大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和61年(行コ)32号 判決 1991年10月09日

控訴人

福岡県地方労働委員会

右代表者会長

高橋貞夫

右指定代理人

青柳栄一

山本進平

中富倫彦

林正博

田中一郎

控訴人補助参加人

民放労連テレビ西日本労働組合

右代表者執行委員長

井上英雄

控訴人補助参加人

宮内信隆

控訴人補助参加人

民放労連九州地方連合会

右代表者執行委員長

伊規須正和

控訴人補助参加人

日本民間放送労働組合連合会

右代表者中央執行委員長

井上至久

右控訴人補助参加人四名訴訟代理人弁護士

小島肇

山本一行

藤尾順司

諫山博

井手豊継

内田省司

椛島敏雅

田中久敏

田中利美

小澤清実

幸田雅弘

林健一郎

被控訴人

株式会社テレビ西日本

右代表者代表取締役

古賀愛人

右訴訟代理人弁護士

村山利雄

山口定男

三浦啓作

主文

本件控訴を棄却する。

原判決中、被告の表示として「福岡地方労働委員会」とあるのを「福岡県地方労働委員会」と更正する。

控訴費用は、補助参加によって生じた分は控訴人補助参加人らの負担とし、その余は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の請求中、控訴人が福岡労委昭和五九年不第一九号不当労働行為救済申立事件につき、昭和六〇年一二月二三日付けでした命令の主文第一項の取消しを求める部分に係る訴えを却下し、その余の部分を棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文第一、三項と同旨。

第二当事者の主張

当審において、次のとおり追加、補足したほか、原判決の事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  控訴人

1  被控訴人は、宮内を平成二年二月一九日付け人事異動において、被控訴人会社北九州支社から本社へ配転した。

右の配転により、本件命令の主文第一項は、その目的が実現されたことになり、被控訴人が右主文第一項の取消しを求める法律上の利益は失われたから、被控訴人の請求中、右の部分に係る訴えは却下されるべきである。

2  使用者の行為が不当労働行為に当たるか否かを判断する場合、配転に関する権利、義務の存否は、その判断要素の一つとなるものではあるが、権利、義務の存在が否定されたことにより、不当労働行為が直ちに成立しないものではなく、当該労使間の紛争の経過、使用者の労働組合に対する態度、過去の事例との対比等を総合的に勘案してその成否が判断されるべきである。

本件において、名古屋支局長の次の異動先を名古屋支局に赴く前の任地とする取扱いが法的意味のある慣行であるかどうかは別にしても、そのような事実の積み重ねが存することは、本件不当労働行為成否の判断要素として十分に考慮されるべきである。けだし、過去の事例と異なる取扱いがされたこと自体、不当労働行為意思推認の有力な資料となり得るからである。

昭和五九年八月の異動後における被控訴人会社の職制の配置状況を見ても、宮内を本社営業部に二人目の部次長待遇チーフマネージャーとして配属することになんら支障はなかったものであり、同人を北九州支社営業部に部次長待遇チーフマネージャーとして配置することに合理性はなく、また、同人の本社営業部への配転が困難であれば、必ずしも本社営業部門にこだわる必要はなく、本件の他の部署も異動先として考慮すべき余地が存したのであるが、被控訴人会社がこのような観点から検討した状況はうかがわれない。

使用者の労働者に対する取扱いが当該労働者の組合活動に接近した時期に行われた場合、不当労働行為と判断されやすいが、両者が時間的に離れていても、労使間の事情によっては、当該取扱いが不当労働行為と判断されることもあり得るのである。

宮内が本件配転の直前に組合本部の役員でなかったのは事実であるが、宮内の組合活動については、次のような事情が存することを看過してはならない。

(1) 宮内は、長谷部報道部長のメモのとおりに報道部長から他の部へ配置換えされた当時から、一貫して被控訴人の注視するところである。

(2) 昭和三六年に被控訴人会社に入社した一二名中、組合員としてとどまっているのは、宮内ほか一名であり、宮内は組合ないしその結束の象徴的存在とみられているのである。

(3) 同人は、報道部から営業部への配置換えの後、名古屋支局配転までの間、代議員として営業職場の組合活動を実質的にとりまとめ、活発化させた。

(4) 同人は、被控訴人会社のCI計画運動が労働条件に関連することから、組合又は組合員のためにこれに対する批判的な意見を職場新聞に記載した。

(5) 同人は、名古屋支局配転後、支局勤務の女子一名を組合に加入させ、また、昭和五〇年ごろから規約のみは制定されていたが、実体のなかった大阪支部の組織造りを行ったばかりでなく、自ら副支部長に就任した。

