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福岡高等裁判所 昭和55年(ネ)691号 判決 1981年11月26日

控訴人・附帯被控訴人(被告)

山口稔

ほか一名

被控訴人・附帯控訴人(原告)

武富暉子

主文

一  控訴人(附帯被控訴人)らの本件各控訴を棄却する。

二  附帯控訴に基づき原判決を次のとおり変更する。

1  控訴人(附帯被控訴人)らは被控訴人(附帯控訴人)に対し各自金二二八万六二八九円及びうち金二〇八万六二八九円に対する昭和五三年九月二九日から、うち金二〇万円に対する本裁判確定の日の翌日からそれぞれ支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被控訴人(附帯控訴人)のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審を通じこれを五分し、その一を被控訴人(附帯控訴人)の負担とし、その余を控訴人(附帯被控訴人)らの連帯負担とする。

四  この判決は被控訴人(附帯控訴人)の勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実

控訴人(附帯被控訴人、以下「控訴人」という。)ら代理人は、「原判決中控訴人ら敗訴の部分を取消す。被控訴人(附帯控訴人、以下「被控訴人」という。)の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人代理人は、主文一項同旨の判決を求め、附帯控訴として、「原判決を次のとおり変更する。控訴人らは被控訴人に対し各自金二二八万六二八九円及びこれに対する昭和五三年九月二九日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。(当審において右のとおり請求を減縮)訴訟費用は第一、二審とも控訴人らの負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、控訴人ら代理人は、附帯控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の主張ならびに証拠の関係は、次のとおり付加し、改めるほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する(なお、原判決二枚目裏三行目の「被告運転」を「被告山口稔運転」と訂正する。)。

一  原判決三枚目表六行目の冒頭から五枚目裏四行目の末尾までを次のとおり改める。

「三 損害

(一)  入院雑費 一〇万七四〇〇円

被控訴人は、本件事故により一七九日間の入院治療を受けているので、入院一日当り六〇〇円、合計一〇万七四〇〇円の入院雑費を要した。

(二)  通院費用 三万九一四〇円

被控訴人は、昭和五四年三月二八日から同年一二月三一日までの間に合計一〇三回西村外科病院に通院し、右通院一回につき往復三八〇円の交通費を要したので、その合計額は三万九一四〇円となる。

(三)  逸失利益 一七二万九七四九円

被控訴人は、本件事故当時、佐賀郡大和町大字尼寺所在の有限会社マイカーセンター朋友に勤務していたが、当時の給与月額は約六万円であり、年間賞与は月給の二か月分であつた。しかして、被控訴人は、本件事故による受傷の結果、昭和五三年九月二九日から現在に至るまで欠勤を続けている。被控訴人において、右欠勤をすることなく、勤務を継続していたならば、昭和五四年四月一日から昭和五五年三月三一日までは月額約六万五〇〇〇円、同年四月一日以降は月額約七万円の給与をえられた筈である。

1  欠勤による休業損害 一〇七万二五〇〇円

昭和五三年一〇月から一二月まで三か月分の給与額は一八万円であり、昭和五四年一月から同年一二月までの一年分の給与及び賞与額は八九万二五〇〇円であるから、右期間中の逸失利益は合計一〇七万二五〇〇円となる。

2  入院による家事労働の逸失利益 一七万七〇〇〇円

被控訴人は、前記のとおり会社員として勤務するかたわら、その家庭内において家事労働にも従事していたところ、本件受傷により、前記入院期間中は家事労働に従事することができなかつた。しかして、被控訴人は、事故当時満四五歳であつたところ、佐賀県内における四五歳から四九歳の女子労働者の平均賃金は年額一三四万九四〇〇円であるから、被控訴人の家事労働に従事しえなかつたことによる逸失利益の額は、右平均賃金額と被控訴人が前記の勤務先から支給を受ける給与及び賞与額の差額を下廻ることはなく、したがつて、家事労働に従事しえなかつたことによる逸失利益は、少くとも一七万七〇〇〇円を下らない。

3  後遺障害による逸失利益 四八万〇二四九円

被控訴人の症状は、昭和五四年一二月三一日固定したが、前記のとおり自賠法施行令別表一二級一二号該当の後遺障害があり、右後遺障害により労働能力の一四パーセントを喪失した状態が四年間継続するから、これによる逸失利益の現価を、ホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算出すれば、別紙(一)後遺障害逸失利益計算書記載のとおり四八万〇二四九円となる。

