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福島地方裁判所 平成3年(行ウ)7号 判決 1996年10月18日

福島県原町市江井字堀内前五番地

原告

牛来正光

右訴訟代理人弁護士

荒木貢

同県相馬市中村字曲田九二番地二

被告

相馬税務署長 内海孝

右指定代理人

大塚隆治

阿部覚己

渡辺義弘

佐藤勇一

新田公夫

佐々木功一

粟野金順

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

被告が、それぞれ平成元年九月二二日付けでした、原告の昭和六一年分の所得税の更正のうち総所得金額二一一万四四七六円を超える部分及び同年分の所得税の過少申告加算税賦課決定、昭和六二年分の所得税の更正のうち総所得金額二六五万〇五二四円を超える部分及び同年分の所得税の過少申告加算税賦課決定(以上、いずれも異議決定により一部取り消された後のもの。)、並びに、昭和六三年分の所得税の更正のうち総所得金額二四六万五八六五円を超える部分及び同年分の所得税の過少申告加算税賦課決定をいずれも取り消す。

第二事案の概要

一  争いのない事実

1  原告は、内装工事業及び農業を営む者であるが、昭和六一年分から昭和六三年分(以下、あわせて「本件各係争年分」という。)までの所得税につき、いずれもその法定期限内に次のとおりの白色の確定申告(青色申告書以外の確定申告書による申告)をした。

(一) 昭和六一年分

総所得金額 二一一万四四七六円(うち営業所得一四八万〇五二六円、農業所得六三万三九五〇円)

納付すべき税額 六万八一〇〇円

(二) 昭和六二年分

総所得金額 二六五万〇五二四円(うち営業所得二〇三万二四八二円、農業所得六一万八〇四二円)

納付すべき税額 一二万〇五〇〇円

(三) 昭和六三年分

総所得金額 二四六万五八六五円(うち営業所得二五六万一〇二三円、農業所得マイナス九万五一五八円)

納付すべき税額 九万二〇〇〇円

2  被告は、右各申告に対して、それぞれ平成元年九月二二日付けで、次のとおりの各更正(以下、「本件各更正」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定(以下「本件各決定」という。)をした(以上を総称して「本件各処分」という。)。

(一) 昭和六一年分

総所得金額 四六三万三八二二円(うち営業所得三九九万九八七二円、農業所得六三万三九五〇円)

納付すべき税額 四五万円

過少申告加算税 一万九〇〇〇円

(二) 昭和六二年分

総所得金額 五六〇万九五〇三円(うち営業所得四九九万一四六一円、農業所得六一万八〇四二円)

納付すべき税額 五九万八九〇〇円

過少申告加算税 四万七〇〇〇円

(三) 昭和六三年分

総所得金額 四九一万二一二八円(うち営業所得五〇〇万七二八六円、農業所得マイナス九万五一五八円)

納付すべき税額 三七万三二〇〇円

過少申告加算税 二万八〇〇〇円

3  原告は、平成元年一一月二一日、被告に対し、本件各処分についてその取消を求めて異議申立を行ったところ、被告は、平成二年二月九日付で、次のとおり、それぞれ異議決定をした。

(一) 昭和六一年分

総所得金額 四五五万六九〇〇円(うち営業所得三九二万二九五〇円、農業所得六三万三九五〇円)

納付すべき税額 四三万三二〇〇円

過少申告加算税 一万八〇〇〇円

(二) 昭和六二年分

総所得金額 五六〇万三二五二円(うち営業所得四九八万五二一〇円、農業所得六一万八〇四二円)

納付すべき税額 五九万七七〇〇円

過少申告加算税 原処分と同額

(三) 昭和六三年分

いずれも棄却

4  そこで、原告は、平成二年三月一〇日、国税不服審判所長に対し、右各異議決定につき、それぞれ審査請求を行ったが、同所長が、平成三年三月七日付けで審査請求をいずれも棄却する旨の裁決を行った(なお、以上の各処分の経過は別紙1のとおりである。)

原告は、本件各処分は、違法な質問検査権の行使や反面調査の実施等によって入手した資料に基づき、必要性もなく理由も示さないで一方的に推計を行い、原告の前記確定申告額を超える部分につき、本件各係争年分の原告の所得を過大に認定したものであるから違法であると主張し、本件各処分の取消を求めて本訴提起に及んだものである。

二  被告の主張

1  本件各処分の根拠

(一) 推計の必要性

被告は、原告の本件各係争年分の所得税の確定申告書を調査したところ、右各年分の確定申告書に所得税法上添付が義務づけられている収支内訳書の添付がなく、また昭和六三年分については収入金額及び必要経費の記載もないため、営業所得の金額の計算内容が不明確であったことなどから、原告の申告所得金額等の調査のため、平成元年四月二四日から同年九月二二日に至るまでの間、都合八回にわたり被告係官が原告宅に臨場して、うち六回原告と面接した。その際、被告係官は、原告に対し、申告が正しいかどうか所得金額の確認のためであると調査理由を告げるとともに、調査に対する協力及び本件各係争年分の帳簿書類等の提示を再三求めたにもかかわらず、原告が、調査の場に民主商工会の事務局長らを立ち会わせたうえ、調査理由の開示を強く要求してその引き延ばしを図り、わずかに昭和六三年分の総収入金額、仕入金額、経費の各合計金額と本件各係争年分の一部必要経費の内訳をそれぞれ読み上げたほか、昭和六一年分の仕入に係る請求書の一部を提示したものの、その余の帳簿書類等の提示や、本件各係争年分の確定申告書に記載された営業所得の計算根拠についての説明など被告係官からの要請には一切応じようとしなかった。

そこで、被告は、原告の本件各係争年分の所得金額を帳簿書類等に基づいて実額によって計算することが不可能であると判断し、原告の取引先等を調査した結果に基づいて、やむをえず推計により原告の所得金額を算定して本件処分を行った。

(二) 推計の合理性

被告は、所在地、業種、業態、事業規模等の所得金額を算定する際に最も重要な要素につき抽出基準を設定して、原告と一致あるいは類似している同業者を選定した。そして、これらの類似同業者の売上原価率の平均値(その算定根拠は別紙2のとおり。以下「平均原価率」という。)を用いて、原告の仕入先の調査等によって把握した売上原価から本件各係争年分の売上金額を別紙3のとおり推算し、これに類似同業者の平均所得率(その算定根拠は別紙4のとおり。)を乗じたうえ、事業専従者控除額を控除して、別紙5のとおり原告の本件各係争年分の各営業所得の金額を算出した。それに原告の確定申告のとおりに認容した農業所得の金額を加算すると、別紙6のとおりの各所得金額となる。