以上のとおり、本件配転は、従来の名古屋支局長の地位にある者の異動先が前任地であるというこれまでの取扱事例に反してされた異例の取扱いであり、この取扱いについて、業務上、人事上の必要性ないし合理性があったとは認められない。

そうすると、昭和三五年以来、数多く生起してきた被控訴人会社と組合との紛争過程において、被控訴人会社の組合に対する硬化した対応のあったことや、宮内が昭和三六年入社者中、最低の職位に置かれていることをも併せ勘案すれば、本件配転は、宮内の組合執行委員の地位にあるとないとを問わず続けられた活発な組合活動や、被控訴人による二度の組合脱退勧奨を拒否して組合員としてとどまっていることを嫌悪してされたものであることは明らかである。

そして、このことは、宮内個人に対する不利益取扱いであるのみならず、組合員に動揺を与え、組合活動に対する抑止効果を招来したことは明らかであるから、支配介入にも当たると判断して控訴人がした本件命令に違法はない。

二  被控訴人

1  被控訴人が宮内を平成二年二月一九日付け人事異動において、被控訴人会社北九州支社から本社へ配転したことは認めるが、被控訴人に、控訴人がした前記命令の主文第一項の取消しを求める法律上の利益がないとの控訴人の主張は争う。被控訴人による宮内に対する右のとおりの配転は、定期人事異動計画に基づき、業務上の必要により行ったものであり、本件命令を履行したものではない。右配転以前においては、本件命令の拘束力は失われていないのであるから、被控訴人には、いわゆる制裁的行政処分と同一視し得る右命令の取消しを求める法律上の利益があるというべきである。

2  被控訴人会社は、名古屋支局長の地位にある者を前任地にもどすという一般的取扱いは存在しないもので、原判決別表歴代名古屋支局長の在任期間等一覧表の記載を子細に検討すると、前任地にもどった例といえるのは別府隆文と石村哲一の二例のみであり、右二例をもって右一般的取扱いがあったとすることはできない。

被控訴人会社の就業規則三四条は、異動について「社務の都合により任地の変更、職種、職場の異動または社外業務に出向させることがある。」と定めているから、被控訴人会社は、業務上の必要に応じ、その裁量により、従業員の勤務場所を決定する権限を有するところ、被控訴人会社が宮内について本件配転をしたのは、控訴人のあっせん及びアフターケアの経緯を尊重し、かつ、人事の公平性、営業政策上の必要性、営業部門への適格性を考慮して行ったものであり、本件配転は業務上の必要性と合理性を有するものである。

一般に、配転は本来使用者の裁量にゆだねられるべきであり、本件配転に業務上の必要性及び合理性が認められる以上、被控訴人が宮内を本社に配属することの支障の有無や営業部門以外への配転の可否を検討しなかったとしても、裁量権の範囲を著しく逸脱し、濫用したと認められるべきではない。

会社の人事は、単に支障がなければよいというものではなく、全社的かつ長期的視点に立って、業務上の必要に基づき、より適切な配置を目指して行われるべきものである。

宮内の組合活動が最も活発であったとみられるのは、同人が組合役員(本部執行委員)であった昭和三八年八月から昭和四七年二月までで、その後同人が本社勤務であった昭和五六年八月までの間は、執行委員に立候補したことはなく、また、同人は昭和五九年五月八日の大規模なストライキにも参加しなかったもので、これらの事実に照らすと、同人は組合で中心的な役割を果たしていたものではなく、組合の象徴的な存在でもなく、組合に対してなんら影響力をもっていなかったというべきである。

CI計画批判については、その内容は批判とはいえないものである上、それが宮内が行ったものであることや、組合活動との関連性があることを具体的に示す資料はない。

宮内が名古屋支局に転勤になる前の勤務地は、組合員が一一名の本社分室であり、その分室で行っていたとする代議員としての組合活動ならば、組合員一二名の北九州支社においても十分行えると考えられる。北九州市と福岡市は新幹線でわずか二二分のところであり、かつては北九州支社勤務の組合員が執行委員や北九州マスコミ共闘会議副議長に選出された例もあり、宮内だけが北九州支社では組合活動ができないとか、組合活動に支障をきたすということはない。