(四)  慰藉料 二五〇万円

被控訴人の本件受傷の程度、後遺障害その他諸般の事情を斟酌すれば右金額が相当である。

(五)  弁護士費用 二〇万円

被控訴人は、弁護士に委任して本訴請求をなしているものであつて、その弁護士費用は、着手金・謝金とも佐賀県弁護士報酬規定にしたがつて支払う旨約束しているから、右弁護士費用のうち少くとも二〇万円は本件事故と相当因果関係ある損害である。

(六)  損害の一部填補 二二九万円

被控訴人は、自賠責保険から合計二二九万円の支給を受けている。

したがつて、被控訴人の残存損害額は(一)ないし(五)の損害合計額四五七万六二八九円から(六)の受領額を控除した二二八万六二八九円となる。

四 よつて、被控訴人は、控訴人らに対し、各自金二二八万六二八九円及びこれに対する事故発生の日である昭和五三年九月二九日から支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。」

二  原判決六枚目表二行目の「本件追突は」から四行目の末尾までを次のとおり改める。

「本件追突は、その追突速度が一〇ないし一五キロメートル毎時程度に過ぎず、しかも、車の損害は殆んど認められなかつたのであるから、被控訴人に与えた衝撃の程度は極めて軽微なものであつて、被控訴人の頸椎に損傷を生ずるような頸椎の過伸展、屈曲があつたものとは到底考えられず、したがつて、治療を必要とするような頸椎捻挫を生じたものとはいえない。」

三  原判決六枚目裏一〇行目の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「(四) 後遺障害

被控訴人については、自賠責保険による後遺障害認定等級が「一二級一二号」となつているが、右認定は、書類審査のみによつて行われるため、本人の既往症、更年期障害、精神的ストレス等事故以外の要因によつて発症している場合であつても、これが看過されて、全ての症状が事故に基因するものとして、後遺障害等級が認定されてしまう虞れが多分にある。被控訴人には、「一二級一二号」に該当するような重い後遺障害はない。仮にあつたとしても、その症状の全てが本件事故と相当因果関係のあるものではない。本件事故と因果関係のある後遺障害は、一四級程度のものに過ぎない。」

四  控訴人らは、乙第四ないし第一七号証を提出し、当審証人中嶋一士の証言を援用し、被控訴人は、当審証人武富誠一郎の証言を援用し、乙第四、第五号証の成立は不知、乙第六ないし第一七号証の成立(ただし、乙第一六、第一七号証は原本の存在とも)は認めると述べた。

理由

一  当裁判所の判断は、次のとおり改めるほか、原判決説示の理由と同一であるから、これを引用する。

1  原判決七枚目裏末行から次行にかけて「損害調査センター」とあるのを「自動車保険料律算定会佐賀調査事務所」と改める。

2  原判決八枚目表三行目の冒頭から同裏四行目の末尾までを次のとおり改める。

「控訴人らは、本件追突によつて被控訴人に加えられた衝撃の程度は極めて軽微なものであつたから、被控訴人に前記のような長期間の治療を必要とするような頸椎捻挫の傷害及びそれに基づく後遺障害が生じたものとは考えられず、また、仮に被控訴人に相当の症状及び後遺障害が生じたとしても、更年期障害及び二次的ストレス等の本件事故以外の要因によつて長期の入通院治療を受けたものであるから、かかる要因によつて生じた分についてまで控訴人らが賠償責任を負うべきいわれはない旨主張するので、判断を加える。

なるほど、成立に争いがない乙第一号証、当審証人中嶋一士の証言により成立を認める乙第四、第五号証ならびに右中嶋証人の証言によれば、右西村外科の院長である西村徳之医師は、昭和五四年一月二八日頃と同年七月初旬の二回に亘り本件事故調査のため訪れた保険リサーチ担当者の質問を受けてこれに対し、被控訴人は、昭和五四年一月三一日症状固定となつたもので、残存後遺障害の程度は労災後遺障害等級表一四級九号の局所に神経症状を残すものに該当する、昭和五三年一二月中旬以後の症状に関する外傷の関与割合は三〇パーセントであつて、残り七〇パーセントは内因性要素(低血圧、更年期障害、精神的ストレス)によるものと考える旨述べ、これに副う記載をなした意見書(乙第一号証)を作成して右リサーチ担当者に交付したことが認められ、これの反証はない。