2  本件各処分の適法性

(一) 本件各更正の適法性

本件各更正にかかる原告の総所得金額は、昭和六一年分及び昭和六二年分については、別紙6の総所得金額と同額であり、また、昭和六三年分については、別紙6の総所得金額の範囲内にあるから、本件各更正はいずれも適法である。

(二) 本件各決定の適法性

本件各更正によって納付すべき税額の基礎となった事実が、更正前の税額の基礎とされていなかったことについて、国税通則法六五条四項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条一項(昭和六一年分にあっては、昭和六二年法律第九六号による改正前のもの。)の規定に基づき、過少申告加算税を賦課決定した処分は適法である。

三  原告の主張

1  本件各処分に至る手続の違法

(一) 質問検査権行使の違法

所得税法(以下「法」という。)は、申告納税方式を採用して納税申告によって課税標準や税額を確定させることとしているから賦課課税方式を前提とする探索的、職権調査的な質問検査の行使は許されないのであり、あくまで、申告内容自体が法律の規定に従っていなかったときや、質問検査権を行使すれば法律の規定に従っていなかったという結論になると考えられる具体的客観的状況が認められるばあいにして、はじめてその行使が許されると解すべきである。また、罰則によって実効性を担保された質問検査権の行使を受忍させられる被検査者にとっては、信用を失墜するなど耐えがたい苦痛を受けることから、これを行使する際には事前の通知を要し、かつその必要性の有無を判断できる資料を与えるために、質問検査権を行使する税務職員において、被検査者に対し、質問検査権の理由と必要性を具体的に開示すべき義務がある。

ところで、本件において、被告係官は、事前の予告もなく原告方を訪れて、調査理由を所得の確認と告げるだけで問題点となる項目を具体的に摘示せず、原告の事業に関する質問も一切しないまま、本件各係争年分の帳簿書類の提示を一方的に要求し、原告が昭和六三年度分の帳簿を机の上に置き、これを確認して問題があればと残り二年分に遡って提示すると応じたのをはじめ、原告の事業で経費のかかる理由等を説明したが、まったく耳もかさずに帳簿を確認できなければ反面調査を行う旨を通告して、そのとおり実施したのである。したがって、本件における質問検査権の行使は、被告係官がその具体的な理由及び必要性を開示しなかったばかりか、その真の目的は所得の確認ではなく、そもそもの理由や必要性を欠いていたとしか考えられないのであって、違法であることが明らかである。

それどころか、本件の実態は、被告において、原告に不当な調査を実施することで、原告が役員をしている設立まもない相双民主商工会に対して弾圧、嫌がらせを行い、その組織の破壊ないしは弱体化を図っているのであって、もはや質問検査権の行使とはいえないので、特定団体の団結力を破壊ないし侵害し、特定の思想信条をもった団体に対する明らかな差別として、憲法が保障した表現の自由、法の下の平等を侵害する違憲違法な行為である。

(二) 反面調査の違法

反面調査も被告による職権行使であって、これも社会通念上相当と認められる範囲を逸脱して行われれば職権の濫用というべきところ、自らの責任によって納税者への調査が奏功しなかったばあいに、直ちに反面調査を行うことは信義側上許されないというべきである。そして、前記のとおり、原告の調査が奏功しなかったのはすべて被告側の責任であったから、原告について反面調査を行うことは信義則に反して違法というべきである。

2  推計課税の必要性欠如

前記1のとおり、原告は、被告係官に対し、まず昭和六三年分の信頼性を備えた帳簿等を提示したうえで、これを調査してもらって違法あるいは相違する箇所があれば他の年分の帳簿も提示する協力を申し出たのをはじめ、その後の調査の際、仕入原価を突合したいとの被告係官の求めに応じた結果、最終的には原告の帳簿の記載と被告の反面調査の結果が一致したほか、昭和六一年分及び昭和六二年分の売上金額や昭和六三年分の売上金額と必要経費についても説明しているのであるから、このような対応を非協力的態度とされるいわれはなく、推計を行う必要性を欠いているというべきである。

3  推計課税の合理性欠如

(一) 類似同業者の選定

本件の推計過程で選定したとされる類似同業者は、その住所・氏名がすべて伏せられているため、その実在性や営業の種類、営業条件等の検証が不可能であるから、これを推計の根拠として用いることは不当であるし、その内容面でも原告より高い売上金額の同業者を多く選択したり、売上金額が特に高いのに所得率の低い同業者を選ぶなど、被告において作為的に選定した形跡が窺われることから、その数値を用いた本件の推計は合理性がない。

(二) 実額との乖離

被告の行った推計と後記の実額を比較すれば、その売上金額と必要経費の金額が著しく乖離しているから、推計の結果が実額に近いことの強度の蓋然性があると認められる程度の合理性に欠けている。

(三) 原告の特殊事情

原告は、福島県原町市の市街地から約一〇キロメートル離れた郊外に事務所を構えて個人で営業しており、従業員としてその妻が専従者となっているほか職人を一、二名雇用している。営業の態様としては、注文者が材料を供給し原告が職人を派遣するという、いわゆる現場請けないし外注工賃であることが多かったので、営業収入は職人の手間賃程度の金額しか得られず、しかも仕事を確保するために常に二ないし四割の値引きを行い、仕入材料についてもほとんど仕入価格同様の価額で販売しており、業務用車輌の保有台数が多く、人件費も嵩んでいて必要経費の支出が多かったので、利益が出るような状態ではなかった。したがって、他の同業者とは同列に扱うことができない程に、異なった個別性の濃い営業形態といえるから、類似同業者の平均値で算定した推計額をもって原告の所得額とすることは不当である。

4  本件各更正の理由附記の不備

原告は、白色申告者であるが、青色申告に劣らず信憑力のある帳簿を記帳し、領収証等の書類も保存していたのであるから、法一五五条二項の趣旨に照らして、更正に際してはその理由を明記すべきであり、また原告の申告額を否認するのであれば、被告においてそれ以上に信憑力のある資料を摘示し、勘定科目の脱漏とその金額の根拠や、調査差益率の算定等の正当性を明らかにすべきである。したがって、そのような理由が附記されていない本件各更正は違法である。

