対象となる、医師等による「診療又は治療」の対価(施行令七条の一四第一号)や「治療又は療養に必要な医薬品の購入」の対価(同条二号)とは、いずれも社会通念上、疾病の診療又は治療としてあるいは疾病の治療又は療養のために必要と認められるものに限られるというべきである。

ところが、(一)で認定したとおり、原告が購入した自然医食品なるものは、独自の医学理論に基き独自の治療法を行うというA医師の処方した「食餌箋」なるものに基づく、およそ薬事法二条一項に規定される医薬品に該当しようもない、健康茶、加工食品、薬草茶、食品の類であり、原告が主観的にその医学的な効能をいかに信奉していたとしても、社会通念上、右自然医食品の購入費用をもって、疾病の診療又は治療として必要な対価とも、疾病の治療又は療養に必要な医薬品の購入の対価とも認めることができないことは明らかである。

なお、原告は、施行令七条の一四が、西洋医学における医薬品については医療費控除の対象としながら、自然医食品については控除の対象にしないと定めるものとすれば、正義と衡平の観念に反し、原告が、クリニックにおいて診療を受ける権利を侵害し、ひいては憲法一三条の幸福追求権を侵害する憲法

違反の法令であると主張するかのようであるが、医療費控除の範囲か否かの判断は、課税の衡平の観点から、社会通念に照らして判断すべきものであること、医薬品と認められず、その結果、その購入代金について医療費控除が認められなかったとしても、原告が前記自然医食品を購入すること及びクリニックにおいて診療を受けることを侵害することにはならないこと、租税法の定立については立法府の裁量的判断に委ねられ、その裁量的判断が著しく不合理であることが明らかでない限り違憲とはならないと解されることに照らせば、原告の右の主張は採用することができない。

2  宿泊費及び宿泊先への御礼の品の購入費並びにBの入院相談の際及び入院中の同人が自宅へ外泊した際に要した交通費について

(一)  地方税法が、前述のように、医療費控除の制度を設けているところ、所得税法七三条一、二項は、所得税の課税における医療費控除の制度を規定しており、その制度趣旨、要件及び金額の算定方法は、地方税法におけるそれと全く同一である。

ところで、所得税基本通達七三―三(以下「本件通達」という。)は、控除の対象となる医療費の範囲について、「次に掲げるもののように、医師等の診療等を受けるため、直接必要な費用は医療費に含まれるもの」とし、具体的には、「医師等による診療等を受けるための通院費若しくは医師等の送迎費、入院若しくは入所の対価として支払う部屋代、食事代等の費用又は医療用器具等の購入、賃借若しくは使用のための費用で、通常必要なもの」等を列挙している。本件通達は、医療費控除制度の創設後の社会保険制度の充実や医療技術の進歩に伴って、医療費性が明確でかつ控除の対象とすることに問題のない医師等に対する診療等の対価よりもこれに附随ないし関連する費用の負担の方が重くなっている状況となったことから、このような実状を踏まえて、所得税法施行令二〇七条の定めを前提とし、同法施行令の定める医療費の範囲を基本通達により明らかにする方法で、いわば同法施行令の解釈として、医療費として控除される範囲を運用の実際において実質的に拡大したものであると解される。このような本件通達の趣旨、性格からすれば、本件通達の定める医療費の範囲が同法施行令二〇七条の規定による制約の範囲内に止まるべきであるのは当然であって、本件通達により医療費控除の対象となる「医療費」と認められるためには、施行

令に定められている「医師等による診療等」を受けるために直接必要な費用に限定されることはいうまでもない。したがって、宿泊費が、医療費控除の対象と認められる場合は、本件通達の運用においても、医師等の診療等のため入院の必要があるものの、病室やベッドが空かないためやむを得ず病院等で準備した宿泊施設に宿泊するなど、入院とほぼ同じ状況にあると認められる場合で、右宿泊場所が医師等の診療等のための管理責任下にあるなどの客観的な要件を備えているような、極めて例外的な場合とされているところであり、右実務上の取扱いは十分に合理性を有するものというべきである。

そして、所得税法における医療費控除の制度と、地方税法における医療費控除の制度とが、その制度趣旨、要件及び金額の算定方法を同じくし、通常両者の認定が異ならないことにかんがみれば、地方税における医療費控除の対象となる医療費の認定においても、本件通達に基づく運用に準じた実務上の取扱いには十分な合理性が認められる。

(二)  原告が主張するところによれば、宿泊費や、宿泊先への御礼の品の購入費は、A医師が診療の際には親戚等に宿泊して通常の生活状態で来所するように指示したことによって必要になった宿泊のための費用であるというに過ぎないのであるから、医師による診療又は治療を受けるために直接必要な費用と認めることができないことは明らかというべきであり、医療費控除の対象と認めることはできない。Bの入院相談の際や、入院中の同人が自宅へ外泊した際に要した交通費についても、医師による診療又は治療を受けるために直接必要な費用とはいえないから、これらについても医療費控除の対象と認めることはできない。

3  国際自然医学会等への入会金及び年会費について

原告は、国際自然医学会や社団法人生命科学協会への右の各支出について、クリニックでの診療は、同会の特別会員を対象とした予約制となっているため、同会への会費等は、クリニックでの診療を受けるための初診料と評すべきものであるから、これは医師等による診療等を受けるため直接必要な費用というべきである旨主張するが、右は原告の独自の主張に過ぎず、原告が出費したものは文字どおり学会の会費であって、医師による診察又は治療の対価とも、診察又は治療を受けるために直接必要な費用とも認めることができないことは明らかである。

4  食事代、病院への御礼の品

の購入費、診断書料、文書料及び郵送料、Bの身の廻りの品の購入費、洗濯代及び同人への小遣い、自然料理教室代並びにファイル、圧力釜、書籍及び写真集の購入費用について

これらの各支出が、医師による診察又は治療の対価や診察又は治療を受けるために直接必要な費用と認めることができないことはいうまでもない。

三  以上によれば、被告がした本件各処分はいずれも適法であると認められる。

なお、原告は、被告が、本件各処分に際して、何ら独自の調査研究等を行わなかったことを非難するが、本件各処分が、右のとおり、正当な内容の処分である以上、かかる主張は当を得ていない。また、原告は、被告が、本件各処分に際して、課税根拠を明確にしなかった旨主張するが、証拠(甲二の二ないし二の四、乙一及び五)によれば、本件各決定には、所得税額の更正に基づき更正する旨の理由が付されていることが明らかであるから、かかる主張は理由がない。

四  以上のとおりであって、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 生島弘康 裁判官 高橋光雄 裁判官 堀部亮一)

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