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福岡高等裁判所那覇支部 昭和59年(く)9号 決定 1984年10月05日

被告人 宮城健一

主文

原決定を取り消す。

被告人の保釈を許可する。

保証金額を金二〇〇万円と定め、指定条件は別紙のとおりとする。

理由

本件抗告の趣旨及び理由は、申立人作成の抗告申立書に記載されたとおりであるから、これを引用する。

所論は、要するに、現時点において、被告人には刑訴法八九条四号及び五号の事由が存しないのに、これらがあるとして本件保釈請求を却下した原決定は、違法かつ不当であるから、右決定の取消しと被告人の保釈許可決定を求めるというのである。

そこで、判断すると、本件公訴事実は、組織暴力団三代目旭琉会沖嶺一家幹部の地位にある被告人が、右沖嶺一家の前身である大城組の元組長で相被告人の大城清栄から、同人が持病の入院治療費にも事欠いている事情を明かされ、これらを捻出し、併せて小遣銭を稼ごうとの目論見の下に、同人と共謀の上、二回にわたり、民家を借りて賭場を主宰、開設し、賭客に「全役」等の賭博をさせて利を図つたというものであるが、一件記録によれば、被告人は、本件被疑事実による逮捕後、速やかに、本件賭博開張に関係した動機、共謀関係、開張までの準備行為、賭場における賭博の実行状況、事後の寺割、余罪等本件の全貌について、あますところなく詳細に自白し、かつ、その供述内容も一貫したものであること、共犯者である前記大城も、検挙後被告人同様詳細な自白をなしているところ、右両名の供述は、当初、賭博開張の提案者あるいは事後における寺銭の分配額等について内容的に若干の齟齬が存していたものの、最終的にはほとんど符合する内容のものとなつていること、賭場に参集した賭客等からも、これら被告人の自白に沿い、これを十分に裏付けるに足る供述が得られていること、被告人はもとより相被告人の大城も、原審第一回公判期日において、各公訴事実を認める旨陳述し、更に、検察官請求の証拠についても、被告人側において全部同意の上、その取調べを了していることが認められ、右のような本件事案の内容、捜査段階における証拠収集の程度、原審における審理の状況、被告人更には相被告人大城の応訴態度等に照らすと、現時点においては、被告人を保釈したとしても、客観的に罪証隠滅の余地に乏しく、実効性ある罪証隠滅の方法を見出すことは困難であつて、結局、被告人には刑訴法八九条四号の事由が存するとは認められない。

次に、同条五号の事由の存否について判断するに、一件記録によれば、本件は、被告人ら仲間内の事情に通じる情報提供者(匿名とされる。)からの捜査機関に対する通報から発覚、検挙に至つたものであるが、本件において、同号の対象として考え得べき者は、賭場に参集した賭客、賭博の実行幇助者の外、右情報提供者であるところ、そのうち前二者については、これらの者と被告人あるいは共犯者大城との従前からの交友関係等に照らし、被告人らが同号所定の行為に出ると疑うに足りる根拠に乏しい。また、右情報提供者については、検察官側はその氏名を明らかにしておらず、また、同人は、単に捜査の端緒を与えたというに止まるのであつて、本件事案の内容に照らし、同人が本件賭博開張図利被告事件の審理に占める重要性は小さく、現在の審理状況、被告人側の応訴態度等に徴しても、将来右情報提供者が証人として証言を求められるべき事態に立ち至ることは殆んど予想し得ない。してみると、同号が罪証隠滅防止の観点から規定されている外、なお、二次的機能として再犯防止という側面を有していることを考慮しても、本件における右情報提供者は、同号にいう「事件の審判に必要な知識を有すると認められる者」には該当しないといわなければならない。結局、被告人には、同号の事由があると認めることはできない。

以上の次第であつて、原判断と異なり、被告人には、現時点において、刑訴法八九条四号及び五号の事由を認めることができず、また、記録を精査しても同条他の各号に該当する事由も認め難いから、論旨は理由がある。

よつて、刑訴法四二六条二項により、原決定を取り消し、被告人に対し、保釈を許可することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 惣脇春雄 比嘉輝夫 中山隆夫)

別紙(略)

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