5  営業所得の実額

(一) 昭和六一年分

原告の昭和六一年分の営業所得金額は、次に掲げる売上金額から売上原価と必要経費を差し引いた後の金額である二〇〇万八三四九円である。

(1) 売上金額 一六五六万七七一九円

(2) 売上原価 八七三万五四三一円

(3) 必要経費 五八二万三九三九円

A 一般経費

イ 公租公課 六万〇六六四円

軽自動車税、民主商工会費、そして稲作用の水の経費であるダム管理費分担金である。

ロ 水道光熱費 合計五万四九六五円

a 水道費 一万〇六〇六円

昭和六一年一月分及び八・九月分の領収証がないが、他の存在する領収証から一年分の合理的な水道料を推計したうえ、原告方が住居部分と事務所部分が一体として水道を使用しているので、その双方の床面積や家族ないし原告の営業上の使用割合等を勘案して、その三〇パーセントを事業上の経費とした。

b 電気料 四万四三五九円

営業で使用し、あるいは来客用に使用する割合が高いことにかんがみ、全体の五〇パーセントを事業上の経費とした。

ハ 通信費 八万四八三四円

住居用の電話料金であるが、営業のために利用する割合が高いために全体の九〇パーセントを事業上の経費とした。

ニ 広告宣伝費 四万二六〇〇円

名刺及びカレンダーを作成した費用である。

ホ 接待交際費 一一万七二〇〇円

このうち三万円について領収証はないが、職人らに金員だけ渡して飲食費として使ってもらったことがあり、これを少なめに見積もって算定した金額である。なお、原告は、その営んでいる事業柄、内装を請け負った店の開店や顧客の葬儀などで花輪代、清酒代を支出する機会が多く、また使用する職人への飲食費も多いのである。

ヘ 保険料 二万四八〇〇円

事業用車両の損害保険料である。

ト 消耗品費 一七万八〇二〇円

チ 福利厚生費 六万円

従業員に対するジュース・菓子代として常時支払っていることから、毎月五〇〇〇円宛として算定したものである。

リ 車輌費 五四万〇三一七円

事業用車輌のガソリン代等である。

ヌ 研修費 三万円

防火壁装施工の免許更新の際に防火演習が義務づけられているため、その参加費用である。

ル リース料 一八万三九〇〇円

現場との連絡に用いている無線機四台と事務所に設置したファックスのリース料金である。

ヲ 減価償却費 四三万八三三九円

事業用車輌であるトヨタ・ハイエース及びライトバン二台、事務所の舗装代の減価償却である。

ワ 雑費 二万四〇〇〇円

原告の事務所に置いている新聞代である。

B 特別経費

イ 外注工費 八万円

ロ 給料賃金 三九〇万四三〇〇円

その支払先は、塩タカ子(四八万円)、アルバイト料(一〇万円)、上杉(二〇七万八六五〇円)、椀沢(一二四万五六五〇円)である。

(二) 昭和六二年分

原告の昭和六二年分の営業所得金額は、次に掲げる売上金額から売上原価と必要経費を差し引いた後の金額である二六〇万七九六五円である。

(1) 売上金額 二二三四万五五七〇円

(2) 売上原価 一一〇三万四〇八四円

(3) 必要経費 八七〇万三五二一円

A 一般経費

イ 公租公課 二〇万九七三一円

印紙代、民主商工会費、同業組合費、固定資産税・都市計画税、土地改良区費である。このうち土地改良区費は農業所得の経費であるが、その一部だけを農業所得の経費として計上したに止まっていたので、その残額も当然に原告の所得に関する経費として認められるべきである。また、固定資産税・都市計画税であるが、原告方は住居八九・二五平方メートル、事務所四〇・一九平方メートル、倉庫九九・一七平方メートルであって事業使用面積が大きいから、控えめにみてその三分の一を経費として計上した。

ロ 水道光熱費 合計五万五二六八円

a 水道料 一万〇〇八〇円

昭和六二年分の水道料は一月分の領収証しかないが、その前後である昭和六一年及び六三年の水道料から推計すると一か月あたり二八〇〇円になり、その事業使用割合は前同様である。

b 電気料 四万五一八八円

ハ 旅費・交通費 一〇〇〇円

社員の慰安旅行の際に利用した高速道路の料金である。

ニ 通信費 九万〇六四八円

ホ 広告宣伝費 六万五〇〇〇円

このうち相馬野馬追実行委員会のテレフォンカードの購入代金三〇〇〇円は、原町青年会議所で発行したものであるから、これに協賛することは事業関連性を有する。

ヘ 接待交際費 二七万〇一九〇円

ト 保険料 九万八五六〇円

チ 消耗品費 三四万〇三九五円

このうち有限会社長谷川商事へ支出した八万六〇〇〇円は、アルバイトで働いてもらったことのある原告の甥に対する就職祝用として購入した布団・毛布の代金である。また、スキーキャリアは、車輌にカーテンレール等を積載するために利用するものである。

