大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和57年(ネ)76号 判決 1982年11月29日

控訴人

株式会社森田材木店

右代表者

森田昭二郎

右訴訟代理人

上崎龍一

被控訴人

日本通運株式会社

右代表者

広瀬真一

右訴訟代理人

灘岡秀親

主文

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人は、控訴人に対し、金一一七万二一六〇円及びこれに対する昭和五二年六月三〇日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

四  本判決二項は金三〇万円の担保を供して仮に執行することができる。

事実

一  控訴人は主文一ないし三項同旨の判決並びに二項につき仮執行の宣言を求め、被控訴人は「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求めた。<以下、事実省略>

理由

一請求原因1ないし5についての当裁判所の認定、判断は、原判決八枚目裏一行目の「二分」の次に「の」を挿入し、同九枚目表五行目の「甲第二号証」から同枚目裏二行目末尾までを次のとおり改めるほか、原判決理由説示一、二、三の1、2と同一であるから、これを引用する。

「前掲甲第二号証には、本件原木は、前記同年七月二八日満期の一三〇万円の約束手形決済後同年八月一二日までに買主の土場において引き渡し、同引渡後でなければ他に転売できない旨記載されていることが認められるし、右甲第二号証が作成されるに至つた前認定の事情をも併せ判断すると、右甲第二号証により、右約束手形が決済されて引渡が完了するまでは、本件原木の所有権は売主たる控訴人に留保する旨の特約がなされたものと認めるのが相当であり、右認定を左右するに足りる証拠はない。」

二進んで、被控訴人の不法行為(使用者責任)の成否について判断するに、被控訴人の八代支店が本件原木を田川運輸に引き渡した前後の事情、ヤマエ久野と被控訴人間の本件貯木場における木材保管業務委託契約の内容並びに右八代支店等における木材引渡に関する従前の事務処理方式等についての当裁判所の認定、判断は、原判決一一枚目裏七行目の「引き渡したこと、」の次に「その後本件原木は他に売却処分されたため、控訴人においてこれを回収することができなくなつたこと、」を挿入するほか、原判決理由説示四の1、2及び3のうち原判決一三枚目裏九行目末尾までと同一であるから、これを引用する。

そこで、右引用にかかる原判決認定の諸事実を踏まえて判断するに、前記出荷依頼書は、寄託者が倉庫業者宛に荷受人を指定して受寄物の引渡を依頼するもので、いわゆる荷渡指図書の一種として免責証券としての効力を有すると解されるものであるから、これを呈示した者に受寄物を引き渡せば、悪意又は重大な過失のない限り、倉庫業者たる被控訴人としては、前記善良な管理者の注意義務を尽くしたものとして、過失責任を否定されるべきであるが、出荷依頼書の呈示を受けることなく受寄物を引き渡せば、その受領者が正当な受領権限を有すると認めるに足りる特段の事由のない限り、被控訴人としては右注意義務を怠つたものとして、過失責任を免れないといわなければならない。

ところで、被控訴人は、出荷依頼書に記載されている原木の荷受人名、品名、船名及びロット番号の確認をすれば、右特段の事由ありと認めるべきである旨主張するので、この点について考えてみるに、確かに、右荷受人名等は出荷依頼書を所持している正当な荷受人しか知り得ないのが通常であろうし、現に前記の如く、九州地方における被控訴人管理にかかる九か所の貯木場においては、原木の引渡に関し、従前から、右荷受人名等の確認にとどめ、それ以上に出荷依頼書の呈示を求めるなどという措置をとつていなかつたが、そのために本件の如き事故が発生したことはなかつたことが認められる。しかしながら、それだからといつて、右の如き事務処理が当然に正当化されるいわれはない。けだし、本件の如く、出荷依頼書により指図された荷受人が、被控訴人に事前の連絡をすることなく、本件貯木場に保管されたままの状態で原木を他に転売することは十分に考えられることであり(ちなみに、原審証人藤本襄次の第一、二回証言によると、当時かかる事例は少なくなかつたことが窺える)、この場合には、右出荷依頼書に記載されている原木の荷受人名、品名、船名及びロット番号は転買人において知り得るものであり、しかも、右転買人の中には転買代金の支払等の関係で転買と同時に原木の引渡を受ける権限を有しない者が含まれていることも通常予想できるところであるから、右原木の荷受人名等を知つているからといつて、直ちにそれが正当な荷受人であるとは断定することができないからである。

したがつて、被控訴人の前記主張は到底採用することができず、他に、被控訴人八代支店の担当職員が本件原木を田川運輸に引き渡したことにつき、前記特段の事由があつたことを認めるに足りる証拠はないから、前記藤本が部下の担当職員に対し本件原木の引渡についても前記の如き事務処理方式を指示していたことは、被控訴人の事業の執行につき、前記善良な管理者としての注意義務を怠る過失があつたものというべきであるところ、以上認定の事実(前記引用にかかる原判決認定の事実を含む)に照らすと、藤本の右過失と、本件原木が正当な荷受人たる控訴人以外の者に引き渡されて他に売却処分され、控訴人がこれを回収し得なくなつたこととの間には、相当因果関係があると認められるから、藤本の使用者たる被控訴人は、民法七一五条一項により、控訴人が右事故のため被つた損害を賠償すべき義務があるといわなければならない。そして、右の損害額は、当時における原木の転売価額と認めるのが相当であるところ、該価額が一一七万二一六〇円であることは当事者間に争いがない。

三よつて、被控訴人は、控訴人に対し、右損害金一一七万二一六〇円及びこれに対する本件不法行為の日である昭和五二年六月三〇日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があるから、その履行を求める控訴人の本訴請求を棄却した原判決を取り消して、該請求を全部正当として認容すべく、訴訟費用の負担につき民訴法九六条前段、八九条、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(美山和義 谷水央 江口寛志)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例