しかし、前顕甲第一一、第一二号証、第一四号証、乙第四号証ならびに成立に争いのない乙第二、第三号証、第六ないし第八号証、第一〇、第一一号証、原本の存在及び成立につき争いのない乙第一七号証、原審証人西村徳之、当審証人武富誠一郎の各証言及び原審における被控訴人本人尋問の結果によれば、本件事故により、加害車は、右前照灯破損、右前ボンネツト、右前角バンパー凹損、被害車は、右後バンパー凹損、右後制動灯ひび入りの各損傷を受け、被害車運転席に乗車していた武富誠一郎も頸椎捻挫による頸部痛、背部痛等を発症し、昭和五三年一〇月六日から同年一二月二一日までの間に六四日間通院治療を受けたものであつて、本件追突の衝撃の程度は必ずしも軽微といえるものではなかつたこと、本件事故の際、被控訴人は夫の誠一郎が運転する被害車に同乗していたが、助手席から運転席の誠一郎に向つて話しかけるようにして身体をやや斜めにして座つていたときに控訴人山口から追突されてその衝撃を頸部に受けたこと、被控訴人は、本件事故当時、四五歳で健康体であり、更年期症状などの自覚的・他覚的症状は全くなく、家事労働に従事するかたわら、有限会社マイカーセンター朋友に勤務していたこと、被控訴人は、昭和五四年一月三一日以後も、頸部より右上腕部に放散痛があり、背部、腰部痛があるため、前記のとおり長期間にわたり治療を継続して来たこと、被控訴人は、昭和五四年一一月七日、久留米大学医学部整形外科で診察を受けたところ、診療名は頸椎捻挫であり、そのレントゲン所見としては頸椎の四、五、六の部分が幾分狭くなつている旨診断され、右診断結果に基づいて引続き西村医師の治療をうけたこと、なお一般的には、女性が成熟期から初老期への移行期(いわゆる更年期)に達すれば、生理的な腰痛その他の更年期障害があらわれて来るものではあるけれども、本件の場合、被控訴人の本件各症状については、それがどの程度右更年期障害が加つているものかについては判定困難であること、昭和五四年一月三一日症状固定した旨の前記診断は、その後の症状の推移、治療経過に照らして訂正されるべきものであること、以上のような各事実が認められる。

してみれば、前記の昭和五四年一月及び七月の西村医師の診断ならびに前記の意見書(乙第一号証)記載の判断は、あくまでも、その時点における一応の診断所見であつたと見るべきであるから、これを根拠にして、前判示の症状固定の時期及び後遺障害の程度に関する前記認定を覆して、控訴人らの前記主張を支持するに足りない。他に控訴人らの右主張を肯認するに足る証拠はない。」

3  原判決九枚目表七行目の冒頭から同一一枚目裏七行目の末尾までを次のとおり改める。

「(二) 逸失利益 一七二万九七四九円

前顕証人武富誠一郎の証言及び被控訴人本人尋問の結果ならびに調査嘱託に対する有限会社マイカーセンター朋友からの回答書によれば、被控訴人は、本件事故当時、四五歳であつたが、家事労働に従事するかたわら、有限会社マイカーセンター朋友に勤務し、その給与月額は六万円であり、さらに年間賞与として月給の二か月分の支給を受けていたものであるところ、本件受傷の結果昭和五三年九月三〇日から欠勤し、昭和五六年八月現在においてもまだ勤務についていないこと、右欠勤をすることなく勤務を継続していたならば、昭和五四年四月一日以降は月額六万五〇〇〇円、昭和五五年四月一日以降は月額七万円にそれぞれ昇給し、同じくその二か月分の賞与の支給を受けえたものであることが認められ、これの反証はない。

1  欠勤による休業損害 一〇七万二五〇〇円

被控訴人は、昭和五三年一〇月一日から昭和五四年一二月三一日までの期間の休業損害を請求するところ、次のとおり、その主張のとおりの休業損害が生じていることが明らかである。

昭和五三年一〇月から一二月まで三か月分の給与額一八万円。

昭和五四年一月から三月まで三か月分の給与額一八万円。

同年四月から同年一二月まで九か月分の給与額五八万五〇〇〇円。

同年中支払予定賞与総額一二万七五〇〇円。

(但し、算出方法は、別紙(二)賞与額計算書のとおり)