リ 福利厚生費 一〇万円

原告が昭和六二年三月二七日、従業員四名を連れて慰安旅行をした際、一人につき二万円を補助したことによる。

ヌ 車輌費 五〇万六二一〇円

ル リース料 一七万六四〇〇円

ヲ 減価償却費 一〇八万五五七二円

ワ 雑費 二九四七円

工具購入代金である。

B 特別経費

イ 外注工費 一二七万二七五〇円

ロ 給料賃金 四四二万八八五〇円

その支払先は、塩タカ子(三二万円)、上杉(一八四万五四五〇円)、椀沢(一六七万四九五〇円)、五十嵐(五八万八四五〇円)である。

(三) 昭和六三年分

原告の昭和六三年分の営業所得金額は、次に掲げる売上金額から売上原価と必要経費を差し引いた後の金額である三〇三万二一三七円である。

(1) 売上金額 二三〇六万五〇四五円

(2) 売上原価 一二一六万一三六九円

(3) 必要経費 七八七万一五三九円

A 一般経費

イ 公租公課 一九万二二〇〇円

このうち固定資産税は、事業との関係で水稲作付けなどを減らしたことを考慮してその二分の一を計上した。

ロ 水道光熱費 合計六万一九二五円

a 水道料 一万〇九〇八円

b 電気料 四万八一一七円

c ガス・プロパン代 二九〇〇円

ハ 旅費・交通費 一万八九五〇円

ニ 通信費 九万二三七六円

ホ 広告宣伝費 一三万三五〇〇円

ヘ 接待交際費 二一万八四五一円

このうち花輪代五万円は、年間を通じて恒常的に五件以上は葬式や内装を請け負った店の開店祝などに花輪を献じているからである。

ト 保険料 一二万二六二〇円

昭和六二年一〇月に購入した三菱自動車は事業用車輌である。

チ 消耗品費 二九万五八三四円

リ 福利厚生費 三万〇八六四円

ヌ 車輌費 四七万九六七四円

ル 修繕費 七万六〇〇〇円

原告方の倉庫にサッシを入れた工事代金である。

ヲ 研修費 四〇〇〇円

ワ リース料 一九万九二〇〇円

カ 減価償却費 一〇〇万二五六六円

ヨ 雑費 七万三六二九円

事務所に置く新聞代、雑誌代である。

B 特別経費

イ 外注工費 四三万五七〇〇円

ロ 給料賃金 四四三万四〇五〇円

その支払先は、上杉(二五六万六〇五〇円)、椀沢(九〇万六〇〇〇円)、高田(四〇万八〇〇〇円)、アルバイト料(合計五五万四〇〇〇円)である。

四  被告の反論

1  質問検査権を行使するにあたって、その範囲、程度、時期、場所等法律に特段の定めがない事項については、質問検査の必要があり、かつ、これと相手方の私的利益との衡量において社会通念上相当の限度にとどまる限り、権限ある税務職員の合理的な選択に委ねられているものであり、実施の日時場所の事前通知、調査の理由及び必要性の個別的、具体的な告知も法律上一律の要件とされていない。また、反面調査も、その順序、方法について法律上特段の定めがないから、同様に権限ある税務職員の裁量に委ねられていると解される。

2  被告が同業者の住所氏名を秘匿して立証することについては、その公表が被告に課せられている守秘義務に抵触するほか、これを開示せずとも同業者の抽出の無作為性及びその資料の正確性を明らかにすることで推計の合理性を担保することができ、また、原告側も手持ちの帳簿書類や原始資料等に基づいて十分に反証が可能であることから、一般的に是認されているところである。そして、本件の類似同業者は、仙台国税局長通達による合理的な抽出基準を満たす者のすべてを機械的に漏れなく抽出して選定された者であって、現に実在する業者であるし、その選択に恣意が介在する余地はない。

3  青色申告書に係る更正において理由附記を要求されている趣旨は、青色申告の申請承認を請けている者に対しては、法定の組織的な帳簿書類への記録とその保存や、さらに青色申告書に貸借対照表、損益計算書及びその他の所得金額または純損失の金額に関する明細書を添付させるという厳格な義務を課しているため、その代償として特に法律によって与えられているのである。したがって、そのような義務を課せられていない白色申告書の更正のばあいにまで理由附記を要しない。

4  原告が実額反証によって被告の推計課税の合理性を争うには、その主張する収入及び経費の各金額が存在すること、その収入金額がすべての取引先からのすべての収入金額であること及びその主張する経費の金額がその収入と対応する経費であることを合理的疑いをいれない程度に立証されなければならない。ところが、原告がその営業所得の実額を立証するものとして提出した本件各係争年分の自主計算・自主申告ノート(以下「自主計算ノート」という。)は、取引に基づき日々正確に記帳したものとは認められず、他の年度の領収証等を含むなど杜撰な保存状況にある原始資料に基づいて十分な確認をすることもなく、後日まとめて記帳されたものであるから、その記載内容は到底信用に値するものでない。また、これに記載された経費の中には、支出を裏付ける領収証がないとか、あるいはメモ書程度の不十分なものがかなりあって、これらは経費の存在自体が認められないほか、その支出が事業遂行上のものか家事上のものかを区別せずに一括して記載している箇所もあって、もとより家事上の支出は業務遂行のための経費とは認めがたいので、原告の主張する経費のすべてを必要経費の実額と認めることができない。したがって、原告の実額反証は、営業所得の実額についての立証が尽くされていない。

五  争点

1  本件各処分に至る手続の違法の有無

2  推計課税の必要性と合理性の有無

3  実額反証の成否

第三当裁判所の判断

一  証拠(甲57、62ないし64、乙1の1ないし3、三品嘉雄、板垣征夫、松本寿行、原告本人)によれば、次のような事実の経過が認められる。

1  原告は福島県原町市内において、内装工業とその傍らで農業も営んでおり、毎年その所得税につき相馬税務署に白色の確定申告をしていた。

2  被告は、原告から提出された本件各係争年分の所得税の確定申告書には、法により添付が義務付けられている収支内訳書を欠いており、また昭和六十三年分の確定申告書には所得金額の記載があるだけで収入金額及び必要経費の額の記載がないため、事業所得の金額の計算内容が不明確であったこと、原告の営む内装工事業については、材料を仕入れて内装工事を営む原告は、材料などの仕入がない手間収入だけの者より所得金額が多いはずと考えられたところ、原告の所得金額が手間収入だけの者のそれより低額であると見込まれたこと、原告の昭和六〇年分の確定申告書に添付された収支内訳書を検討したところ、同年分の差益率が同業者のそれに比較して低調であって、本件各係争年分についても同様であると推測されたこと、原告には長期間にわたり調査を行っていなかったことなどにより、調査の必要があると認めて、国税調査官三品嘉雄(以下「三品係官」という。)が原告に対する調査を担当することになった。

3  三品係官は、平成元年四月二四日、事前に連絡することなく、調査のため原告方を訪れたところ、原告が不在であり、在宅していた妻に来意を告げて原告との面会を申し入れたが、原告の妻から夫が不在であるので後日にしてもらいたい、帳簿書類等は原告が一切記帳しており事業内容について返答できないと回答されたため、とりあえずその来意と電話が欲しい旨の伝言を同女に託して辞去した。

4  三品係官は、まもなく電話連絡してきた原告と期日を打ち合せ、同年五月一七日、原告方に赴いたところ、原告とその妻に加えて、相双民主商工会事務局長松本寿行(以下「松本事務局長」という。)外六名ほどが待ち構えていた。そして、右第三者らが立ち会うもとで、原告に対し、申告額が正しいかどうか所得金額の確認に来たとその目的を告げて所得税調査への協力を求め、本件各係争年分の帳簿書類等の提示を促した。しかし、原告は、調査理由の開示を求めて帳簿書類等の提示に応じようとせず、三品係官が所得金額の確認である旨を繰り返し説明しても納得せず、曖昧な理由では調査に応じられないし帳簿書類等も提示できないなどと主張し、松本事務局長ら同席した者達もこれに同調していた。そこで、三品係官は、これ以上の調査の続行は見込めないと判断して、その日の調査を打ち切って辞去した。

5  三品係官は、同月二二日、事前連絡せずに原告方に訪れ、在宅していた原告に対し、来意を告げて調査への協力を求めたが、協力を断られてしまったのでこの日も調査を断念し、申告納税制度や税務調査などについて記載された「税金 申告と調査」と題するパンフレットを原告に渡して辞去した。