第三証拠

原審及び当審の記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これらを引用する(略)。

理由

一  控訴人が当審において追加した本案前の主張に対する判断

被控訴人が、平成二年二月一九日付け人事異動において、宮内を被控訴人会社北九州支社から福岡本社へ配転したことは、当事者間に争いがない。

ところで、昭和六〇年一二月二三日に控訴人がした本件命令の主文第一項は、被控訴人に対し、今後行う直近の人事異動において、宮内を支社から本社への配転対象者に含めて人事異動を行うことを命じるものである。そして、控訴人がした本件命令は、労働組合法二七条四項、労働委員会規則四五条一項に明示されているとおり、命令書の写しの交付と同時に効力を生じるものであり、他方、後記認定のとおり、被控訴人会社の定期人事異動の時期は、毎年二月と八月である。したがって、右命令を取り消す判決が確定しない限り、被控訴人は、前記不当労働行為救済申立事件の申立人である控訴人補助参加人らに対し、昭和六一年二月の定期人事異動期に、右命令の趣旨を履行すべき法律上の義務を負い、前記のとおり平成二年二月に宮内を本社に配転する前までは、その義務を履行しないまま経過したことになり、これにより右命令の趣旨の履行に代わる損害賠償義務を負うに至る等被控訴人にとって不利益な法律関係は、右命令の拘束力が宮内に対する前記配転の実態により現時点においては既に失われていることにかかわりなく、なお存続しているというべきである。

そうとすれば、被控訴人は、右の法律上の義務を負わない法的地位を回復するため、右命令の取消しを訴求する法律上の利益を有することは明らかであり、控訴人の本案前の主張は理由がない。

二  被控訴人の本件請求に対する判断

当裁判所も、被控訴人が宮内に対して発令した本件配転(昭和五九年八月一〇日付け北九州支社への配転)が労働組合法七条一号及び三号の不当労働行為に当たるとして、控訴人が発した本件命令の取消しを求める被控訴人の請求は、理由があると認定判断する。その理由は、次のとおり付加し、改めるほか、原判決の理由説示と同一であるから、これを引用する。

1  原判決二一枚目表三行目の「成立に争いない」(本誌四八六号<以下同じ>71頁1段14行目の(証拠略))の後に「甲第六九号証の一、二、」を、五行目の「第五六号証」(71頁1段14行目の(証拠略))の後に「、当審証人藤江正章の証言及びこれにより真正に成立したものと認められる丙第七一号証の一ないし五、第七二号の一ないし三、当審証人諸住昌弘の証言及びこれにより真正に成立したものと認められる丙第一一七号証、当審証人藤田成一、同宮内信隆の各証言」を加える。

同二二枚目裏三行目の「代議員となり」(71頁2段30行目)の後に「、昭和五六年に名古屋支局長として転出するまで四期にわたり代議員を務め」を、八行目の「証言をしたこと」(71頁3段7行目)の後に「、また、昭和五五年三月二七日、八幡シャーリング支援共闘勝利決起集会に、他の組合員一〇名とともに参加したこと、被控訴人会社で昭和五六年一月から七月にかけて行われた時限ストに参加したこと」を加える。

同二三枚目表九行目の「これと」(71頁3段26行目)を「また、前記当審証人宮内の証言及びこれにより真正に成立したものと認められる丙第六九号証には、昭和五三年一月二三日に的野営業部長から組合を脱退するようにとの話があった旨の供述及び記述があるが、これも対談の場所や対談内容についての具体性を欠いており、これらと」と改める。

2  同二六枚目表三行目の「をした際、同申立人会議の」(71頁2段31行目)を「をするのに先だち結成された申立人会議と称する組織の」と改める。

同二七枚目表一行目の「最良」(72頁4段2行目)を「最長」と改める。

3  同二九枚目表一行目の「丙」(73頁2段12行目の(証拠略))の後に「第五六号証、」を、同行から次行にかけての「甲第一五号証」(73頁2段12行目の(証拠略))の後に「、丙第一二七号証の一ないし一〇、当審証人春田雅孝の証言」を、一一行目の「大阪支社勤務」(73頁2段25~26行目)の後に「で、組合大阪支部代議員」を加え、その裏二行目(73頁3段1行目)の後に次のとおり加える。

