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福岡高等裁判所那覇支部 昭和49年(う)138号 判決 1974年10月30日

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役四月に処する。

原審における訴訟費用は、被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、検察官新井弘二作成名義の控訴趣意書に記載してあるとおりであるから、これを引用し、これに対して当裁判所は、つぎのとおり判断する。

一  控訴趣意第一点(法令適用の誤りの主張)について。

所論は、原判決は、判示第一の無免許運転、判示第二の酒酔い運転および判示第三の速度違反の各所為が観念的競合の関係にあるものと判示しているが、判示第三の速度違反の罪とその余の罪とは併合罪の関係にあるものと解すべきであるから、原判決には法令の適用の誤りがあるというものである。

よって案ずるに、刑法五四条一項前段にいう一個の行為とは、法的評価をはなれた構成要件的観点を捨象した自然的観察のもとで、行為者の動態が社会的見解上一個のものと評価をうける場合をいうと解すべきところ、これを本件についてみると、自動車を運転するに際し、無免許で、かつ、酒に酔った状態であることは、いずれも車両運転者の属性にすぎないから、被告人が本件のように無免許で、かつ、酒に酔った状態で自動車を運転したことは、右の自然的観察のもとにおける社会的見解上明らかに一個の車両運転行為であって、両罪は観念的競合の関係にあるものと解されるけれども、速度違反は、運転過程における一時的、局所的な事象であり、しかも速度の加速という新たな行為が加わることによって犯されるものであって、これを車両運転者の属性にすぎないものということはできないから、右自然的観察のもとでは、制限速度を超えて車両を運転した行為は、無免許で、かつ、酒に酔った状態で運転した行為とは、社会的見解上別個のものと評価するのが相当であり、従って、原判示第三の速度違反の罪と、原判示第一の無免許運転の罪および原判示第二の酒酔い運転の罪とは刑法四五条前段の併合罪の関係にあるものというべきであり、それゆえ、原判決には所論のとおりの違法があるものといわなければならない。しかしながら、右違法が判決に影響を及ぼすことが明らかであるかどうかについて検討するに、本件では懲役刑が選択されており、この場合における原判決の処断刑と本件について正当に法令の適用がなされた場合における処断刑との差は六月にすぎず、また、特段の事情のないかぎり宣告刑は処断刑の上限を相当下廻ってなされるのが通常であることを考慮し、さらに本件の具体的な犯情およびその他の情状に照らせば、右違法は、いまだ判決に影響を及ぼすことが明らかとはいえない。論旨は結局において理由がない。

二  控訴趣意第二点(量刑不当の主張)について。

所論は、要するに、被告人を懲役六月、執行猶予一年の刑に処した原判決の量刑は軽きに過ぎ不当であり、被告人を懲役刑の実刑に処するのが相当であるというものである。

よって、本件記録を精査し、かつ、当審における事実取調の結果をも参酌して審案するに、被告人は、酒酔い運転の罪により昭和四七年九月一六日コザ簡易裁判所において罰金三万円に処せられ、かつ、運転免許の効力を停止されたところ、その停止期間中に自動車を運転し、無免許運転の罪により同年一一月二九日同裁判所において罰金二万一、〇〇〇円に処せられるとともに、運転免許を取り消されたものであるのに、なんら反省することなく、またもや無免許運転、酒酔い運転および速度違反といういわば交通三悪を一度に犯したものであって、遵法精神を欠如すること甚しいものというべく、この種の悪質、かつ、危険な交通違反に基因する悲惨な交通事故が多発している現下の交通事情にかんがみると、犯情には軽視を許されないものがあり、被告人の責任は非常に重いといわなければならない。被告人が反省していると認められることのほか、被告人の身上、性行、経歴、現在の境遇等、被告人に有利な情状を斟酌してみても、同種事案の量刑罰と対比するときは、被告人に対して懲役刑の実刑を科するのはやむを得ないところといわざるを得ず、したがって、原判決の量刑は執行猶予を付した点において軽きに過ぎ不当であると認められる。論旨は理由がある。

よって、本件控訴は理由があるから、刑訴法三九七条、三八一条により、原判決を破棄したうえ、同法四〇〇条但書の規定に従い、さらに、自ら、次のとおり判決する。

原判決が認定した事実に法令を適用すると、原判示第一の所為は道路交通法一一八条一項一号、六四条に、原判示第二の所為は同法一一七条の二・一号、六五条一項に、原判示第三の所為は同法一一八条一項二号、二二条一項に各該当するところ、原判示第一の所為と第二の所為とは一個の行為で二個の罪名に触れる場合であるから、刑法五四条一項前段、一〇条により一罪として重い原判示第二の罪の刑に従い、所定刑中懲役刑を選択し、また、原判示第三の罪については、所定刑中懲役刑を選択し、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により重い第二の罪の刑に同法四七条但書の制限内で併合加重し、その刑期範囲内で被告人を主文二項掲記の刑に処し、なお、訴訟費用のうち原審における分については、刑訴法一八一条一項本文に従い、被告人に負担させることとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 森綱郎 裁判官 屋宜正一 堀籠幸男)

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