6  三品係官は、原告に電話して次回の調査日時を打ち合わせした。その際も原告は、具体的な調査理由の開示がない限り前回と同じような状態になると予告し、前記パンフレットの交付については税務署の脅迫行為にほかならないなどと厳しく抗議した。三品係官は、同年六月二日原告方に臨場し、原告と松本事務局長外四名ほどが待ち構えているなか、原告に対し、調査理由は所得金額の確認であると説明し、調査への協力と帳簿書類等の提示を求めたが納得を得られなかったので、このまま調査に協力してもらえないと他の方法で所得金額を確認せざるを得ないと告げて、重ねて調査への協力を要請した。これに対し、原告が税務署の保持する資料との突合だけであれば応じてもよいと返答し、三品係官は、資料の突合だけでは所得金額の確認ができないから、やはり帳簿書類を提示するように求めたところ、原告はまず昭和六三年分の特定項目に限って調査に応ずると述べて、昭和六三年分の帳簿にあたる自主計算ノートを取り出して卓上に置いた。しかしながら、三品係官は、その調査範囲を制限するに等しい提案は如何にも受入れがたいものがあったのでこれに応ぜず、あくまで本件各係争年分すべての提示を求めたのであるが、このまま説得を重ねても調査が進展しないと判断して、原告に対し、このまま調査に協力してもらえなければ、やむを得ず取引先関係に対して反面調査を行う旨を告げたところ、取引先を失ったら税務署が責任とるのかなどと原告の反発を買ったので、調査に協力してくれたら反面調査を行わないこともあるなどと再び説得にかかったが、やはり調査理由の開示がないので帳簿書類の提出はできないと協力を拒絶され、結局、取引先に対して反面調査を実行する旨言い残して辞去した。

7  その後、三品係官は、原告には調査に協力する意思がないと判断して、板垣上席調査官(以下「板垣係官」という。)とともに、原告の昭和六〇年分の確定申告書に添付された収支内訳書に基づき、原告の仕入先と考えられる業者を抽出して反面調査を実施した。

8  三品係官は、同月二七日、原告方を訪れたが原告が不在であったので、その後電話で連絡して原告と次回の調査日時を決めたものの、その際すでに原告から調査には応じられないと告げられていた。三品、板垣両係官は、同年七月七日、原告方を訪れると、原告及び松本事務局長外一名から反面調査を実施したことに強く抗議されるとともに、その調査結果を明らかにするように求められたため、被告が反面調査で把握できた仕入先五社に限って仕入金額につき万単位での読み合わせを行ったところ、一社の取引金額に大幅な相違のあることが判明し、原告から同社に関する昭和六一年分の請求書の提示を受けて確認したことがあったが、それ以上に原告がその余の仕入先の存在を明らかにしなかったし、その後に三品係官が帳簿書類の提出を求めても、原告は調査理由の開示要求を繰り返すばかりであった。

9  その後、板垣係官は、原告の希望期日である同月二〇日、原告方に臨場し、これを迎えた原告及び松本事務局長外三名に対し、調査担当を三品係官から引き継いだ旨を告げて、改めて調査への協力と帳簿書類の提示を求めたが、相変わらず調査理由の開示を迫られ、当初から理由として掲げていた所得金額の確認であるとの説明をもってしては納得されなかったので、それに付け加えて、手間収入のみの同業者よりも原告の所得金額が少ないのはおかしいこと、昭和六〇年分の差益率が低いので本件各係争年分についても同様の疑いがあること、そして原告に対して長期間調査を行っていないと理由を具体的に述べたところ、取って付けたような理由では駄目だと一蹴された。そして、原告側から、再び昭和六三年分だけなら帳簿を提示してよいとか、調査項目を絞るならば三年分の調査も認めてよいなどと提案を受けたが、収支内訳書の提出もないので調査項目を絞ることは不可能だと応じていると、原告の指示で松本事務局長が昭和六三年分の売上、仕入、経費の年間合計額を読み上げた。そこで、板垣係官は、原告が帳簿の記載内容を小出しに明らかにしてきたので実額を把握できるかもしれないと考え、どこまで協力する意思があるのか質してみたが、原告側から昭和六三年分の売上を月別に読み上げてもいいが、その相手先は反面調査のおそれがあるので明らかにできないし、昭和六一、六二年分はとても明らかにできないとの返答を受け、この日も調査に進展が見られないと判断して辞去した。

10  その後、板垣係官は、電話により調査協力要請をし、原告側から調査理由の開示がなくて三年分の帳簿を要求することができるのかなどとの応酬があった後、原告と再び面会する約束を取り付け、同年八月八日、原告方を訪問して重ねて協力要請し、調査理由として先に挙げた三点を再度説明したが納得してもらえず、帳簿書類提出の意思の有無を質しても、本人の了解を得ない反面調査は違法であるとのみ応じ、同席した松本事務局長をして、本件各係争年分の仕入先別の月別仕入金額のほか、給料賃金、外注費、減価償却費の各合計金額と昭和六三年分の月別売上金額を読み上げさせただけであった。そして、板垣係官において、本件各係争年分の所得金額はそれぞれ二〇〇万円位増えるのではないかと水をむけても、原告がそんなにないと否定し、また売上先を明らかにしてはどうかとの申し入れにも、見せざるを得ないときがくれば帳簿はみせると答えて売上先を開示せず、むしろ、税務署もそろそろ更正処分をせざるを得ないでしょうなどと挑発的な発言もみられたため、もはや原告の協力を得て調査を行うことは困難であると判断した。その後、板垣係官は、同年九月一三日、原告に電話で調査結果を知らせたうえ、修正申告に応じるように勧めたが、原告がこれを断ったので、結局、本件各処分を行うに至った。

二  以上の事実関係を前提として、まず、本件における被告係官の質問検査権の行使について検討する。

法は、適正公平な課税を実現するため、税務官庁が租税債権を確定するにあたり、課税要件事実の認定を行う必要があることから、税務職員に対し調査を実施するための権限として質問検査権を付与しているところ(二三四条)、その権限を行使する範囲、程度、時期、具体的な手順などの実施細目については具体的な定めをしておらず、これらに関しては、現実に実施する調査の目的と対象、調査すべき事項、申請申告の体裁内容、帳簿書類の記載及び保存状況等の具体的事情に照らして、客観的な必要性があると認められる場合には、調査対象者の私的利益と比較衡量して社会通念上相当と認められる範囲内において、税務職員の合理的な裁量的判断に委ねられていると解される。したがって、右規定に事前の通知や調査理由の開示についても具体的な定めがない以上、これを行うか否かは当該職員の裁量に任されており、たまたま質問検査権を行使する場面でこれらの措置をとらなかったとしても、その職権行使が直ちに違法となるものではない。