「 なお、組合は、かねてから、組合大阪支部長古賀睦生、同書記長江口祐爾についても、本社への異動を要求していたが、両名は、昭和五八年ごろ、いずれも大阪支社から福岡本社に配転された。」

同三〇枚目表三行目の「待偶」(73頁3段20行目)を「待遇」と改める。

4  同三〇枚目表九行目の「それ自体」(73頁3段29行目)から裏五行目(73頁4段11行目)までを次のとおり改める。

「 宮内に対する不利益取扱いに当たるか否かについて検討するに、成立に争いのない甲第二九号証及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人会社の歴代名古屋支局長の在任期間、その地位に着任前後の勤務場所等については、原判決別表歴代名古屋支局長の在任期間等一覧表のとおりと認められるところ、右一覧表記載のうち、由布昭二及び川脇健治は、いずれも名古屋支局から大阪支局への配転であり、また、右甲第二九号証によれば、右両名は、本社から転出した後、三回にわたり、大阪市及び名古屋市所在の支社、支局に配転されたことが認められ、実質的な観点からこの二例と比較した場合、本件配転は前例に反してはいるが、むしろ利益な取扱いとみてよいと考えられる。

控訴人は、右二例も名古屋支局長を前任地にもどす取扱いの例であり、本件配転は、これに反した異例なもので、宮内に対する不利益取扱いに当たると主張するところ、右両名の配転は、大阪支社を起点とする二回の配転に限定して形式的にみた場合には、前任地にもどす配転で、本件配転はこれに反した異例の配転といえるけれども、本件配転が不利益取扱いに当たるか否かを判断するに当たっては、右二例の配転の実質的な利益性、不利益性を検討する必要があるのである。

しかし、同表記載の別府隆文以下四名は、いずれも本社ないし福岡支社から名古屋支局へ配転された後、本社へ配転されているので、本件配転は、この四例と比較した場合、その限りにおいては、前例に反した不利益取扱いであるとみる余地があると考えられる。」

5  同三二枚目表九、一〇行目の「認め難いところ、」(74頁2段10~11行目)の後に次のとおり加える。

「 本来、被控訴人会社における配転人事は、被控訴人会社の裁量に属し、同様の配転事例がいくつか積み重なった後においても、それに前例という意味づけを行い、多少とも拘束力をもたせることは、かえって人事異動の硬直化という弊害をもたらすことにもなるから、そのような配転が労使間の法的権利、義務にまで高められていない限り、被控訴人会社はいつでも右の配転の例を変更することができ、変更するについてはなんらの制約も受けるものではないというべきである。」

同三三枚目表八行目の「配転したとい」(74頁3段15行目)の後に「う」を加え、その裏九、一〇行目の「解されないこと」(74頁4段5行目)の後に次のとおり加える。

「、被控訴人会社は、組合大阪支部代議員であった江口を本件配転と同時に福岡本社に配転していること、本件配転の前年には、組合大阪支部長及び同書記長をいずれも福岡本社に配転していること、そもそもある配転が利益であるか不利益であるかは、ある程度長期的に観察しなければ判断し得ないという面もあり、ある配転に限定して観察した場合には、不利益な取扱いであるとみえる配転も、その後における配転を含めて長期的に観察した場合には、むしろ利益な取扱いと評価される例も世上多くみられること、本件配転は、比較の対象を、前記由布ほかの二例の前例に設定した場合には、むしろ利益な取扱いというべきこと」

同一二行目の「推認することはできない」(74頁4段8行目)から末行までを次のとおり改める。

「 推認することはできず、本件において、宮内の組合員歴や組合活動歴、被控訴人会社と組合との間の紛争の歴史的経緯、被控訴人会社の組合に対する態度、過去の事例との対比等の諸点を総合的に勘案しても、本件配転は、被控訴人会社が宮内が組合員であることや、組合活動を嫌忌して行った同人に対する不利益取扱いに当たり、かつ、被控訴人会社が組合員に動揺を与えて、組合活動に対する抑止効果を及ぼすことを意図して行った行為に当たるとの控訴人の主張を肯認するに十分ではない。」

三  よって、被控訴人の控訴人に対する請求を認容した原判決は正当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、なお、原判決の当事者の表示に明白な誤謬があるから、職権によりこれを更正し、控訴費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民訴法九五条、八九条、九三条、九四条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 奥平守男 裁判官 石井義明 裁判官 牧弘二)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例