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福岡高等裁判所 昭和55年(く)43号 決定 1980年11月12日

少年 S・U(昭四〇・九・二〇生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、少年の本件非行事実は金一、五〇〇円の恐喝、オートバイの使用窃盗二件、自転車の使用窃盗一件、トルエンを含有するゴムノリをビニール袋に入れて吸引したというものであるが、少年は中学校一学年までは、まじめな生活態度を堅持していたものの、両親の別居、欠損家庭という事態を迎え、両親の愛情に欠けることから、徐々に性格の変化が生じ、寂寞感からシンナーの吸引を始め、これが原因となつて怠惰を招き、積極性を欠くようになり、窃盗、恐喝の非行へと発展していつたものであり、凡そ少年を保護施設に収容するのは、保護者をはじめ学校、地域社会等少年の成育環境において指導、保護育成することが困難と認められる場合に限るべきで、これらの可能性が未だ望めるときには自立更生の道を拓いてやるべきが相当であるところ、保護者S・Rは、従来の自分自身の生活態度を強く反省し、同棲中のG子と離別して、少年の母と再び家庭を築く決心であり、少年の母もこれに同意している。従つて家庭的には少年の環境に何ら問題はなく、学校の送迎も両親でしばらくの間行なつて不良交遊を防止すると共に、少年の居住する校区世話人もこれを契機として非行防止態勢を整える旨協力を約しており、○○中学校においても、行橋市教育長の指示により、少年を中心とした教育、生活補導体制を具体的に策定しており、少年の学校復帰が容易になされるよう配慮されている。このように家庭、地域、学校の三者が一体となつて少年の指導、監督、教育の態勢を整えており、かかる状況下ではもはや少年を保護施設に収容して教育する必要はないので、原決定の取消を求めるため抗告に及んだというのである。

そこで本件少年保護事件記録及び少年調査記録を精査して考察するに、本件送致の各非行事実そのものは特に悪質な犯行とまではいえないが、少年のこれまでの生活歴を検討してみると、その非行の芽生えは中学校一年の三学期からと認められるが、それから約一年余の間に一〇〇回近くのシンナー、トルエン等薬物の吸引、数十回に及ぶ恐喝、薬物を吸引したあげくオートバイを盗み無免許運転をする等の犯行を累行し、○○中学校の所謂番長として中学生のみならず高校生間にも恐れられる存在となつたもので、その急激な非行への傾斜は瞠目すべきものがあり、所論の如く欠損家庭の故に愛情不足からくる寂寞感から非行に走つたに過ぎないとは到底考えられない。ことに恐喝の事案についてみると同学年や下級の生徒に対し、直接或は他の生徒を使つて金銭を強要するだけに止まらず、授業中教師の制止を意に介せず勝手に教室を抜け出し、授業中の他のクラスに入り込み、教師の注意も無視して生徒に金銭を強要し、応じない生徒に対しては暴行を加えるという事態すらみられ、これら金銭の強要は日を追つて増大し、時として喝取の金員は一万円を上廻ることもある程の無軌道振りであり、また学校における学習態度をみても、授業中マンガ本を読んだり、級友にいたずらをし、教師から注意されると教師に暴言をはいて反抗するなどして授業を妨害し、更に他校の女生徒が少年と交際し、そのことで教師から指導を受けていることを聞知するや、バツトを持つてその現場に乗り込み、教師に暴言をはき反抗するなどの行為もみられ、これらの事実に徴すると、その非行の深化は決定的なものがあり、少年の資質自体に重大な要因が伏在しているものといわなければならず、これら少年の年齢、性格、資質、行動傾向に鑑みれば、既に学校教育の枠を著るしく越えており、家庭環境を整え、地域、学校が一体となつて指導、監督をなしたとしても、最早その処遇によつて少年の非行を防止し、その資質行状が矯正されるとは到底考えられず、社会内処遇にまかせた場合累行する違反行動の積み重ねがやがて法規範を無視破壊して顧みない重大な結果に立到る虞れの極めて大きいことは、現に恐喝事犯が日を追つて頻発する傾向を示していることに徴しても明白であつて、軽々な処遇は反つて少年に対し将来の不幸をもたらすものと言わなければならない。

してみると、この際規律ある生活訓練によつて少年の自覚に訴え反省を求め、資質上の負因を矯正し、道義的観念の涵養と生活態度の改善を図り社会生活適応能力を真に体得させることが必要と解される。従つて本件につき少年が在宅保護の限界を超えているものとして、初等少年院送致の決定をした原審の判断は相当であり、原決定は不当な処分には当らない。

よつて本件抗告は理由がないので少年法三三条一項、少年審判規則五〇条に則り、本件抗告を棄却することとし、主支のとおり決定する。

(裁判長裁判官 安仁屋賢精 裁判官 徳松巌 桑原照熙)

〔非行事実〕

一(一) 少年S・Uは、触法少年Aと共謀のうえ、昭和五五年五月二七日午前一時ころ、行橋市大字○○××の×H子方において、同人所有にかかる原動機付自転車一台時価七〇、〇〇〇円相当を窃取し、

(二) 昭和五五年五月二九日午前零時一〇分ころ、行橋市大字○△××の×○○自動車修理工場に侵入し、I所有にかかる原動機付自転車一台、時価五〇、〇〇〇円相当を窃取したものである。

二 少年B、Cは共謀のうえ、金員を喝取しようと企て、昭和五五年五月五日午前一一時三〇分ころ、行橋市大字△△○○商店前路上において、おりから同所を通行中のJ(一五歳)を認めるや、「ちよつと待て」と呼び止め、「お前は金を持つとるか」とドスのきいた声で脅し、「被害者が持つていない」と答えるや、「本当に持つとらんのか」と言いながらポケツト検査をし、現金を発見するや「持つとるやないか嘘言うな」と威気高に脅し、丁度その時B、Cらと顔見知りの少年S・U、触法少年Aの両名が通りかかり、Bらが、金員を喝取しようとしていることを察知するや、共同して金員を喝取しようと企て、人通りのない行橋市大字△△××番地国鉄○○駅構内広場に連行し、畏怖する被害者に対し、少年らは「金をもう一回出せ」「お前横着やのう、この限鏡が割れてもいいのか」等と申し向けて金員の交付を要求し、もしこの要求に応じなければ、同人の生命身体にどのような危害を加えるかも知れない気勢を示して脅迫し、その旨同人を畏怖させ、よつて即時同所において同人から現金一、五〇〇円の交付を受けてこれを喝取したものである。

三(一) 少年S・Uは、昭和五五年八月一八日午後六時ころ行橋市大字△△○○番地シヨツピングセンター○○前において、同所に置いてあつたK子所有にかかる自転車一台、時価五、〇〇〇円相当を窃取し、

(二) 更に少年S・U、D、E、Fは共謀のうえ、昭和五五年八月二二日午後三時ころ、行橋市△△、○○農業協同組合二階東側テラスにおいて、興奮、幻覚又は麻酔の作用を有するトルエンを含有するゴムのり一缶をポリ袋に移し、み

少年調査票<省略>

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