そこで、本件につき考えてみると、前示のとおり、原告の調査を担当した三品係官は、最初は事前連絡しないで原告方を訪問したが原告が不在であったため調査に着手せず、その後は概ね原告と調査日時を合意したうえ原告方に臨場し、原告に対し、当初から調査の理由として本件各係争年分の所得金額の確認であることを重ねて説明して帳簿書類の提出を求め、それに対して原告が右理由開示に納得せず、もっと具体的な理由を示すように執拗に要求して帳簿書類の提示に応じなかったため、後に三品係官を引き継いだ板垣係官において、さらに具体的な理由三点を指摘するなどして、原告の理解を得て調査に協力して貰うべく説得に努めていたところ、本件係争年分にかかる原告の申告書は、いずれも収支内訳書が添付されておらないうえ、昭和六三年分については収入金額と必要経費の記載すら欠落していたというのであるから、被告係官において、調査理由として右開示した以上に具体的事由を指摘することが無理であると判断した点は首肯することができるのであって、結局、被告係官らの原告に対する調査の実施方法は、社会通念上相当の範囲内にあったと認められる。また、被告係官は、右調査にあたって本件各係争年分である三年分の帳簿書類の一括提示を一貫して求めているところ、企業会計は便宜上歴年によって区分されているが、経済活動は決算期を超え連続して営まれるものであるから、被告係官において、これを実勢に則して実質的に把握するためには、ある程度の幅のある期間を対象として調査を行う必要があると考え、本件において三年分の帳簿書類の提示を求めた判断には決して不当な点は認められない。そして、前示の事実及びその他の本件証拠を総合しても、被告が恣意的意図をもって原告に対して税務調査を実施したことは窺われない。

よって、本件における質問検査権の行使が違法であるとする原告の主張は、憲法違反の点も含めて理由がない。

三  次に、推計の必要性の有無について判断する。前示の事実によれば、原告は、被告係官らが、法二三四条に定める質問検査権に基づいて税務調査するにあたり、本年各係争年分の所得金額を確認するために調査する必要があると調査理由を告げて、調査への協力を繰り返し求めていたにもかかわらず、調査理由の具体的な開示がないなどと主張して帳簿書類の提示に応じようとせず、そのうち被告係官が取引先の反面調査を実施するとその結果との突合には応じたり、昭和六三年分の帳簿書類の一部を読み上げたり、問題点が具体的に示されたならばその余の帳簿記載を明らかにしてよいなどと若干態度を軟化させたことはあったようであったが、調査項目を限定するという条件を付するなど全面的に調査に協力しようとするものではなく、その後も必要経費等を読み上げたりしたことがあったにせよ、あくまでも調査対象となっていた本件係争各年分の帳簿書類に対する検査には原則的に応じない姿勢を貫いていたことが窺われるのであり、以上の交渉経過と原告の態度に徴すれば、原告に対して質問検査権を行使してその協力を得て帳簿書類の提出を受け、その記帳内容を確認するなどして所得の実額を把握することは、社会通念上困難な状況にあったと認められるので、原告の本件各係争年分の所得金額を推計の方法により算出する必要性があり、あわせて推計を行う前提として反面調査を実施する必要性もあったということができる。なお、原告は、具体的に調査理由が開示されない以上、人権侵害の虞すらある調査にむやみに協力することはできなかったと主張するが、質問検査権を行使するにあたり、調査理由を開示することまで法は要求しておらないところ、本件において、原告が提出した本件各係争年分の確定申告書には収支内訳が明らかにされておらないうえ、その所得金額は他の同業者の収支状況と比較して疑問を抱かせたというのであるから、被告係官が調査当初から説明していた所得金額を確認する必要がある、という調査理由の告げ方には不相当な点は認められないのである。調査理由を開示しなかったとする原告の主張は採用できない。

四1  続いて推計の合理性に関する検討を進めるに、被告は、原告の仕入先への反面調査によってその売上原価を把握したうえで、これに類似同業者の平均原価率と平均所得率を乗じてから、事業専従者控除額を控除して、本件各係争年分の営業所得を算定している(これに加算される原告の本件各係争年分の農業所得金額については当事者間に争いがない。)。そこで、類似同業者の選定をはじめとする推計方法の合理性の有無について判断をするに、証拠(乙7の1ないし4、三品嘉雄、板垣征夫)によれば次のような事実が認められる。

(一) 被告は、原告と立地条件及び事業内容が一致ないし類似する業者を抽出するため、原告住所地を管轄する被告の管内で原告と同種の内装工事業を営む個人事業者のうち、(1) 青色申告の承認を受けている者、(2) 売上原価の金額が原告のそれの半分以上二倍以下の範囲内にある者、(3) 年間を通じて事業を継続して営んでいる者で、災害等により経営状態が異常でない者、(4) 更正又は決定処分を受けている者については、当該処分につき国税通則法又は行政事件訴訟法の規定による不服申立期間及び出訴期間が経過している者並びに当該処分に対して不服申立中及び訴訟中でない者、という基準を設定して該当する業者を抽出した。

(二) 被告は、右の類似同業者を抽出するにあたり、確定申告書を提出している業者の中から右の条件を満たす業者をすべて機械的に漏れなく抽出しており、その過程において被告の作為や恣意が介在する余地がなかった。

(三) 右作業によって抽出した同業者は、別紙2のとおり、昭和六一年分が三件、昭和六二年分及び昭和六三年分が各五件であった。

2  右の認定事実によれば、被告の設定した抽出基準は、原告の類似同業者を抽出する方法として相当であると認められ、右抽出基準に従って機械的にすべて漏れなく抽出しているので(経営状態が異常な者や申告額を争っている者は除外されている。)、選別された本件の類似同業者から顕れた数値は実勢を反映するものであって、その抽出件数にも不足はなく、基準値を算出するための母体として充分である、と考えられる。本件における推計の方法は合理性があると認められる。