以上合計一〇七万二五〇〇円

2  入院による家事労働の逸失利益 一七万七〇〇〇円

特段の事情の認められない本件においては、被控訴人は、前記入院期間である昭和五三年九月三〇日から昭和五四年三月二七日までの一七九日間は家事労働に従事しえなかつたものと認めるのが相当である。しかして、被控訴人は、本件事故当時、有限会社マイカーセンター朋友に勤務するかたわら、家庭の主婦として家事労働に従事していたものであるから、この家事労働に従事しえなかつたことによる損害(逸失利益)は、少くとも、被控訴人が現実に事故当時賃金収入としてえていたものを合算し、当時の被控訴人と同年代の女子労働者の平均賃金を下らない収入があつたものとして評価算出するのが相当である。昭和五三年度賃金センサスによれば、四五歳以上五〇歳未満の女子労働者の平均年間給与額は、一六八万五九〇〇円であるから、別紙(二)家事労働逸失利益計算記載のとおり、被控訴人請求の一七万七〇〇〇円を超える損害を生じたことが明らかである。

3  後遺障害による逸失利益 四八万〇二四九円

前顕証人武富誠一郎の証言及び被控訴人本人尋問の結果によれば、被控訴人は、昭和五四年一二月三一日の症状固定時において、首筋の痛み、手のしびれがあり、重い物が持てず力仕事ができない状態であつたこと、現在においても、なお、首筋から右肩、右腕にかけて痛みを訴え、右症状固定後も何度か通院した程であつて、日常の炊事、洗濯については、家族の手伝いを受けている状態であつて、会社勤めなどはしていないことが認められ、これの反証はなく、前記の自賠法施行令別表一二級一二号該当の後遺障害が残存している旨の自動車保険料率算定会による判定を相当でないとするに足る証拠も見当らないから、被控訴人については、右判定どおりの後遺障害が残存し、そのため、労働能力の一四パーセントを喪失し、その状態が四年間継続するものとして、逸失利益を算定するのが相当である。したがつて、右の逸失利益の現価を、ホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算出すれば、別紙(一)の計算書のとおり四八万〇二四九円となる。」

4  原判決一一枚目裏末行の冒頭から一二枚目表五行目の末尾までを次のとおり改める。

「(五) 弁護士費用 二〇万円

被控訴人は、自己の権利擁護のため弁護士に委任して本件損害賠償請求の訴訟を提起・追行しているものであるところ、前顕被控訴人本人尋問の結果によれば、被控訴人は、弁護士費用として佐賀県弁護士報酬規定にしたがつた着手金、謝金を支払う旨約束していることが認められるから、右費用額が二〇万円を超えるものであることは当裁判所に顕著であり、事案の難易・請求額・認容された額その他諸般の事情を勘案すれば、右弁護士費用のうち少くとも二〇万円をもつて本件事故と相当因果関係ある損害に認めるのが相当である。

四 以上の被控訴人の損害合計額は四五七万六二八九円となるところ、被控訴人が右損害につき自賠責保険から二二九万円の補償金の支払を受けたことはその自認するところであるから、控訴人らは、それぞれ、被控訴人に対し、右損害合計額から右受領額を控除した残存額二二八万六二八九円及びうち弁護士費用を除いた二〇八万六二八九円に対する本件事故発生の日である昭和五三年九月二九日から、弁護士費用二〇万円に対する本裁判確定の日の翌日から、それぞれ支払ずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、控訴人らの右各支払義務は不真正連帯債務の関係にある。」

二  そうすると、被控訴人の本訴請求は、右の支払を求める限度においてのみ理由があり、その余は失当として棄却すべきである。よつて、控訴人らの本件各控訴は理由がないのでこれを棄却し、被控訴人の本件附帯控訴は一部理由があるから原判決を主文第二項のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、九二条本文九三条一項、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 松村利智 金澤英一 早船嘉一)

別紙(一) 後遺障害逸失利益計算書

昭和55年度給与及び賞与額

(65,000円×3+70,000円×9)×(1+2/12)=962,500円

962,500円×14/100×3.564=480,249円

以上

別紙(二) 賞与額計算書

(180,000円+585,000円)×2/12=127,500円

以上

別紙(三) 家事労働逸失利益計算書

平均年間給与額 1,685,900円…(A)

被控訴人の年間給与額 60,000円×(12+2)=840,000円……(B)

{(A)-(B)}×179/365=414,800円(100円未満四捨五入)

以上

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