3  なお、原告は、郊外に事務所を構えているので仕事を得るために金額面でかなりの値引きを強いられる状況にあり、また職人を使っているため人件費が嵩んでいたなどとその営業面での特殊事情を主張し、人件費が嵩んでいた事実を証明するために、甲三五の一ないし一三、三六の一ないし三六、三七の一ないし二七、七八の一ないし二二、七九及び原告本人の供述を援用するのであるが、しかしながら、原告においては、被用者に支払うべき給与等から所得税を徴収して国に納付しておらない事実は自認するところであるし、証拠上賃金台帳等が備付けられている形跡も窺われないし、被用者を被保険者とする労働保険にも加入しておらないようであり、これらの反対事実に照らすならば、原告の援用する右証拠の信憑性には疑問があるし、さらに後述する書証の様式上における問題点ともあわせて、にわかに措信することができない。そして、本件証拠関係を検討しても、原告について、同業者に通常存在する営業条件の差異の範囲を超えて、同業者一般の経営との等質性を破る程に大きな差異を形成するような個別的事情というものは認められず、推計にあたって特に斟酌する必要のある事実は認められない。なお、各類似同業者の営業条件の差異についても、その平均値を算出する過程においてすべて捨象されることになるから、この程度の差異が存在したからといって直ちに本件の推計方法を不合理ならしめるものではない。

また、原告は、被告が類似同業者の住所・氏名を秘匿しているため、その検証が不可能であるから、そのような資料を用いて一方的に推計を行うことは不当であると主張するが、前示のとおり、本件の類似同業者の抽出方法には合理性があり、その資料の正確性も担保されているほか、被告にはその職務上知りえた事実の守秘義務が課せられていることに引き換え、原告は手元に保持している帳簿書類や領収証等の原始資料に基づいて有効な反証を行うことが可能なのであるから、かかる立証方法を許容しても決して不当ではないし、そもそも法が採用する申告納税制度においては、納税者が法の定めに従って正しい申告をなすべき義務があるにもかかわらず、このような義務を果たさない納税者のために、無関係である第三者のプライバシーを犠牲にしてまで類似同業者に関する反駁の機会を与える必要はないというべきである。

さらに、原告は、本件の推計額と実額との間に乖離があるとしてその不合理性を主張するが、かかる主張は右実額が真実存在してそれが正確であることが前提であるところ、後記の実額反証が奏功すれば、当然に推計による金額が覆されることからして、結局、実額反証の主張と同義であると解される。

よって、推計の合理性に関する原告の主張はいずれも採用できない。

五  そうすると、原告の本件各係争年分の売上金額は別紙3のとおりであり、それに類似同業者の平均所得率を乗じ、それから専従者控除額を差し引いたことによって算定された営業所得は別紙5のとおりとなる。そして、これに争いない農業所得を加算すると、別紙6のとおり、原告の本件係争各年分の総所得金額が昭和六一年分につき四五五万六九〇〇円、昭和六二年分につき五六〇万三二五二円、昭和六三年分につき五一六万四八七七円となるので、本件各更正は、昭和六一年分及び昭和六二年分につき右総所得金額と同額であり、昭和六三年分については右総所得金額を下回っており、本件各更正は、右各総所得金額に基づいて賦課された本件各決定とあわせて、いずれも適法であると認められる。

なお、原告は本件各更正につき理由附記の欠如を違法と主張するが、法が青色申告の更正のばあいに理由附記を要求したのは、青色申告にかかる所得の計算が法定の帳簿組織による正当な記載に基づくものとして、その記載を無視して更正がなされることがないことを保障していることから、理由附記を義務づけることによって、更正処分庁の判断を慎重に行わしめ、その合理性を担保して恣意的判断を抑制するとともに、納税者に不服申立の機会を与える趣旨であると解せられるのであって、法定の厳格な帳簿書類への記録を要求されている青色申告者と、それを行っていない白色申告者とを同列に扱う必要はないし、実質的にみても、後記認定のとおり、原告が青色申告のばあいと同程度に正確な帳簿書類を備えていたとは認められないので、原告の右主張は理由がない。

六1  ところで、被告のなした推計に基づく右所得金額に対して、原告はその保有していた本件各係争年分の帳簿に相当する自主計算ノートとその原始資料たる領収証等に基づいて実額を主張しているので、以下検討する。

そもそも推計と実額では納税者の所得金額の把握の仕方を異にするだけであって、本来は所得金額を実額で把握することが原則であるから、たとえ推計によって一応の所得金額が推算されたとしても、後に実額によって所得金額が明らかになれば、右推計が覆り、原則に戻って実額に基づいて課税されることになる。そして、その実額の立証の程度を考えてみると、税務当局の調査に基づく推計に対して実額を主張して争うばあいには、当該納税者が当の経済活動を行っていてその経済的実態を誰よりもよく把握しており、実額の立証に必要な帳簿書類や領収証等の原始資料を保有しているのが通常であることを考慮すれば、推計を争う納税者において実額の存在を合理的な疑いをいれない程度に証明する必要があるというべきである。さらにその実額の内容は、当該係争年度におけるすべての売上金額とそれに対応する必要経費について、そのすべての主張・立証を要すると解すべきであり、このように解しても、右のとおり実額に関する資料・情報はほとんど納税者の手中にあるのだから、決して無理な負担を強いているものではなく、むしろ納税者が自己の所得額を正しく申告することを根幹としている申告納税制度の趣旨に沿うものである。

したがって、実額反証の立証に関する原告の法律見解は採用することができない。

2  以上の見地にもとづき、原告の主張する実額の具体的な検討に入る。

前記のとおり、原告は、その営業収入と必要経費の実額を立証するために自主計算ノートを提出しているが、その記入状況をみると、証拠(松本寿行、原告本人)によれば、原告は、昭和六一年から昭和六三年の間は、日常の業務の過程で生ずる日々の売上や支払につき、その都度現金出納簿などの帳簿等に記載せずに、領収証等を各月毎にレターケースに入れて保存しておき、年度末である二月中旬すぎになって、保存しておいた領収証、請求書等一切の原始記録を松本事務局長に渡して自主計算ノートの作成を依頼していたこと、松本事務局長は、昭和六一年八月に大学生協を自己都合退職してから、同年一二月の相双民主商工会の設立準備会に参加したものであるが、当時はまだ事業者の確定申告に関して充分な知識を持っておらなかったために、上部団体である福島県商工団体連合会から帳簿の記帳、納税申告事務について指導を受けながら会員の納税申告事務の援助を行っていたこと、同人は、領収証をノートに貼って整理するとともに自主計算ノートに記帳する方法により納税申告の準備作業を進めていたが、原告の売上の把握は、原告が売上帳、売掛帳を作成していないので、銀行の口座振替によって支払を受けた分はその通帳に基づいて、それ以外はほとんど請求書に基づいて行っており、必要経費等で領収証がない支払については、原告から聴取したうえでメモを作成して資料中に添付しておき、このような事務処理をするために、毎年おおむね一〇日間くらいを所要していたことが認められる。

かかる自主計算ノートの作成状況に照らすと、日々の取引や現金の出入に応じてその都度記入されることを原則とする売上帳、売掛帳、現金出納簿等の会計帳簿とは同等、同列に扱うことができないといわざるをえず、その記載をもって直ちに実額を認定し得るだけの信憑性は認められない。したがって、予め領収証等の原始資料と照らし合わすことによって、記帳内容の正確性を吟味する必要があることになる。

3  まず、原告の主張する売上金額について検討するに、自主計算ノートに記入された営業収入金額の存在を裏付ける資料として普通預金通帳、請求書控及び領収証控があるが、請求書控についてみると、提出されているのは昭和六二年一二月二〇日付以降分だけであって、しかも昭和六三年分のうち見積金額を記載したと考えられるものを除いた請求合計額を積算すると一九五七万〇一四六円となるところ、原告が主張する同年分の営業収入金額が二三〇六万五〇四五円であるから三四九万四八九九円少ないことになるが、提出された請求書控の各綴りにかなりの枚数が欠落していることが認められるため、果して右差額について真実存在するものかどうかは明らかでない。また、領収証控についても各綴り五〇枚が定数となっているところ、これまたかなり多くの枚数が欠落しており、この点につき、原告が農業関係やソフトボールの会費の集金に流用したり、分割払のものにつき後に一括した金額で発行し直したとか、仮領収証は本領収証を発行すると破棄したからであると説明するが、原告において売上帳、売掛帳等の補助簿を記帳していないのであるから、その売上金額を把握するためには、領収証の発行運用にあたり営業用と営業外用とを明確に区別するなどこれを厳格に行うべきであるのに、原告における領収証発行の取扱は右のとおりであって、これでは果して売上金額が漏れなく把握されているのか、疑念を抱かざるを得ないところである。以上のような原始資料の記録、保存、管理等の事情に徴すれば、これらに基づいて記入されたという自主計算ノートの営業収入金額について、それが当該年度のすべての営業収入を捕捉していることについては大きな疑問を抱かざるを得ないものである。したがって、原告の主張する本件各係争年分の総営業収入金額の実額を認めるに足りる証拠はないというべきである。

4  そうすると、原告の実額反証は成立しないことになるが、念のため必要経費の点についても言及する。

(一) まず、原告が必要経費の存在を立証する資料として提出しているもののうち、メモ書については、その様式自体から判断しても支出を正確に記載したとは認めがたいものがあるうえ、前示認定のように、自主計算ノートに記入した際にあわせて作成した事情もあるというのであるから、その作成時の状況から推し量っても正確性が担保されているとはいえない。なお原告は、外注費や賃金に関して各支払先が後日作成した確認書を提出して立証を補強しているが、その内容をみると予め執筆された文章につき証明者の署名押印を徴するものであって、相手方において確固たる根拠に基づいて証明をしたものかどうか明らかでなく、これをもってメモ書の記載につき正確性を担保するのに足りない。

(二) 公租公課のうち、昭和六一年分のダム管理費や昭和六二年分の土地改良区費は、営業収入に対応する経費ではないことが明らかであり、これを必要経費とすることはできない。

(三) 水道光熱費については、前示したように、外部に出向いて内装工事を行うという原告の事業形態からして、特段の事情について主張立証のない現段階では、それぞれの事業使用割合を五〇パーセントとみることは妥当でなく、通信費として計上している電話料金についても、その事業使用割合が九〇パーセントであるとする具体的な根拠を欠いており、直ちにこれをそのまま認容することはできない。

(四) 接待交際費については、昭和六一年分の職人に現金で渡したと主張する領収証のない三万円、昭和六十三年分の花輪代に関するメモ書も、いずれも真実どの程度の支出があったか明らかでなく、直ちに認めることはできない。

(五) 保険料については、昭和六三年分の一二万二六二〇円のうち九万〇七五〇円の支出を裏付けるものがメモ書であって、前同様に直ちに認定の根拠にはできない。また、証拠(甲8の61)によると、原告が昭和六二年一〇月に購入した三菱自動車製の車輌は、小型自家用乗用車の家庭用に分類されているが、他にも車輌を保有していることに照らし、右車輌が業務用であるとは認めるに足らず、その自動車損害保険料の全額を直ちに必要経費とみることはできない。

(六) 消耗品についてみると、昭和六一年分のうち布団・毛布代の八万六〇〇〇円は、仕事を手伝いに来てくれたことのある原告の甥の就職祝として購入したものと主張するが、社会通念上、その程度の関係で支出したものを事業の必要経費とみることはできない。また、スキーキャリア代についても、業務用に購入したとの原告の供述はにわかに措信しがたく、事業に関連するものとは認められない。

(七) 福利厚生費のうち、まず昭和六一年分についてはこれを裏付ける資料に欠けており、後に昭和六三年分から昭和六二年分に訂正した慰安旅行の補助費とする一〇万円も直接的にはメモ書に基づくものであって、これをもって直ちに支出があったとは認めがたいし、その際に宿泊したと主張するホテルの領収書の員数と原告の旅行に関する供述が符号しないことを考えても、福利厚生のために支出した費用と認めるに足りるまでの証拠はない。

(八) 減価償却費のうち、「軽トラ中古」と称する車輌については、その存在を証する資料を欠いていることから、自主計算ノートの記載だけをもってして直ちに経費として認めることはできない。

5  以上のとおり、原告の主張する実額反証は、その主たる根拠であった自主計算ノートが、その作成状況からして正確性の担保を欠いているほか、その記載内容についても、後に被告の指摘を受けてかなりの箇所の訂正がなされただけでなく、その原始資料の点でも欠落しているものがかなりの数にのぼっており、直ちにその記載額を実額として認めることができないのであって、これらの証拠を総合して検討してみれば、その総営業収入とこれに対応する必要経費に関しての立証が尽くされていないというべきであって、実額の存在について合理的な疑いをいれない程度の証明がなされているとは認められない。

第四結論

よって、原告の請求はいずれも理由がないのでこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 木原幹郎 裁判官 林美穂 裁判官石垣陽介は転官のため署名押印することができない。裁判長裁判官 木原幹郎)

別紙1

一 昭和六一年分

<省略>

二 昭和六二年分

<省略>

三 昭和六三年分

<省略>

別紙2

一 昭和六一年分

<省略>

二 昭和六二年分

<省略>

三 昭和六三年分

<省略>

別紙3

<省略>

別紙4

一 昭和六一年分

<省略>

二 昭和六二年分

<省略>

三 昭和六三年分

<省略>

別紙5

<省略>

別紙6

<省略>

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